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M-175 今夜ぶつかる


 本日最後の爆撃を終えて、プライベート区画1階にある大浴場で体を温める。

 砂の海は内陸だから寒暖の差が激しい場所だ。季節的には初秋になるのだろうが、日中は30度を超えているし、夜間は10度以下に下がる。

 リバイアサンの空調は、25度が基本だからTシャツに短パンでも暮らせる優れものだ。

 とはいえ開放している駐機場やドックでは、夜間は防寒着を着ることになる。

 今回一番忙しい場所だけに、夜間の休憩時間は体を温める風呂やサウナが人気らしい。

 

 風呂から出たところで、カウンターの棚からワインをグラスに注いだ。

 寝る前に、軽く1杯を楽しもう。


「帰ったのね。ご苦労様」


 琥珀色の酒に氷が1つ。そんなグラスを持ってカテリナさんがテーブル越しのソファーに腰を下ろした。

 ナイトガウンから、すらりと伸びた片足が姿を現す。

 俺の視線が足に向かうのを見て笑みを浮かべているんだから、困った人だな。


「フェダーン達が夜間爆撃を始めるみたい。200ケム(300km)と言ったところかしら」

「概ね、そんなところです。明日も2回の爆撃を指示されました」


 グラスを口に運んだカテリナさんが、溜息をもらす。

 諦めにも似た表情だが、それほど深刻な状況にも思えないんだけどなぁ……。


「導師から通信が届いたわ。孵化が確認されてから既に3日、いまだに孵化が続いているそうよ。推定孵化数は1500万を超えているわ。かつてない規模のレッド・カーペットになるわよ」

「ここに至っては、逃げることもできないでしょう。前に言ってましたよね。最初の脱皮までが勝負だと。潰せるだけ潰しましょう。スコーピオの大きさは2スタム(3m)にも達しませんよ。生身でも銃を使えば倒せます」


「そうね……。孵化数に惑わされないようにしましょう。フェダーンにも伝えておくわ。私達が相手にするのは四分の一以下だとね」


 それでも、以前聞かされた200万の2倍近い数になるんだよなぁ。

 全員無事にとは、言えないけれどヴィオラ騎士団の犠牲者の数は減らしたいところだが、一番大事なのは十分な休憩だろう。

 24時間戦えるわけではない。適度な休憩をとれば、冷静な判断を長く保てるんじゃないかな?


「ヴィオラとガリナムの方は準備が整ったのでしょうか?」

「エミー達と緊密に連絡を取っているみたいね。乗員を2班に分けて、8時間のシフトを組むそうよ。アレク達も一緒だから、ベラスコがもう1班をしきするみたい。ローザは日中に参加すると言ってたけど、初戦は夜間でしょう? たぶん出撃するんじゃないかしら」


 ローザとリンダは別動隊ってことになるんだろう。戦姫だからなぁ。アレク達と連携する方が難しそうだ。

 

 コーヒーが無くなったのを見て、カテリナさんがワインを運んでくれた。

 今夜はこれを飲んで眠ることにしよう。

 明日はかなり忙しくなるんじゃないかな?


 カテリナさんに手を引かれて、俺の部屋に入る。

 エミー達は既に夢の中だ。

 カテリナさんがナイトガウンを脱いで素早くベッドにもぐりこむ。

 下に何も着てないんだから困った人だな。俺がベッドに入ると、待ちかねたように俺の体に密着してきた。

 体が反応するのは、あのワインに何か混ぜてあったのかもっしれないな。

 普段でも、カテリナさん謹製の薬を飲んでいるんだけど、相乗作用を期待してるんだろうか?

 俺としては副作用の方が心配になってしまう。

                 ・

                 ・

                 ・

 翌朝。目が覚めると、抱いている人物がカテリナさんからフレイヤに変わっていた。

 少し体を起こしてベッドオ両側を見ても、カテリナさんの姿が無い。

 早々に引き上げたのかな?

 フレイヤ達に遠慮はしないんだけどねぇ……。


 悩まげしな声を上げて、フレイヤが大きな目をパチリと開いた。

 状況を確認したかのように小さく頷くと、俺に体を寄せてくる。

 俺達の動きで、エミーも目を覚ましたようだ。反対側から抱き着いてきたけど、このまま起きるんじゃないのか?


 3人一緒にシャワーを浴びて汗を流すと、フレイヤ達はメイクを始める。

 俺は一足先に衣服を整えて、リビングのソファーに向かった。

 既に先客が3人。朝日を楽しむかのように紅茶を飲んでいた。


「あら、何時になく早いんじゃない?」

「たまには、早起きしますよ」


 何事も無かったように、カテリナさんが問いかけてきたけど、その白衣の下にはちゃんと衣服をまとっているんだろうか? ちょっと心配になってしまう。


「リオ殿には済まんが、朝と昼に爆撃を頼みたい。先ほど飛行機が爆撃に向かった。昨夜から5回目の出撃だから、夕刻まで休息をとらせたい」

「了解です。狙う場所は、何時もと同じで良いですか?」

「かなり広がっているが分散は見られないようだ。西側ならどこでも良いぞ」


 どこに落としても同じということなんだろうな? ついでに広域魔法も放ってこよう。


 マイネさんが届けてくれたマグカップのコーヒーを飲む。

 薄めで砂糖たっぷりのアメリカンだ。糖分が体に染み入る感じがする。


「第1陣の兵士達は16時まで自由時間としている。今夜からまともに休憩すらできなくなりそうだからな。一応シフト体制は取っているはずだが、それをいつまで維持できるか心許ない状況だな」

「疲れは戦力を低下させるのよ。最低限、仮眠をとる時間は持たせる必要があるわ」


 カテリナさんの苦言に、分かっていると頷いてはいるが表情が優れないな。

 俺は諦めの心境なんだけどね。背負っている兵士の命の重さを感じているに違いない。


「食後にこれを飲みなさい。少しは気分が良くなるわよ」

「ありがとう。頂くわ」


 怪しげな薬を手渡し散るけど、麻薬ではないだろうな?

