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M-172 ナパーム弾は使えそうだ


 翌日。急遽エルトリア王国の拠点にアリスと向かうことになってしまった。

 飛行船の落とす爆弾20発を受け取り、孵化地点を目指す。


 リバイアサンに高速輸送船で、爆弾100発を送ってくれるらしい。

 到着は明日になるらしいから、今日はこれを落とした後に、ナパーム弾を投下すれば本日の役目は終了だ。


 カテリナさんが記録を撮ってくるようにと言っていたのは、ナパーム弾の効果なんだろうな。

 一応両方とも撮ってくるつもりだから問題はないだろう。


「やはり、依頼されたね」

『少しは手伝いをしませんと……』


 確かに、少しのお手伝いだ。飛行船2隻には及ばない搭載数だが、回数を稼げるからね。明日はナパーム弾だけを落とすことになりそうだな。


 1時間もせずに、孵化地点に到着する。

 一面にピンクのスコーピオがうごめいているから、昨日の爆撃跡を見付けることもできない。

 遠くに見える飛行船は導師達が乗る観測飛行船に違いない。

 それなら、近くで爆撃した方が良いんじゃないか?


 飛行船に近付いて、ゴンドラから20mほどの距離に停止すると、通信機で導師と連絡を取る。


『接続完了。そのまま通話が可能です』

「了解。それじゃあ、始めるよ」


『リオ殿じゃったか。さすがは古代魔道の極致である戦姫じゃな。空中で制止できるとはのう。やはりリオ殿も、偵察と言うことかな?』

『爆撃の手伝いです。この近くに投下しますので、観測結果の連絡をフェダーン様にお願いできればありがたいです』

『了解じゃ。待っておればよいな。カテリナが作ったと言っておったが、リオ殿の案を形にしただけであろう。いつ始めても良いぞ!』


 ちゃんと弟子の行動は予想できるみたいだ。

 嬉しそうな思念が直接届いている。

 魔道研究に一生を捧げるつもりなんだろうな。導師は未だ爆撃効果を見てはいないようだ。


『投下します!』


 連絡を終えると、時速200kmほどの速度で移動しながら次々と爆弾を投下していった。

 面ではなく直線になるのだが2ケム(3km)ほどの区間に50mほどの破壊の跡が残ったはずだ。


 一旦上昇して、俺達も地上を拡大して様子を見る。

 やはり最初と同じだな。共喰いが始まり、爆撃跡が直ぐに周囲のスコーピオによって埋まってしまった。


『やはり戦は数ということじゃな。いくら高性能の破壊兵器であっても、数の前ではこのようになるのか……』

『続いて、ナパーム弾を使います。数が少ないので興ざめかもしれませんが、少しはマシになるかと』


 爆撃跡から西に1kmほど移動してナパーム弾を落としていく。

 最初の爆発で、周囲150mほどに火炎が広がる。かなり燃えているな。次弾の炸裂が200m程離れているから、まだ燃えている爆発店に重なって火炎が広がっている。


『被害半径は80m以上です。着弾点20m以内のスコーピオは熱で炭化した模様。スコーピオの体液は可燃性なのでしょうか? 未だに火が消えません』

「炸裂時の温度は千度を超えてるんだろう? 炭素系生物なんだから燃えるのかもしれないね」


 それでも、少しずつ炎が小さくなっていく。

 燃えやすいわけではないだな。ナパーム弾による高熱で体内の脂分が燃えたってことなのだろう。そのまま灰になってくれれば良いんだけどねぇ。


『おもしろい爆弾じゃのう。次の来襲時には通常型よりも使えそうじゃ』

『参考になれば幸いです。それでは失礼します』


 導師の興味を引いたみたいだな。

 今回は出来なかったけど、サーモバリック爆弾の原理を教えてあげよう。導師のことだから案外できるんじゃないかな?


