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M-179 やはり魔気の濃度が違っている


 0200時を過ぎたところで、兵士達の半数が休息を取る。

 残った半数は、徐々に艦に引き上げていったから、軍艦を越えてくるスコーピオはそのまま西に向かって進んでいく。

 足の踏み場もないほどに散らばっているスコーピオの死体を、むさぼるスコーピオもかなりの数だ。

 そんなスコーピオを戦艦のブリッジから狙撃して倒している。

 広場の中に向かって、葡萄弾を撃つことはしないようだ。舷側砲の突き出して、その隙間から銃撃を繰り返している。

 

「そろそろ引き上げようか?」

『爆弾をバラ撒かないといけませんね。それと魔気の濃度測定をしませんと』


 約束だからなぁ……。とりあえず、広場から上昇して、上空500mから爆弾を北に向かって落としていく。

 次は、北に向かって速度を上げる。

 100km四方の交点を10カ所ほど測定して引き上げることにしたのだが、山裾にまでスコーピオが到達していた。

 大型の魔獣の群れと戦う姿は健気にも思えるけど、軍隊アリのような感じで体高20mを越えるチラノに取り付いている姿にはちょっと驚いてしまった。


『やはり変動していますね。北に向かうほど濃度が高くなります。とは言っても、ほんの2%ほどです』

「北の山脈が鬼門ってことだね。やはりまだ知らぬ生物がいるんじゃないだろうか?」


 山裾を巡っていた時だ。尾根の影に大きな洞穴を見付けた。

 接近して魔気の濃度を測定したら、砂の海より数値が数%跳ね上がった。


『地中の生物ということでしょうか?』

「いることはいるってことかな? 地中に潜らないと分からないし、高緯度地方にはどんな魔獣がいるかも分からないみたいだ。今回はここまでにしよう」


 調査を終えてリバイアサンに戻ってくると、広場で動いている味方はメイデンさんの戦闘艦だけのようだ。

 あのまま蹂躙を続けるのだろうか?

 乗員が少ないから、無理をしないで欲しいところだ。


 駐機場のアリス専用駐機台に戻ると、横に再び爆弾が用意されていた。

 明日の朝、出掛ける時に仕舞えば良いだろう。

 軽く汗を流して、ワインでも飲んで眠ろう。この分だと明日もいろいろと言いつかりそうだ。


 ワインボトルを持って風呂に入る。

 大きな浴槽を1人占めできるんだからね。時間は4時近いから、皆夢の中に違いない。

 グラスのワインが少し温くなっているけど、量を飲まなければ悪酔いすることは無いだろう。


 大理石の敷石を歩く足音が聞こえた。

 誰だろう? 入り口に顔を向けると、やってきたのはカテリナさんとユーリルさんだった。

 早く出るべきだったかな。


「やはりここにいたのね? これからベッドに行くなら、その前に結果を教えてくれないかしら?」


 浴槽に入ると、泳ぐように浴槽内を移動して俺の両側に体を沈める。

 広いんだから、傍に来なくても良いと思うんだけどなぁ……。


「予想通りでした。やはり魔気を作る生物がいるようです。その生物の個体数を一定に保つ捕食生物がいるのでしょうが、あまりにも数が増えた時にスコーピオが現れるのではないでしょうか?」


「その知識はどこから来るのでしょう? 学院の博士でさえ、そのような学説を唱えることはありません」

「たぶん、私達とは学んだ学問が根底から異なるんでしょうね。導師が、リオ君と会うのはたまにで十分と言ってたぐらいよ。導師にとっても目から鱗と言うことになるんでしょうね」


「でも、そう考えるなら……、レッド・カーペットの発生を防ぐことも可能なのではないでしょうか?」


 俺の顔越しにカテリナさんを覗き込んでいるんだけど、そんなことをするから形の良い胸が俺に当たるんだよなぁ。


「そうでもないの……。その理由もリオ君は考えているんでしょう?」


 カテリナさんは、悠然と風呂を取り巻く大理石の列柱を眺めているだけだ。

 確かにできそうな気もするが、かなり困難な話でもある。


「この世界から魔気を無くせば、スコーピオが現れることは無くなるはずです。古の帝国時代にはレッド・カーペットの脅威は無かった。少なくとも古文書にはその記録がありません。

 この世界は魔道科学を生活の基盤にしていますが、ある日を境に魔法が全く使えなくなったらどうします? 

 何らかの生物が魔気を作り出す。その生物を根絶やしにすれば、レッドカーペットは起こらなくなる可能性が極めて濃厚です」


 地中深く生息する生物を根絶やしにするのは、ほとんど不可能だろう。

 生息地域が高緯度地方なら、なおさらだ。

 とはいえ、一度は見てみたい気もする。北に向かったスコーピオの後を追えば、その生物を目にすることができるかもしれないな。


『ドローンを使いますか?』

『監視用ドローンを持っているの?』


 突然のアリスの提案に、疑問で答えてしまった。


『自律ドローンを数機収容しています。組み立ては半日程度あれば可能です。最大高度は500m程ですが、時速80kmほどで移動できますし、活動時間は半年を越えます』

『なら、明日にでも北に行って、ドローンを放ってこよう。上手く行けば魔気を作る生物を見ることができそうだ』


 色々と亜空間に収容しているようだ。

 それなら、リバイアサンを探す時でも役だったと思うんだが、ひょっとしてセンサー類があまりないのかな?


