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M-180 アリスと放つファイヤ・ウオール


 大型爆弾を20個投下して、西の広場に戻る。

 丁度、戦機輸送艦が砲艦を護衛に北に向かって進み始めたところだった。

 戦機輸送艦2隻の右舷に2隻の砲艦が並行して進んでいる。砲艦がたまに舷側砲で葡萄弾を発射するのだろう。戦機輸送艦もブリッジの両側に設けた簡易砲塔からガトリング銃でスコーピオを倒しているのが見えた。

 あれだけでも戦力になるんじゃないかな。指向性地雷も舷側に付けてあることだし。


「頑張ってるな。少し休んで良いぞ!」

「兄様か! だいぶ遅かったようじゃが、そうさせてもらうぞ」


 ローザがリンダと共に、ドックに向かって歩いて行く。その途中でも何度かスコーピオを倒している。

 元気で何よりだ。北側にアレクの姿が見えないのは休憩中なんだろう。獣機の数も昨日よりは減っているようだ。

 だけど、軍艦を越えてくるスコーピオの数は増えたようにも思える。

 相変わらず、広場を通り抜けて西に向かう数は多いが、広場の中で共喰いする数は昨日よりも増えているようだ。


 出口付近で、ハルバートを振るう。

 リバイアサンにあまり近づくと、ドックの上からの銃弾に当たりそうだ。

 銃弾ぐらいでは傷さえ付かないとアリスが教えてくれたけど、当たるのは嫌だからね。


『数が増えていますね。2割増しぐらいでしょうか』

「気のせいじゃなかったということか。砲撃が足りないってことかな?」


『孵化数の変化だと思います。ここならドラゴンブレスもあまり気になりませんね』

「1時間に2回の頻度は変らないみたいだな。威力はあるんだろうが、結果が見えないからなぁ。それよりは連装砲の連中が頑張ってくれてるよ。飛距離は10km以上あるから、第1陣の軍船よりも遠くまで届くようだ」


 巡洋艦の主砲より口径は小さいけれど、炸薬量はそれを凌駕する。

 合計32基の120mm砲から放たれる砲弾の数は64発にもなるからな。

 微妙に射程と方向を変えて、満遍なく指定区域に砲弾を降らせているのだろう。

 

『リバイアサンの砲撃間隔は既存の軍艦を上回るようですね。同口径の巡洋艦の砲撃間隔は15分間隔なのに対して10分間隔で放っているようです』

「それでも長いことは確かなようだ。離着陸台の転落防止用の柵を利用してロケット弾の簡易発射機を備えたみたいだね。結構短時間での発射を行ってるみたいだよ」


『小型のロケット弾は重量が50kg程度ですから、トラ族なら1人で装填できるからでしょう。さすがに西側は飛行機の離着陸で結構中断していますよ』

「それでも、撃てば10体以上を破壊できるんだからね。ロケット弾があるなら使わない手はない」


 スコーピオを相手にしながら、アリスと周辺の状況を話し合う。

 まだまだ小さいから、トラ族なら2人一組なら十分に生身でも相手ができそうだ。

 とは言っても数が多すぎるから、艦の外に出るのは戦機と獣機に限っているのだろう。


『指揮所より連絡です「駆逐艦へのロケット弾装填を行う。ドック入りを支援せよ」以上です』

「あの3隻だな。更に後ろに戦機輸送艦も来ているみたいだ。左手はベラスコ達に任せて、右手に向かうよ」


「リオさん。こっちは俺達で何とかします!」

「了解。アレクは休憩かい?」

「先ほど交代しました。ローザ王女も一緒に休憩しているはずです」


「頑張れよ!」と言って通信をきる。

 いつの間にか、立派な騎士になってくれた。さぞかしジェリルも喜んででいるんじゃないかな。左手の後方にはガリナム騎士団の戦機を率いるカリオンがいるから安心だ。


『ベラスコ様もそろそろ2人目の妻を娶るという話を聞きました』

「何だと! それは初耳だが、情報はどこから?」


『アレク様とサンドラ様達の戦機間の魔道通信を傍受した結果です。シレイン様の後輩ということですが、どうなるのでしょうね』


 アリスは全ての通信を聞いているってことかな? 内緒話もできないのはちょっと問題かもしれないけど……。そうか、そう言うことになってるんだ」

 それが、あの頑張りにつながってるのかもしれない。少しジェリルが嫉妬しそうにも思えるけど、良い男性騎士に巡り合える女性騎士は少ないとも聞いている。圧倒的に女性騎士が多いからだろう。

 どんな嫁さんがやってくるのか、ちょっと楽しみになってきたぞ。


『コクピットから魔法は使えないのでしょうか? 魔気を触媒とも言える魔法陣を使って発動するなら、コクピット内から魔法を発動するのは魔道科学の応用として可能に思えるのですが』

「【ファイヤ・ウオール】なら俺から100m程離れて魔法効果が具現化するはずだ。だけど、アリスに危険はないのかい?」


『あの程度の温度であれば全く問題はありません。失敗した場合にコクピット内が炎に包まれそうですから、一次的にマスターを戦闘体型に変化させます』


 ゾクリ……、と寒気に襲われた。これが戦闘体型なんだろうか? 完全に変化したのは初めてだな。

 

 ドックを背にして斜め左手に体を向ける。2隻目の駆逐艦がドックに入ろうとしているから、盛んにドックの上や桟橋からドックへ入り込もうとするスコーピオに銃弾が降り注いでいるところだ。


【ファイヤ・ウオール】の声を出すと、アリスから150m程離れた場所に炎の壁が出現した。

 俺がアリスの手の上で試した時よりも、威力が増してないか?

