M-165 陸港で大人買い
休暇が終わり陸港に戻ると、ヴィオラとガリナムの改修と資材の搬入が終わっていた。
大量に買い込んだ食料は、輸送船がリバイアサンまで運んでくれるらしい。
ヴィオラに戻った俺達にレイドラが出航は明日だと告げられたので、大急ぎで陸港の商店を巡って嗜好品を買い込んだ。
前にも買い込んでいるから無くなることはないと思ってるけど、有っても困ることはないからね。
「全く慌ただしいわね。夕食を食べてきて、明日の朝食も買い込んで来いなんて」
「食堂にまでたっぷりと荷物を積み込んだんじゃないか? 客室だって、荷物で一杯らしいよ」
甲板の上にまで積んであったぐらいだ。あれじゃあ落ち着いて食事もできないだろう。
リバイアサンに着くまでは我慢ってことになるんだろうな。
アレク達と合流して、休暇の話をしながらの夕食を取る。
かなりの釣果をクロネルさんに届けたらしい。ベラスコもしっかりとクロネルさんの手の平に乗ったということになるんだろうな。
「数隻の商船が、野菜や穀物を引き取りに来たのよ。その慌ただしさと言ったら、しばらくは会の界隈の語り草になるでしょうね」
「まあ、この時節に大量の買い物だからなぁ。市価より高値なんだろう? どの農園だってありがたい話だろうさ」
警邏部隊が2個分隊やってきたことは黙っていよう。
話を聞いた他の農家からも取れた野菜を運んできたから、リストに記載された分量よりも多く仕入れることができたらしい。
あまりの多さにフェダーン様に連絡したら、余剰分は同盟軍が引き取ることで調整がついた。
1日で終わるかと思ってたら、2日掛かってしまったからな。
リバイアサンの予備の倉庫も、これで塞がってしまうに違いない。
何度かの乾杯を繰り返したところで、お弁当の包をバッグの魔法の袋に入れておく。
1人2つあるから、明日の昼食も入っているのだろう。
明日の昼食はたぶんでないだろうし、お茶が飲めるかどうかも怪しいところだ。
「さて、これでしばらくはお別れだな。向こうに着いたら、皆で宴会だ」
「しばらくは待つことになるでしょうからね。遠方監視が出来ますから、迎撃までの余裕がたっぷりあるでしょうし、軍艦を並べていますから魔獣も近づかないでしょう」
毎日が宴会になりそうだけど、それで士気が保てるなら問題はないだろう。フェダーン様やドミニクも容認してくれるんじゃないかな。
互いに手を振って別れると、指定された貨客船へと向かう。
2段ベッドが2つの部屋に入って、着替えを済ませるとベッドに入った。
農園を出る前にシャワーを浴びてきて良かったな。
翌日目が覚めた時には、すでに陸港を離れて北に向かって進んでいる。
夜が明ける前に出発したのかな?
客室フロアの洗面所に行って、顔を洗いながら窓の外を眺めると、すでに農園区画まで来ているようだ。
貨客船の売店でコーヒーを買い込み、水筒に入れて貰う。
5杯分は入るから、皆で飲むにはこれで十分だろう。
「ここで1日、過ごすことになりそうね」
「マイネ達も乗ってるんでしょうか?」
そんな話をしながら、昨夜買い込んだサンドイッチを頂く。
マイネさん達はネコ族の人達と一緒に乗ってるんだろうな。皆でゲームでもしながらワイワイ楽しんでいるかもしれない。
貨客船は2隻あるし、軍の兵員輸送船まで同行している。
リバイアサンの人員はかなり多いから全員一緒の休暇は今後難しいかもしれないな。
王都の北の防衛拠点である長城を抜けると、途端に貨客船の速度が増した。随伴する駆逐艦の上げる土煙で後ろが見えないほどだ。
この貨客船は商会ギルドの所有物ではなく、軍の高速輸送船らしい。
軍の拠点まで300ケム(450km)らしいから、このままの速度なら夜半には到着できるに違いない。
「この1隻だけ先行してるみたいだけど?」
「先に行ってリバイアサンの扉を開けておけ! ということなんじゃないかな? でもその方が荷役作業を早められるからね。フェダーン様の気遣いだと思うよ」
深夜遅くに軍の拠点に到着すると、直ぐにアリスに連絡してドックにあるデッキを下ろして貰うことにした。
駆逐艦を出して貰って、フェダーン様達と先に乗り込むことにしたんだけど、何時の間にかマイネさん達が同行している。
貨客船では合わなかったけど、同じ船に乗っていたようだ。
デッキに乗れるだけ乗り込んでリバイアサンに乗り込んだが、俺はフェダーン様と一緒に最後の移動になってしまった。デッキの床の半分以上はトランクなのがちょっと考えてしまう。
俺達がデッキに乗って上昇を始めると、駆逐艦がリバイアサンを離れていく。
明日はデッキを開いて、荷物の搬入で1日が終わるんだろうな。
トランク3つをロープで繋いでプライベート区画にたどり着く。
ソファーに腰を下ろしてホッと一息ついていると、マイネさんがコーヒーを運んできてくれた。
ありがたく受け取りながら、タバコに火を点ける。
今夜はゆっくりできそうだ。
帰ってきたと感じるんだから、いつの間にか自分の家だと感じているんだろうな。隠匿空間の別荘では、そんな感じがしないんだけど……。
「私達だけなの?」
「リバイアサンの扉を開くのが役目だから俺達だけだよ。皆がやってくるのは明日の亜朝になるんじゃないかな?」
「乗り遅れた人がいないか心配です」
乗り遅れても明日は1日中搬入作業だから、明後日までに来るなら問題はない。
それ以上になると、解雇することになりそうだ。
久しぶりに3人でジャグジーを楽しむ。
俺達だけで、誰もいないからね。あまり遅くまで起きていると朝が心配になるけど、アリスに頼んでおいたから、マイネさんに呆れた表情をされることも無いはずだ。
翌日の朝食は、フェダーン様や副官達も一緒だ。
ドックの管理を行っている連中は、お弁当らしいけど、今日の昼食は食堂で食べられるんじゃないかな?
