M-160 騎士団内の情報共有
予定より30分ほど出発が早まったが、とりあえずは軍の拠点を離れて一路北へとリバイアサンを進めているようだ。
1日北に向かって、風の海の北端付近を東に向かうらしい。
このコースで進めば、かなりの頻度で他の騎士団と遭遇しそうだが、1日に3度騎士団を確認するようなら、更に北上して砂の海を東進するとエミーが教えてくれた。
狩りは明日からだから、今日はのんびりとソファーで寛いでいる。
ドミニクが設定した会議は、まだ1時間程間があるからコーヒーをもう1杯楽しめそうだ。
「寛いでいるな。少しは男爵の貫禄が付いたということか?」
フェダーン様とカテリナさんが笑みを浮かべてソファーにやってきた。
俺の隣にカテリナさんが座り、テーブル越しにフェダーン様が腰を下ろす。いつもの位置関係だけど、直ぐにカテリナさんが抱き着いて来るんだよね。
俺をぬいぐるみと勘違いしているみたいだ。
「会議には私も参加することにした。ヴィオラ騎士団の内情には関与しないが、指揮所とリバイアサン後方に兵站を設ける以上、無視するわけにもいかぬだろう」
「数が相手では、アリスも存分に戦う事は出来ないでしょうし、かといってリバイアサンの主砲は、射界が問題よね。沢山ある副砲で対応することになってしまうのが残念だわ」
「溝掘りを繰り返すことになりそうですが、威力はありますからね。それなりに間引くことはできるでしょう。とは言っても、水平角は左右15度ですし、上下角も15度という射界ですからねぇ……」
次発までの時間は、だいぶ短くなったようだけど20分を下回ることは無い。
威力は認めるけど、使えるかな?
「数ケム(約10km)ほどの距離を50スタム(75m)以上の横幅で溝が掘れるのだ。使うべきだと思うが?」
「副砲が各個砲撃を始めてからなら、問題なさそうですね。一撃で数百体は始末できそうです」
連射能力がどれほどあるのか、やってみないと分からない。
短時間なら時間当たり2発は撃てるだろうが、継続砲撃ともなると負荷があちこちに掛かりそうだ。とりあえずは1時間に1射ぐらいに考えておこう。
「前回のような惨事は起こしたくないわね。ブラウ同盟軍の砲撃が始まったなら、飛行船による爆撃はコリント同盟軍の援護に主眼を置きたいわ」
「コリント同盟軍にも飛行船はあるのだが……、初期型では、爆装数が少ないか。各国に1隻ずつ供与してあるのだが」
巡洋艦の砲弾の後部に羽を付けただけの簡易爆弾らしい。それでも4発を200ケム(300km)以上運べるんだから、以前よりはだいぶマシだということなんだろう。
従来型の飛行機も、副操縦士の代りに爆弾を積めるような改造を行ったというから、砲撃距離数倍先に爆弾を落とせるはずだ。
ロケット弾についても、供与するらしいが運搬手段が無いから、獣機による簡易発射機での運用になるだろう。
長城の防衛戦に使うんだろうか?
コリント同盟軍の戦術を後で見させてもらおう。
「そうそう! 忘れるところであった。ユーリル殿が2人の神官を連れて乗船してくる。隠匿空間で待機するとのことだから次の休暇以降は、リバイアサンに礼拝所ができる。
神像は持ってこぬと言っていたぞ。あの少女像で十分とのことだ」
「6つも神殿があるんですもの。特定の神像を置いたら、他の神殿から文句が出るってことね」
カテリナさんの言葉に頷いているところをみると、宗教界も中々難しいってことだな。
礼拝所は俺達に関係は無さそうだが、約束では治療院を開いてくれることになっている。
そうなると、いくつか部屋を渡すことになるだろう。まあ、部屋はたくさんあるからどうにでもなりそうだな。
「礼拝所周辺の部屋を提供することで対応したいと思います。宿舎はこの下の客室を提供すれば良いでしょうか?」
「そうしてくれるか。神官は士官室で良いだろう。見習いが来るやもしれんが、女性兵舎に部屋を見付ければ良いであろう」
色々と出来て来るな。今まではカテリナさん達に医療はお任せだたけど、これで安心して診察を受けることができそうだ。
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定刻の10分前に、下の階に向かう。会議室が2つあるけど、今回は大きい方を使うようだ。
ヴィオラ騎士団の団旗を背に座ったのはドミニクで、その隣にエミーとレイドラが腰を下ろした。
エミーの隣に座りこれの横にはフレイヤが腰を下ろす。
カテリナさんはレイドラの隣だな。後は自由に座っているけど、カテリナさんの横にフェダーン様が若い女性の副官と共に席についている。
最後に、空いている席を探して、アレクが席に着いた。
定刻の1分前だから、遅刻というわけでは無い。
