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M-162 指向性地雷


「おもしろい武器を考えたわね。さすがリオ君、そしてアリスだわ」

「少し面倒ですけど、作れますか?」


 翌日の昼下がり、カテリナさんがフェダーン様を誘って俺を巻き込んでの工程の検討が始まった。

 冒頭から、カテリナさんが俺に笑みを浮かべて褒めてくれたのは、例の指向性地雷の事なんだろう。


「軍の自走車の全部に取り付けたいぐらいよ。自走車がそのまま葡萄弾を放てるんだから、スコーピオ相手にはもってこいの代物だわ」

「全く、何のことかわからんぞ。少しは主語と説明を付けぬか!」


 俺とカテリナさんの話に、フェダーン様が文句を言い始めた。

 そろそろ教えてあげないといけないんじゃないかな?


「使い捨ての兵器になるけど、こんな代物なの」

 

 さっきまで、あちこち修正が入った工程表を映し出していた仮想スクリーンが、金属製の小箱を映し出した。


「これがスコーピオに対してどれだけの働きをするのか……」


 見た目では平気だと誰も思わないだろうが、そもそもは対人殺傷兵器なんだよなぁ。散弾を大きくして炸薬量を増やしてはいるものの、対人地雷そのものだ。


「見た目は余り大したものだと思わないでしょうけど、これを自走車のバンパーに取り付けるの。取り付け時に背面に鉄板を付けようと思ってるんだけど、アリスの計算では必要ないみたいね」


 自走車にウインチを付けたような画像が現れた。

 どんな形で前に付けるかは、今後の課題なんだろうな。俺はバンパーに直接取り付けるものだと思っていたからね。


「自走車の運転手のところにある、このレバーが起爆装置になるの。箱が炸裂すると、こんな感じに獣機用の弾丸が飛び出していくわ。どれぐらいの被害を与えるかは実験してみないと分からないけど、アリスによれば前方30スタム(45m)ほどに被害を与えられるみたいね」


「この箱1つで、それほどの効果があるのか? カテリナのことだ。すでに試作を始めたのだろう? 試験結果いかんでは、大量に揃えたい気がするな」

「欠点が1つ。最初の脱皮前なら効果はあるでしょうが、脱皮後にはそれほど効果があるとは思えません」


 俺の指摘に、フェダーン様が笑みを浮かべる。

 さっきまでは、工程表を見て沈んでいたんだよなぁ。


「十分だ。葡萄弾の簡易版と考えれば、それなりに使えるだろう。被害半径が短いなら、軍艦の後方からでも使えるということになる。軍艦を越えるスコーピオ対策にはかなり使えるのではないか」


 肯定的な意見だが、試験は必要だろう。

 スコーピオ戦で使い切るつもりなのも都合が良い。これを西の戦で使うことになったら人道的な面も出て来るに違いない。

                 ・

                 ・

                 ・

 隠匿空間に帰還したところで、カテリナさんが試作した指向性地雷の試験が軍によって行われた。

 指向性地雷から2スタム(3m)ずつ距離を離した距離に、2セム(3cm)ほどの厚さの板を立てて威力を確認したようだ。


「30スタム(45m)の距離の板を撃ち抜いたわ。十分に使えるわよ」

「近接防衛に適した兵器だ。戦機輸送艇の側面に取り付けることも視野に入れるべきだろうが……。問題はどれぐらいの数が出来るかだな」


「民間の工房を使えば、3か月で200個は可能じゃないかしら。ウエリントンは既に民間まで動員しているから、ナルビク王国の工房を探すことになりそうね」

「仕方あるまい。原理が単純だから、かなりの部品を複製できるのも都合が良い」


 だんだんと規模が大きくなってきたようだ。

 隠匿空間の方でも導師の指導の下で、飛行船が作られている。

 どうやら予定の数よりも1隻増えそうだな。5隻ともなれば爆撃効果もかなり期待できるんじゃないか?


