M-182 制御室も忙しそうだ
「やはりリバイアサンは偉大だ。このような機動要塞が3基もあるなら、第1線の前に並べるのだが……」
「15ケム(22.5km)ほど間隔を開かせれば、40ケム(60km)をカバーできるでしょうね。半減させることは不可能でしょうけど、1割以上削減できるはずです」
「三分の一近く削減できるだろうと、フェダーン様は言っておられたぞ。ワシもその数字を聞いた時には驚いたな。大陸の西にはまだ眠っているのだろうか?」
「分かりませんが、ハーネスト同盟の諸王国はあると信じているようですね。俺は半信半疑ですけど、場合によってはまだまだ帝国の残滓とも言える兵器が残っているかもしれません」
「リバイアサンの対抗兵器じゃな。あの戦はリバイアサンに負けたと思われているらしいな」
そう言って提督が笑い声を上げる。
正しくはアリスに負けたんだけど、それを知っている者はそれほどいないだろう。
従来の戦姫を越える戦姫等、彼等には想像すらできないんじゃないか?
「それが一番納得できる理由ということになるんでしょうね。よって、あるかどうかも分からない兵器を探すことになるとはねぇ……」
「ハハハ……。全くだが、ワシも、ハーネスト同盟軍の指揮官の一人であったなら、やはりその考えに向かうだろうな。
だが、もしもそんな兵器を見つけ出したなら、リオ殿はどうするつもりだ?」
「破壊します。もっとも、それを戦に持ち出したならの話です。魔道科学の発展ということであるなら問題はないと思います」
「いずれは、それを戦に持ち出すとは考えないのかね?」
「それは、リバイアサンも同じでしょう。少なくとも侵略戦には参加しないつもりです」
「ハハハ……。全く持って、覇気がないのう。陛下が残念がっておるが、ワシは一安心というところだな。
ウエリントン王国は他国を侵略しようとは思っていない。国土は広く、北はほとんど手付かずの状態だ。更に南に下がれば、多くの島々があるのだからな」
「北は、領土の境界が明確ではありませんが、南の境界線をそのまま延ばすということなんでしょうね。そうなると、星の海が微妙です」
「領地を主張するなら、草の海までだろうな。それ以上に適用すると、境界杭さえも満足に打てぬ」
2人で顔を見合わせて笑い声を上げる。
確かにその通り、ここが国境だという明確な線引きができないんだよなぁ。
そのおかげで勝手に自分達の領土だと言いがかりを付けてくる。騎士団を臨検すると言っておきながら魔石のほとんどを巻き上げるんだからなぁ。
「だが、リバイアサンの対抗兵器を探していることは間違いないらしい。分かった時には連絡を入れるぞ」
「お願いします。上空からでもある程度の検討は付くでしょうから」
面倒な話はそれで終わりだ。
後は世間話をしながらタバコを楽しんでいると、士官の1人が駆け寄ってきた。
「重巡バネルトンより弾薬補給の要請を受けました」
「輸送艦は待機しているのか? 砲弾の形式を伝えて300発を搭載せよ。銃弾も足らんだろうから10箱程度乗せておくのだぞ!」
矢次早に指示を出して、返答を受ける。
満足そうな表情で頷くと、通信を持ってきた士官に「20分後に補給する」と口頭で伝えた。
「制御室に連絡だ。「輸送船団を出発させる」で分かってくれる」
士官の1人が片手を上げて了解を告げると、手元のインターホンを使って指揮所に連絡を入れている。
結構忙しそうだな。俺もそろそろ出掛けるとするか。
「だいぶ長居をして今いました。西3ケム(4.5km)地点を中心に爆撃を行い、再び広場でスコーピオを狩るつもりです」
「まだ30分ほどだぞ。もう1杯、コーヒーを飲んで行け!」
直ぐにコーヒーが運ばれてきた。
ついでにもう一服を楽しんでいくか。またしばらくはコクピットの中だからね。
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夕暮れが近づくと、艦船の灯すサーチライトが西を照らしだした。
東も照らしてはいるのだろうが、近くだけに違いない。どこに砲弾を撃っても当たるからね。
西も同じではあるけど、舷側砲の隙間から銃で狙い撃っているから、明かりは必要だろう。
広場の中はスコーピオの体液で、まるで沼地のように思えるほどだ。
穴でも掘って埋めたいんだが、現状ではどうにもならないな。
「飛行船と飛行機の数が半減してますね。点検と合わせて休憩を取らせているのでしょうか?」
「そんなところだろう。これから夜だからね。反復爆撃を繰り返すだろうから、休憩は必要だろうし、何と言っても駐機場の連中が少しは休めるんじゃないかな」
日が沈むまで広場でスコーピオを蹂躙し、リバイアサンに戻ることにした。
指揮所に連絡を入れると、北の圧力を少し弱めるようにとの連絡が入る。
何隻かの軽巡洋艦の甲板上空で、【ファイヤ・ウオール】を放ったところで、何時ものように駐機台に直接移動する。
「また、積んであるね?」
『50発はありますね。改造型の飛行機用ですから、広く散布すれば良いでしょう。収納しておきます』
「頼んだよ!」とアリスに告げたところで、プライベート区画に戻ることにした。
皆も戻っているかな?
