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M-197 東進の準備


「あの狙撃銃のせいなのよねぇ……」

 

 そう言われ続けられると、何となく俺のせいなのかな? と考えてしまうのは洗脳の一種に違いない。

 ともあれ、罪悪感が少しあるのは、あの時に銃を見せたということなんだろうな。

 言われるままに体を洗って上げたけど、ギブスに固定されているんだから本当はお風呂厳禁なんじゃないのかな?

 これで、骨折箇所が悪化でもしたなら、ますます俺の立場が悪くなりそうだ。


「今回のレッド・カーペットによる人身被害は重症者が数人で済んでいるわ。前回は戦死者が3桁台に上っていたことを考えると、善戦と言っても良いんじゃないかしら」

「それだけ皆さんが頑張ってくれたからですよ。いつもこのように済めば良いんですけどねぇ……」


 湯船に手足を伸ばしていたら、溺れるかもしれないからと俺の上にカテリナさんが体を重ねてくる始末だ。

 湯船で溺れるような怪我なんだったら、入らない方が良かったんじゃないかと思うんだけど、さすがに口に出す勇気はないんだよなぁ。


「レクトル王国の被害は甚大だったようだけど、住民の避難が上手くできたみたい。幸いにも死者はいなかったそうよ。もっとも兵士の死傷者数は3桁に達しているようだけど、前回の三分の一以下に納まりそうだと連絡があったわ」

「供与した飛行船は1隻ずつでしたよね。それも小型のものだったはずですが?」


「飛行機と爆弾、それにロケット弾の成果かしら。ロケット弾は簡易発射機を供与したんだけど、頂上にずらりと並べて使ったみたいね」


 簡易発射機はレールに三脚を付けた簡単な造りだからね。王国内で大量にコピーしたに違いない。

 ロケット弾だって直接複写はできないけれど、材料が揃えば部分複写を使って組み立てることができる。

 数万発は用意したのかもしれないな。

 砲弾と違って射程は短いが、弾頭の炸薬は軽巡洋艦並みだ。一斉射撃をすることで面の制圧を行い続けたに違いない。


「ロケット弾はおもしろい兵器ね。砲弾と違って射程が短いからスコーピオ戦のような戦には最適だと思うけど、フェダーンはもう少し射程を伸ばそうとしているわよ」

「射程を伸ばすのはそれほど難しくはありませんよ。でもそれがデメリットになるということを知っているんでしょうか?」


 飛行速度が遅いから、どうしても替えの影響を受けてしまう。更に、砲弾のように回転することで弾道を安定化することができない。尾翼を付けてはいるんだが、3kmほど先での散布界は300mを越えている。

 おかげで12発を同時に発射できる発射台を使うと面の制圧が出来るんだから、良いのか悪いのか考えてしまうところだ。


「王都の工廟で開発を進めているらしいけど、私の情報網によるとあまり芳しくないみたい。リオ君なら、飛距離を伸ばせるの?」

「方法は2つあります。1つは推進用の火薬の量を増やすこと。ただ増やせば良いということではありませんよ。噴射ガスの持続時間を延ばすということです。

 もう1つは、羽を付けることですね。鳥のように空中を滑空させることで飛距離を伸ばすことができます。

 でも、単に飛距離を伸ばせるだけであって、命中率は飛距離が伸びるほどに下がっていきますよ。誘導装置でも出来れば良いんでしょうが、さすがにこの世界の技術では不可能だと……」


 俺の言葉が終わる前に、カテリナさんが俺の顔を両手で挟んだ。

 骨折した腕まで使ってるけど、痛くないんだろうか?

 俺の目の数cm前まで自分の顔を近づけて俺の目の奥を覗き込んでいる。


「リオ君は、ロケットを砲弾より遠くに飛ばして、かつ確実に命中させる方法を知っているのかしら?」


 問い掛けてきたけど、笑みを浮かべたネコ撫で越えは恐怖そのものだ。

 たぶん俺の顔は蒼白になってるんじゃないか?

 うんうんと、頷くことができた自分を褒めてあげよう。

 妖艶な笑みを浮かべて、俺の額にキスをしたカテリナさんが、俺の上から体をずらして俺の横で体を伸ばす。


「フェダーンに、リオ君に技術協力をお願いするよう言うべきかしら?」

「フェダーン様の目的が分からない内は、協力しませんよ。防衛兵器の開発で終われば良いんですが、あまり高度な兵器を持つと野心が芽生えかねません」


「でもリオ君は世界征服をしないんでしょう? 全く、笑い話としては1番だと思うわ。その力があっても使わないんだから」

「分相応という言葉があります。征服することは可能でしょうけど、その責任を取れるほどの度量はありません。男爵ですら持て余しているんですからね」


 もうちょっと覇気が欲しいなぁ……、なんて声が聞こえてきた。

 別に無くても死にはしないだろうし、面倒な事は嫌いな質だからね。数か国を平定して帝王を名乗るのも面白そうだけど、恨まれそうだからね。

 暗殺されないかと心配するよりは、仲間と酒を飲んでいた方が遥かに健康的なんじゃないか?


 ゆっくりと体を温めたところで、風呂を後にする。

 カテリナさんをバスタオルで拭いてあげるのも俺の仕事なのかな?

