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M-017 休暇はアレクの実家で過ごす


 海賊の襲撃を受けた翌日。朝食を配ってくれるネコ族のお姉さん達の顔ぶれが少し変わった。

 彼女達の間にも被害はあったんだろう。

 甲板の手すりもあちこち壊れているから、ロープを使って代用しているんだけど、ちょっと落ちないか心配になってしまう。

 操船楼も見える範囲で2カ所の穴が空いている。マストが1本折れているのは昨日の内に分かったけど、残ったマストも監視台が無くなっていた。


 食事を終えてネコ族のお姉さんに食器兼用のトレイを戻すと、いつも通りに「ありがとにゃ」と答えてくれた。

 この職場を選択した段階で、すでに命の保証がないことは理解してる、ということかもしれない。ある意味、達観してるということになるのかな。

 いつも陽気なネコ族の人達なんだけどねぇ。


 船首に向かうと、アレク達が既にカップを傾けていた。

 現在位置はギジェを通り過ぎたあたりらしいから、ラフな服装をしている。と言っても、長剣と拳銃は必需品らしく。ベルトにホルスターを付けて、すぐそばに長剣を投げ出していた。


「ここまでくれば一安心だ。見張りの話では、東に軍の艦隊を明け方見ることができたらしい」

「昨日の海賊の話をドミニク達がしているわよ。軍の陸上艦は私達のヴィオラよりも速度が上ね。実際に見るまでは分からなかったけど」


 カリオンが右手を左舷後方に向けたので、そちらに顔を向けると、少し離れた場所をヴィオラより少し小型の陸上艦が並走していた。


「詳細を確認ということらしい。ドミニク達からの聴取が終われば、昨日の襲撃場所に向かうに違いない」

「すると、私掠船についてもですか?」

「あれは王都の調査局ということになるだろうな。王国への影響を評価したうえで褒賞が決められるんだが、安くはないぞ」

 結構な報奨金を頂けるってことかな? ちょっと楽しみになってきた。


 昼近くになってサンドラが俺に向かって船尾を指さしている。何かな? と示された方向を眺めると軍の陸上艦がゆっくりとヴィオラから離れていく。 すぐに、速度を上げると西に向かって進んでいくようだ。

 軍の艦隊は今朝見掛けたと言っていたから、あれだけ速度を速めても合流は夜になってしまうだろう。


「軍の哨戒がもう少し北まで欲しいところだ」

「虎の子の陸上艦だからな。海賊相手に壊したらもったいない、と思っているんだろう。だが、私掠船の話を聞けば少しは考えるかもしれん」

「ウェリントンも私掠船を出すってこと? 益々、風の海が混沌化してしまいそうだわ」


 嫌そうな表情でサンドラが顔の前で手を振っている。顔も一緒に左右に振るぐらいだから、台所の嫌な虫を見てしまった感じに見える。

 やはり、私掠船は問題だということか?

 俺には海賊船との違いが、アレクの話でも理解できないところがあるんだが、かなり悪質な連中なのかもしれないな。

 そういう意味では、海賊以下の連中と考えておけばいいのだろう。

 

 海賊船と戦ってから5日目。ようやく王都に近づいてきたようだ。

 王都に出入りする陸上艦に午前中だけで4回も遭遇したぐらいだからね。

 騎士団の陸上艦が近づけば、互いに手を振ることが習わしらしい。最初は戸惑っていたけど、慣習ということなので俺も喜んで手を振ることにした。

 騎士団以外の輸送艦は無言ですれ違うのだが、船首付近で木箱に座って片手を上げるぐらいは俺にもできる。

 そんな挨拶をすると、向こうも手を振ってくれるのも嬉しくなってしまうな。


「このまま進めば夕暮れ前には王都の城壁が見えるぞ。王都の北を守る堅固な城壁だ」

「リオにとって、王都は初めてなんでしょう? 長期の休みはどうするの」


 すれ違う陸上艦に向かって笑顔で手を振る俺を、呆れた表情でサンドラ達が見ていたんだけど、いつの間にか王都での休暇に話題が変わっていたようだ。

 そういえば、ヴィオラ騎士団の陸上艦を新しくするような話があった。

 取り換えが効くならそれほど長期間にはならないだろうけど、この艦を修理するとなればある程度の期間が必要な感じもしないではない。


「王都なんですから、宿はピンキリでしょう。安宿に泊まって王都を見物しますよ」

「なら、フレイヤと一緒に俺の実家に行くか? 俺はこいつらと楽しむつもりだから、一緒に行って実家を手伝ってくれればありがたい」


 確かアレクの実家は農家だと、フレイヤから聞いたことがある。夏だけど、畑仕事を手伝うのもおもしろいかもしれない。人込みは嫌いだから、ありがたい話なんだけど……。


「ありがたい話ですが、御迷惑じゃないんですか?」

「それはない。お袋達も元は他の騎士団の騎士だからな。騎士なら歓迎してくれるさ」


 両親揃って騎士だったんだ。だけど親父さんを忘れてるんじゃないか? 