『小型の戦術核が一番だと思いますが、やはり考えてしまいますね』

「核はねぇ……。威力は認めるが、その後の汚染を考えると止めといた方が良さそうだ。雨で拡散することが無いから、長く汚染が一カ所に留まるんじゃないかな?」

『50年で百分の一になりますが、10年間は入域制限が必要です』


 被爆の恐ろしさを知らないからなぁ。他に方法がないのなら考える余地はあるけれど、今までも艦隊を並べ防波堤を築いて阻止してきたんだから、俺達があまり介入すべきことでもなさそうだ。

 お手伝いの気持ちで協力してあげれば十分だろう。


 一路、リバイアサンへと飛行する。

 今日の爆撃隊は未だ近くまで来ていないようだ。まだ昼前だからねぇ。午後の爆撃になるんだろう。


 離着陸台に下りると、アリスを駐機台へと移動させる。

 近くに、明日落とす爆弾が積む重ねてあるけど、今日落とした爆弾より小さく見える。どうやら飛行機用の爆弾のようだ。


「御苦労じゃったな。到着したら、直ぐに指揮所に来て欲しいとお妃様から連絡があったぞ」

「結果を早く知りたいんでしょうね。それにしてもレッド・カーペットとはよくも名付けたものです」

「前回は酷いもんじゃった。ヴィオラで亡くなったものは10人を越えていたからな」

 

 俺の肩をポン! と叩いて早く行けと言葉を繋いだ。

 ベルッド爺さんにとって、フェダーン様は天上人なのかもしれないな。

 

 それにしても、そんなに亡くなったのか……。たぶんドミニクのお爺さんの時代だったのだろう。最初に乗っていた陸上艦より小さなものだったのかもしれない。

 騎士団としての矜持を示すことで、軍から陸上艦を格安で払い下げて貰えるらしいから、小さな騎士団が結構名乗りを上げるのは今も昔も変わらないらしい。


 やはりサーモバリック爆弾を、何とか作って欲しいところだな。

 アリスにお願いして、作動原理の解説書を作って貰うことにした。

 アリスなら作れるとのことだったが、今回は今までの技術供与で十分だろうし、アリスとしても材料が無ければ作れないということだった。


 指揮所に入ると、カテリナさんまで来ている。やはりナパーム弾が気になるんだろう。

 席に着いたところで、アリスに頼んで記録映像をスクリーンに映して貰った。


 一服しながら解説をする。

 ふんふんと頷きながらも、指揮所の全員が映像を食い入るように眺めている。


「ナパーム弾とは凄いものだな。大型爆弾よりも効果がある。次は飛行船を倍にして、最初からナパーム弾で対処すれば被害を大幅に縮小できるに違いない」

「作るのは簡単だったから、千数百は揃えたわ。飛行機の爆撃には期待できそうね」


「今日の夕刻も含めて、明日以降もリオ殿に爆撃してもらいたいところだ。朝夕の2回。レッド・カーペットの西と南の端を叩いて欲しい」

「それぐらいなら承りましょう。アリスの近くに積み上げられた爆弾を落とせば良いですね?」


 頷いてるから、あの爆弾を落とせば良いに違いない。

 すでに準備してるんだからなぁ……。


 副官が運んでくれたコーヒーを飲みながら雑談を始める。

 各艦隊の準備も万全を期して再度確認やら調整をしているらしい。

 ロケット砲の簡易発射台は、構造が簡単だから、軍艦にもかなりの数を取り付けたようだ。


「接近するまでに2発は放てるだろう。砲弾の装填や冷却時のツナギに使えそうだ」

「リバイアサンの戦機輸送艦も改造が間に合ったわ。改造と言っても武装強化だけどね」


 獣機用の銃を搭載したはずだが、更に乗せたのかな?

