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M-198 リバイアサンで圧し潰せ


 スコーピオと衝突して16日目の朝。

 いよいよ南北に並んだ陣を解き、各艦隊が東に向かって進むことになった。

 指揮所は未明から大忙しだし、エミー達も朝早くに制御室へと出掛けて行った。

 

「準備を進めておったはずなのじゃが、中々出発しないのう。我等は殿だと聞いておるから、昼近くになるのではないか?」

「軍が先陣を切らないと、色々と面倒なのよ。ローザ達の支援は戦機輸送艦がしてくれるわ。仮装巡洋艦4隻と駆逐艦2隻、それにメイデンの戦闘艦が護衛してくれるはずよ」


「戦機輸送艦が4隻じゃからのう。落穂ひろいと言うところじゃろうな」

「ローザの戦姫は稼働時間が長いからね。戦機部隊を上手く支えてやってくれ」


「戦機を上手く使えと言うことじゃな。昔から比べれば前に出なくなったと、リンダが褒めてくれたのじゃ。確かに、後ろに下がっていれば全体が見れるし、援護にも直ぐに出られるからのう」


 少しは丸くなってきたのかな?

 とはいえ、俺達から見たら以前のままの我儘王女様なんだけどなぁ。

 まあ、一歩引いて皆を支えるという自覚が生まれたことは、良いことに違いない。

 カテリナさんとユーリルさんが、顔を見合わせて笑みを浮かべているぐらいだ。


『制御室より伝達! リバイアサンは1000時に東方へ進行を開始する。戦機搭乗員は0930時までにドックに集合せよ。繰り返す……』


「20分しかないではないか! では出掛けて来るぞ」


 ローザが、小さなバッグを肩に掛けてソファーから飛び出して行った。

 お弁当に水筒かな?

 ローザが後ろを向いて手を振ってくれたから、軽く手を振ると小さく頷いてくれた。

 慌てなくても良いと思うんだけどなぁ。


「リオ君は居残りなの?」

「どうやら、火消し担当のようです。たっぷりと爆弾が駐機台の傍に置いてあるとアリスが教えてくれました」

「それだけ頼りにされてるんですね」


 そう言ってユーリルさんが微笑んでくれた。

 良く言えばそうなんだろうけど……、何となく使い走りをやらされてるように思えるんだよなぁ。


「ところで、ギブスが取れたんですね。骨折がそんなに早く治るんですか?」

「ユーリルが上級治療魔法を使えるわ。それでも3日掛かったんだから、結構な重症だったということね。あまり変な武器を見せないで欲しいわ」


 黙って使った自分は悪くない、と今でも思ってるに違いない。

 少しは懲りたかなと思ったんだけど、やはり治らなかったみたいだな。


 せっかくだから使ってみようと、マイネさんの陣地に持ち込んで試してみた。

 戦闘形態に体を変化させてどうにか耐えられる感じだな。あれを生身で撃つこと自体が間違っている。


「アリスの説明では古代の戦車を相手にする武器のようですね」

「それであの反動なのね。駐退機構が付いてるのが不思議だったんだけど、少し納得できたわ。あの砲弾の装薬も艦砲の装薬とは違ってたわね」


 その辺りは後でアリスに聞いて欲しいところだ。

 とりあえず、無煙火薬であることは話しておいた。

 納得できない表情だったけど、俺に聞いてみ無理だとは分かってくれたみたいだな。

                ・

                ・

                ・

 10時15分前に、デッキへ出て状況を眺めることにした。

 小さなテーブルに飲み物を用意してベンチに腰を下ろしての観戦だ。

 時計を見ながら、その時を待つ。


 既に艦隊は出発したようだ。

 東にゆっくりと進みながら、いくつかの艦隊に分かれ始めている。

 主砲を使わないのは、艦隊間の距離が近すぎるからだろう。舷側砲を散発的に放っているのが見える。

 リバイアサンも、側面の砲塔は沈黙しているし、全面の砲塔群も砲弾を放っているのは中心部だけのようだ。

 艦隊野距離が離れるのを待っている感じだな。


 陣形が崩れているから、スコーピオが勢いを増して東へと抜けていく。

 ダムが決壊した感じだけど、それ程の速度は出ていないようだな。

 時速20kmに満たない動きは、スコーピオが密集しているせいでもあるようだ。一際大きな3回目の脱皮を終えた個体は互いに距離を取ろうとしているし、まだ最後の脱皮を終えていない個体は個体同士が集まっている。

 そんな群れに砲弾が撃ち込まれているのだが、数が多いからなぁ……。孵化直後の個体なら1発で20体以上葬れるんだが、リバイアサンの120mm砲では数体が良いところだろう。

 

「あまり効率的な狩りが出来ませんね」

「それでも減らさないといけないのよ。でないと次のレッド・カーペットが大変なことになってしまうわ」


 孵化直後の爆撃を含めると、既に20日以上砲撃を続けていることになる。

 数十万体は倒したんだろうか?

 スコーピオ同士の共喰いでも数を減らしてはいるんだろうが、相変わらず暗赤色の平原が続いているように思えてしまう。


 艦隊の距離が少しずつ開き始めた。

 リバイアサンの前面砲塔群が砲撃を中断すると、ゆっくりとリバイアサンが前進を始める。

 仮想スクリーンを開いて後方を確認すると、仮想巡洋艦に守られた補給艦隊が続いている。

 補給艦隊の先頭にいるのは横隊を作った戦機のようだ。

 戦機の歩みに合わせて移動しているということは、リバイアサンも同じ速度で移動するということになるんだろうか?

