表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/391

M-170 孵化直後の爆撃は偉業らしい


「始まってしまったな。だが準備は万全だ。明後日に最初の補給船がやってくるのも都合が良い。各艦船に弾薬を上積みできそうだ」


 夕食を取りながら、現在の状況をフェダーン様が教えてくれた。

 ドミニクも急遽やってきたのだが、3日も先の話だからフェダーン様の話を聞くだけのようだな。


「早朝0700時にエルトニア王国の拠点より飛行船が飛び立つ。5隻による最初の爆撃だ。遅れて導師達の乗る観測飛行船が飛び立つらしい。これは補給次第だから時間が確定しておらぬ」


 導師達の乗る観測飛行船は、孵化の始まりを確認したところで戻ってきたらしい。

 長時間滞空に特化した様な飛行船だから、それなりの補給は必要と言うことになるんだろうな。

 上空、1千mを越える位置からの観測だ。全体状況を詳しく伝えてくれるに違いない。


「明日は、空堀をさらに深くするであろうな。少しでもスコーピオの足を止められるなら、何をしても問題はない」

「現在の推定孵化数は分かりませんか?」

「数十万といったところであろう。少なくとも数日は次々と孵化するはずだ。明日の導師達の観測で今回の規模が推定できるに違いない」


 一気に孵化するわけでは無いんだな。

 だらだらと数日にわたって孵化するなら、一度に押し寄せて来ないだけマシに思える。

 でも、数十万ねぇ……。想像できない姿だな。


「明日、俺も見てきます。どうにも状況が想像できませんので、一度見れば納得できるかと」

「私も付いていくわよ。そんな機会は滅多にないでしょうからね。確か飛行船の速度は100ケム(時速150km)の筈だから、導師の連絡してくれた孵化地点までは8時間程掛かるはずよ。14時に出発で良いかしら?」


 1200km先ってことか。アリスなら30分も掛からなにだろうからそれで十分だろう。爆撃の効果も確認できそうだ。


「映像の記録もお願いする。効果の程度が分かれば兵士達の士気も上がるであろうし、コリント同盟王国も少しは安心できるだろう」


 カテリナさんが頷いているけど、映像記録はアリスがきちんと行ってくれるに違いない。


 明くる日の午後。

 すでにカテリナさんは厚着をしてソファーに腰を下ろしてるんだけど、なんか落ち着かないんだよなぁ。

 あまりコーヒーを飲むと、トイレに行きたくなるんじゃないか?

 そんな心配をしてしまう。

 14時になった瞬間、飛びあがるように席を立ち俺の手を握った。

 

「出掛けるわよ。あんまり遅いと爆撃が終わってしまうかもしれないわ」

「十分に間に合いますよ。その前に、トイレとコーヒーポットの用意をしてですね……」


 俺の手を離すと、直ぐに走り出した。

 トイレかな? 俺も行っておこう。

 

 トイレから帰ると、テーブルの上にコーヒーポットが置かれていた。魔法瓶のような形をしているのは冷めないように魔方陣がいくつか内部に描かれているのだろう。

 カップは金属製のものが2つ置いてある。バッグに納めていると、カテリナさんが戻ってきた。


「さあ、出掛けましょう。アリスの速度なら十分に間に合うはずです」


 笑みを浮かべたカテリナさんと共に駐機場へと向かう。


「あんまり、リオをからかうなよ。アリスと一緒なら心配はいらんが、よく見ようと身を乗り出すことはせんようにな」

「子供じゃないんだから、だいじょうぶよ」


 ベルッド爺さんにとっては、カテリナさんは子供に見えるんだろうな。

 種族特性で長命のようだから、カテリナさんの子供時代を知っているのかもしれない。

 

 ラダーをさっさと上がってアリスのコクピットに入っていく。

 アリスはカテリナさんを嫌うことがない。カテリナさんもアリスを気に入っているからなのかな?


 シートの後ろに立って、俺が座るとシートの肩をしっかりと掴んでいる。

 

「大丈夫ですか?」

「危ないようなら、床に座るわ。今はこれで大丈夫!」


『Gを抑制します。少しは揺れますがそれまでキャンセルすると体感が損なわれます』


 少しは残してあるってことなのか。確かに全速で突っ込んで、ほとんど直角にし色を変えても大してGを感じない。本当なら自分の体重で体を押しつぶされかねない話だ。

 あれで全く感じなかったなら興ざめだし、もっと無理な動きをしてしまいそうだ。


 ゆっくりとジョイスティックを前に倒す。

 アリスが離着陸台に歩き始める。

 それをいつもベルッド爺さんは見送ってくれる。

 理由を聞いたら、『まるで王妃が歩く姿だ』と言っていたんだよなぁ。

 それだけ優雅に見えるのだろう。


 離着陸台に出ると、直ぐに飛び立った。

 最初は隠していたけれど、今では隠すことも無くなった。

 この世界の人達が知る戦姫を越える存在なのだが、女性型の戦姫と似ているから帝国で作られたと皆が思っているらしく、あまり違和感を持たれない状況だ。

 全く違った世界からやってきたのだが、かつての帝国の文化を象徴する存在として俺達を見ているのかもしれない。


「どれぐらいの速度で飛んでるの?」

『毎時千ケム(1500km)です。音の速さを越えてます』


 後ろでカテリナさんが驚いているに違いない。

 地上の風景に変化はないし、北の山脈はここからでは見えないからね。

 速さを感じ取れる目標物が無いから、速度を体感することができないのだろう。


「速いのね。そうすると、そろそろ見えてくるのかしら?」

『数分後に右手上空に見えてくるはずです』

 