 騎士団の連中も、隠匿空間の軍の射撃訓練所で、銃の訓練をしているようだ。

 ローザがフレイヤ達を誘って出掛けたんだけど、さすがに自衛用の銃を使うようなことになるとは思えないんだけどねぇ……。

 彼女達もそれぐらいは分かっているのだろうが、どんな場合にも万が一と言うことはあり得ると考えているんだろう。


「リオ様は行かなかったのかにゃ?」

「銃の訓練ですか? だいじょうぶですよ」


 池を見ながらくつろいでいる俺に、マイネさんがコーヒーを持って来てくれた。

 そう言えば、ベルッド爺さんにマイネさん達は銃を頼んでいた。


「マイネさん達の銃は出来たんですか?」

「元々持ってた獣にゃ。少し改造して貰ったにゃ。あれなら脱皮後まで使えるにゃ」


 ん? どんな銃なんだろう。

 たぶんリバイアサンにあるんだろうから、一度見といた方が良いのかもしれないな。


 10日間程の休暇だから、皆がのんびりと過ごしている。

 そんな中でも、トラ族の連中は長剣の訓練や銃の整備に余念がない。呆れるほどに真面目な連中だから、俺の生活がだらしなく思えてしまうんだよなぁ。

 スコーピオにも勇敢に立ち向かってくれるに違いないが、出来れば物陰から銃撃することに徹して欲しいところだ。


「あら! ここにいたの? てっきりエミー達と一緒だと思ってたんだけど」


 声を掛けてきたのはドミニク達だった。クリスとレイドラも一緒のようだ。ソファーにやって来て、クリスが俺の隣に腰を下ろした。


「それなら独占できそうね。でも次にするわ。これから陸上艦の強化を考えないといけないの」

「増加装甲を左側面に取り付けます。商船の外部装甲板を張り付けることになるんですが、あらかじめ取り付け用の金具を溶接しなければなりません」


 レイドラが強化策を教えてくれた。

 その話を聞きながらドミニク達はコーヒーを受け取って溜息を吐いている。


「結構な出費だわ。上位魔石10個分になりそうよ」

「チラノを数匹で足りるでしょう。メイデンさんと狩りをしてきましょうか?」


 ドミニクとクリスが顔を見合わせているところをみると、すでにその考えはあったようだ。


「お願いできる? もちろん上位魔石1個ずつは進呈するけど」


 頷くことで了承を伝える。メイデンさんにはドミニクが頼んでくれるだろう。

 1日程度、休暇が短くなっても銀貨3枚ほどを部下に手渡せるならメイデンさんも了承してくれるんじゃないかな。ちょっとしたアルバイトってことになりそうだ。


「かつての騎士団の戦いを調べてたの。一番効果があったのは葡萄弾だったらしいわ。それを知って、直ぐに発注したところよ」

「搭載している葡萄弾は数十個程度だけど、これで3倍にはなりそうね。葡萄弾は余り撃つとバレル内が摩耗してしまうのが難点なの」


 舷側にも鉄板を並べて銃撃を加えるらしい。ブリッジの見張り台にも銃座を付けるようだ。

 ハリネズミみたいな感じになるんだろうな。

 元が軍艦であるのも都合が良い。少なくとも2回目の脱皮後までは対応できそうだ。


「3回目の脱皮後となれば、魔獣相手と変わらないでしょうね。直接照準で砲弾を放つことになると思うわ」

「戦機が増えたとは言え、どれだけのスコーピオがやってくるか分からないし、一斉に海に向かうとも聞いてるわ。次のレッド・カーペットに備えて、狩れるだけ狩っておかないと」


 数十年に1度の脅威だ。今回の狩り方いかんによっては、次のレッド・カーペットの被害を低減できる可能性もある。

 できればブリッジの櫓にガトリング銃を備えたいけど、ベルッド爺さんの方も忙しそうだ。

 新型銃で我慢して貰うことになりそうだな。


 翌日。メイデンさんと一緒に狩に出掛けた。あまりのんびりしているのも気が引けるし、戦闘艦の乗員達もメイデンさんと一緒で退屈なことは嫌いなようだ。


「チラノ3頭を狩りました。現在の進行方向より、北に22度進路を変えてください。3スタムほどに近付いてところで信号弾を放ちます」

「了解よ! これで7頭目ね。予定数を越えてるんだから、ボーナスは確定ってことかしら?」

「ドミニクと調整してください。でも、魔石2個は欲しいですよね」


 戦闘艦の獣機の搭載数は1班4機なんだけど、実に手慣れてるんだよなぁ。元は軍の獣機部隊所属らしいけど、よくも俺達の騎士団に所属してくれたと感心してしまう。


 事故もなく隠匿空間に戻ると、アリスをヴィオラのカーゴ区画の駐機台に固定しておく。

 ヴィオラから桟橋に下りると、次の航海に向けての荷物が積み上げられていた。


 桟橋から隠匿空間の出入り口に目を向けると、2つの建物が隣接して立っている。

 1つは隠匿空間周辺の監視所であり、入りのゲート制御を行う石造りの建物だ。

 隣のレンガ作りの建物がカテリナさんの研究所なんだけど、俺達といつも一緒だからなぁ。今は導師と弟子たちが住んでいるようだ。

 導師達のおかげで飛行船を作ることができたけど、そろそろ飽きてきたんじゃなかな?

 

 エレベーターで1階に下りて外に出る。

 だいぶ暗くなってきたけど、テラスガーデンで酒盛りをしている連中がいる。

 アレク達は昼から飲んでいるぐらいだから文句は言いたくないけど、男爵が働いて住民が酒を飲んでいるという状況が、何となくおかしくなってきた。

 苦笑いが、笑い声に変わるのはたいして時間も掛からない。

 1人で笑いながら歩いているのもどうかと思うけど、やはり笑ってしまう状況には違いない。


 ログハウスに着いた時にはすっかり日が暮れていた。

 歩くと30分近く掛かるのも問題だな。到着予定時刻を連絡しておけば良かった。


「ただいま!」


 リビングの扉を開けて声を出すと、ソファーで寛いでいたフレイヤ達が俺に顏を向ける。


「お帰りなさい。直ぐに食事になるわよ。その前に、狩りの様子を効かせて!」


 ソファーに座ると、エミーがコーヒーを運んできてくれた。

 やはり、仕事が終わった後hコーヒーは格別だな。


「チラノを7頭狩ったよ。ドミニクとの約束では上位魔石が1個だけど、メイデンさんが交渉すると言ってたな。ボーナスが上乗せされてたら、王都で何かプレゼントをするよ」

「本当? なら、もう1度行かないとね。綺麗なイヤリングを見付けたの!」


 フレイヤ達が喜んでくれるなら、俺の休日を返上しても問題はない。

 リバイアサンに乗れば、のんびりできるんだから。


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