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M-018 お母さんが2人?


「そろそろ出発させませんと!」

「そうね。出発の日時は改めて連絡するわ。ベルッド、頼んだわよ」


 フレイヤとベルッド爺さんが頷いて席を立つ。俺も少し遅れて席を立った。ドミニク達に見送られてベルッド爺さんを先頭にカーゴ区域に向かうのだが、フレイヤのトランクを俺が運ぶことになってしまった。

 何が入ってるんだか、やたらと重いんだよなぁ。よくもあの部屋まで持ってきたもんだと感心してしまう。


 カーゴ区域には数人のドワーフ族が俺達を待っていたようだ。

 アリスの前にタラップを運んでくると、俺達の搭乗を見守っている。


「トランクも運んでくれるんでしょう? 壊れ物が入っているから注意してね」

「だいじょうぶだって。中に入ったらシートの後ろに立ってしっかりとシートに掴まってくれよ。無茶な機動はしないから心配ないよ」

 

 俺の言葉を信用していないな。フレイヤがかなり胡散臭い表情をしている。

 ここは毅然とした態度で動かせば少しは安心してくれるだろう。コクピットが閉まって全周スクリーンで周囲が映し出される。

 ベルッド爺さんがドワーフ達を指揮して舷側の扉を開き始めた。ベルッド爺さんはアリスの性能をかなり知っているから、扉が水平になったらすぐに滑空しても驚かないだろう。

 

「確か、西だったよね。大まかな場所を教えてくれないかな?」

「もうすぐ、塔が見えるわ。その塔から西に3ブロック先になるの。ブロックは大型自走車が2台すれ違えるほどの道で区切られているわ。東西南北に区画しているから直ぐに分かるはずよ」


『了解しました。庭先で焚き火をしているようです。私達の目印にと考えてくれたのかもしれませんね』

「今のは?」


 アリスの言葉に、フレイヤが辺りに視線を向けているのが見ないでもわかる。


「アリスの声だよ。アリスは話ができるんだ」

「そんな戦機は聞いたこともないわ! かなり変わった戦機なのね」


 それで納得してくれるなら、説明が省ける。

 舷側の扉がゆっくりと開いた。ベルッド爺さん達に片手を上げると、闇に中にアリスを飛び立たせた。フレイヤのトランクは握った左手の中にあるようだ。


「この戦機は空を飛べるの!」


 俺の顔を覗き込むようにして身を乗り出してくるから、前が良く見えないぞ。


「少し変わった戦機だからね。これぐらいはできるさ。あの辺りが実家だろう? 焚き火が見えるんだが」


 俺のすぐ横に顔を出して全周スクリーンを見ていたフレイヤがうんうんと頷いている。


「速いのね。そうよ、あの焚き火が私の家。たぶん、レイバンが焚いているんだわ」


 フレイヤの兄弟は4人いると教えてくれた。一番上がアレクで、フレイヤの下にレイバンとソフィーという弟と妹がいるようだ。

 あのトランクが異様に重かったのはそんな弟達へのお土産なのかな?


「たぶん、納屋の前に作ったはずだわ。納屋はそれなりに大きいわよ。3階までの扉を開けば、この戦機も入るんじゃないかしら?」


 どれだけ大きな納屋なんだろう? アリスはアレクの駆る戦機ほど身長は高くはないが、それでも15mを越えているんだけどね。


「とりあえず、あの焚き火の傍でいいんだね」

「後はなんとかなるわ。納屋に入らなければ、納屋の後ろに座って貰ってシートを掛ければ問題ないと思うけど?」


 アリスが嫌がりそうだな。


『私を隠蔽するのでしたら、自分で隠れますが?』

「やはり目立つ機体は隠したいというところだけど、どうやって隠れるんだい?」


 アリスが俺達に説明してくれたのは、次元の歪ともいうべき亜空間に移動するというものだった。

 海賊船の時にも、次元跳躍を行って一瞬で海賊の武装探索車の後方に移動した。あの一瞬が長時間となるのかもしれない。


「隠れてくれるのはありがたいけど、連絡はどうするんだい?」

『私に話し掛けてくだされば、今まで通りに話せます。私はいつもマスターを見ていますから』


 俺にプライバシーはあるのだろうか?