 まあ、非自由な時には無理を聞いてあげよう。

 俺が逆の立場に時もあるかもしれないし……。


 それにしても、カテリナさんが付けているギブスは優れものだな。

 耐水性があるようだし、体の汗を吸い取る機能もあるそうだ。

 材質は何だろうかと考えたんだけど、石膏と言うことでもないらしい。ちょっと弾力もあるんだよなぁ。


「はい! 終わりましたよ。いつも思うんですが、ツナギぐらいは着てください。もしもの時に困ると思うんですが」

「TPOは考えてるわよ。これだと直ぐに着替えられるでしょう?」


 取り合えず、白衣の前はちゃんとボタンを閉めておこう。

 着替えが終わったところで

ソファーに座ると、マイネさんが冷えたワインを運んでくれた。


「あれ? 狙撃は終わったの」

「昼からは弾丸を複製してたにゃ! たっぷり作って、明日から再開にゃ」


 弾切れじゃ仕方ないな。

 高さがあるし、ドックに接近するスコーピオはローザ達が優先して倒しているからね。

 桟橋の上からの狙撃なら、安全だろう。


「カテリナ様はだいじょうぶかにゃ? 発射時に後ろに弾き飛ばされてたにゃ」

「肩の骨折で済んだわ。全くとんでもない銃だったわよ」


 うんうんと頷いているのは、横で見ていたからなんだろうな。

 マイネさんの狙撃銃で我慢しておけば良かったのに、と考えながらちらりとカテリナさんを横目で見ると、マイネさんに笑みを浮かべているんだよなぁ。

 あんまり懲りてはいないようだ。


 夕食時になってエミー達が帰ってくる。準備が整うまで歓談していると、ローザも戻ってきた。


「兄様がいなくとも、何とかなるぞ。さすがに、あの銃は使い易い」

「銃弾はたっぷりあるわよ。アレクの方も問題は無さそうね?」

「ダダダ! と撃っておるのじゃ。我もあれが欲しいが、さすがに大きいからのう」


 3銃身ならローザだって使えるかもしれないな。

 その内に、カテリナさんに教えてあげよう。


 ローザの話では、広場のスコーピオの比率は既に3回目の脱皮を終えたものが多いということだ。1回目の脱皮を終えた個体の姿は全く見られないとのことだから、いよいよ大詰めになってきた感じだな。


「3日後に陣を解いて掃討戦に移ると聞いたんだが、エミーの方にフェダーン様からの指示はあったのかい?」

「低速でレクトル王国の東端を目指すように、とのことでした。まだまだ砲弾も爆弾もありますから、戦闘行為には問題はありませんが……」


 心配事が1つ出てきたらしい。

 ドラゴンブレスをむやみに撃てなくなるということなんだが、あれは威力があり過ぎるし、射界もかなり制限されているからなぁ。

 艦隊が東に向かうとはいえ、足並みがそろうとは思えない。

 同士撃ちを避ける意味でも、東進時には避けるべきだろう。

 でも、そんなことに悩むんだから、エミー達は気に入っているんだろうね。


「おもしろい作戦を教えてあげようか?」

「ドラゴンブレス並みの効果があるのですか?」


 ドラゴンブレスと比較するのはどうかと思うけど、エミーに顔を近づけてそっと耳打ちをする。

 

 口をポカン! と開けたままだし、目は大きく見開いている。

 そんなに驚くことでもないだろうけどね。サソリなんだから基本的な対処の仕方だと思うんだけど……。


「そんなに驚くような作戦なの?」


 カテリナさんが早速エミーに問い掛けている。


「確かに、基本なんでしょうけど……。他の艦船の邪魔にならないのであればやってみる価値はありそうです。フレイヤさんを交えて制御室で十分検討してみます!」


 教えて貰えなかったから、カテリナさんが今度は俺に顏を向けてきた。

 

「後で教えますよ。とはいえヒントを与えたんですから、エミー達の作戦を聞いて、アドバイスをして欲しいですね」

「そう言うことなら、楽しみに待ってた方が良いわね。でも、効果はありそうなの?」


「スコーピオ相手でしたら、ドラゴンブレス以上の効果があるかもしれません。それに、砲弾を一切使用しないんです」

「それでスコーピオを殺せるの? 中々おもしろそうね。ガネーシャ達と相談してみようかしら。ちょっとした頭の体操になるわ」


 そんな大それた話じゃないんだけどね。

 だけど、それを考え付かないのも問題だな。要は基本に忠実と言うことになるんだから。

 

 夕食が終わると、ワイングラスを手にデッキへ向かった。監視所の上階にある探照灯の明かりの下で、スコーピオの群が大地を赤く彩っている。

 下階の砲塔かの砲声が連続的に聞こえて来る。射程を長く取っているのだろう、砲弾の炸裂炎が遠くに見える。


「フェダーンも満足しているわよ。前回は掃討戦に移っても、満足に打てる砲弾が無かったらしいわ」

「それで補給を十分に考慮したんですね。兵站が確実であるなら、兵士は銃を撃てますからね」


 カテリナさんがぽつりぽつりと話してくれた前回の記録では、軍艦で体当たりをしたらしい。

 船首は頑丈に作ってあると言ってもねぇ……。

 そんな戦をすること自体、作戦に問題があったとしか思えないんだよなぁ。


「東に移動を始めたなら、10日後には作戦が終わるわよ。長い戦いだったけど、これでどうやら終わりそうね」

「それでも、問題が色々とありましたよ。次の戦はかなり先になるんでしょうけど、それまでには対処しておきたいですね」


 まだ戦が終わったわけではない。

 補給は何とかなったけど、もっと効率的に行う方法を考えないといけないだろう。

 ロケット弾も少し改良したいところだ。次発装填の自動化ができれば改造した駆逐艦の役割も増えそうだし、射程は5kmは欲しいところだ。

 一回り大きくなるか、それとも全長が延びるのか……、その辺りはカテリナさんが考えてくれるに違いない。


 さて、今夜も何回か出掛けないといけないんだよなぁ。

 そろそろ出掛けてみるか。


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