M-191 無理しないで、頑張れ!
西の状況に一番驚いていたのは導師だった。
フェダーン様は、やはり国王陛下がやってこないかと、心配している。
その辺りは、宮殿内のことだから、あまり関わり合いが無いように傍観を決めておこう。
「それにしても、リオ殿の洞察力には驚く限りじゃな。再度論文の見直しを行わねばなるまい。前のレポートでほのめかされていた事象が現実に起きているとなると、レポートを再度根底から読まねばなるまい。意味不明な場所は割愛していたのだが、カテリナに解説を依頼せねばなるまい」
「私にだって、理解できない箇所はかなりあったわね。抜き出して解説書をリオ君に作って貰おうかしら?」
「この状況でなければ、協力は惜しみませんが優先順位を履き違えることが無いようにお願いします」
「そうであったな。第三者的に世界を見るというのも大事だが、我等には領民を守るという任務もある。優先すべきは人の命に外ならない。
とは言っても、画像で分かる通り広場はあの通りだ。リオ殿には引き波の爆撃をお願いしたい」
フェダーン様の言葉に頷いて席を立とうとしたら、カテリナさんに裾を引かれてしまった。
まだ何かあるんだろうか……。そうだ! お土産を貰って来たんだ。
「ヒルダ様より生鮮食料を頂いてきました。食堂に持って行こうと思いますので、後ほど御礼を言っていただければ幸いです」
「それはありがたいな。了解だ。とはいえ、それはリオ殿が頂いたもの。先ずは自分達の分を確保してからが良いのでは?」
果物がたくさんあったな。マイネさんに連絡しておこうか。
ついでに、駐機場から食堂に運んでもらおう。
「ありがとうございます。荷車3台分を頂きましたので、1カゴを頂いておきます」
アリスに頼んでマイネさんに連絡してもらう。
これで全部じゃないかな? 一服しながら考えたけど、外には思い浮かばない。
「ところで、最初の脱皮を終えたスコーピオの比率はどの程度なのでしょう?」
「そうじゃのう……。6:4で脱皮後が多くなっておるぞ。数日もせぬ内に、2回目の脱皮が行われるじゃろう。波が一時停まるやもしれぬな」
脱皮前後は動きが鈍くなると言ってたな。その時を騎士団達は待ちかねているに違いない。
「西からの追い上げが始まりそうですね」
「巡洋艦の艦長達がうずうずしておるよ。この陣を抜け出そうと毎日のように陳情してくる」
逃げ出そうということではなく、機動戦を行いたいってことか。
巡洋艦なら足が速いし、武装も強力だからなぁ。
巡洋艦の艦長達の思いは理解できるけど、一番苛立っているのはフェダーン様に思えるんだよなぁ。
あまり長居はしたくない心境だ。
「それじゃあ、広場を手伝ってきます!」
「手伝う前に、北を爆撃してくれ。戦艦の射程より北を頼むぞ」
席を立った俺に、フェダーン様から依頼を受けたけど、かなり曖昧な位置だな。
とりあえず「了解しました」と言い残して、アリスの元に向かった。
駐機台の前には、生鮮食料が山済みされている。
マイネさん達が大きなカゴに果物や野菜を取り分けているのは、食堂の連中が来ない前に持って行こうということかな?
「今夜はこれを使った料理するにゃ。また持ってきて欲しいにゃ」
「王宮に用事がある時にはそうします。それじゃあ、夕食を期待してますよ」
コクピットに乗り込む俺にマイネさん達が手を振ってくれる。
手を振って応えたけど、ちょっとした心遣いにやる気が出るんだよねぇ。
「このまま、いどうするか!」
『そうですね。荷物を出す場所を、少し変えるべきでした』
珍しく、アリスが反省している。
足を踏み出すと、運んできた荷物を踏み潰しそうだからなぁ。
その場で亜空間移動をしたけど、マイネさん達には目を離した隙に消えたと思われたかな?
上空5千mに移動したところで、戦列艦を眺めながら北へと向かう。
「戦艦の主砲の射程外に落とせと言われたよ」
『ナパーム弾が5発、そのまま北方向に100m間隔で投下します』
アリスの話では、戦艦の主砲の射程は20kmを越えるらしい。
火薬を使った砲撃だし、使う火薬は黒色火薬だからそんな物かもしれないな。
一番北に位置する戦艦から30km地点より北に投下すれば、フェダーン様の要請に応えられるだろう。
さっさと、依頼をこなしてリバイアサンの西の広場へと向かう。
アレクが見当たらないのは休憩中ってことかな?
「帰ってきたのじゃな! 西はどうであった?」
「夕食時に教えてあげるよ。ハーネスト同盟軍が引き上げた原因も分かったよ。駆逐艦より大きなナマコみたいなやつだった」
「凄いのう……。どっちが楽化問題じゃな」
「こっちの方がマシかもしれないよ。数は半端じゃないけどね」
そんな会話をしながらもハルバートを振るっているんだから、ローザは立派な騎士になったと感心してしまう。
今年18歳になったんじゃないかな? そろそろお年頃だけど、どんな男性に嫁ぐことになるんだろう?