「揃ってますね。10か月後に、レッド・カーペットが始まります。すでに準備は始まっていますが、ブラウ同盟の各王国より、ヴィオラ騎士団は第2陣ではなく、同盟軍と同じく第1陣に参加することとなりました。ここまでは皆さんも知っていることです」
壁の一部にスクリーンが下ろされ、プロジェクターで画像が表示される。
リバイアサンの正方形の下部の辺から、左右に直線が引かれた。その上に軍船が長方形の形で並べられていく。
「艦船の間はおよそ10m程度になるわ。装甲板で塞ぐとはいえ、高さは3スタム(4.5m)ほどになるはずよ。かなりの数が抜け出すわよ。
参加する軍船の数はおよそ120隻程度になるんでしょうけど、いくつか機動部隊を作って抜け出たスコーピオを叩くことになるでしょうね」
「廃棄寸前の輸送艦を10隻ほど手に入れた。駆逐艦2隻と戦機1個小隊、それに獣機部隊が2個小隊で固定砲台を作る予定だ。ダモス級の大型輸送艦を3隻使えば立派な要塞になるだろう」
自衛用の舷側砲を持っていたはずだ。
葡萄弾を使って応戦するということだろうが、かなり危険な防衛戦を強いられるに違いない。
「フェダーンの考えでは、ナルビク王国軍とウエリントン王国軍の間、それとウエリントン王国軍の北の端ね」
スクリーンに小さな四角が表示される。
「ウエリントン王国軍の後方に、3隻の武装巡洋艦を遊弋させる。駆逐艦が1隻随行する形になるが、ロケット発射機を乗せた自走車を搭載する予定だ。レッド・カーペットの状態いかんでは、自走車を繰り出しての攻撃もできよう」
あまりにもスコーピオが第1線を越えて来る時には、簡易要塞の後方での攻撃に徹するらしい。
「軍の第1線より後方20スタム(30km)に騎士団が戦列を作る予定よ。いつもなら軍と同じように横並びになるんだけど、少し考えるみたいね」
プロジェクターに描かれた第2線は、縮尺の関係でかなり近接して見える。
騎士団が最大射程で大砲を撃っても届かないと分かっていても、ちょっと不安になるんだよなぁ。
「第2線の後方には補給部隊が小さな騎士団や傭兵団に守られているわ。30スタム(45km)離れているから、スコーピオもかなり拡散しているはずよ」
3つの赤い丸が表示された。これが補給部隊になるのだろう。
第1線によるスコーピオの迎撃が始まらない内は、飛行船の爆弾の補給拠点として活躍してくれるだろう。
「ここまでが全体像になるわ。後はドミニク達の番よ」
カテリナさんが進行をドミニクに委ねると、ドミニクが運ばれてきたワインを一口飲んで口を開いた。
「エルトニア王国から配船寸前の輸送船2隻を提供してくれるそうよ。リバイアサンの左手がヴィオラ騎士団の受け持ちだから、2隻の輸送船をリバイアサンの左手隅に東西方向に停船させるわ。
魔道機関を取り払ったガランドウの躯体だから、王国軍の簡易要塞と同じように使えるはずよ。船体内に、ウエリントン王国軍からは勘されてくる獣機部隊2個小隊の内、1個小隊を配置させるわ。残りの1個小隊は、交代要員であるとともに、荷役作業にも加わって貰うつもり……」
ヴィオラをはじめとする騎士団の3艦は、第1線の西200スタム(300m)で横に並ぶということだ。
艦砲での砲撃に参加した後で、輸送艦の後ろに戦闘艦以外の2隻が並ぶらしい。
「これでリバイアサンの後方に300スタム(450m)ほどの安全地帯ができるはず。
艦を乗り越えてくるスコーピオは戦機と獣機で対応してもらいます。メイデンさんは補給物資を取りに来る戦機輸送艦の援護をお願いします」
「砲撃よりは踏み潰した方が良いだろうね。あの戦闘艇の銃は連発が可能だから、護衛には最適だろうね」
戦闘艦の駆動は車輪ではなく多脚だからなぁ。直径50cmほどもありそうなムカデ脚だから潰すには都合が良さそうだ。
「とは言っても、戦機はどの辺りで戦えば良いんだ?」
「ガリナムの後方をお願いするわ。回り込んでくるスコーピオを潰してくれない? 獣機は艦を越えてくるスコーピオの対応をお願いするわ。少し距離を置いて自走車も待機してくれるはずよ」
リバイアサンの後方が拡大されて、配置が次々と描かれていく。
皆で配置図を眺めるのは良いことだと思うな。
自分の配置場所と、沈設する部隊が分かるから、誰を援護し誰が守ってくれるかが一目瞭然だ。
「私の戦闘艦が、後方の扉になるのね。責任重大だわ」
メイデンさんが嬉しそうに呟いている。
リバイアサンのドックの扉は開けた状態を保つらしい。その為にドックにも獣機や自走車が配置される。ドックの上にある4つの銃座も役に立つだろう。
機関砲みたいな形をしているけど、アリスによれば初速は低いとのことだ。
それでも、25mmの弾丸を秒速800mで打ち出せるなら十分に思えるんだけどなぁ。リバイアサンの対空機関砲と同じものだが、カテリナさん達の作った新型機関砲よりは頼りになりそうだ。