 軍用は周囲に指向性地雷を取り付けたようだし、ロケット弾の簡易発射台まで乗せてるからね。

 船の前下に、指向性地雷を取り付けるだけでも十分じゃないかな。


「まだ明日は、何も起こるまい。早ければ夕刻には飛行機での爆撃ができるかもしれぬが、導師からの連絡では、0900時現在で距離が600ケム(900km)ほどあるとのことだ」


「夜間爆撃は可能なのですか?」

「飛行機から照明弾を上げるわ。拳銃式の小型の物でも、地上の様子は分かるはずよ」


 あの状態だからねぇ。地面がピンクにうごめくんだから、見間違うことは無いだろう。

 ここにいると色々と使われそうだから、2人に頭を下げて早々に退室することにした。


 プライベート区画のデッキで、のんびりと時を過ごしていよう。

 リビングに戻ったところで、再度夕方に出掛けることをマイネさんに知らせておく。

 デッキのベンチに腰を下ろして一服を始めたら、マイネさんが大きなマグカップにコーヒーを入れて来てくれた。

 ありがたく受け取ってテーブルに置く。


 東はどこまでも続く荒れ地が見えるだけだ。

 スコーピオが、2日後にやってくるなんてとてもおもえない。


「ご苦労様でした。夕刻に再び出掛けるとか?」

「俺だけ暇なんですよね。それぐらいはしておかないとドミニクに怒られそうです」


 テーブル越しのベンチに腰を下ろしたのは、神官服に身を包んだユーリル様だった。

 ユーリル様も暇なのかな?

 スコーピオが姿を現したなら、無事を祈る者達や怪我人の手当てでいそがしくなりそうだ。


「リオ様は攻撃魔法はどこまで使えるのでしょうか?」


 ちょっと間が空いたのは、その質問を俺にすることを躊躇っていた感じがする。


「使ったことが無いのでよくわかりません。生活魔法は結構使うんですけど」


 やはりと言う目で俺を見ている。

 積極的に使えと言うことなんだろうか? 攻撃魔法の行使は案外時間が掛かるから咄嗟の対応が取れないと聞いたことがある。

 それなら、拳銃や長剣でぶつかった方が効果的だ。


「詠唱せずとも魔法は使えます。詠唱は魔法発動の準備として体の魔気を集めるとともにセーフティを解除するためのものです。体に6つの魔石があるなら、自在に魔法を操れますよ」


 導師が体に魔石を埋め込もうとしたは、そのような理由らしい。より大きな魔法を使うならば、それだけの魔気を体に貯えなければならない。

 魔石は魔気の結晶体だとカテリナさんが言ってたぐらいだから、魔石を体内に持つ利点は昔から知られていたようだ。


「才能のある魔導士なら1個を埋めることはあるでしょう。自分の持つ魔法との親和性と合致した魔石であれば施術後数か月程の苦しみに耐えれば良いことです。

 その結果が、高位魔法の連続使用となるなら試みる魔導士はいくらでもおります」


 親和性のある魔石でさえ、数か月の苦しみに耐えなければならないのか……。

 アレク達も、騎士となるために魔石の粉末を体に刻んだ魔方陣に刷り込んだと聞いている。その傷が中々治らないと言っていたのは、やはり人体が拒否反応を起こすに違いない。


「何とか戦姫を動かそうと、魔方陣を色々と体に描いて6種類の魔石の粉を使ったのですが……。ごらんのとおりの体です。やはり戦姫を動かすのは先天的な別の要素があるのでしょう。10年後にローザは動かせたのですからね。ローザは何の魔方陣も体に刻み込むことは無かったのです」


 それで失敗と言ったんだな。

 命があっただけでも良かったように思える。

 試行錯誤で魔道科学を発展させているようだけど、誰かが体系化すれば実験するとしてももう少し方向性が見える気がする。

 場当たり主義では、どんな科学も発展しないと思うけどね。


「話を戻しますけど、そのようなことが会ったので、私の体内の魔石は他の魔道師よりも多種類存在します。そんな私が無詠唱で魔法を使えるのですから、リオ殿も使えると思うのですが? ……教えて差し上げましょうか」


 ゾクリとするような笑みを浮かべて言葉を終えた。

 教えて欲しいけど明後日にはスコーピオがやってくるし、夕暮れ前に再度爆撃を行わなければならない。


「簡単にできるんですか?」

「人によりけりでしょうけど、痛みはありませんし寝込むことも無いはずです」

 

 そう言ってユーリル様が席を立って俺に近付いてくる。

 手を取って俺を立たせたけど、どこに行くんだろう?

 笑みを浮かべて俺の腕を曳いていくだけなんだよなぁ。


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