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M-161 工廟の火事の影響


 リバイアサンの周囲100km以上の監視をしながら、東に向かって進んでいる。

 たまに着底して新型銃や、改造した自走車の試験を行っているから、どうしても魔獣狩りがおろそかになってしまう。

 そもそもあまり寄ってこないんだよなぁ。それなりに危機管理能力があるのだろうか?


「それじゃあ、行ってくるのだ。3艦で向えばチラノでさえも敵ではないぞ」

「侮ってはいけないぞ。サベナスでさえ噛みつかれれば大破寸前まで行ってしまうからね。獣機なら噛み砕くほどだ」


 俺の注意を聞き流して、手を振って出掛けてしまった。

 アリスの話では、サベナスの近縁種と言うことだけど、狩る連中には名前はどうでも良いらしい。

 7頭だと連絡があったから、狩れないということは無いだろう。

 だが、油断すると怪我じゃ済まないんだよなぁ。


「心配性ね。3艦が出掛けたんだからだいじょうぶよ。他の魔獣は周辺にいないと報告があったわよ」

「慢心は良くないね。少し心配症なくらいでないと、思わぬ怪我をしないとも限らない。レッド・カーペットの工程も少し遅れているらしいよ」


「カテリナさんが自信を持っていましたし、フェダーン様も日々の確認を怠らないと聞きましたが?」

「やはり無理があったんだろうね。工廟の1つで事故があったらしい」


 エミーとフレイヤはお留守番らしい。

 リバイアサンの指揮官と火器管制部門の部門長だからだろう。

 事故は、ウエリントンの王立工廟の1つで起こった火災だった。

 自走車にロケット発射装置を乗せるための改造を担当していた工廟だったから、自走車の改造数が激減してしまいそうだ。


「フェダーン様が民間の工房に依頼したらしいけど、納期ギリギリらしい。兵站担当が頭を抱えているらしいよ」

「隠匿空間にも工房があったわよね?」


「3つ以上あるんじゃないかな? 軍と商会ギルドそれに俺達の桟橋だ。俺達の工房は獣機用の銃を量産しているよ」


 俺達だけでなく、軍の工房も同じように作ってるんじゃないかな? 商会ギルドの工房は不明だけど、騎士団から色々と注文があると聞いている。


「景気が良いってことかしら? でも火事で工廟がダウンしたのは痛手よね」

「コリント同盟の王国は、国を挙げてレッド・カーペット対策に動いているらしい。それから比べれば気は楽だけど、西もあるからね。そんなところで火事となれば、痛手では済まないかもしれないな」


 朝食が終わると、エミー達は制御室に出掛けて行った。

 俺だけ残されてしまったけど、ドミニク達から救援要請があれば直ぐに出掛けなければならない。

 だけど、ローザまで一緒に行ったからなぁ。

 俺の出番は無いんじゃないか?


「私達も出掛けて来るにゃ!」

 

 マイネさんがコーヒーポットを持ってきて、俺のカップに注いでくれた。

 砂糖2杯を入れてかき混ぜていたんだけど……、お掃除部隊の出動なのかな?


「今日はどちらへ?」

「頼んでいた銃ができたと、ベルッド爺さんから連絡があったにゃ! ちゃんと使えるか試して来るにゃ」


 拳銃の頼んだのかな?

 ネコ族の人達は小型の拳銃だから、護身用ってことなんだろうな。

 エミーの護衛もしていたみたいだから、それなりの腕はあるに違いない。


「それは興味をそそられますね。手に入れたら見せてくれませんか?」

「リオ様に撃てるかどうかわからないにゃ。でも見せるだけなら構わないにゃ」


 俺の手には小さいってことかな?

 強装弾を使うなら、しっかりと握らないと手の中から銃が飛び出しかねない。

 でも小口径なら俺でも大丈夫だと思うんだけどね。

 

 去っていくマイネさんに軽く手を振ると、尻尾を振って応えてくれた。

 入れ替わりにやってきたのは、カテリナさんとフェダーン様だった。

 途中で、カテリナさんがカウンターに立ち寄ったのは、コーヒーを用意しているのだろう。


「大変ですね。とはいえ起こってしまったことは仕方がありません。その対策は既に取られたと聞いていますが?」

「全く困った話だ。休憩中の火の不始末となれば、何人かを更迭することになるだろうが、それで状況が変わるわけでは無い。商会ギルドを通してナルビク王国の工房にも依頼をする始末だ」


「リオ君の言う通りよ。悔やんでも元に戻ることは無いわ」


 カテリナさんが、フェダーン様の前にコーヒーカップを置くと、コーヒーカップを持って俺の隣に腰を下ろした。


 カテリナさんも暇じゃないと思うんだけどねぇ。ここにいてもだいじょうぶなんだろうか?


「カテリナは信管の製造だったはずだが?」

「部品は複製できるし、組み立てならガネーシャ達がいるわ。新型飛行機はベルッドに任せてあるし、飛行船の方は導師が頑張ってるわよ」


 美味しそうにコーヒーを飲んでいる。

 俺とフェダーン様が呆れた顔をしているのは気にしないみたいだ。


「それなら新型銃へ魔方陣を描くのを手伝えば良さそうだが?」

「王都から学院の美術家の学生達が来てくれたでしょう? 細密画を学んだだけあって小さくとも正確に描いてくれてるわ。彼等に学費の補助を私からも上乗せするつもりよ」


 あのお姉さんも来てくれたみたいだ。10人程で一部屋に集まりタガネで銃身に魔方陣を刻んでいる。

 木製の銃床に隠されてしまうから、彼女が描いた細密画を見る人はほとんどいないだろう。だけどスコーピオを倒すための銃弾を放つには彼女達が刻んだ魔方陣が是非とも必要になる。

 

 カテリナさんが取り出した小さな小箱は、魔道科学を応用したプロジェクターだ。

 俺達から数m離れた場所に、仮想スクリーンが作られる。

 全く、自然科学と遜色ない疑似科学だよなぁ。

 この世界に、再び自然科学が発達することは無いんじゃないか?


