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M-196 怪我をしたのは俺のせいじゃ無いんだけどなぁ


「戦機ではなく戦姫でしたか。窓から眺めましたが、確かに戦機より小型ですね。動かせるとは羨ましい限りですが、ウエリントン王国の戦姫は我が王国の戦姫と同型の筈、あれは少し異なるように見えるのですが?」

「ウエリントン王国の戦姫はローザ王女が使っています。俺達の戦場をお見せしましょう」


 バッグからプロジェクターを取り出して仮想スクリーンを作ると、リバイアサンの西の広場の様子を映し出した。


 王子だけでなく、周囲の士官達も画像に魅入っているんだよなぁ。

 それなら、長城近くに指揮所を設ければ良いと思うんだけどねぇ。


「戦姫が2体! これは、どういうことでしょう?」

「俺にも分かりかねます。とはいえ、あの機体は俺の個人所有物ですから、王国の財産ではありません」


「発掘したのか……」などという声が隅の方から聞こえてきたけど、戦機だろうが戦姫だろうが、個人の所有物を王国が無理に取り上げることはできないようだ。


「それにしても、戦姫を動かせる方が驚きです。私も成人となった日に、戦姫に乗り込んだのですが、ピクリとも動きませんでした。

 となると……、リオ殿は独身ですか?」


「生憎と、ウエリントン王国より降嫁した妻と長く、苦楽を共にした妻がおります。

 なぜかしら、増えるばかりで困ってますよ」


 互いに苦笑いしながら、いつの間にかマグカップに変わって置かれていたワインを頂く。


「先を越されましたな。とはいえ、リオ殿のお子さんに期待したくなりますね」

「まだまだ先ですよ。領地を頂いたんですが、生憎と北の山麓付近と大きな船ですからね。騎士団と一緒になってどうにか経営の真似事をしている最中です」


「大きな船ですか……。船と言うよりも要塞ですね。機動要塞をウエリントンは作ったということでしょうか?」

「星の海で拾ったものです。北の領地も、似た感じですね。これが隠匿空間と俺達が呼んでいる領地です。そして、こちらが機動要塞リバイアサン。カテリナさんと導師の話ではかつての帝国の遺産とのことでした」


「隠匿空間は、騎士団にとっては理想的な位置でしょうね。もっとも零細騎士団では辿り着くことも困難でしょう。機動要塞は何としても複製して頂きたいところです。

 規模が小さくなっても、軍艦を並べるよりは効果的でしょう」


 作れ! ということかな?

 だけど魔道科学で再現することができるのだろうか。かなり科学文明が発達した世界だったに違いない。

 数人乗りの機動要塞からの出発になりそうだけど、欲しがる王国はあるってことだな。


「カテリナさんに王子からの依頼を伝えますが、さすがに今の世界での再現は無理があると思います。それでも1辺が数十スタム程であれば何とかなるのではと、推察します」

「そうして頂けるとありがたい。2回目の脱皮後までなら軍艦でもそれなりに耐えられるが、さすがに3回目の脱皮後となるとご覧の通りだ。

 コリント同盟軍の軍艦の装甲はかなり厚いのだが、それでもあの尾の針は突き通すからね」


 鋼鉄よりも固い針ってどんな針なんだろう?

 帰ったら、カテリナさんに聞くことが色々とありそうだな。


 軽い食事を御馳走して貰い、指揮所を後にする。

 

「どうですかな。我が王子の印象は?」

「中々できた人物だと思いました。王国を思っていることが言葉の端端で見えましたからね。

 でも、1つだけ伝えて頂けませんか? できれば本人の前で言いたかったのですが、周囲の士官達の目も気になります。彼等が次の艦隊の指揮を執るのでしょうからね」


「ほう! 忠告と言うことですな。しかも、部下には聞かせたくないということならば、確かに私が適任でしょう。それで、何とお伝えすれば?」

「指揮官は兵と共にあれ。兵と同じ食事をして初めて分かることもある。とお伝えください。フェダーン様は指揮所を前線に持ってきました。そこで兵士と同じ食事をし、艦隊の状況を日に何度も自分の目で確認しています。危険ではありますが、部下の兵士末端まで士気は未だに落ちていません」


 俺の言葉に、ちょっと驚いたのかもしれない。

 大きく目を見開いて唸っている。


「リオ殿の言葉、しっかりと届けますぞ。他国の艦隊からは軍神とまで言われたフェダーン様のお姿。ありありと目に浮かびまする」


 そんな大げさな話でもないんだけどなぁ。

 軍神ねぇ……。指揮官としては十分だけど、何時も俺で遊んでいるように思えるんだよなぁ。

 軍神だったら、もう少し威厳を保って貰いたいところなんだけどね。


 噴水広場の片隅まで、カリネアム男爵は見送りに来てくれた。

 アリスが独りでに動く様子に驚いていたけど、コクピットの乗る前に手を振ると、男爵も大きく手を振ってくれた。

 良い人みたいだな。王子の片腕としていつまでも仕えるに違いない。


 その場で、いきなり上空に飛び立った。

 高度5千mに達したところで、リバイアサンの駐機場に亜空間移動を行う。

 次は、あの噴水広場に直接移動することができるだろう。

 もっとも、ウエリントン王国との間に4つも王国があるんだから、次の機会があるとは限らないだろうな。


 事後報告のために指揮所へと足を運ぶ。

 さて、こっちはどういう感じなのかな?