 主役はブラウ同盟軍だからね。俺達は一歩遅れて掃討戦に参加することで十分ということなんだろう。


「仮装巡洋艦は派手に撃ち始めたわね」

「元々が輸送船ですからね。船内のカーゴ区画には、たっぷりと砲弾が積まれているんじゃないですか? それより、後方の駆逐艦はロケット弾を搭載したものですね」


「あの中に入れば甲板でロケット弾を装填できるということなんでしょね。後方にはヴィオラとガリナムが並走してるし、殿はメイデンがいるから安心だわ」


 たぶんメイデンさんが一番喜んでるんじゃないか?

 蛇行しながら、砲弾を放っているし、たまにスコーピオに体当たりまでしているぐらいだからね。


 動きだして2時間程過ぎると艦隊の姿がどこにも見えない。

 30kmは離れたかもしれないな。リバイアサンの速度は時速10kmと言うところだろう。

 再びリバイアサンの砲塔が砲声を上げ始めた。

 前方に盛んに炸裂しているが、距離は10kmほど離れているんじゃないか?

 15分ほど続いた砲声が突然止まる。


「落ちてるわよ! 機関の故障かしら?」

「それなら、連絡が来るはずですよ。これは作戦です」


 ん? という顔を俺に向けたカテリナさんだったけど、次の瞬間大きく口を開けた。


「まさか! いえ、そうね……。そう言う事か……。リオ君、恐ろしいことを考えたわね」

「何が恐ろしいのでしょう? 荒野での動力機関の故障は、単艦であるなら命取りになるかもしれませんが、これだけの船であるなら動力機関は複数あるはずです」


 ユーリルさんには理解できないみたいだな。

 そんな会話をしていると、再びリバイアサンが動き出した。


「リバイアサンは東に進みながら、これを繰り返すのかしら?」

「簡単で、確実ですからね。操船の訓練にもなるでしょうし……」


「まったく、とんでもないことを考え付いたわね。ユーリル、先ほどの停止はリバイアサンの攻撃なの。あれだけで数百近いスコーピオを葬ったはずよ」

「進んでいるならリバイアサンとの衝突で、と言うこともあるでしょうが生憎とリバイアサンは浮上しての移動ですよねぇ。停止したと言うことは、まさか! そんな……」


 気が付いたみたいだ。

 600m四方の底辺を持つリバイアサンが停止して着底したなら、リバイアサンの下にいたスコーピオは全て潰されてしまう。

 ただそれだけの行動でスコーピオを葬れるんだから、やって見るべきだろうな。

 あまり、頻度を高くすると船酔いする連中が出ないともかぎらないんだが、ここで見てる分には停止したかな? というぐらいの感じでしかないから問題もなさそうだ。

 

 とはいえ、一番驚いているのはアレク達なんじゃないかな。

 前方のスコーピオが突然潰されてしまったんだからね。

 邪魔をするスコーピオがいなければ、少しは歩く速度が速まるかもしれないし、銃弾の節約にも役立つに違いない。


 カテリナさんのバングルが小さな音を立てる。

 魔石通信機の着信だろう。

 たぶん相手はフェダーン様に違いない。この作戦を少し変更したいのかな?


「……その通りよ。全くとんでもない作戦よねぇ。結果は、フェダーンも確認したでしょう。……うんうん、でもそれはリオ君ではなくエミーと調整した方が良いんじゃない? リバイアサンの総指揮はエミーが取ってるんですもの。……了解よ。待ってるわ」


「フェダーン様ですか?」

「驚いてたわ。当初の予定より進路を南に下げたいと言ってたから、エミーと調整するように伝えたわよ。それと、ここに来ると言ってたわ」


 同盟艦隊の総指揮を執ってるはずなんだけど、指揮所を留守にして大丈夫なんだろうか?

 とりあえず、カップはあるし椅子もある。副官を連れて来ても問題は無さそうだな。


 15分ほど過ぎたころに、フェダーン様が若い士官を連れてデッキに現れた。

 3人掛けのベンチが2つだから、2人増えても十分に座れる。

 俺の横に士官が腰を下ろしたのは、男性が俺一人だったからに違いない。


「おもしろいことを考えたものだな。だが効果は絶大だ。陣で使わなかったのは補給所としての機能を優先したということだろう。進路をコリント同盟軍の布陣する前方20カム(30km)に変えさせてもらった。

 同盟軍の補給を考えると、これが精一杯の南下になりそうだ」


 フェダーン様の話では、12騎士団とその同盟騎士団が、1200時に東に向けて出発する計画だと言ってたから、既に進み始めたかもしれないな。

 その後方には、ブラウ同盟軍の軽巡と駆逐艦がいるみたいだ。

 軍の拠点で、最後の補給を受けて出発ということだから、200kmは後方にいるに違いない。

 足が速いとのことだから、明日には12騎士団の艦隊を追い抜くんじゃないかな。


「飛行機は北の爆撃ですか?」

「だいぶ群れが濃くなっているらしい。落とせば北を進む艦隊も安心できるだろう。飛行船は、予定通りにコリント同盟軍の北部を爆撃する」


 やることは余り変わりなさそうだな。

 停船してるか進んでいるかの違いだけだ。

 飛行機の方は離着陸台に、ちゃんと着陸できるんだろうか?

 遅いとは言え移動しているからなぁ。失敗しなければ良いんだけどね。


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