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M-195 レールガンを低速で撃つ


 ザンビア王国が作った長城の東端を過ぎて、荒野が200kmほど過ぎると、再び長城が見えた。

 あれが、レクトル王国の長城になるのだろう。

 このまま東に向かうと、千kmほど先に大きな海峡があるらしい。幅300kmほどらしいのだが、その先の大陸はウエリントンから西へ伸びた大陸の最西端でもある。

 この星が球体だということなんだけど、あまり実感が湧かないのはそれだけ広大な大地だという事かもしれない。


『ザンビア王国同様に、一定距離に砲台を作り、ロケット弾を使っています。だいぶ機動艦隊と長城の距離は短いですね。30kmほどに接近しています』

「スコーピオを入れないようにとのことじゃないかな? 北への砲撃よりも南に対する砲撃の方が多いようにみえるぞ」


 その比率は1対2というところだ。

 多くのスコーピオが、停船した艦船の甲板を乗り越えていく様子が見える。

 東西に並んだ艦船と長城の十字砲火を浴びせているが、ともすれば長城を乗り越えようとしているスコーピオがいるみたいだ。

 戦機や獣機が必死に防いでいるけど、けっこうな数が長城の南に落ちていく。


『乗り越えて行くスコーピオは3回目の脱皮を終えた個体のようです。ひたすら海を目指すとカテリナ様が教えてくれましたね』

「ああ、エルトニア王国も心配になってきたけど、飛行機と飛行船を使っているようだから、ここよりはマシなんだろうな。

 ところで、まだ破られた長城が見つからないんだが……」


 速度を落として、東に向かって飛行しているんだが、破られた様子は未だ見つからない。

 語法と言うことは無いんだろうが、このまま東端に着いてしまいそうだ。


 突全前方に、赤い塊が長城の回廊へと伸びている光景が見えてきた。

 戦艦が穴を塞いだと言っていたけど、戦艦はあの塊の中なんだろうか?

 戦艦の装甲を破るようなことは無いのだろうが、乗員はかなり不安だろうな。


「あの塊近くに通常弾を落とすぞ!」

『了解です。さすがにナパーム弾では戦艦に影響が出てしまいかねません』


 長城の南を見て見ると、なるほど戦艦の頭が見えている。

 すり抜けていくスコーピオに向かって艦砲を発射しているけど、群れを作らないからあまり効果は無いようだな。更に南の方で砲弾が炸裂しているのは、駆逐艦辺りが個別に刈り取っているに違いない。

 とは言っても、抜け出すスコーピオの数が半端じゃない。

 早めになんとかしないと王国の領民の命に関わりかねない。


 高度を落として、頂上から200m程北に爆弾を12発投下する。

 そのまま北上すると、頂上から1kmほどの距離を取ってナパーム弾を投下する。


 高度を保ったままで、長城の南に移動していると、先ほど投下した爆弾によってぷらミッドを半分にしたような形に盛り上がっていたスコーピオの塊が無くなり戦艦の姿がどうにか確認できた。

