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M-181 睡眠不足は美容の大敵


 1時間程の休憩を終えると、再び爆撃に向かうことになった。

 改造した飛行機が搭載する爆弾は小型だから、30個も持たされてしまった。

 北に向かって、長く爆撃をしてくるように言われたけど、最後に北端の戦艦の北側で【ファイヤ・ウオール】を2回放つよう追加までされてしまった。

 

「報酬は考えておくぞ」なんて言ってたけど、見返りよりものんびりできる休日が欲しいところだ。


『まだま続きそうですね。でも少しは西側のスコーピオの群れが少なく見えます』

「爆撃に、砲撃や銃撃を行って、あれだけ白兵戦もしてるんだからねぇ……。東西が同じように見えたら、やる気が失せてしまうよ」


 とは言ったものの、俺にはどちらも同じように見えてしまう。

 あれだけ倒しても、数の暴力を覆すのは難しいということなんだろう。


 軍艦が砲撃距離の最大値を8ケム(12km)に設定しているらしいから、俺達は20ケム(30km)地点を北上しながら、爆弾を落としていく。

 新型飛行機は100ケム(150km)先を目標にしてナパーム弾を投下しているようだ。東に黒煙が見える。


「大型飛行船の爆撃は継続しているんだろう?」

「200ケム(300km)先を目標にしているようです。1日に4回の爆撃ですから、一度点検をした方が良いのかもしれません」


 酷使が心配ということかな。

 それなら飛行機も同じに思える。

 半数単位に点検をするよう具申してみよう。


 爆弾の投下が終わったところで高度を下げると、【ファイヤ・ウオール】を放つ。

 少し北上して、更にもう1度【ファイヤ・ウオール】を放ってリバイアサンの西の平場に向かった。


 ついでだからと、地上スレスレを滑走しながらアリスの左手でハルベートを水車のように振り回す。

 10kmほどの距離で、どれだけスコーピオを葬ったか分からないけど、100体は越えているに違いない。

 シートから後ろに目を向けると、一直線に共喰いが起こっているようだ。

10体以上が群がるから、そこで傷を受けるスコーピオもいるはずだ。そんなスコーピオは直ぐに仲間の餌食になっている。

 

「本能で動いているんだろうね。体が大きくても脳が発達しているとは思えないな」

「生物としての登場は古い時代からなのでしょうね。未だに生息しているところを見ると、海で彼等を駆逐する勢力が少ないのではないでしょうか?」


 それもあるんだろうけど、その反対も考えられないかな。

 スコーピオの天敵が、何らかの理由で減ったとも考えられる。

 天敵の出現は、捕食対象が現れた後になるはずだから、もっと生物的に高度な体を持つ者に違いない。

 考えられるのは魚種や水棲生物としての哺乳類辺りだろう。

 ひょっとして、かつていた大型の海洋生物の一部が帝国内戦のあおりを受けて数を減らしたのかもしれないな。

 導師がどこまで自然科学に詳しいかは分からないけど、博物学的な学問が王都の学院にあれば良いんだけど……。


『カテリナ様に相談することが色々と出てきますね』

「ああ、そうだね。だけど今は、こいつらを何とかしよう」


 西の広場の出入り口には、メイデンさんの指揮する戦闘艦が南北に動いている。

 相変わらず、多脚式駆動装置のムカデのような足を使ってスコーピオを踏み潰している。

 動いているからスコーピオも戦闘艦の甲板には上ってこれないようだ。もっとも、その前に多脚式の足で串刺しになってしまうのかもしれない。

 ブリッジの横に装備された左右の連装機関砲塔は、景気良く銃弾を吐き出しているのが見える。

 とは言っても、連装砲の1門だけなんだよなぁ。もう片方は銃身の冷却を行っているのかな?


『相変わらず元気にやっているようですね。舷側砲が無いんですが、主砲は西を狙っているようですよ』

「西ならどこに撃っても、だいじょうぶな筈だ。もっとも戦機輸送艦が近づいたら止めるんだろうけどね」


 とりあえず、しっかりと門の役目を果たしてくれている。

 さて、広場の中はと言うと……、相変わらず白兵戦でスコーピオを倒している。

 あまり戦機や獣機に向かってこないようにも見えるな。

 その理由は後で聞くことにしよう。とりあえずは右手の軍艦を乗り越えてくるスコーピオを倒し続けることにした。


「リオ、だいぶ遅かったな。また爆撃に行ったのか?」

「北に向かって落としてきました。西の爆撃を行っている飛行機と同じ爆弾ですから、あまり間引きができたと思えません」


「落としただけのことはあるさ。やってくるスコーピオにむらがあるのは、砲撃と爆弾のおかげだろう」


 確かに強弱がある。

 それが爆撃の成果なら、確かに落とした方が少しは楽ができるってことになりそうだ。


「先に休憩に行くぞ! こっちを頼む」

「了解です。変わりはベラスコ達ですか?」

「そうだ。こんな戦いが続くんだから、嫌になってしまうな」


 ドックから数機の戦機が出てきたところで、アレク達が休憩に向かう。

 ローザの姿が見えないのは休憩中ってことかな?

 ローザが出てきたら、変わって貰おう。


 1時間程ハルバートを振り回して、休憩に入ることにした。

 いつも通りに駐機台に戻ると、今度はナパーム弾が横に置かれている。

 今度は、どこに落とすんだろう? とりあえず指揮所に行ってみるか。


「ご苦労様。コーヒーを用意してあるわよ」

 

 指揮所に入った途端に、カテリナさんが手を振って隣に座るように手を振っている。

 そんなカテリナさんを見ているフェダーン様は苦笑いの表情だ。俺に顏を向けて頷いているところを見ると、何かあったんだろうか?