 戦闘薬と称して、麻薬を服用させることもかつてはあったらしい。


 朝食はサンドイッチにポタージュスープ、それに果物が2切れだった。

 輸送船が生鮮食料を運んでくれるから、新鮮な野菜や果物が食べられる。食事も兵士にとっては楽しみの1つだ。

 

 俺達の食事が終わる頃になって、フレイヤやローザ達が現れた。

 俺の事を寝坊だと言っていたローザも、案外朝には弱いらしい。


「兄様にしては珍しいのう? 荒れ地に雨は珍しいと聞くぞ」

「良い天気だったよ。これから出かけるけど、ローザ達の戦いは今夜からだ。既に150ケム(225km)は離れてないんだからね」


「待ち遠しいのう! 見渡す限りのスコーピオで大地が赤く染まると母様から聞いたのじゃ。さぞかし壮観な眺めなのじゃろう」


「それは明日にでも、リバイアサンの観測所で眺められるだろう。だけど心をしっかり持って眺めるんだよ。それと、ローザはローザにできることだけをすれば良い。ローザにできること以上の事は誰も望んでいないし、その見極めがローザにできるからこそ、陛下は俺達との動向を許可してくれたんだからね」


「それほど気負っておらぬつもりじゃが……、兄様の言葉はちゃんと覚えておくぞ」


 ちょっと横を向いての言葉だから、あまり当てには出来ないかもしれないな。リンダがきちんと手綱を握ってくれることを祈るばかりだ。

 フェダーン様が笑みを浮かべているのは、かつての少女時代を思い出しているのだろうか? さぞかし周囲を巻き込むお転婆娘だったに違いない。


 アリスの登場して、本日最初の爆撃に向かう。

 リバイアサンとの距離は既に200kmを切っているとアリスが教えてくれた。

 南北にナパーム弾を投下したところで、高度を下げる。

 地上30mの高度に保ったアリスの手の上で、東に向かって【ファイヤ・ウオール】

を2回放つ。

 焼け石に水ではあるんだけど、それなりに効果はある。

 巡洋艦の砲弾2発ぐらいに考えておけば良いんじゃないかな。


 リバイアサンへの移動は、亜空間を使って直接駐機場のアリス専用駐機台へと向かった。

 爆撃に向かう飛行機で離着陸台は、混乱してるに違いない。発進している最中に帰ったりしたら余計に現場が混乱しそうだ。

 

 リビングに戻ってみると、誰もいない。

 仕方がないから、自分でコーヒーを入れてタバコに火を点ける。

 誰もいないということが何となく嬉しく感じてしまう自分に、思わず笑みを浮かべる。

 今夜に備えて、皆は忙しそうだな。

 連装砲塔を担当する連中は、さぞかし砲塔近くに砲弾を積み上げているに違いない。

 砲弾は部材を【複写】という便利な魔法で作れるが組み立てが必要だ。

 前線でそんなことはできないから補給に頼ることになるのだが、銃弾は3次までの複写ができるらしい。

 数は少ないんだけど、複写を使うことができるものは、今日も作っているんじゃないかな。

 

「あにゃ? 帰って来てたにゃ」

「さっき戻ったばかりだよ。今夜は忙しそうだから、夜食の準備をしといて欲しいな」


 俺の言葉に笑みを浮かべたのは、すでに取り掛かっているってことかな?

 新しい、コーヒーポットから熱いコーヒーをマグカップに注ぎながら話してくれたところによると、商会の人達が発起人となってあちこちに簡易食堂を作るみたいだ。


「ドックと離着陸場は5人向かうみたいにゃ。制御室はエミー様が休憩室を開放してくれたにゃ。リオ様も、夜食は制御室の休憩室に行くにゃ」


 マイネさん達が控えているのかな?

 トーストに携帯食の粉末スープだって、お腹がすけば美味しく頂ける。

 もっともマイネさんのことだから、そんな簡単な食事を出すとも思えない。

 様子を見ながら早めに腹ごしらえをしておこう。


 ん? だけど、マイネさん達は、あの物騒な狙撃銃を使うつもりでいるはずだ。そうなると、休憩室で食事の準備をしてるのは誰になるんだろう?


 昼過ぎに、本日2回目の爆撃を行う。もちろん【ファイヤ・ウオール】のおまけ付だ。

 アリスの推定では1万体近くに損害を与えているらしいんだが、まるで実感がない。

 東は遥か地平線まで、赤い絨毯で埋め尽くされている。

 まさしくレッド・カーペットそのものだが、俺が名付けるならば、【赤い海】と言いたいところだな。


「最初はピンクの体色だったけど、4日目で真っ赤になったな」

『成熟しているということになるのでしょう。第1回目の脱皮には間がありますが、全てのスコーピオが同時に脱皮するわけではありません』

 

 ある程度の期間があるということになるんだろう。

 今日で4日目だからね。早ければ数日後には脱皮が始まるんじゃないかな。

 


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