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M-178 全ては魔気に集束するのかも


 指揮所のテーブルに6人程が座り、壁に広がる2つのスクリーンを眺めていた。

 1つは地図のようだし、もう1つはリバイアサンの西のカメらが捉えた広場の状況のようだ。


「ご苦労だった。席に着くが良い。直ぐにコーヒーを運ばせる。喫煙は自由で良いぞ。この部屋の換気はかなり性能が良いようだ」

「……ところで、御用とは?」


「状況を聞くならリオ殿が一番であろう。現状では大きな問題はないと思っておるのだが?」


 上空をあちこち移動しているし、広場で無双もしていたからなぁ……。

 確かに大きな問題はない。だが気になることは多々ある。現状では表立っていないが、表面に出てくるようでは困ってしまう。


「確かに現状での問題は無さそうです。ですが、あの砲撃では直ぐに砲弾が尽きてしまいそうです。最初の課題は、計画通りに輸送ができるかどうかになるんでしょうね。

 それと、広場のスコーピオの死体を何とかしたいですね。足の踏み場もないぐらいになってきそうです。 

 そうそう、広場でも共喰いが起こっています。おかげで対処しやすいことは確かですが、案外脱皮が速まるんじゃないかと」


 ドキッ! とした表情でカテリナさんとフェダーン様が互いに顔を見合わせている。

 しばらく互いの顔を眺めていたけど、溜息を吐きながら俺に視線を戻した。


「リオ君の勘と言う事かしら? 導師の意見も聞きたいところだわ」

「そうしてくれると助かる。場合によっては現状の体制を変えねばなるまい」


 カテリナさんが席を立って、隣の部屋へと向かった。通信文を送るということになるんだろうが、導師は孵化地点で観測しているはずだ。

 ちゃんと届くんだろうか?


 画像を見ながら、のんびりとタバコを楽しむ。コーヒーの味も良い感じだ。相変わらずローザが頑張っているけど、早めに休ませた方が良いのかもしれないな。この状態が長く続くんだからね。


「ロケット弾だけを搭載した駆逐艦は良い働きをしているぞ。射程が3倍あるなら、艦隊戦にも使えそうだ」

「艦の速度を上げても良いんじゃないですか? 元々駆逐艦は接近戦を旨としているはずですから、夜戦に使えそうだと思うんですが」


「なるほど……。それも良さそうだな。艦隊戦での駆逐艦の被弾率はかなり小さい。駆逐艦の艦砲では巡洋艦を数発で沈めることはできないのが一般常識ではあるのだが、ロケット弾の炸薬量は巡洋艦並みだ。3隻で一斉に放てば面白いことになりそうだな」


 100発近い砲弾が降って来るようなものだ。照準をきちんと付けられないのが難点ではあるが、それだけ放てば何発かは当たるだろう。


「もう1組作っても良さそうだ。それに次のレッド・カーペットへの備えにもなる」

「その辺りの評価はお任せしますが、西の情報は未だ入ってこないんでしょうか?」


 俺の問いに、おもしろそうな表情を向けてくる。

 入ってるということになるんだろうな。


「地面に砲弾をあらかじめ埋めておくというアイデアは、リオ殿から教えて貰ったと聞いたぞ。数隻が被害を受けて頓挫したそうだ。おかげで新型飛行機の良い目標ができたと報告が入っている」


 埋める場所は、ウエリントン王国領内にしていたはずだから、明確な侵略ということになる。

 新型飛行機で、相当比嘉を与えたに違いない。機先を制したことになるから飛行船の出番はなかったんだろうな……。


「作戦では明日の夜明けに、ガルドス王国の王宮爆撃が行われる。重巡の砲弾を爆弾にしたものだから、12発ではなく倍の24発を搭載して落とす予定らしい」

「王宮が無くなってしまうんでは?」


「ウエリントン王宮よりも大きいそうだ。建物に当たるのはその時の運任せらしいぞ」

「建物に当たらずとも、警告にはなるということですか?」


 頷いているけど、それなりに狙うんじゃないかな?

 少なくとも、建物に全く被害がないということにはならないだろう。

 かなり強硬な警告だ。

 これでも侵攻を止めないなら、次は王宮そのものを破壊するに違いない。


「爆撃に出掛ける飛行船に伝言を頼んだわ。早ければ明日の朝には導師の見解が聞けるわよ」

「全く、想定外が多すぎるな。そもそも、早すぎるのだ」

「それは、スコーピオにも都合があるんでしょうね? でもリオ君は、その辺りも考えてるんじゃなくて?」


 漠然としたものだが、あることにはある。

 この状況下でそんな話をするのもなぁ……、と言うことで俺だけに仕舞っているのだが。


「異変の予兆……、もしくは既に何らかの異変が起きたのではないかと……」

「魔獣と騎士団の動きに、そのようなことは無いように思えるのだが?」


「あったとするなら、海底かと。海水の成分が変化して、それがスコーピオの産卵を促したと考えています。もう1つは、かなり荒唐無稽な考えですけど、生態系に変化があったという考えです。

