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M-187 スコーピオを捕食するもの


 駐機台の横に積まれたナパーム弾5発を、アリスが亜空間に収納する。

 リバイアサンを飛び立つと、東に向かって飛行を続ける。眼下の光景は正しくレッド・カーペットそのものだ。

 東に300kmほど離れた辺りで、1kmほどの間隔でナパーム弾を投下する。

 炎が立ち上っている光景を背中越しに確認したが、あれぐらいの爆撃なら直ぐに周囲から押し寄せるスコーピオで埋まってしまうに違いない。

 だけど、やらない限り減ることは無い。

 そんな思いに浸りながら、次の目的地に向かってアリスは飛行する。

 だけど、北とは言ってたが範囲が広すぎないか? もう少し位置を教えてくれても良かったように思えてしまう。


『たぶん、孵化地点から北西方向ではないでしょうか? 後の影響を調べる上でも、なるべく西を選ぶと推察します』

「その上で、すそ野までは広げていないはずだ。裾野以北はドローンで調査してるはずだからね。画像を解析しているアリスも、そんな形を見てはいないんだろう?」


『そうです。結構大きなものですから見過ごすことはあり得ません。となると、岩石地帯ではなく比較的柔らかい土地に生息する未確認の生物の可能性が高まります』


 何だろうな? モグラだったら土を盛り上げるはずだから、アリジゴク辺りかもしれないけど、あれは幼虫で合って成虫ではない。

 直径100mを越える穴を作るアリジゴクの成虫なら、目撃例だってあるはずだ。

 それが無いのは、生息域が北と言うことにはならないだろう。

 冒険家の覆い騎士団にも伝えられていないということは、そんな大きな蛾のような生物はいないということになる。

 一生を土の中で暮らす生物となると……、やはりミミズみたいな生物になるんだろうな。


 1時間程山裾付近を捜していると、数個の窪みを見付けた。

 さらに北東方向にもいくつかあるようだ。

 互いの距離が1kmほどは萎えているところを見ると、テリトリーを持つ生物ということになるんだろう。


『スコーピオの群れで、地中の振動探査は不可能です!』

「ドローンでは見つけられなかったということは、山麓付近にはいないってことだね。やはり地中を掘るのに苦労しない場所ということになるんだろうな」


『かなり大きいのかもしれません。この辺りは扇状地でもありますから、それほど大きな石がありませんが、北に向かえば巨大な山脈地帯です。岩脈があちこちにあると推察します』


 そこで暮らしているのが、スコーピオが狙っている大きなミミズのような生物だ。それが魔気を作り出す生物の1つになる。

 

 高度を数百mに保ち、アリスの手の上で一服を楽しみながら、不思議な穴を観測していた時だった。

 突然、すり鉢状の穴がぽっかりと口を開けると、スコーピオが穴の中に雪崩落ちていく。

 直ぐに穴が閉じた後に、砂が周囲に噴き上げられていくのが見えた。


「何なんだ? やはり大きな奴に違いはないんだろうけど」

『一瞬ですが、巨大な顎を確認しました。虫の一種と推察します』


 その姿を見ることができたのは、一服を終えて水筒に入れたコーヒーを飲んでいる時だった。

 まだそれほど大きく成れなかった個体が、穴からスコーピオに引き摺りだされてしまったようだ。

 生ゴミの山にいそうな、昆虫が巨大化した感じだな。

 大きな顎と長い胴体を持っているが8本脚だから昆虫とは言えないのかな? 地中暮らしで羽は退化してなくなったようだ。

 

『推定体長は12m程あります。あの個体が作った罠の大きさは直径60mですから、100m近い罠を作る個体は体長20mを越えると推測します』

「魔気の濃度に変化はあったかな?」


『先ほど、罠を開いた瞬間に上昇しました。ですが、あの個体が作り出したというより、罠の中に溜まっていた高濃度の魔気が周囲に拡散したものと推察します』


 あのミミズがこの辺りにもいるのだろうか? あの巣の中にたくさんいるのかもしれないな。


「これで、導師の疑問に答えられるんじゃないか? 早めに帰らないと、ローザ達に怒られそうだ」

『そうですね。第1線に沿ってリバイアサンに向かいましょう。途中で何度か【ファイヤ・ウオール】を放つことができます』


 コクピットに入ると、南西方向に飛行を始めた。

 地上2千m付近を音速で飛んでいるのだが、眼下にはどこまでも赤い絨毯が見える。

 既に孵化は終わっているが、それまでに孵化した数は尋常ではないな。


 第1戦までの距離が100kmほどになったところで地上30mほどに降下して、【ファイヤ・ウオール】を3回放った。

 これだけで1千体近くのスコーピオを葬ったことになるんだろうけど、直ぐに何事も無かったかのように元に戻ってしまうんだよなぁ……。


 気を取り直して、ハルバートを引っ提げて上空から広場に降下する。

 相変わらずの光景だけど、よく見ると少し変化しているのが分かる。

 獣機が相手をしているのは脱皮前のスコーピオだし、アレク達が相手をしているのは、最初の脱皮を終えたスコーピオだ。


「遅かったな。要領は分かるな!」

「大きい方を狙えば良いんですよね?」

「そうだ。攻撃しなければ共喰いをするのに懸命だが、こいつらを倒さねば、また大きく成るからな」


 共食いを繰り返して大きくなる。

 たぶんそれは本来の習性ではないのかもしれない。北の山に向かった連中は餌があるようだが、それ以外の方向に向かった場合は、魔獣や野獣ばかりだ。それらはスコーピオの襲来前に姿を消してしまうから共喰いを繰り返しているんだろう。

 それが可能な数でもある。

 3回目の脱皮までに、孵化したばかりのスコーピオをどれぐらい食べることになるんだろう?