「明日にでも再び北の様子を調べてみます。仮定ではありますが、情報は多いほど良いでしょう」

「そうね。導師も喜んでくれると思うわ。でもそれだけなのかしら?」


「さらに別の問題が起きると?」

 

 グラスを通して湯気の先の列柱を眺めていた、ユーリルさんが呟いた。

 持ってきたのかな?

 いつの間にか2人ともワイングラスを手に持ってるんだよなぁ。


「帝国が滅んで5千年……。魔道技術は戦を変えたに違いないわ。双方がこぞって戦機や飛行機を作って戦ったんでしょうから、当時は魔気を得るために努力したはずよ。

 でも、新たな命を作り出したのは不味かったんでしょうね。次第に本来の生態系に淘汰されていった……」


「もしくは統合された……。とも考えられます。共存ということも視野に入れた方が良いですね」

「さらに別の脅威!」


 ユーリルさんが俺の言葉を聞いて、驚いたように体ごと俺の前に移動してきた。

 カテリナさんが、私のものよ! という感じで俺の体を自分の体に引き寄せてきたから、態勢を崩された拍子にグラスのワインがお湯に変わってしまった。

 これじゃあ、飲めないな。湯船の端に置いておこう。


「大陸の東には昔から人々が暮らしています。でも西は未踏破ですよね」

「ハーネエスト同盟の最西端であるサーゼントス王国の西にも広大な土地が広がっているわ。……脅威は底にあると?」


 小さく頷くことで答えることにした。

 まだ言葉で言うことはできないんだよな。だが、確認できないだけなんじゃないか?

 

「導師が動きそうな命題ね。飛行船の更なる改造を行って、調査に向かうぐらいはしそうな感じよ」

「案外、行動的なんですよね。導師という立場を考えると、王宮の奥で深い思索をしているように思えるですけど」


「そんな導師達が多いことも確かよ。でも、導師は現実派出し、納得できないことは自ら試す人だから」


 確かに魔石を3つも埋め込む御人だからねぇ。おかげで、人の形を少し失ってしまったらしいけど、本人は余り気にしていないようだ。


「今日は、私よ。次の機会はユーリルに譲ってあげる」


 そんなカテリナさんの言葉に、笑みを浮かべているんだからユーリル様にも困ったものだ。

 カテリナさんに手を引かれて、湯船を出るとベッドに向かった。

 やはりエミー達は寝入っているようだ。もう直ぐ起きるかもしれないな。5時を回っている。

 そんなことも気にならないんだから、カテリナさんにも困ったものだ。

                ・

                ・

                ・

 翌日、目が覚めた時には、俺1人がベッドに入っていた。

 時計を見ると、昼近くになっている。

 急いでシャワーを浴びてリビングの向かうと、ソファーセットのテーブルにはサンドイッチとコーヒーポットが置かれていた。

 誰もいないってことかな?

 

 マイネさん達は、あのごつい狙撃銃を2人で担いでいったに違いない。

 エミー達は制御室だろうし、カテリナさんはフェダーン様と指揮所にいるのだろう。

 食事を取りながら、指揮所に連絡すると、フェダーン様の呆れかえった声が返ってきた。


「今、朝食なのか? 我等のところには先ほど昼食が届いておるぞ」

「起こして貰えないと、いつまでも寝られる性格なので、その辺りは申し訳なく思っていますが、現状はどのように?」


「変化はないな。各員とも十分に働いておるぞ。第2線を抜けるスコーピオは前回の半数ほどらしいが、これはスコーピオの群れが北を指向しておるのかもしれないな」

「30分後には広場に出ようと思っています。駐機台傍に積み上げられた爆弾を持って行きますが、とりあえず落とすところはないと?」


「しばし待て……。騎士団の手前に落としてくれぬか。場所は騎士団の前方6ケム(9km)、リバイアサンの緯度より北方へ北に向かって爆撃して欲しい」

「了解です」


 リバイアサンの真西は、スコーピオの数が少ないのかな?

 騎士団の方は、そろそろ砲弾も尽きるように思えるんだが廃船にたっぷり砲弾を積み込んでいるのかもしれない。

 足りなくなって補給に障害が出るようなら、指揮所に救援要請が来るはずだから今のところは問題ないってことなんだろう。


 食後のコーヒーを西の広場の状況を見ながら頂く。

 タバコも、ここで吸っておかないといけないだろう。広場ではそんな休憩はできないだろうな。

 

 ローザのハルベートさばきもだいぶ様になってきたし、リンダは獣機が使う魔獣解体用の薙刀みたいなものを振るっている。

 やはり長剣よりは良い感じに思えるけど、騎士と言うことで戦機用の長剣は背中に背負っているようだ。

 邪魔になるとは思うんだが、他の戦機も皆同じような出で立ちだ。

 解体用の薙刀モドキを手にすることができなかった戦機は鉄パイプで殴り付けている。

 一撃で胴体が飛散しているところをみると、バットのような鈍器も使えるんじゃないか?


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