 そんなことを考えながら、焚き火に向かって方向を修正すると速度を落とす。


 暗闇から突然姿を現したアリスを見て、焚き火の傍の少年は腰を抜かしてる。ここは早めに下りた方が良さそうだ。

 アリスの手の平にフレイヤを最初に下ろしてあげると、しりもちを付いている少年に手を振っている。

 俺がコクピットを出ると、直ぐに装甲板が閉じた。ゆっくりと手が下がると、地上に着く前にフレイヤが飛び降りて少年のところに向かう。

 相手もフレイヤに気が付いたんだろう。慌てて立ち上がると抱き着いているぞ。

 アリスのもう一方の手の中からフレイヤのトランクを下ろすと、俺にアリスが小さく頷いた。

 次の瞬間、俺の目の前からアリスが姿を消してしまった。

 亜空間に移動したということなんだろうが、まるで魔法を見ている気がする。


「あら? もう隠れたの」

「あまり長く人目にはさらしておけないよ。はい、フレイヤのトランクだよ」

「そのまま持ってきて、母屋はあの建物よ」


 フレイヤが腕を伸ばした先には立派な石作りの2階建ての建物があった。

 焚き火の向こう側にもログハウス風の2階建ての建物が並んでいるから、農家というより地方の郷士に見えなくもない。使用人もたくさんいるんだろうな。

 少年が俺達を置いて先に母屋に走って行った。俺の腕に腕を絡めてフレイヤが歩き出す。一緒に付いていきたいのはやまやまだが、このトランクがやたらと重いんだよなぁ。


 数段の石作りの階段を上がると広いテラスが玄関の左右に作られていた。

 テラス上にはたくさんの植木鉢、それとウッドチェアーが置かれていた。あれに座ってのんびりと本を読めたら……。

 

「ほらほら、余所見はしない。明日になれば私が案内してあげるから」


 フレイヤが立ち止まった俺を、急かせるようにして玄関に向かった。


「ただいま」


 フレイヤの声に左手のドアから飛び出してきたのは、フレイヤに似た娘さんだった。妹ということになるんだろう。


「おかえりなさい。こっちの人が?」

「違うわよ。兄さんに頼まれたの。1カ月ほど滞在できるわよ」

 

 これをお願い! と頼んだのは俺が運んできたトランクだ。さすがに動かせないんじゃないかと思ったら、易々と奥に転がしていった。

 ひょっとして、魔法が掛けられているのかな? トランク、もしくは先ほどの妹さんのどちらかが魔法を使っているということになるのかもしれない。


 スタスタと歩いていくフレイヤの後に付いて、先ほどの娘さんが出てきた扉を開けて中に入ると、大きなリビングがあった。窓際に応接セット、反対側の奥には大きなテーブルセットがあるからリビングダイニングと呼ばれる部屋なんだろう。


「今夜来ると聞いていたけど、意外と早かったわね。おかえりなさい。そちらの男性が……」

「リオと言います。ヴィオラ騎士団の騎士の1人ですが、アレクさんの勧めでやってきてしまいました」

「ゆっくりしてきなさい。お話は騎士団長よりうかがっているわ」

 

 とりあえずは無難な挨拶をしたけれど、どう見てもフレイヤの姉さんにしか見えないぞ。この世界で老人を見掛けないのは不思議な感じがしてたんだが、親子でこんな状態になっているとは思わなかったな。


「こっちにお掛けなさいな。私も元は騎士だったのよ。狩りのお話でもしてくださいな」


 フレイヤと一緒にソファーに座ると、テーブル越しにフレイヤのお母さんが腰を下ろした。妹さんが運んできたブランディーのグラスを傾けながら、フレイヤが狩りの様子を話し始める。

 フレイヤは監視要員の統括と火器管制の統括補佐をしているようだ。いつもはどこにいるのか分からなかったが、フレイヤの話を聞いてブリッジの最上階に詰めているのを初めて知った。


 フレイヤのお母さんの名前はイゾルデ、妹がソフィーで弟がレイバンと教えてくれたんだけど、どうやらもう1人お母さんがいるらしい。今は近所の集まりに出かけているということだから、本当ならイゾルデさんも出掛けたかったんじゃなかったのかな?