そんなことを考えながら、目の前に現れた脱皮後のスコーピオを刈り取っていく。
「頑張ってるな! 今日は別命かと思っていたんだが?」
「状況確認をしたところで早めに戻ってきました。それでも王宮へ報告はしてきましたよ」
「この時間では昼食も食べてこなかったんじゃないか? これぐらいなら何とかなるからな。ゆっくりしてきても良かったと思うぞ」
「俺だけというわけにはいきませんよ。お土産に荷車3台分の果物と野菜を頂きましたから、夕食が楽しみです」
コクピット内に、アレクの嬉しそうな笑いが聞こえてきた。
アレクが搭乗しているのは戦鬼だからなぁ……。豪快にハルバートを振り回している。
おかげで、こっちのほうまで突然スコーピオの残骸が飛んでくるから、ドキリとしてしまうんだよなぁ。
2時間程暴れたところで、ドック内の休憩所に向かってみた。
数代の駐機台がドックの東側に作られている。
仮設の駐機台だから、精密点検はできないようだ。ローザが駐機台に戦姫を止めると、直ぐに数名のドワーフ族が魔気のボンベ状のカートリッジを交換していく。
「こっちの戦姫は交換はいらんぞ。点検も不要じゃ。他に回れ!」
大声で命令しているのはベルッド爺さんの右腕かな?
アリスから下りると、桟橋の下に作られた仮設休憩所にローザが案内してくれた。
「ここじゃ! 結構広いし、コーヒーと紅茶は飲み放題じゃ。テーブルの上にある食べ物は自由に食べて構わぬぞ」
まるで自分が用意したかのように、ローザが教えてくれた。
カップにコーヒーを注いで、とりあえず少し離れたテーブルに向かう。
見知らぬ騎士が2人座っていたけど、軍の騎士かな?
「初めて見る顔だな? どこの部隊だ?」
「ヴィオラ騎士団所属です。そちらは軍の?」
「第1艦隊の騎士なんだが、こっちを手伝えと言われてやってきた。さすがにこっちの方が待遇が良い。戦機輸送艦では休憩できても、お茶を飲める打だからなぁ」
コーヒーを飲みながら一服できるのは夢のようだと言っていた。
大型カーゴは駐機台だけでなく、戦機用の弾薬まで置いてあるらしい。一服は厳禁だそうだ。
「我は1時間程個々で休むことになる。それで西はどうであったにじゃ?」
ローザが紅茶とお菓子を皿に乗せて隣に腰を下ろした。その隣は護衛のリンダだけど、同じようにお菓子を山盛りにしている。
甘いものが大好きなんだろうな。
「サーゼントスの農園地帯が手ひどくやられている。相手はスコーピオ並みのムカデだ。王都の長城を乗り越えられるみたいだよ。
駆逐艦隊と獣機が対応してたけど、あれでは農地がめちゃめちゃだな。
大型艦がいないのが不思議に思えて、更に西へと向かったんだが、そこにいたのは駆逐艦並の大きなナマコのような生物だった。
大型艦の艦砲に表皮が弾けていたけど、直ぐに再生してしまう。あれでは倒すのに時間が掛かるだろうな」
「なるほど、サーミスト同盟軍が引き返すわけじゃな。父陛下も少しは安心できるに違いない」
「距離があるからねぇ……。隣国なら、大変な騒ぎになると思うよ」
「兄様は心配性じゃからのう。これで安心できるじゃろう」
「……兄様? まさか、リオ男爵殿!」
「そんなに驚かずとも良い。いつもはフェダーンの指示で動いているのじゃが、今回は何も無かったようじゃな。ここでのんびりしておるからのう」
「申し訳ありません。騎士団の新米騎士だとばかり勘違いしておりました」
突然恐縮している2人だけど、気にしないで欲しいな。
そんなに立派な男じゃないし、活躍しているのはアリスのおかげなんだからね。
「王女様との会話を聞いてしまいましたが、これは軍機になるのでしょうか?」
「まだフェダーン様から何も聞いていないんだから問題は無いと思うよ。でもあまり広めないで欲しいな」
2人がほっとした表情を取ると、改めて自分達のコーヒーを入れ直して戻ってきた。
せっかく同席できたんだから、色々と聞きたいのかな?
素朴な質問に答えていると、バングルからカテリナさんの声が聞こえてきた。
「リオ君! 休憩時間だけど、どこにいるのかしら? 皆が待ってるんだけど……」
「カテリナ博士じゃな。怒っておるようじゃから、早めに行った方が良いぞ。広場は我等がいれば当座は問題ないじゃろう」
テーブル越しの2人が、笑いをかみ殺して俺をみてるんだよなぁ。
騎士であっても女性に頭が上がらない、と噂が流れたらどうしようと考えてしまう。
「無理をしないように、頑張れよ!」
矛盾した励ましをローザにしたところで、休憩所を後にする。ここからだと結構遠いんだよなぁ。
エレベーターを乗り継いで、指揮所に向かうと導師達が俺を待っていた。
先ほど状況説明を行っているんだから俺に用など無いと思うんだけどなぁ。
ついに、ストックが切れました。
隔日で投稿できたら……、と願っています。
とはいえ、グレムリンの不定期襲撃を受けることがりますので、計画通りには行かないかなぁ・・・