 その戦艦に向かって2隻の駆逐艦が進んでいく。

 頂上に空いた穴をさらに塞ぎに向かったんだろう。


「長城内の掃討をすることになりそうだ。銃を用意してくれよ」

『かなり初速が上がりましたが、口径が小さいです。頭部を狙ってください』


 アリスの言葉に頷くと、ジョイスティックを前方に倒して高度を下げ、地上滑空モードに変更する。


 全周スクリーンに、赤いT字形のターゲットマークが出現した。ジョイスティックの動きに合わせてマークが移動する。


「トリガータイミングは俺の方でやるけど、最終調整はアリスに任せるよ」

『了解です。それでは始めましょう!』


 長城の南には広大な農地が広がっている。あまり荒らしたくはないんだが、スコーピオを狩るためだから荒らすのは仕方がないのかもしれないな。

 地上スレスレではなく、地上1mほどの高さを保つのが精々だ。麦や野菜をなぎ倒してはいるが、作物のじょうぶさに期待するしかなさそうだ。


 スコーピオの間に回って、頭部に銃弾を撃ちこむと、素早く次のスコーピオに移動する。

 5発のマガジンは直ぐ無くなってしまうが、20個ほどアリスは持っているようだ。

 100匹に撃ち込んでも、まだまだスコーピオがあちこちに見える。


『レールガンを使いますか? 発射速度を秒速千mほどにすれば、貫通しても同士討ちは避けられそうです』

「レールガンは20連発だったね」


 こちらの世界で新たにマガジンを作ったらしいから、撃ち出すのは鉄の丸棒だ。鋼ではないらしいが、秒速2kmなら20cmの同質の鉄板を貫通するらしい。


『最大飛距離は5km以上ですから、水平撃ちは避けてください!』

「了解だ。200m以内で使うよ。頭の位置が低いからね。貫通しても2匹目で地中に埋もれてしまうはずだ」


 威力があり過ぎるのも善し悪しだな。

 本来なら、ベルッド爺さんが改造してくれた銃の方が良いのだが、弾切れではねぇ……。もう少し多めに作って貰うべきだった。


 レールガンを手に、一大農園地帯を縦横に駆け抜ける。

 手当たり次第にスコーピオを狩り続けたけど、終わりが中々見えてこない。


 1時間程経過したところで、一端上空に上がって周囲の状況を確認することにした。

 どうやら、穴は塞がったみたいだ。

 戦艦と駆逐艦2隻で穴を塞いだようだけど、どうやって穴を開けたんだろう?

 そっちの方が気になるところだな。


「だいぶ間引いた感じだね。駆逐艦が頑張っているからそろそろ何とかなるんじゃないかな?」

『レクトル王国の防衛指揮官より、連絡がありました。まだモールス信号をコリント同盟軍は使っているようです。「助力を感謝する。可能であれば防衛本部に出頭願いたい」以上です』


 お礼を言いたいってことかな?

 できればコーヒーを1杯飲みたいところだ。

 こっちの方には来る機会は無いだろうから、顔合わせぐらいはしといた方がフェダーン様としても助かるかもしれないな。


「リバイアサンに通信ができるかな? フェダーン様の許可ぐらいは必要だろう」

『既に確認しました。「ウエリントン貴族として、会見に臨むように」とのことです』


 王国同士色々とあるんだろうな。

 男爵位を名乗っておけば良いんだろう。貴族の礼儀は知らないけれど、失礼が無いように振舞えば良いだろうし、最初に辺境暮らしを強調しておけば、少しぐらいの不作法は許してくれるんじゃないかな。


「それじゃあ、出掛けてみるか。出頭すると伝えて、場所を確認してくれ。まさか王宮ってことは無いだろうけどね」


 直ぐにアリスが返事を教えてくれたんだが、何を考えているのか指揮官は王宮で指揮を執っているらしい。

 命令や報告はモールス信号で行っているんだろうけど、距離が開くと状況確認が疎かになると思わないんだろうか?