「工程上の遅延は、他の分野にも影響してくるのよねぇ……。あまり遅れると、訓練時間が無くなりそうよ」

「操作訓練と、実弾射撃は不可欠だ。駆逐艦への搭載は予定通りであることがせめてもの救いだな」


 2人で工程表を眺めて溜息を吐いている。

 見た感じでは、余裕代が無くなっただけにも思えるんだけど、2人にはそれ以外の者が見えるんだろうか?


「俺には何とかなるように思えるんですが、工程表の期限一杯になっているだけなんじゃないですか?」

「今のところはな……。まだ10か月近くあることは確かだが、他の外乱が無いとは言い切れまい。工程表には余裕を残すことが大事だ」


 そういうものなのだろうか? 

 俺には2人が心配性にしか見えないんだけどなぁ。

 それに、これがブラウ同盟を作っている王国の最大生産量であることも確かだ。

 これ以上の無理は、王国住民生活に多大な影響が出るだろう。

 いくら悩んでも、無いものは無いんだから諦めれば良いと思うんだけどなぁ。


「ロケット発射機を搭載した自走車を2個中隊にするのは無理かもしれないわね。代替案としては、簡易発射機を使うことになりそうだけど?」


 自走車は偵察部隊で使われている。

 2台1組で行動しているから、1個小隊は指揮車1台を加えた17台だ。中隊は4個小隊に指揮車が2台追加されて70台になる。

 140台を想定していたのか……。一斉射撃はさぞかし凄いことになっただろうな。


「時間差を持たせることが出来ぬな。2個小隊をリバイアサンで補給させて、残り2個小隊は騎士団側で運用することになりそうだぞ」

「運用できるだけマシよ。場合によっては、リバイアサン後方の安全圏での運用になりかねないわ」


 第1線を抜ける数がかなりあると予想しているのだろう。

 装甲も碌にない自走車だから、安全な運用を考えるべきだろうな。


「毎日が、戦術の検討ばかりだ。とはいえ、前回に比べればそれだけ良くなったとも言える。軍艦を並べて迎え撃つ。それだけだったからな」

「悩むことは良いことだと思うわ。その結果を次のレッド・カーペットに反映できるでしょう? 少なくとも前回よりは攻撃手段が増えてるんだから」


 決死隊を編成しないで済むだけでも十分だろう。

 駆逐艦数隻では、それほど戦果が得られたとは思えない。

 今回は、更に遠方まで攻撃が反復される。それだけでも前回に比べれば大きな改善だ。

                ・

                ・

                ・

 コーヒーを飲んで2人が帰って行った。

 コーヒーブレークという感じなのかな? カテリナさんとの会話でフェダーン様の表情に暗さが消えたけど、夕食時にはどんな顔で現れるんだろう?

 指揮所に集まった高級仕官達が同じような思考の持ち主ばかりだと、再び暗い表情になってしまいそうだ。

 物事前向きに考えられる人物が少しいると良いんだけどねぇ。


『そもそも2射が可能かどうか分かりませんでした。とはいえ、面制圧手段が減ったことは確実です』

「同じ面制圧となればナパーム弾ってことになりそうだけど、そっちは問題なく進んでいるのだろうか?」


『現状での遅延はありません。ロットごとに数発取り出して訓練をしているようです』

「飛行船の方は空中炸裂型の爆弾だから、砲弾よりも被害半径は大きいはずだ。砲弾の方も榴弾を製造しているようだけど、この世界の軍艦の継続射撃はどれぐらいの間隔なんだろう?」

『およそ、10分程度と考えています。小口径砲なら数分間隔で放てると推察します』


 やはり継続射撃は間隔が空いてしまうな。

 それを補完するためのロケット弾だったんだけどなぁ……。


『代替手段としては、他銃身の機関砲を自走車に搭載することになるのでしょうが……』

「重くなりそうだし、射手はイヌ族の連中だからなぁ」


 ネコ族より力はあるけど、人間族ほどの体力はないんだよね。トラ族なら人間族より遥かに優れた体力があるんだが、職業のすみ分けという裏の取り決めにも影響しそうだ。


『対人地雷を自走車に取り付けますか?』

「自走車に影響が出ないかな?」

『指向性の対人地雷なら使えそうです。人間用ではありますが、工夫次第で初期の戦闘を有利に展開できると推察します』


 バッグから端末を取り出すと、アリスが端末の上部に仮想スクリーンを作ってくれた。

 2種類の画像があるけど、左は過去の戦で使われた対人地雷のようだ。右にアリスが改良した対人地雷の画像が写しだされている。


 外形は長方形の箱だな。高さ20cm、横幅40cmで、厚さは5cmほどだ。全面が緩く弧を描いているのは、中に詰まった散弾を拡散させるための設計なんだろう。

 重さが20kgほどだから、イヌ族の連中でも2人でなら苦労せずに動かせるだろう。


『獣機の使う2連装銃とほぼ同じ性能です。有効範囲は60m程ですが、2台で運用するのが自走車の基本ですから、交互に放つことが可能です』

「設計図をプリントアウトして、カテリナさんに知らせてくれないか? 駒は多い方が良いからね。それにリバイアサン後方のスコーピオ対策にも活用できそうだ」


 戦機輸送艇の周囲に着けても効果がありそうだ。

 これで、地雷原を作るとどうなるんだろう? その辺りも少し考えた方が良いのかもしれない。


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