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M-185 ハーネスト同盟軍が東進する理由


 テーブルの傍に仮想スクリーンを作り出す。

 リバイアサンは、古代帝国の遺産だが、その多くは進んだ科学技術が使われている。

 この仮想スクリーンもそんな恩恵の1つらしい。

 リバイアサンの生体電脳と記憶槽を、完全に支配下に置いているアリスならば容易いことになるんだろうな。


「……というように、生命の始めから始まる、大きな大樹に例えられるのが生物の発生に関わる学問です。

 先ほど話した、捕食生物のピラミッド型の生態系図と合わせて、1つの学問になるはずです」


「この世界に最初の生物が生まれて後、気が遠くなるほど長い年月を経て生物は多様化していったということか。その生物達が、互いに助け合い捕食し合うことで、1つの輪が閉じるということになるのだな……。

 だとすれば、魔獣の登場はこの体系を乱すことになるであろう。その弊害が出ておるということか……」


「既に私達がその中にいるということも問題だわ。私達は滅ぶべき生物になるのかしら?」

「今更でしょうね。既にサイは投げられています。渡るべき河も渡りましたし、トレイのグラスから床に水は零れています」


「このままでも良いということか? だが、滅びの道を歩むのは余り良い心地ではないぞ」

「生態系の調査とその弊害を明らかにすることで、対策は可能であると考えます。そもそも今の人種は過去に存在したのでしょうか?

 あまり対策を急ぐと、人種間の問題にまで発展するかと……」


 俺の言葉に、4人が口をつぐんだ。

 きっと脳が熱を出すぐらいの思索を始めたに違いない。

 場合によっては王国の瓦解にも繋がりかねない。

 その意味では、俺の考えは異端として処断する方が都合が良いのかもしれないな。

 影響の兆しはあるが、それが顕著になるのは何世代も後になってのことだ。

 今を謳歌するなら、そんな考えを闇に葬りさえすれば済むだろう。


「全く、退屈せんな。リオ殿と1日話をするだけで数年間でも考え付かぬ課題が出てくる。ワシは、無視することはせぬぞ。だが、確実に『異端』の烙印を押されるに違いない。隠匿空間でじっくりと検証する必要があるじゃろうな。

 隠蔽は、フェダーンに任せるぞ。ワシの弟子達から出ることは無かろう」


「陛下のお耳には?」

「私から説明しましょう。それと新たな学課を学院に設立するのも良さそうですね。裏の話を抜きにして、生態系の調査ができると考えます」


 ユーリルさん自らが教鞭を取るとは思えないから、信頼できる人物に託すのだろう。

 少しずつ洗脳するような形になるのかもしれないが、今に連中に天地がひっくり返るような話を直接しないだけでもマシかもしれないな。

 ある意味将来の布石になるんじゃないか?


「私は今のままで良いな。調査に必要な資材ぐらいは軍の経費で出すこともできよう。魔獣の調査は今でも行っておるのだ。少し規模を拡大して、導師の意見を取り入れるというのであれば問題はあるまい」

「私は、皆の調整に努めるつもりよ。リオ君がリバイアサンからあまり離れられないから、目の役割も必要になるでしょうね」


「ガネーシャ達も忙しそうだが?」

「別の弟子を使うわ。まだガネーシャまでには至らないけど、それなりの知識は持たせたつもりよ」


 何か、役割分担が作られていくんだけど、生態系の状況確認ということで良いんだよな?


『私から1つ確認したいことがあるのですが……』

「あら、何かしら? 私達の知見の範囲でなら答えられるわよ。アリスは私達の仲間でしょう?」


 おもしろそうな表情に変わったカテリナさんが答えてくれたけど、他の3人は、ゴクリと息を飲みこんでいる。

 この段階での質問ということは、かなり大きな問題をはらんでいると理解しているのだろう。


『ハーネスト同盟は、なぜウエリントン王国と戦をするのでしょうか? 単なる覇権とも思えません。

 コリント同盟、ブラウ同盟、それにハーネスト同盟を合わせても大陸南岸の三分の一程度の領土です。ウエリントン王国に攻め入るよりは、西に版図を広げて王国を強化した後なら東進も容易になると推察するのですが……」


 4人が互いに視線を交わしている。

 実に単純な話だけど、その原因は分からないってことかな?


「考えてもみなかったわ。ずっと昔からなんでしょう?」

「短ければ毎年だった時期もあるようだ。だが問い掛けられると答えようがないな。密偵達も、次の侵攻時期を探るので精一杯、その原因となると皆目見当もつかん。求婚を断ったわけでもあるまいが……」