 爆撃前のようだ。これで効果が分かるだろう。

 

「導師の告げた位置までどれぐらい掛かるのかな?」

『300kmほど先になります。飛行船の現地到着は25分後になるでしょう』

「なら先に行って、孵化の様子を見てみようか。映像の記録をお願いするよ」


 アリスが『了解しました』と答えると、カテリナさんが俺の肩をポンっと叩いた。振り返った俺に、カテリナさんが腕を伸ばして教えてくれた。


「飛行船よ。5隻同時に爆撃するみたいね」

「地上は何もありませんが、孵化が確認された地点はもう直ぐですよ」


「だとすれば……、アリス、高度を下げてくれないかしら?」

『地上より300スタム(450m)に降下します』


 速度を変えずにアリスが降下を始める。

 地上の起伏が明確に見えだすと、さすがに速さが実感できる。

 でもこれだと、地上の様子が良く分からないんじゃないか?

 数分ほど経っただろうか、前方遠くの地面がピンクに色着いている。あれがスコーピオなのかもしれない。


「リオ君。あれが孵化地点よ。一度高度を上げて地面の色が変化している範囲を見せてくれない?」

「了解です。アリス、高度3千まで上昇だ。」


 ジョイスティックの操作で、アリスが高度を上げる。トリガーだけだから、ほとんどアリスが自分で動いてくれる。


『高度2千ケム(3千m)です。スコーピオの体色に覆われた範囲は東西120ケム(180km)南北90ケム(135km)です。推定個体数は300万を超えています』

「ありがとう。たぶんもう少し広がると思うわ。面積比から推測すると数百万になるでしょうね。今度は地上をお願い。孵化の様子を見たいから周辺部が良いわ」


 高度を一気に下げる。その場で行うからエレベーターに乗っているような浮遊感が味わえた。


『地上100スタムです。続々と這い出してきますね』

「これが3日程続くのよ。それと、気が付いたかしら?」


 何かあるのか?

 あっちこっちに目を向けるけど、どこもスコーピオばかりに思える。


『共喰いですか?』

「そうよ。少しでも弱っているようなら、共喰いの対象になるわ。こんな土地だから共喰いをしないと脱皮が出来ないのね」


 脱皮するたびに数が減るのは良いことだと思うけどね。

 フェダーン様は200万を超えると言ってたけど、脱皮後の数が減ることは分かっているんだろう。


『飛行船間の通信を傍受しました。10分後に爆撃が始まります』

「飛行船の後方上空に移動できないか?」

『爆撃の様子の確認ですね。了解です!』


 飛行船団の上空を跳び越えて回頭すると、飛行船の後方3km、高度500m程上空に位置して追従していく。

 撮影はアリスに任せて、俺達はゆっくりと眺めることにしよう。

 すでに、孵化地点に到着しているが、かなり広いからなぁ。真ん中を狙うのかな?


『「爆撃倉を開け」との指示が先頭の飛行船から出されました』

「そろそろね。重巡の砲弾並みの炸薬だけど、上手く地上10スタム(15m)で炸裂して欲しいわ」


 全周スクリーンだから足元には地上の光景が見える。

 先ほどと違ってゆっくりした速度だから、眼下のスコーピオがうごめく様子が良く分かる。

 スコーピオの間から次々と顔を出すのは、孵化したばかりのスコーピオなんだろうな。


『投下の指示が出されました!』


 前を進む飛行船から、黒く見える爆弾が投下された。

 1隻に12発だから、合計60発になる。

 いつの間にか、縦列から並列に編隊を組んでいる。たぶん300mほどの距離を保っているだろうから、横に1ケム(1.5km)の範囲で爆弾が投下されるはずだ。


 10秒ほどの長い時間が過ぎると、眼下に大きな爆発が起こった。

 接近して爆発していうようだけど、間隔は数十mは開いているに違いない。


 飛行船がゆっくりと左に旋回を始めた。

 攻撃結果を確認しながらの帰投なのだろうが、かなり砂塵が巻き上がっているから効果の詳細は分からないに違いない。


「これが、スコーピオに対する最初の攻撃になるわ。孵化後1日以内の攻撃なんて、初めてじゃないかしら」

「歴史に残る偉業ですか?」


「そうね……。十分に歴史に残るかも。でも、攻撃はこれからも続くのよ。死兵となって駆逐艦で無謀な攻撃をするより効果的だわ」


 確かに、こちらの損害はまるでないからね。

 さて、だんだんと砂塵が収まってきた。地上の光景が少しずつ見えてきたぞ。


 60発の爆弾に不発は無かったようだ。

 炸裂時の効果を高めるように、地面に接触する前に炸裂している。

 それでも、炸裂によるクレーターの跡を見ることができた。


「あまり効果が無かったように思えますが?」

「ちゃんと見た? 効果はかなりあったと思うわよ。同心円上で共喰いが起こっているわ。傷ついたスコーピオが犠牲になっているの」


 となると……、結構大きな円形になるんじゃないか?


「アリス、高度を落としてくれない? 地上100スタム(150m)ぐらいにできないかしら?」

『了解しました。一番近い爆発地点に向かいます』


 爆心地に向かって、ゆっくりとアリスが高度を下げていく。

 周囲は濃いピンク色をしたスコーピオばかりだ。地平線のかなたまでその色で埋め尽くされている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