 炎の色が、赤を通り越して青に見える。

 炎の壁から10m程離れて倒れていたスコーピオまでもが燃え上がる始末だ。


「俺がやってのか?」

『マスターの魔法を私がブーストした形ですね。沢山魔石を頂きましたし、仮想スクリーンに魔方陣を描くという試みも上手く機能したようです』


 アリスの左手に魔方陣を構築したってことなんだろうか?

 あの狂った魔導師の知識を全て吸収したらしいから、カテリナさにょりも魔道科学に詳しいのかもしれない。

 それにしても、まだ炎の壁が消えていないぞ。

 俺がやった時には、1分程度だったけど、すでに3分を越えてるんじゃないか?


『カテリナ様から緊急連絡が入ってます!』

「繋いでくれ。今の魔法の事なんじゃないかと思うんだけど……」


「リオ君なの! だいぶおもしろいことをしてくれるわねぇ……。できるなら、早く教えて欲しかったわ」


 かなり興奮した口調なんだけど、本人は押さえている気持ちなんだろうな。


「この前試した時には、こんなに威力はありませんでしたよ。アリスが魔法を拡大してくれたようです」

「アリス……、パラクレスの知識を使ったということかしら? 狂ってはいたけど、その知識は本物だったという事なんでしょうね。いずれにしても、1度こっちにいらっしゃい。そろそろ休憩時間でしょう?」


 尋問が待っているのでは、休憩にならないんじゃないかな?

 周囲を見渡して、緊急な介入が必要ないことを確認する。

 そんな俺の目に、ローザ達がドックから出てくるのが見えた。

 ローザ達に後を任せて、駐機場に移動する。


 駐機台に直接移動したのだが、やはりと言うか直ぐ隣に爆弾が積み上げられていた。

 フェダーン様は、俺達を爆撃機と勘違いしてるんじゃないかな?


「指揮所に行ってくるよ。さっきの魔法の話になった時には、上手く介入してくれよ」

『了解です。でも一般人にできるとは思えません。マスターが使った【ファイヤ・ウオール】でさえ、あれほどの威力にはならないようです』


 俺自体も、魔法のブースト能力を持っているということだろうか?

 その辺りは、カテリナさんよりも導師の方が詳しいかもしれないな。

 とりあえず、指揮所に急ごう。

 遅れると、余計に長くなりそうだ。


 指揮所の扉を開いた途端に、カテリナさんが椅子を蹴り飛ばして俺の手をがっちりと握りしめた。

 別に逃げないから離して欲しいんだけど、そのまま拉致されるようにフェダーン様の近くに用意された席に座らせられる。


 いよいよ尋問が始まるのかと思っていると、綺麗なお姉さんが俺達にコーヒーを運んできてくれた。

 飴とムチってことかな?

 一口飲んでみたけど、何時もの通りの美味しいコーヒーだ。砂糖の加減も丁度良いな。


「さて、聞かせて貰おうかしら。どうしてあんな魔法が使えるの?」


 言葉は丁寧なんだけど、大きな緑の目が俺を見据えている。

 どうやって説明すれば、良いんだろう? 俺にも良くわからないんだよなぁ。


『私が説明します。マスターはユーリル様より低位魔法より上の魔法を教えて貰ったようです。その中の広域魔法の1つを爆撃後に試しました。

 私の手の上から【ファイヤ・ウオール】を放ったところ、マスターを起点としておよそ7スタム(105m)の距離に、左右45度の範囲に火炎の壁をおよそ80秒間出現させることができました。火炎の温度はおよそ千度近くです。これは鉄を溶かす温度には至りません。

 先ほどの魔法は、マスターの魔法を私が魔法陣で増幅した結果になります。

 かつての知識を元に、手に仮想スクリーンで魔方陣を描き、マスターの魔法の発動による魔気の放出を私が制御し、かつ増幅した結果です。

 私を起点として、10スタム(150m)先に左右45度の円弧状に炎の壁を作りました。火炎の温度は1200度を越えています。鉄さえも溶けるでしょう」


 アリスの言葉を聞いてカテリナさん達だけでなく、近くで聞いていた軍人さえもが大きく目を見開いている。

 驚いたというより、呆れてる感じだな。

 この間に、タバコに火を点けておこう。せっかくの休憩だからね。


「全く、開いた口が塞がらん話だ。1つ確認したいが、他の戦機でそれを再現することはできるのだろうか?」

『該当する魔石と、行使する手に魔方陣を刻むことが必要でしょう。……ですが可能性があるだけで、行使まで行けるかどうかは推測すらできません』


「上位魔法が使える騎士がいれば良いのね。それなら軍に何人かいるんじゃない?」


 カテリナさんの問いに、フェダーン様が首を振った。


「残念だが、1人もおらぬ。理由は簡単だ。中位魔法や高位魔法を体に刻むとなれば半年はベッドで暮らさねばならんからな」

「まあ、既存の高位魔法でもそこまでの威力はないし、そんなことで寝込むなら訓練を積ませる方が良いってことか……」


「その通りだ。リオ殿が上位魔法を使える方が異常なのだ」

 

 コーヒーを飲みながら、そんなことを呟いている。

 その件についてはユーリル様に感謝だな。



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