M-173 アリスを爆撃機と勘違いしてるんじゃないかな
いくら何でも、その方法が肌を重ねることだとは思わなかった。
下階の大きな風呂で行為に及んでしまったけど、教えを受けた後の風呂でユーリル様の体に幾重もの魔方陣が浮かび上がるのを目にする。
「この体ですから降嫁することもできません。神殿の奥で魔方陣の研鑽が終の仕事になると思っていました。
寵姫と言うことになるのでしょうが、公にはできませんね。私とリオ殿との間の関係で十分です」
「王国内に問題はないんですか? フェダーン様に知られたら機動艦隊を派遣されそうですけど?」
「すでに承知の上ですから、心配無用です。それに私はリバイアサンの神官として神殿から正式な任命を受けております。口煩い貴族には文句も言えますまい」
ここから離れないということなのかな?
でも神官なんだよね。その辺りの戒めはないんだろうか?
遠回しに聞いてみたら、笑い声を上げている。
「神官も人間ですから、何ら問題はありません。神と俗界の橋渡しをするだけですから。それに神は見ているだけです。救いは自らが作り出すもの。祈ることで安らぎを得るだけです」
この世界の宗教界を知ってしまった感じだな。
信じる者は、自分で救うことになるようだ。他力本願を戒めるってことなんだろうけど、それにしてもねぇ……。神官が言う言葉とも思えないな。
「でも、フェダーン様とはいけませんよ。私で満足しておくべきです」
「それほど自制心が無いわけではありません。だいじょうぶです」
たまにからかうんだから困った人なんだよなぁ。
それなりにストレスをため込んでいるんだろうけど、俺で遊ぶのは止めて欲しいところだ。
衣服を身に付けて、再びリビングのソファーに戻る。
カテリナさんも帰ってこないようだ。あの画像を見ながらフェダーン様と作戦を練っているのかな?
「そうそう、魔法を試すのは外で行ってくださいな。リオ様の魔気の量と魔石の相互作用で威力が高くなっていますから」
「夕暮れ前の爆撃後に試してきます。周辺に誰もいないなら問題はないでしょう」
小さく頷いているところをみると、かなりヤバいのかな?
せっかく教えて貰ったんだから、やはり試してみるべきだとは思うんだけどね。
リビングのソファーに戻り、ワインを1杯。
これから出撃なんだけど、だんだんアレクに毒されてきた感じだ。
まあアリスの乗りさえすれば、全てアリスに任せても問題はないだろうけど。
「リオ様の思い通りに魔法を使えますよ。詠唱は不要です」
「魔導士部隊にはそんな人が大勢いるのでしょう?」
俺の言葉に、ユーリル様は首を振った。
いないのもおかしな気がするけど……。
「暴発を恐れて、必ず詠唱を行うように義務付けれれています。彼等の持つバングルが無詠唱野魔法の発動を拒みます。
とはいえ、長い詠唱をするようでは困りますから、発動させる魔法の名を唱えることで、バングルの機能解除を行います」
喧嘩で発動するようでは困るからだろうな。
ん! 待てよ。そうなると、俺はどうなるんだろう?
「貴族は対象外ですよ。仮に王宮で魔法を不用意に放った場合は、かなりの罰金を徴収されますから注意してくださいな」
それなら、前のままで良かったんじゃないかな?
別に中級や上級魔法を使わずとも、それなりの自己防衛はできるし、攻撃だって可能だ。
「それでは、この辺で失礼します。またの逢瀬を楽しみにしています」
そう言って、ユーリル様は帰っていった。
さて、皆には黙っていた方が良さそうだな。
俺はともかく、ユーリル様には立場というものがありそうだ。
カテリナさんからの連絡を受けて、再び爆撃に向かう。
爆弾が小さいから30発を受け取って、西と東のレッドカーペットの端近くに半分ずつ落としてみた。
やはり小さいと爆撃効果はあまり期待できないようだ。直径15mほどの範囲のスコーピオを死傷させるのが精一杯みたいだな。
『やはり小型爆弾の効果はそれなりです。フェダーン様が騎士団へと向かうスコーピオの間引きと考えるのも無理はありません』
「20機近くあるからね。合計で40発を落とせるなら、それなりに使えると思うんだけどなぁ」
焼け石に水とも思えるぐらいだ。
それでもやらないよりはマシなんだろう。
コリント同盟に貸与した小型飛行船には巡洋艦クラスの砲弾を加工した急造爆弾を8発搭載するらしい。
自国の北部で運用するんだろうけど、明日には始まるかもしれない。
憂国の士に頼ることなくスコーピオを削減できるのだから、ピストン輸送に近い運用をするんじゃないかな。
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「ご苦労様でした。フェダーン様から労って欲しいと連絡がありましたよ」
リビングに戻って来た時には、夕食が終わっていた。
マイネさんが俺一人の夕食を整えてくれているから、ちょっと済まない気持ちでいたんだが、エミーの言葉を聞いて少し嬉しくなった。