 指揮所なら全体が分かるから、教えて貰えるだろう。


 指揮所の扉を開けると全員の視線が俺に向けられる。

 フェダーン様が手招きしている傍にいるのは、カテリナさんだ。

 右腕を吊っているのは、肩の怪我がまだ治らないということなんだろう。

 これに懲りて、少し大人しくしてくれると良いんだが……。

 無理だろうなぁ。思わず首が横に動きだした。


「何をしておる。早く来ぬか!」


 フェダーン様に急かされて、カテリナさんの左隣に腰を下ろした。

 俺に顏を向けて笑みを浮かべてるけど、何となく邪悪な気配を感じてしまう。俺が原因で怪我したわけではないんだけど、恨まれてるのかな?


「それで、どうであった? レクトル王国からの電文では、援軍に感謝するとだけであった。結果的にはリオ殿1人で片付けられたということになるのだが……」


 映像までは難しくとも、言葉で通信を伝えられるようにしたいところだ。

 未だに長距離は、モールス信号でやり取りをしているんだよなぁ。

 アリスに頼んで、レクトル王国での戦いの映像を再生して貰った。

 説明はいらないだろう。爆弾とナパーム弾を使って、後は長城の南で銃撃戦だったからね。


「なるほど……。やはり、あの銃は使えるな。もっとも近接での使用は危険が伴うが、魔撃槍よりも弾丸補給が容易であることが何よりだ」

「一応戦機の分は揃えてあるから、追撃は問題ないわ。1丁当たりの弾丸も200発は確保してあるし、予備の弾丸も3千発はあるわよ」


 1発で倒せるとは思えないから、200機以上の戦機を使ったとしても、数千体を倒せるぐらいに違いない。

 だが、魔撃槍を使うよりは遥かに多くを葬れるはずだ。


「向こうの指揮所にも顔を出したと言ったな?」

「ドリバネス王子が総指揮を執っていましたが、王宮の一角で行っていました。かつての伝令を止めて、魔石通信機を使っていましたが、前線から離れた位置での指揮はどうかと思います」


「ブラウ同盟には導師やカテリナのような魔導師が多いからな。魔石通信機の改良は滞りなく全軍に行きわたっておるし、前線での指揮は余り前例は無いようだ」


 それって、フェダーン様が最初だってことか?

 戦略と戦術は切り離して考えるべきではあるのだろうが、基本戦略が出来たのなら、現場に沿って戦術を変えるべきだと思うんだけどねぇ……。


「兵士の苦労が分からぬ指揮官にはなるなと、お爺様からの遺言はその場に立って理解できたことだ。レクトル王国の王子も苦労すればそれが分かるに違いない」


 これで、とりあえずの急務は終わった感じだな。

 ふとタバコに火を点けてカテリナさんに顔を向けたら、左手でタバコを取られてしまった。

 右手が不自由だから我慢してたのかな? 言ってくれれば、火ぐらい点けてあげたのに。


「あの銃は物騒だわ。もう1人、トラ族の男性も骨を折ってベッドで唸ってるわよ」

「撃つな! と言ったはずですよね。どうして撃ったんですか?」


「変わった銃だし、1度ぐらいなら……。と思ったのが間違いだったわ。あの反動はハンマーで殴られた感じだったわよ。……だけど、リオ君はあれを撃てるの?」

「俺専用らしいです。アリスにも他には撃たせないようにと言われてたんですよ」


 ジロリ! と睨まれたけど、事前にちゃんと言ってあるから、俺には責任は無いと思うぞ。


「まあ、カテリナも少しは懲りただろう。あまり他人の物を欲しがるは止めた方が良いぞ」

「でも、少しは役立てられるわよ。あの銃は、次弾を打つ時にボルト操作が必要ないの。あの機構を、戦機用の銃に用いれば、魔撃槍は必要なくなるんじゃないかしら。

 ガネーシャ達が試作しているから、数日後には完成できるわよ」


 ほう! という感じでフェダーン様が感心している。

 転んでもタダでは起きないってことなんだろう。さすがはカテリナさんだと感心してしまう。

 

「今夜も夜間爆撃をするんでしょうか?」

「そうだな……。2日後にはこの陣を引き払って前進しようと考えている。その為にも各艦への補給は円滑に行わねばなるまい。

 3回目の脱皮を終えた群れが200ケム西で群れを成しているから、それを叩いて貰おうか。弾種はナパーム弾で十分だ」


 夜間に3回出撃すれば良いらしい。

 それなら、今の内にのんびり休養を取っておこう。

 部屋を出ようとしたら、カテリナさんが付いてきた。


「のんびりお風呂に浸かろうなんて考えてたんでしょう? この体だから、一緒に入らせてもらうわよ。リオ君が悪いわけではないんだけど……、私に見せたのは不味かったわね」


 やはり怪我の原因の少しは俺にある、と思っているみたいだ。

 ネコみたいな表情で笑みを浮かべているカテリナさんは、ひょっとして悪女という範疇に入るのかもしれないな。


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