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M-192 波のぶつかる場所を叩く


「広場での戦いで気が付いたかしら?」


 大きなテーブルから離れて、壁際のソファーセットに座ったのは、何時ものメンバーだ。

 カテリナさんの問いに首を傾げていると、アリスが俺のバングルから話を始めた。


『スコーピオの比率でしょうか?』

「さすがはアリス。気が付いていたみたいね。帰ってきた時に導師が言っていた比率は6:4で脱皮前の方が多かったんだけど、急に最初の脱皮を終えた個体が増えたみたいなの」


 どっちにしてもハルバートでぶった切っていたから、あんまり気にしなかったんだよなぁ。

 言われて見ると、多かったようにも思えるけど……。


「手当たり次第という状況ですから、何を期待しているのか理解できないんですが?」

「今度は東から波が来るぞ。遅れて孵化した個体ほど脱皮が早くなるようだ。既に2回目の脱皮を終えた個体が確認されている」


「さらに大型が来ると! となると補給が問題になりますよ」

「砲艦の護衛に加え、駆逐艦を使うつもりだ。明日には全て最初の脱皮を終えた個体になるぞ。

 それでだ。残ったナパーム弾を今夜中に使い切ろうと思う。リオ殿にも期待したいのだが?」


 広域殲滅を目的とした爆弾だけど、2度の脱皮を終えたスコーピオにどれだけ効くか分からないということになるんだろう。

 かなり残っているのかな? 3回程度の出撃で良いなら、ありがたいんだが。


「リオ殿には、レッドカーペットの東を爆撃して貰いたい。近場は飛行機で十分だろうし、飛行船はナパーム弾を装荷できん」


 提督の言葉は、そのままフェダーン様の指示と考えて良さそうだ。

 小さく頷いて了承を伝えると、テーブルの上に用意されたコーヒーを頂く。

 

「西に向かうスコーピオについてはそれで良いだろう。だが北に向かったスコーピオを減らしているのは魔獣達だ。それほど数が減るとは思えん。明日は北を爆撃してくれぬか? もちろん起きてからで良いぞ」


 俺達を爆撃機だと勘違いしている運用に思えるんだよなぁ。

 だが、西の広場はローザ達が上手く捌いているようだから、このまま爆弾を落として行こうか。

 無くなれば、頼まれることも無いはずだ。

 タバコを取り出して一服を始める。


「飛行船は、このまま爆撃を?」

「故障も起こさずに動いておるよ。現在はコリント同盟軍の援護をしておる。供与した飛行船より数倍の爆弾を運べるからのう。活躍しておるようじゃ」


「どうやら中盤戦と言うところであろう。明日は獣機すら物陰からの銃撃になるぞ」

「新型銃を試せますね。大型チラノにはさすがに不足でしょうが、中型なら接近戦で挑めそうに思えます」


「それは戦機用でしょう? 獣機用は口径が小さいから、小型まででしょうね。それでも、100スタム先の標準装甲を貫通するから、2回目の脱皮を終えたスコーピオまでならだいじょうぶじゃないかしら」

 

 100スタム以下で使うんじゃないかな。

 今でも魔獣解体用の薙刀で対処しているぐらいだからなぁ。舷側扉を開いて数機で銃撃するぐらいは考えているんじゃないかな。


「話を戻すが、この後直ぐに出掛けてくれぬか? その後は、夕食後に2時間間隔で行って貰いたい」

「爆撃地点の概略座標は必要でしょうか?」

「お願いする。飛行機ではそこまで出来ぬが、北の戦艦位置もしくはリバイアサンの方角を報告して貰っている」


 リバイアサンの高さは300mを越えるからなぁ。この大地では遠方から視認できるだろう。

 北の戦艦と、リバイアサンの方角が分かれば、位置を割り出すことはそれほど難しくはない。


 夕暮れまでには1時間以上ありそうだ。

 一服を終えたところで、アリスの元に向かう。

 駐機台ならそれほど距離も無いんだが、ドックの桟橋の下だからなぁ。だいぶ歩くことになる。

 ドックの奥にはアリスだけが簡易駐機台に固定されていた。

 急いでコクピットに乗り込むと、ゆっくりと外に向かって歩き出す。


「ナパーム弾を東に落とすことになったよ。今夜は忙しくなりそうだ」

『駐機場の何時もの場所に置かれたナパーム弾を収容しました。後は落とすだけです』


 ドックで休憩していたとは思わなかったんだろうな。

 広場に出ると、そのまま西に向かって滑空する。

 途中で20体ほどスコーピオを刈り取ったけど、数が数だからねぇ。あまり気にしないことにしよう。


 3kmほど離れたところで上空に移動する。

 さらに1kmほど西に向かうと、あちこちに砲弾が炸裂しているから近づかない方が良いに決まってる。

 

『このまま東に向かいます!』


 音速に近い速度で東へと向かう。

 下に見えるカーペットの色に少し斑ができているようだ。

 

『個体の大きさが3種類確認できます』

「既に2回目の脱皮を終えていると?」


『カテリナ様達がおよそ10日と言っていましたが、脱皮の平均値ととらえるべきでしょう。脱皮前に捕食した餌の量で変わるのではと推察します』

「となると、一番最初に孵化した連中と最後に孵化した連中が一番有利になりそうだね」


『さすがに最後の孵化集団と最初の孵化集団では脱皮1回ほどの差ができるんではないでしょうか? レッドカーペットの東の端は、脱皮をまだ始めていないように思われます』


 それで、後方に落とせ! ということになったのかな?