 そんな話は物語で聞いたことがある。

 数万の軍勢が戦って王国が1つ滅んだようだけど、あくまで後の世になって脚色されたに違いないと思うんだけどなぁ。


「申し訳ないけど、私達には分からないわ。でも、アリスはいくつかの推察を持っているんでしょう?」

『色々と推察しているのですが、現時点で一番確度が高いものはブラウ同盟及びコリント同盟には知ることができない魔獣の存在にあるのかと……』


「魔獣の脅威により西に拡大できぬ……。と言うことじゃな。確かにありそうな話じゃわい。それは飛行船で確認できるやもしれぬ。ワシが調べてみよう」


 導師の仕事が1つ増えた感じだな。

 待てよ……。ハーネスト同盟軍が機動要塞を探していたのも、その脅威に対抗するための手段だったかもしれないぞ。

 となると、まだまだ諦めることはしないはずだ。動く機動要塞を目にしてるんだからな。


「その時には、星の海も探ってください。動く機動要塞を彼等は目にしています。2番目の機動要塞を必死で探しているかもしれません」

「了解じゃ。それもまだ見ぬ魔獣に関わるがあるかもしれんし、リバイアサンの対抗兵器を探すことで、結果的に魔獣をも倒せる兵器を手にすることができるかもしれぬ。

 なるほど、全体は複雑に絡み合っておるな。これも、1つの大きな生態系と言えるじゃろう……」


 やがて、話題は現在の脅威に移っていった。

 既に孵化が終わり、最初の脱皮が確認されている。

 スコーピオの知見は、飛行船の登場でかなり深まったらしい。


「あれほどの共喰いが行われるとは思わなかったぞ。爆弾の投下は有効じゃな。大型でなくともよい。広範囲にばらまくことで共喰いを誘発することができそうじゃ。

 全体の6割が北を目指しておるようじゃ。リオ殿が魔気の濃度を測定してくれたし、ドローンと呼ぶものが、スコーピオの穴を掘る姿を捉えておる。

 確かに、何かを捕食しておるようじゃが、詳細は不明じゃ。

 とはいえリオ殿の仮説が立証されたとワシは思うぞ。魔気を作る生物の大量発生がスコーピオの襲来を招くということじゃな」


 導師が嬉しそうに話をしてくれる。

 やはり、レッド・カーペットの始まりを間近かな距離で見られたことが嬉しいに違いない。

 俺達の調査結果も贈ってあるから、色々と推論を重ねたようだ。

 

「カテリナが名誉学士の称号をと言っておったが、その上も可能じゃろう。陛下にはワシからも口添えをするつもりじゃ」

「何か義務が生じることはありませんよね?」


「名誉と褒賞ぐらいなものよ。高額の寄付で名誉学士は手に入るけど……、その上って!」

「教授じゃな。ヴィオ・ラナイト・リオも良いが、プロフェッサー・リオも良い響きに思えるが?」


 そう言って笑い声を上げている。

 カテリナさんがちょっと驚いているのは、あまり例がないということなのかもしれない。

 もっとも、その資格があるのはアリスだと思うんだけどねぇ。


「ナイトを30直ぐに名乗る者はいないからな。リオならそのまま名乗れるであろうが、貴族社会では、男爵の後にプロフェッサーを付けるのも悪くはないだろう。少なくとも相手は、リオ殿を利用しようとは考えないであろうよ」

「利用するつもりが利用される……。貴族内ではよくある話だが、名誉教授職ともなれば、その道での切れ者と言うことか。なるほど、おもしろいことになりそうだな」


 導師の言葉にフェダーン様まで笑い始めた。

 導師は厳格な人物だと思っていたけど、案外ユーモアのある人物に思えてきた。

 学院で学生達に指導をしていたころは、さぞかし人気があったんじゃないかな。


「だが、このような状況でも、リオ殿は色々と考えておるのだな。我も少しは考えておったが、そこまで大きくは考えることはできなかった。

 残念な事ではあるが、それが私の限界ということじゃな。悲しくはなるが、私を越える者と懇意であるなら、自らの知見を彼に伝えられることで満足を得られるじゃろう」


 乾いた笑い声が導師のバングルから聞こえてきた。

 導師は物事を広く見ることができないと言っていたけど、それはこの世界のひずんだ学問体系にも起因しているんじゃないかな。

 案外博物学者として大成しそうに思えるのは、俺の気のせいなのだろうか?


「導師は、現状の戦いをどう見ておる?」

「前より遥かにマシに思えるぞ。だが、今回のスコーピオの数は前よりもかなり多いようにも思える。

 次のレッド・カーペットには更に多くの飛行船での爆撃が可能であろう。

 今回は新たな武器の試験と考えれば、犠牲者には申し訳ないが納得もできようぞ」


「やはり、数が前回よりも多いということか……」

「騎士団もロケット弾を多用しているようじゃな。確かに距離は飛ばぬが、駆逐艦の主砲を越えておるからのう」


 それなりに役立っているようだ。簡易発射機は獣機なら装填も容易だからだろう。

前に撃てば、それだけスコーピオの圧力を軽減できるということだろう。


「おかげで、現在までは騎士団に死者は出ておらぬ。単独で参加している騎士団は明日には引き上げるだろうが、半数以上は残るであろう。これからが本当の戦になるぞ

「重々承知しております。海に帰るスコーピオが少なければ、それだけ次の襲来時の規模が小さくなるはずですから」


 それはそうだが、果たして目に見えるほどに数が少なくなるのか疑問が残る。

 何と言っても、北に向かったスコーピオは狩ることができないからね。

 導師の言う通り、大型爆弾で潰すのではなく小型爆弾をたくさん投下することで、スコーピオの共喰いに期待した方が良いのかもしれない。


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