 レッド・カーペットは建国時期より続いているようだから、それなりの対策が確立されているとしても、離れた場所での指揮はちょっと考えてしまうな。


 ウエリントン王国の王宮を一回り小さくして、周囲を頑丈な城壁で囲っているのがレクトル王国の王宮だった。

 ウエリントン王国の王宮は緑の銛の中にある感じなんだが、レクトル王国の王宮は緑は緑でも芝生の緑だ。

 一部に林があるけど、それほど大きくはない。

 一番大きな建物だと教えられたので、そのエントランス前の噴水広場の一角に降り立つと、直ぐに近衛兵達が銃を手にして駆け寄ってくる。


 確かに不審者そのものだからねぇ……。

 両手を上げて敵対する意思が無いことを示したところで、レクトル王国防衛指揮官の招きでやってきたことを伝える。

 直ぐに1人が確認に向かったけど、10人程が俺を囲んで銃を向けている。


 やがて数人の男達が慌てた様子でこちらにやってきた。

 近衛兵の持つ銃を下ろさせると、俺に向かって問い掛けてくる。


「失礼ですが、我が王国の危機を退けてくださった、リオ殿でしょうか?」

「挨拶が遅れました。ウエリントン王国のリオ男爵です。と言っても、辺境住まいですから騎士団の騎士でもあります」


「これは失礼いたしました。フェダーン殿から『リオを送る』と電文があって、直ぐにあの爆撃の知らせを受けました。駆逐艦隊野指揮官よりも『子羊を狩るようにスコーピオを狩る戦機がやってきた』との電文を受けております。

 私はレクトル王国の防衛軍総指揮官の副官を務める、カリネアムと申します。男爵の末席を汚す身ですから、お気遣いはご無用ですぞ。

 それでは、ご案内いたします。戦機は近衛騎士団が責任をもって警備いたします」


 長い挨拶だったけど、一緒に着いて行けば良いみたいだ。

 近衛兵達に片手を上げると、男爵の後ろに付いてエントランスの階段を上ることになった。


 王宮と言うところは、やたらと何でも大きく作って飾り立てるのが好きなようだ。

 エントランスの階段に沿って配置された大理石の円柱には凝った彫刻がしてあるけど、大理石を刻むんだから職人の腕に感心してしまう。


「2階の会議室を臨時の指揮所にしてありますので、少し歩くことになります」

「そこで全体の指揮をしているのですか?」


「そうです。回廊を挟んだ反対側に魔石通信機を10台ほど運び入れましたから、状況分析も昔と比べてはるかに良くなりました」


 昔は各艦隊の指揮所から、伝令が文書を運んできたらしい。

 電文の文字が間違っていただけで突き返すこともあったらしいから、確かに格段と言えるのだろうが……。

 平和な場所で指揮を執る、というのが俺には理解できないんだよなぁ。


「ここです。総指揮官殿が、是非にお会いしたいと」


 馬車が通れそうな回廊の1画にある大きな両扉の奥から、激しい言葉のやり取りが聞こえてくる。

 ちょっと遠慮したいところだが、カリネアム殿は扉を開けると手をパンパンと鳴らした。

 途端に喧騒が収まって、扉の俺達に視線が集まる。

 リバイアサンの指揮所よりも大きいな。中央に円卓があり、数人が腰を下ろしている。

 大きな黒板を灰ぎに座っている人物が総指揮官と言うことなんだろうか?

 かなり若そうだ。アレクと同じぐらいかな。


「ドリバネス王子。リオ男爵をお連れ致しました」


 丁寧な物腰でカリネアム殿が報告している。若すぎる指揮官だと思ってたんだけど、王子だったんだな。

 王位を継ぐためには格好の材料だったに違いない。


「よく来てくれました。こちらにどうぞいらしてください。ブラウ同盟軍には西の守りを受け持っていただいた上に、色々と援助も頂きました。

 長城に穴を開けられたと聞き、苦し紛れにフェダーン殿に連絡すると直ぐに援軍を送るとの知らせ……。その援軍が、長城の穴を越えようと群がっていたスコーピオを爆殺してくれたおかげで、駆逐艦で穴を埋めることができました……」


 よほどうれしかったに違いない。

 始終笑みを絶やさずに、俺の手を握って労いの言葉を掛けてくれた。

 飲み物は? と聞かれたので、コーヒーをマグカップでお願いする。


 ずっと飲んでいなかったんだよなぁ。ついでにタバコを取り出すと、直ぐに灰皿が運ばれてきた。

 どうやら、この部屋の全員が喫煙をするようだ。

 道理で窓が空いてるはずだ。冷房が無いから生暖かい風が俺の髪を揺らすけど、コーヒーを飲みながらの一服は格別だからねぇ。


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