フェダーン様なりの気配りと言うことなんだろう。
そう言う連絡を受ければ、エミーやフレイヤ達だって悪い気はしないだろうからね。
「それで、どうだったのじゃ? 今日1日で3回の爆撃を手伝ったのであろう?」
ローザとフレイヤまでもが、ソファーからテーブルに移動してきた。
気になるのは分かるけど、食事が終わるまで待って欲しいな。
「正直な話、効果はあるんだろう。だけど見た限りでは大差はないな」
「矛盾してるように思えるぞ? どのぐらい倒したのじゃ。それなら具体的じゃ」
「2万以上だろうと思ってる。飛行船の爆撃なら1回で1万を超えるんだけどね」
「3回の出撃で2万となれば、飛行船部隊がもう1つ出来たようなものじゃな。合わせて3万……。カテリナ博士は1千万を越えていると言っておったが……」
その辺りの説明を、もう少しきちんと説明したら良いんじゃないかな。
案外、カテリナさんは周囲の連中も自分なりの頭を持っているように思っている時があるんだよなぁ。
スープをどうにか飲み込んで、パンに焼き肉を挟んでガブリと口にする。
もぐもぐと噛みしめながら、ローザにどのように説明するかを考始めた。
『孵化したスコーピオは1千万を越えていますが、四方に散っていきます。本能で行動するようですから、ほぼ同数が東西南北に移動をすることになるでしょう。
コリント同盟軍が相手をするのは、南に向かう群れ。我々が相手をするのは西に向かう群れですからそれぞれ250万近くになります。
さらに、昨日の映像でご覧のなったように、少しでも傷が付けば共喰いの対象になりますから、その損耗率を半数と考えるなら、コリント同盟軍と我等が相手をするスコーピオは200から300万という数字になります』
天井に埋め込まれたスピーカーから、アリスの解説が聞こえてきた。
爆撃は西と南に対して行っているから、1日でスコーピオの1%近くを葬ったことになりそうだ。
共食いを加味すればさらに数字は上がるに違いない。
「明日も出掛けるのですか?」
「そうなるね。回数は増えるかもしれない。それに、レッド・カーペットの先端がどこまで来ているのかも確認しないといけない。爆撃に向かっている飛行船が距離を確認しているんだろうけど、向こうはコリント同盟の阻止線も視野に入れている。それにアリスほど正確に、移動速度と位置を教えてくれないだろうからね」
「明後日じゃったな。アレク達は明日は休養を取ると言っておったが、いつでも取っているように思えるぞ」
ローザの言葉に皆が笑みを浮かべる。
確かにいつもデッキで飲んでいるからなぁ。
あまり飲むと明後日が心配になってしまうけど、それぐらいのことはアレクも分かっているだろう。
孵化の連絡を受けて3日目。
2回目の爆撃にはフェダーン様がコクピットに乗り込むことになった。
やはり上空からレッド・カーペットの状況を1度自分の目で見たかったのだろう。
津波のように荒れ地を四方に向かって進むスコーピオの先端から1kmほど内側に、ナパーム弾を5発落とす。
荒れ地だから良いようなものの、森林地帯ならば大規模な火災を引き起こしそうだ。
「なるほど、かなりの威力だな。一度上空から見せて貰いたいのだが?」
「了解です。アリス、高度5千に上昇するぞ。上昇後に南北に移動して地図に状況を写してくれ」
アリスの『了解』の声が聞こえ、高度がどんどん上がっていく。
レッド・カーペットの先端は結構ひずんでいるように見える。少なくとも南北に一直線にはならないようだ。
『現在2kmほどの差があるようです。明日にはもっと大きくなるかもしれません』
「地形の違いかな?」
『昨日の爆撃の影響かと推察します。遅れている部分の緯度が同じです』
「夜間爆撃は群れの先端であったな。それがスコーピオの遅滞に繋がっているのか」
「遅滞と言っても2ケム(3km)には満たないですよ」
「いや、それだけでも十分だ。それで、リバイアサンとの距離は?」
『1048時現在で、420ケム(630km)です。時速12ケム(18km)で進んでいますから、35時間後に接触します』
真夜中だな。スコーピオの速度が変ることもあるだろうから、30~40時間後と考えれば良いだろう。
飛行機による爆撃も日中行えそうだ。
「少なくとも、飛行機による爆撃は今日は無理だな。飛行時間が3時間では200ケム(300km)先が限度であろう」
「それに16機ですからねぇ。やはりハーネスト同盟を恨みますよ」
「まったくだ」
俺よりもフェダーン様の方が、恨む気持ちは大きいだろうな。
ひょっとして、予定より早く飛行船による爆撃を行なうこともあり得る話だ。
こんな時に攻め込むなら、それぐらいはしてやらないと気持ちが収まらないってことかな。
「そろそろ帰投します」
「そうだな。状況はこの目で見た。やはり爆撃は続けて欲しいぞ」
だいぶ近付いてきてるから、飛行船の方も2回目の爆撃を行えるだろう。俺達だって、今日中に、10回近く反復爆撃が可能だ。