 忙しそうに指揮所を走り回る士官達にぶつからないようにテーブルに向かうと、カテリナさんの隣に腰を下ろした。

 大きなマグカップに並々とコーヒーが注がれている。取りえず頂くか……。


「やはりリバイアサンの後方は、スコーピオの数が少ないようだ。横幅だけで400スタム(600m)あるからだろうな。後方2ケム(3km)で再び合流する。次はその合流地点に落として欲しい」


 フェダーン様が眺めている画像は、リバイアサンの西側の画像だ。監視所から映しているのだろう。高さが300mはあるからかなり先まで見通せる。


「確かに合流してますね。あれなら、リバイアサンの砲撃でも十分に思えるのですが?」

「弾薬運搬を行っている士官候補生を西の連装砲に向かわせる。砲塔3基を稼働できるだろう。砲弾運搬は戦艦より兵士を回して貰った。士官候補生の数をもっと要求しておくべきだったと反省しておるところだ」


 120mm砲が6門か……。巡洋艦1隻分というところだろう。だが、それだけ後方に向かうスコーピオの数を減らすことができる。


「贅沢を言ったらキリがありませんよ。前回の襲来時にはリバイアサンは無かったんですからね」

「それはそうだが……」


 どこまで頑張っても、阻止することはできないだろうな。

 やはり「戦は数だ!」ということになりそうだ。


「ところで、何時間寝てないんですか? せっかくの美貌が台無しになってますよ。しばらく副官殿に指揮所を任せることも、指揮官の務めだと思うのですが?」


 俺の言葉を聞いて、一瞬ポカンと下表情になったフェダーン様だったが、だんだんと笑みを浮かべてついには笑い声を上げた。


「ハハハ……。リオ殿にそう思われるようでは、指揮官として失格だな。グライナー提督。少し休ませてもらうぞ」

「よろしいですとも、ぐっすりとお休みください。少なくとも第1陣に穴を開けられることが無いよう努力いたしますぞ」


 少し離れた場所にいた老軍人が俺に小さく頷いて、フェダーン様に答えた。

 ハーネスト同盟軍とたたかった時にもいた指揮官に違いない。

 フェダーン様が頼るぐらいだから、能力は十分だということなんだろう。

 フェダーン様が指揮所を出たところで、おもむろに提督が俺に顏を向けた。

 

「何度具申しても、お休みを取られなかったのだが……。なるほど、美貌を損ねると言えば良かったのだな」

「申し訳ありません。クマが顔に出ていましたので、差し出がましいことをしてしまいました」

「感謝しとるよ。30時間はここに籠っていたのじゃからな。ワシ等はそれなりに休んでおるのだが、指揮官としての務めと言って何としても動かんで困っていたことも確かだからのう」


 それなら、丁度良かったかな?

 でもあんまり、ここで口出しすると碌なことにはならないからなぁ。


「カテリナさん。次に爆弾を落としたら、少し時間を頂きますよ。北が気になりますので、ドローンを1機飛ばしておきたいんです」

「ドローンって?」


『自律電脳で動く調査体です。武装はありませんが、映像の記録といくつかの観測装置を搭載しています。大きさはナパーム弾より少し大きくなりますが、5日程度の滞空ができます』

「私達にも作れるかしら?」

『似たものは出来そうですが、自律電脳は無理だと思います。リバイアサンのような生体電脳ではなく、水晶で作られた電脳ですから』


 カテリナさんは何時ものようにアリスとの会話を楽しんでいるようだ。

 それにしても自律電脳をアリスは作れるんだ。そっちの方に感心してしまう。


 提督が俺を手招きしている。

 カテリナさんは、バングルを眺めながらお話の最中だ。軽く頭を下げて、マグカップを手に提督の元に向かうことにした。


「何やら難しい話をしているようだが、リオ殿の従者との話かな?」

「従者ではなく友人ですけど、そんな感じですね。俺に良く分からないような話になってるので、こっちに来た次第です」


「なら丁度良い。先ほど知らせがあった。ハーネスト同盟軍が急に引き返しているとのことだ。王宮爆撃はそれほどの効果があったのだろうなぁ……」

「フェダーン様が休まれるにも、タイミングが良かったということでしょうね。でも、たった1回でそれだけの効果があったんでしょうか?」


 良くて、進軍が止まる程度。その後の交渉で王都爆撃をほのめかして艦隊を退ける腹だったんじゃないか?

 返って、不気味に感じてしまうのは俺だけなんだろうか?


「あまり喜ばんな。やはり簡単に引き返す理由が分からんと言うことだな?」

「そうです。良くて現状維持ですからね。王宮爆撃でも、建物は狙っていないはず。国王が爆死したとは考えられません。となれば、別の要因かと」


「ハーネスト同盟に参画している王国には、複数の者達を潜ませておる。だが、返事がまだ届いておらぬようだ。うかつなことは言えぬが、ワシもリオ殿と同じ考えだ。戦以外の何らかの要因……。フェダーン様は、それを考えるのは王宮の仕事と割り切っておるが、果たしてそれで良いのかと心配になる」


 何かが惑星規模で起こっている、ということなんだろうか?

 そうなると、ドローンを北ではなくハーネスト同盟を構成する王国の上空におきたくなってくる。


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