 リバイアサンの最初の東進時に、コリント同盟からレッド・カーペットの話がありましたね。彼等は北に生息している魔獣の動きを気にしていました。

 スコーピオが脱皮に必要な栄養をどこから取るのか。少なくとも共喰いで得るとは考えにくい話です。

 数が増えたことで共喰いをしていると考えるべきでしょう。

 となれば、北の魔獣の生態系に変化があって、それに伴いスコーピオの産卵が速まったという考えも成り立つかと……」


「リオ君の考えでは、スコーピオがあれほどの群れで産卵することは、帝国時代には無かったというところから来ているのかしら?」

「そうです。生態系は、長い年月でピラミッド型に捕食する生物が形作られています。

 全く異なる生態系を、従来の生態系に組み込んだらその影響はかなり大きなものになると推察します」


「異端と言われそうだな」


 そう言ったフェダーン様は、その反響を想像したんだろう。直ぐに小さな笑い声を上げている。


「異端ではあるけど、導師が喜びそうね。でも、確かめる方法が無いんじゃ、王都の学院では、大多数から異端の烙印を押されそうね」

『証拠を出すということでは?』


 突然、俺のバングルからアリスの言葉が聞こえてきた。

 魔石通信機が組み込まれているから、俺達の話を聞いて介入してきたんだろう。


「どんな証拠になるのかしら?」


 早速カテリナさんが興味深々の表情で、自分のバングルで問い掛けている。


『根底にあるのは、魔気にあります。魔気を集めて魔獣は魔石を作る。その魔気は誰が作るのか? 最初は古代で作られた何らかの装置だと考えていましたが、それでは故障した場合の対処ができません。恒久的に動かすには……』


「生物に魔気を作らせる。世代交代を繰り返し、捕食動物が全体の数を一定に抑える……。なるほどね。上手い手だわ」

『もし、それが正しいのなら、現在の北部の魔気の濃度を確認すれば、証拠になるのではないでしょうか?』


 課題は魔気の濃度を測定する装置ということになる。

 そんなものがあるんだろうか?


「魔気の充填装置にある測定器が使えそうね。実験室に何個かあるから、取り寄せるわ。0200時に半舷体制尾シフトするわ。その時に計って来て頂戴」

 

 とりあえず頷いたけど、早めに帰ってこないと、俺の睡眠が無くなりそうだ。

 コーヒーをもう1杯頂いている間に、カテリナさんの弟子が届けてくれたのは〇イメーターの付いた20cm四方の小箱だった。左右にコネクタが出ているのは、計測するための魔気の入出力口に違いない。

 小さな引手が付いているのは、何なんだろう?


「この引手を2、3回引けば魔気のサンプリングができるわ。圧縮機の途中に付けるならいらないんだけど」

「地上近くで、外に出て何度か測定してみます」


 一カ所では無理だろう。少なくとも10カ所近い測定点があれば、少しは見えてくるかもしれない。


 タバコに火を点けて、休憩の最後にする。

 外は、以前と変わらず賑やかだ。

 ローザも頑張っているけど、あまり興奮すると、眠れなくなってしまうんじゃないかな。


「それでは出掛けてきます。爆弾は依頼が無ければ、北に向かう時に、第1陣の前方にばらまくつもりですが?」

「今のところは持ちこたえているみたいね。最後はそれで良いわ」


 残ったコーヒーを飲んで、腰を上げる。

 次はベッドに入れるかもしれないな。

 アリスに搭乗して、ローザ達の援護を始める。


「兄様、休憩を終えたのじゃな?」

「0200時に半分を休ませるそうだ。今夜は俺達が頑張るから、明日に備えてローザ達も休息を取ってくれ」


「まだまだ大丈夫じゃが、状況は最初と変わらんぞ。休める時には休むようにフェダーン様にも言われておるからのう」


 ちょっと弱音が出ているかな?

 まあ、それだけストレスが溜まってきたんだろう。早く休ませるに越したことは無さそうだ。


 0200時に個別に連絡があったのだろう。この広場板戦機と銃器の数が減っている。

 メイデンさんの乗る戦闘艦は、多脚式走行装置を使ってスコーピオを踏み潰している。

 あんな方法があるなんて、よくも思いついたものだ。まるで戦機のように軽快に動き回っている。


「リオ! ちょっと手伝ってくれないか」

「良いですよ。休憩ですね?」


「魔気のカートリッジを1本増設してるんだが、そろそろ切れかかっているからな。ついでに俺も1杯飲んでくるつもりだ」

「その間は何とか持たせます。サンドラ達は?」

「私達は、もう2時間は平気よ。前をお願いね」

 

 アレクが縦になっていたから、アレクの代わりに俺が矢面に立つ感じだな。

 かなり身体能力が上がっているから、素早い斬り込みができる。

 艦船を越えてくるスコーピオを手当たり次第に倒していく。


『カウント数は500を越えましたが、白兵戦で数を減らすのは無理がありますね』

「とは言っても、最初の孵化の前だから白兵戦で十分戦えるよ。脱皮の後がどうなるかだ」


『最初の脱皮であればこのままでも行けそうですが、2回目の脱皮を終えると、このハルバートでは無理が出てくると思います』

「新型銃を試せそうだね」

『30mmで秒速800mですから、十分でしょう。3回目となると、力不足です』

「その時はレールガンを使おう。たぶん数も減っているだろうし」


 3回目の脱皮後は群れを作らないと聞いている。かなり気の荒い生物みたいだから、互いに殺し合うこともあるんじゃないかな。

 とりあえずは、先の事を考えずに、ハルバートを振るうことに専念しよう。


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