 となると、夕食後の爆撃も東を叩くべきだろう。

 北を爆撃する理由が分からないな。


『波のぶつかる個所を叩く、と言うことではないでしょうか? 共喰いのためにスコーピオ同士が戦っているのであれば、爆撃は極めて効果的です』

「そう言うことかな? だけど余計な餌を作りそうにも思えるよ」


 餌とならないように焼き払うってことなのかな?

 だけどそれなりに死体は残ってしまうから、他のスコーピオが喜びそうだ。

 案外それを狙っているのかもしれない。

 共食いを誘引する作戦なのかな?


『導師の提言かもしれませんね?』

「そんな感じだね。フェダーン様達は第1陣の対応で手一杯なんじゃないかな」


 ある意味、将来性もある作戦だ。

 従来では不可能だったが、飛行船を使うなら波がぶつかる場所に対して的確に爆撃を行うことができる。

 結果についても確認した方が良いかもしれないな。


「アリス、通常爆弾は持ってないんだろう?」

『リバイアサンの倉庫から、大型爆弾を12発調達しています』


「ナパーム弾の投下後の様子と、通常爆弾投下後の様子を記録してくれないか? たぶん共喰いを誘引するつもりだろう。比較できた方が良さそうだ」

『了解です。マスターの指示で投下します!』


 俺も、導師に影響を受けたのかもしれないな。

 こんなことを考えるんだからね。


 目標地点に到達したところで、位置を確認する。

 その後にナパーム弾と通常弾を投下して、それぞれ投下後の様子を映像を記録する。

 共食いを誘引するのはナパーム弾の方が効果的に見える。スコーピオが燃える匂いに誘われるのだろうか?

 嗅覚器官があるとは思えないんだけどなぁ……。

 

『嗅覚はあると思いますよ。嗅覚と言うよりもイオン濃度を検知する器官かもしれません』

「それも、導師が興味を引きそうだね。あの体だから、孵化後のスコーピオを解剖するぐらいはするかもしれないな」


 魔道科学と言っても、その範囲はかなり広いはずだ。解剖学は魔法の具現化がどのようにして行われるかを知るために発達しているかもしれないな。

 魔気が魔獣の心臓付近にできるのも、案外分かっているのかもしれない。


 あまり長居せずに、リバイアサンに向かって速度を上げる。

 途中で2隻の飛行船に出会ったが、あのコースを見ると、コリント同盟軍に迫るスコーピオを爆撃しに向かうんだろう。

 同盟同士が協力できるのは、それなりに良い関係が続いているからなのだろう。

 西のハーネスト同盟とは大違いだ。


 リバイアサンに戻ってくると、西の広場の戦いに参加する。

 獣機の連中は全機が銃を使っているようだ。とはいえボルトアクションだからなぁ。

 銃声の間隔が空くのは仕方がないところだ。


「何とか半自動にしたかったが……」

『部品点数が一気に増えますし、手入れの頻度が多くなりまりますよ』


 アリスの言葉に小さく頷く。

 複製と言う裏技があるんだが、組み立てるのはドワーフ族の職人だ。部品点数が多くなればそれだけ時間が掛かってしまう。


「ガトリングも作ったけど、あれを動かすのは獣機では無理だからねぇ」

『トラ族の使う銃弾に合わせたガトリングを船のブリッジに付けましたが、最初の脱皮を終えたスコーピオには対応できるみたいですね』


 対応できるのは、装薬を2割増やした強装弾だからだろう。だけど、マガジンの弾数は30発程度だから、直ぐに打ち尽くしてしまうらしい。

 

 銃弾は豊富らしいから、トラ族の連中がマガジンに詰め込んでいるのかな?

 簡単に撃っているようだけど、それを支える人達は大勢いるに違いない。


「とりあえず、今の俺達がやることは!」

 

 近付いてきた牛ほどの大きさになったスコーピオの頭に、ハルバートを振り下ろす。

 頭が裂けて動かなくなったところに、まだ脱皮前のスコーピオが群がって来た。

 そいつらを横なぎにして葬り去ると、次の獲物に向かって足を運ぶ。


「兄様、もっと積極的狩らぬと、いつまでも終わらんぞ!」

「足元に注意するんだよ! 結構滑りやすいからね」

「大丈夫じゃ! それにしても後から後からやってくるのう……」


 まだまだこの状態は終わらないだろうな。夕暮れ前に補給を済まそうと戦機輸送艦が駆逐艦に護衛されながら近付いてくる。彼等が広場に入れるように、ローザ達と一緒になって、スコーピオを押し返す。

 そんな俺達の努力を無駄にするかのように、次々とスコーピオが甲板を乗り越えて来る。

 獣機や、トラ族の連中が銃弾を浴びせているんだが1,2発では倒れないのも問題だな。

 運よく、頭部に当たればそれっきりなんだけど、中々命中させることができないみたいだ。


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