「シエラお母さんは、長剣を教えに出掛けてるの?」

「来年には騎士ということだから、サボるわけにはいかないでしょうね。貴方達に早く会いたがってたけど、明日には合えるわよ」


 試合を申し込まれたら絶対に断ろう。ひょっとしてアレクの企みなのかもしれない。今頃はサンドラ達と笑いながら酒を飲んでるんじゃないかな。


「それにしても大きな農場ですね。驚きました」

「私達だけじゃどうしようもないから、昔の騎士団の仲間が手伝ってくれてるの。魔獣の暴走に巻き込まれて、私達の騎士団は壊滅したわ。夫もその時に亡くしたんだけど、この農場を私達に残してくれたわ」


 やはり騎士団の仕事は、ハイリスク・ハイリターンの典型と見るべきだな。老後はのんびりとここで暮らそうと思っていたに違いない旦那さんは、さぞかし無念だっただろう。

 

「でも、それは過ぎた話。明日からはのんびりと過せばいいわ」

「ありがとうございます」


 ここはありがたく御厄介になろう。少しは俺に手伝えることもあるかもしれない。

 

 そんなことで、アレクの実家に居候ということになってしまった。

 さすがに手ぶらでとはいかないだろうから、狩りで手に入れた魔石を贈呈する。一目で中位魔石と分かったようで、それを手に入れた経緯を2人のご婦人に話すことになったんだが、話すにつれて2人の目が輝いていくんだよなぁ。この2人、今でも現役で戦機に乗れるんじゃないか?


「さすがにそれはできませんわ。私達が戦機に乗れるのは精々30歳まで。それを過ぎれば体に刻んだ魔方陣が体を侵食します」

「この世界の宿命なのでしょうね。戦機に乗らなければ問題はありませんが、この歳で乗れば間違いなく戦機のゴーレムと魔方陣が共鳴して体を分解します」


 確か、戦機はゴーレムを使用していると聞いたことがある。獣機はホムンクルスらしいが、その違いは簡単に言えば無機物と有機物の違いとアリスが教えてくれた。

 無機物であるゴーレムを動かす魔方陣はかなり複雑らしく、いまだにコピーすることができないらしい。

 それにゴーレムだって単なる岩ではなく、10種類以上の鉱物をブレンドしたものらしい。その上、体内に埋め込む魔石も単に埋め込めば良いというわけではなく、細い金属線がいくつも魔石同士を結んでいるそうだ。金属線を魔石に埋め込む技術は、過去の対戦で失われたらしいから、新たな戦機を作るのは今では不可能な技術ということになる。


「過去には人間に刻んだ魔方陣とゴーレムの親和があったのでしょうけど、どの王国の魔導士達も再現することができずにいるそうですよ」

 

 そうなると、俺にも魔方陣が体に刻まれているのだろうか?

 ギジェの神殿で魔法が使えることは分かったけど、体のどこにも魔方陣はなかった。

 アレク達が見せてくれた魔方陣は肩に刻まれた刺青のように見えたから、体のどこかに刻まれたならわかるはずなんだが……。

 鏡で背中までみたんだけどどこにも見付けることが出来なかった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >闇に中にアリスを飛び立たせた。フレイヤのトランクは握った左手の中にあるようだ。 「この戦機は空を飛べるの!」  俺の顔を覗き込むようにして身を乗り出してくるから、前が良く見えないぞ。…
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