「私達もお邪魔したことがあるのよ。ちょっと田舎だけど、静かな良いところよ」


 サンドラの言葉にアレクやシレインも頷いている。

 ここは厄介になるべきなのかな? 王都でお土産を買っていくか。


「それじゃあ、御厄介になります」

「よし、フレイヤに伝えておくから、案内してくれるだろう。俺は帰れないが、よろしく伝えといてくれ」


 えっ? 思わずアレクの顔を見てしまった。

 てっきり一緒に行くものだと思ってたけど、両隣の彼女の背に手をまわして俺に笑顔を見せている。

 フレイヤが一緒なのは嬉しいけど、他人の家にお邪魔するのに、誘ってくれた本人が家に帰らないとはねぇ。

 とはいえ、この世界の農業も一度は見ておきたいところだ。使用人を使っているような裕福な農家らしいけど、どんな場所なのか想像すらできない。


 夕食を食べているときに、甲板の連中が南に視線を向けているのに気が付いた。何だろうと、視線を追ってみると、遥か遠くに俺達を阻止する防壁のような形で長城が作られている。あれが王都の北の防壁と言われる城壁なんだろう。


 食事を終えて船首の待機場所に向かうと、城壁がすぐ目の前に迫っている。

 城壁の高さはこの船のマストの高さほどになりそうだ。優に30mはあるんだろうな。


「もうすぐ城門だ。城門を通ってから王都の陸港までは、通常でも丸1日掛かるんだぞ」


 カリオンの話だと、陸港に着くのは明後日ということにならないか? それだけウエリントン王国の王都が大きいということになるのだろう。


 ヴィオラはいつの間にか道の上を進んでいた。横幅50mを超える太い道だが、道には敷石も無い。左右に広がる畑の緑が道と農地を分けているようにも思える。作っているのは何だろうな?


「城壁の外側は獣の被害が大きいの。あれは綿花畑よ。綿花なら草食獣の被害もあまり大きくはないようね」


 城壁の外で暮らす農家には税金が掛からないそうだ。農家の次男3男達がこの辺りを開墾して暮らしているとのことだが、税金が掛からないというのは、暮らす上での命の保証を、王家が負いかねるということに繋がるらしい。

 北を王国の艦隊が遊弋してはいるが、度々被害を受けていると教えてくれた。

 アレクの実家は田舎に在っても城壁の内側だから、かなり安心できるということになるんだろうな。


 城壁の門を抜けるのは深夜になるらしい。じっくりと見たかったが、明日には王都の一部を見ることができるかもしれない。今夜は早く寝ることにしよう。


 ハンモックで寝ている俺を起こしたのは、ネコ族の青年だった。

 ドミニクが呼んでいるらしい。急いで身支度を整えていると、眠そうな顔をしたカリオンが遅れないように言ってくれたから足早に例の部屋へと向かう。

 

「来てくれたわね。ちょっと相談があるんだけど……」


 部屋にはドミニク達以外にベルッド爺さんがいる。初めての顔合わせだけど、何かあるんだろうか?


「問題はアリスじゃ。あれを新型に移動するとなると、他の連中も気付くじゃろう。あまり王都で騒ぎは起こしたくないのう」


 そういうことか。確かに目立つカラーリングだからねぇ。


「一時的に下りて貰った方が良さどうだと思ったんだけど、アレクの実家に厄介になるそうね?」


 すでにアレクが話してたのかな?

 ドミニクまで知っているとなると、ヴィオラの艦内では人の悪口も言えないぞ!


「私は、良い考えだと思うの。幸いにもアレクの実家には明け方近くに最接近するわ」

「アリス共々、アレクの実家で厄介になれと?」


 俺の問いにドミニクが小さく頷いた。


「そろそろ、フレイヤもやってくるわ。リオのトランクは、そのままでも私達が責任をもって新しい陸上艦に運んでおくわよ」

「ひょっとして、昨日のアレクとの会話は?」

「私達がアレクに頼んだの。中継所を経由して、アレクの実家とも話が付いているわ」


 それなら最初からそう言ってほしかったな。

 でも、アレクの実家を訪ねるのにこの格好で良いのだろうか? 王都でそれなりに準備しようと思ってたんだけどなぁ。


「しょうがあるまいて、ここで渡すと餞別のようにも思えるが、リオに頼まれた品じゃ。変わっとるが、白兵戦ができるなら問題あるまい」


 足元から取り出した細長い布包を解いてみると、俺の頼んだ長剣だった。


 鞘から抜いてみると、何とも奇妙な品に仕上がったが、形は刀に間違いない。ちゃんと波紋が刀身に浮き出している。

 鞘も木製にしてくれたようだが、これで相手を殴ることもできそうだ。全体に薄金が巻き付けてある。


「ありがとうございます。大事にします。それと、ここで渡すのも失礼かもしれませんが、お借りしていた長剣はお返しします」


 背負っていた長剣を外して刀を包んでいた布に包むと、テーブル越しにベルッド爺さんに渡す。

 改めて刀を背負っていると、扉が開きフレイヤが姿を現した。


「王都の中間地点を示す塔が遠くに見えます。あの塔から西に10カム(15km)ほどですから……」

「そろそろ出発ね。リオを頼んだわよ」


 フレイヤの言葉にドミニクが答えると、フレイヤが俺に顔を向けた。ちょっと変わった依頼を受けたんで戸惑っているかと思ったけど、予想に反して厳しい表情を見せている。


「リオの戦機に私も乗るからね。ちゃんと言う通りに走って頂戴。周囲は畑ばかりだから、荒らしたら近所から文句を言われかねないわ」


 乗ってくのか!

 大人しく乗っててくれるんだろうか? ちょっと心配になって来た。


『コクピットのシートに掴まればだいじょうぶです。畑に足跡を付けないように上空を移動すれば問題ありません』


 アリスが状況を理解してくれたようだ。となると出発時を待つことになるのかな?




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