 100体を越えるんじゃないかな? 俺達が相手をしている数はおよそ300万ということだから、何もしなければ1万体ということになるのだろう……。

 それらが海に帰ったなら、確実に生態系が壊れてしまう。

 海に帰る前に、更に何かがあるのかもしれない。


 何時ものように、ローザ達が休憩を終えたところで駐機台に戻る。

 アリスから下りると、いつものように爆弾が無いことに気が付いた。

 残り少ないってことか?

 それは問題だと思うんだけどなぁ……。


 指揮所に入ると、皆が正面の映像を眺めている。

 拡大された映像は、東の光景のようだ。遠くに砲弾が不定期に炸裂しているが、まだまだスコーピオの西進は続いている。

 西は輸送艦や戦機輸送艦による補給で、結構賑やかな感じがするけど、東はこの映像とほぼ変わらい光景がずっと続いているに違いない。


「休憩に入ったのね。ここにいらっしゃい」


 俺が着たことに気付いたみたいだな。とりあえずカテリナさんの隣に腰を下ろす。


「この光景は東ですよねぇ。この状態が続いているだけに思えるんですが、何かあったんですか?」

「よく見てごらんなさい。最初の脱皮を終えた個体が混じっているわ」


 皆同じに見えるんだけど……、んん? あれか!

 あまり多くはない。圧倒的に孵化後のスコーピオが多いし、同じように赤い体色だからなぁ。ちょっと気が付かないんじゃないか?


「でも、圧倒的に数が少ないですよ」

「昨日は、まるでいなかったの。今日は、よく見ないと気が付かないぐらいの数だけど、明日は違うわ」


 増えるってことか。3日もすれば、最初の脱皮を終えたスコーピオだらけになりそうだ。


「騎士団は未だ東進しないんでしょうか?」

「まだ始めないようね。脱皮が進んでいるらしいから、その後を追いかけるつもりじゃないかしら」


「ところで、例の穴の正体が分かりましたよ。かなり大きい虫のような奴です。映像をお見せ出来ますが?」

「是非とも見せて欲しい。虫だとすれば、自然の摂理にも適うのではないか?」


 アリスが編集した映像を映し出すと、指揮所の士官達も一時画像を食い入るように眺め始めた。

 スコーピオの群れが開いた穴に落ち込むのは迫力があるけど、小さな虫の世界を拡大鏡で眺めているような錯覚に陥ってしまうんだよなぁ。

 

「あのスコーピオに食われている虫の大きさはどれぐらいなのじゃ?」

「およそ、8スタム(12m)と推測しています。穴の大きさから類推すれば、大きな穴を作っている個体の大きさは、13スタム(約20m)を越えるものと思われます」


 俺の言葉に、全員が画像をもう1度眺めている。

 実感がないんだろうな。それとも、どうやって対処しようかと考えているのだろうか?


「全く、驚く限りだわ。今回のレッド・カーペットでどれだけのことが分かったのか、早めに整理をしないといけないわね」

「始めておるよ。それもあのレポートのおかげじゃな。王立学院で教鞭を取らずとも、優に教授の知見を越えておる。だが、その上となると面倒じゃな……」


 あまり持ち上げられると後が怖くなる。

 ここは穏便にお願いしますと、カテリナさんに頼んでおこう。


「とはいえ、ここまでじゃないですか? これ以上となると、本来のスコーピオ討伐が疎かになりそうです」

「それも承知の上でじゃ。また頼むことがあるやもしれん」


 導師の言葉にフェダーン様が溜息を吐いている。

 戦よりも学求と言うのはねぇ……。しかも指揮所で言うんだから困った御仁だ。


「ところで、西の情報は届いていないのでしょうか?」

「再度問い合わせたところだ。やはりリオ殿は気になるということか?」


「はい。それが大きければ、この場を離れる必要があるかもしれません。ハーネスト同盟王国内で済む話かどうかが一番知りたいところです」


 俺の言葉に、指揮所の全員の視線が集まってしまった。

 注意を喚起したつもりなんだけど、そこまで驚くことなのかな?


「西のレッド・カーペットと言う事かしら?」

「同じかどうかは分かりません。でもレッド・カーペットでは無さそうです。それなら、ブラウ同盟が送り込んだ諜報員の耳にも入るでしょう」

「単体での脅威かもしれんぞ。虫は大きく成ると聞いたことがある」


 提督はジッと話を聞いていたけど、一言口に出した。

 先ほどのゴミ虫のようなものまでいるんだから、更に大きな虫がいてもおかしくはないんだけど……。


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