シフトが合わないから、あまり顔を見ていない。無理をしていなければ良いんだが。
リビングに入ると、何時ものソファーに皆が集まっていた。
今夜は、一緒に夕食が取れそうだな。そう思うと自分でも笑みが浮かんできた。
「あら、今日は一緒に食事ができそうね。次は真夜中かしら?」
「指揮所からの指示があり次第ってところかな。自分の好きなように戦うように言われているけど、案外難しいものだよ」
とりあえず、ワインを頂く。
戦場でないなら、どんなに旨いことか……。
「制御室はどんな感じだい?」
「忙しいのはドック関係かな? 指揮所からの連絡は制御室経由だけど、輸送艦との通信はドックの現場制御室で行っているわ。あまり介在すると混乱しそうだから」
昨日は混乱していたってことかな?
少しでも改善されたなら良いことに違いない。
「西の砲撃もするんだって?」
「急遽、始めることになったけど、軍人は凄いわね。夕暮れには砲撃を開始したわよ。連装砲塔3基の予定だったけど、ネコ族の人達が砲弾輸送をしてくれることになったから、5基が運用しているわよ」
監視所からの映像を見ると、中央の3基が広場の真西を狙い、左右1基の砲塔はそれよりも左右を狙っているようだ。
「軍艦よりも砲撃間隔が短いのが良いわね。たまに指揮所から援護射撃の要請が来るわ」
「ドラゴンブレスに砲は問題がないの?」
「30分間隔の発射だけど、動力機関に問題はないそうよ。今のところは問題なし」
あれだけでも、一斉砲撃を越える威力があるからなあ……。射界が狭いのが唯一の欠点だけど、こんな砲撃はそもそも想定していなかったに違いない。
「まだ孵化は続いているようだ。この流れは少なくとも4日続くことになるんだろうね」
「それにしても凄い食欲よね。共喰いをするとは聞いていたけど、あれほどとはねぇ」
エミーは俺とフレイヤの会話の聞き役に回っている。
そんなところに、ローザがやってきた。どうやら風呂に入っていたみたいだな。
「兄様も帰ってきたのじゃな。強も凄かったのう。砂地じゃがまるで沼のようであったぞ」
「明日も続くから、転ばないようにしてくれよ。リンダと常にペアを組んでいれば互いに補完できるだろう」
うんうんと頷きながら、マイネさんから冷たいジュースを受け取っている。
エミーの隣に腰を下ろしたが、まだ夕食の準備は整わないようだな。
「あら? 待っていたけど来ないから来てみたんだけど、こっちにいたのね」
カテリナさんがやってきた。これで勢ぞろいしたのかな?
フェダーン様は、深く眠っているようだ。もう少し寝かせてあげた方が良いのかもしれないな。
「導師から連絡があったわ。孵化の数が減ってきたそうよ。孵化の終息を確認して個々に来ると野伝言よ」
「やはり10日近く続くのですね。そうなると最初に孵化したスコーピオが脱皮をしそうですけど」
「その連絡は爆撃を行っている飛行船から届くんじゃないかしら。次は引き波が始まるわよ。第2陣は引き波を確認したところで帰路に着くはずだから、残るのは私達だけになるわ」
「いよいよ本格的ということですか?」
第1回目の脱皮後には子牛ほどの大きさになるらしい。
獣機でどうにかだろう。今は舷側砲の間からトラ族の連中が銃撃をしているが、至近距離でなければ倒せないかもしれない。
さらに2回目の脱皮が行われるとなると、新型銃の出番になる。
3回目の脱皮後には海に帰るということだが、艦砲の直撃弾でも無ければ倒せないというからなぁ……。
もっとも、その時には数も減るのだろう。
俺達も倒しているし、スコーピオは脱皮に備えて貪るように共喰いをする。
夕食のテーブルに着いたが、先ほどのカテリナさんの言葉に皆の口数が減ったようだ。
静かな食事が進む……。
「ところで何時から始めるの?」
カテリナさんの唐突な問いに、何のことかと考えてしまう。
パンをモシャモシャと齧りながら、思いついたのはドローンの事かもしれない。
主語ぐらいは言って欲しいところだけど、それ位わかるだろうという目で俺を見ているんだよなぁ……。
『射出しました。現在リバイアサンより300ケム(450km)付近を北上中です』
状況をアリスが答えてくれたけど、フレイヤ達は何の話? という感じで俺とカテリナさんを交互に眺めている。
「リオ君は皆と同じように頑張ってくれているんだけど、それ以外にずっと先の事を考えて行動してくれているの。レッド・カーペットの発生原因そのものをね。
発生してから、こんな戦いをするのではなく、それが起きないようにすることも視野に入れているんじゃなくて?」
「さすがに、そこまでは無理だと思っていますよ。それには長い年月が掛かるんじゃないかと。ですが、何とか規模を小さくする手段は考えてみたいですね」
「さすがは兄様じゃな。我には想像すらできぬ。じゃが、多くの国民は我と同じであろう。レッド・カーペットは怠惰を戒める神の御業とも言われておるぐらいじゃ」
防ぎようがないから、神の御業に認定したってことかな?
それはまた極端な話だが、そう言うことなら神殿の連中はあえてそれを受け入れるということになるはずだ。
だが、実際には色々と協力してくれている。それは神の御業に反することにならないのだろうか?
「難しい顔をしているけど、神は1つではないのよ。6つの神殿以外にも神は存在するの。その神達の行動が私達に害を及ぼさないように、6柱の神々が努力してくれているのよ」
「善神と悪神という関係ですか……。なるほどねぇ……。了解です」
カテリナさんが俺の疑念を晴らしてくれた。
頷きながら納得している俺を、「そんなことも知らないの?」という目で皆が見ているんだよなぁ。
宗教なんて、信じる者以外は信じられないのが普通だぞ。この世界の宗教観念がどのような物かよくわからないんだから、しょうがないじゃないか。