「搬入作業員を乗せた先行艦が1000時に到着する。荷物もあるから、ドックを開けて欲しいのだが?」
ドックの管理を行う連中が昨夜乗り込んでいますから、連絡しておきます。15分前にはドックを開けば良いでしょう」
「すまんな。駆逐艦2隻が周囲を警戒するから魔獣の接近が阻止できるだろう」
拠点のすぐ目の前にリバイアサンを止めているから、そのような危惧はまずないだろう。とはいえ用心に越したことはない。
「軍の終結は今日なのでしょうか?」
「明日になる。集結後すぐに東に向かうぞ。前回よりも搭載する資材は少ないから、今日中には搬入が終わるはずだ」
朝食が終わると、エミーとフレイヤは制御室に向かう。
マイネさん達はお掃除を始めるみたいだな。離着陸台を展開して荷物搬入の様子でも眺めるか!
「リオ殿。同行願えるか?」
「構いませんが、どちらに?」
「用意して貰った指揮所だ。荷物搬入の様子も分かるし、周辺の様子も映し出してくれるからな」
士官区画の休憩所を提供したんだっけ。
隣接した会議室と会議室用の控え室も提供してあるから、今更大きくしてくれとは言われないと思うけど……。
女性副官も一緒だから、3人でエレベータで士官区域に移動する。
士官区域は5層構造だ。
2層は士官室になっているし、残った3層を使って体育館や講義室にも使える劇場まで揃えられている。
本来は士官用なんだろうけど、部局の指揮を補助できる人達も対象としているから、100人程が暮らす場所でもある。
専用の食堂もあるんだけど、現在の利用は停止しているし、この先も予定はないんだよね。他の用途にできないかな?
士官区域にやってくると、ブラウ同盟軍指揮所と書かれた看板が通路に立て掛けてあった。
看板の隣にある扉を開くと、休憩所の面影はどこにもない。
中央の大きなテーブルの周囲に10人程が座れるように椅子が並べられているし、少し豪華な椅子のテーブル越しの壁は真っ白だから、天井のプロジェクターを使って映像を映し出すのだろう。
椅子の後方の壁際には数枚の黒板が設置され、何やら表のようなものが描かれていた。隣に続く扉の上には、「通信室」と表示が出ている。あの向こうに数台の通信機を設置しているのだろう。
「明日から、レッド・カーペットが終わるまでは、ここが私の部屋になりそうだ。
ホットラインは2つ。制御室のエメルダ王女とリオ殿に連絡が取れるぞ」
隣の椅子に掛けるように言われたので席に着くと、灰皿とコーヒーが出てきた。
「小さなトラブルはあったが、どうにか工程に乗った仕事ができたようじゃ。このまま東に進み、レッド・カーペットを破るのが我等の勤めぞ」
「まだ実感がわかないのが実情です。制御室では火器管制と、ドックの荷役管制が主な仕事になるでしょう。情報は共有したいですね」
「ロベルはエミーの副官だったな。ロベルの後ろに1人派遣するつもりだ。ロベルなら軍の動きをエミーにか季節することが出来よう」
ロベルが忙しくなりそうだな。
真面目な人だから、エミー達が取り乱しても、冷静に対応案を告げてくれるに違いない。
「展開した艦隊、飛行船に飛行機、更に兵站と後方の代2陣の状況……。対応することが色々とありそうですね」
「それぞれに対応者を決めて、ここに席を置く。彼等を3人ずつで補佐すれば、私はここで状況を見守るだけで良い」
指揮官は、皆の動きを落ち着いて見ていれば良いってことなのかな?
それが理想なんだろうけど、現場の動きは想定外の連続に違いない。案外一番忙しいのはフェダーン様になるんじゃないのか。
「荷役作業が始まるようじゃな」
いつの間にか、正面の壁に英バイアサンの周囲が映し出されていた。
先頭の船は兵員輸送船のようだ。ドックの斜路を上がろうとしている。
「先ずは人を移動させるか……。荷役用の獣機やクレーンの担当者がいなければ、無理と判断したようだな」
甲板にも鈴なりで乗船しているようだ。
兵員輸送船も窮屈だったに違いない。
「カテリナさんは遅れて来るんでしょうか?」
「昼過ぎにはやってくるはずだ。導師を伴ってな」
ん! 王都に行ったんじゃなかったのか?
隠匿空間で導師を伴うということは……。
「長時間の監視を行うための飛行船を作っておったようじゃな。爆装ぜずに産卵区域のの監視と、孵化が始まった後は上空からの状況監視を継続してくれるはずだ」
飛行船4隻は爆撃に特化しようということだろう。
だけど、低空飛行をしながら、手榴弾を落とすぐらいは出来そうだけどなぁ。