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M-016 亡くなった人は帰ってこない


 俺達の前方を4台の自走車が、渡り鳥のような末広がりの体形を取って走っている。

 速度をヴィオラの進行速度に合わせているのだろう。あまり砂塵を巻き上げない。

 自分達の存在を相手に悟らせないことが襲撃の鉄則ということなんだろうな。騎士団の魔獣狩りと通じるところもあるが、魔石が欲しいんだったら自分達で魔獣を狩れば良いだろうに。


『まったく後方確認ができてませんね。すでに前方にのみに注意を向けてるんでしょうか?』

「屋根に乗せてるのが大砲なんだろうな。あんなんで当たるんだろうか?」

『200mほどに接近すればそれなりに脅威です。4台で合計8門ですからね』


 60mm程度の小口径だし、肉厚もさほどなさどうだ。画像を拡大すると詳細が見えてくる。

 ん! 後ろが開いてるぞ。


「あの大砲だが、後方が開いてるな。ロケット弾ということなんだろうか?」

『カウンター・マス方式かもしれません。前装式かと思いましたが、少し進んだ方式を使っているようです』


 どちらにしても物騒だな。

 海賊達が変わった大砲を装備していると、アリスに通信を送ってもらった。少しは注意してくれるだろう。


 このまま夜を迎えるのかと思っていたら、仮想スクリーン上の海賊に動きが出てくる。

 ヴィオラを挟んで並走していた海賊船が少しずつヴィオラに近づいているようだ。

 前方を走る自走車も少しずつヴィオラとの距離を詰めている。

 ヴィオラのマストの上の監視台からなら、四方から近寄ってくる武装探索車の姿がはっきりと見えるに違いない。


 ヴィオラの左右を並走する海賊船との距離が3kmほどに迫った時、左右の海賊船から信号弾が上がった。

 前方を走る武装自走車の速度が一気に上がる。数分後にはアレク達も全力で応戦しなければならなくなりそうだ。


 ヴィオラの上空に、赤い信号弾が上がった。

 俺達に対する合図だ。海賊達はどんどんヴィオラとの距離を詰めている。赤い信号弾が何らかの作戦だとは思わないのかな?


「行くぞ! 先ずが左からだ」


 武装自走車が盛大に土煙を上げているから、俺達の接近にはまるで気付いていないようだ。

 レールガンをアリスが亜空間から取り出して、地表を滑るように滑空する。

 すぐに海賊船の後方にとりついたが、距離はおよそ1kmはある。この距離ならアリスがターゲット補正をする必要もないんじゃないかな。

 全周スクリーンに表示されたターゲット表示を海賊船の船尾に合わせると、たて続けに4発を放った。

 滑るように右に移動すると、今度は右舷に近づきつつある海賊船の船尾に弾丸を放つ。

 攻撃を終えると同時に、右に大きく回避して状況を確認する。


『全弾命中です。両艦ともに魔道機関を損傷したようですね。速度が低下していますし、着弾個所から煙も噴き出しています』

「火事を起こしたようだね。炸裂弾でなくとも、圧縮熱で高温化した徹甲弾だからかな」

『当たり所が悪かったかもしれません。レールガンでは炸裂弾を使えませんから』


 ちょっと残念そうなアリスの口調だな。

 これで、一応目的は達したはずだが、ヴィオラ周辺では武装自走車との戦闘が始まったようだ。

 ヴィオラが何発か砲弾を受けたらしく、全周スクリーンに黒煙が映し出されている。


「間引きした方がいいかもしれないな」

『なら、後方からレールガンを放ってみますか? ヴィオラ船尾の武装自走車は貫通しますから無理ですけど』


 少しでも減らした方がいいだろう。幸いにも俺達の存在には気付いていないようだ。

 左右の海賊船はすでに後方に置いてきぼりにされているが、武装自走車はいまだに攻撃を続けている。

 このままヴィオラを追い続けていると帰還できなくなりそうだが、海賊達は前だけに集中しているようだ。


 レールガンの射出速度を最低にして弾丸を放つ。それでも秒速千mを越えているそうだ。小さな戦車砲という感じだな。

 両舷に群れている武装自走車を1台ずつ葬っていくと、後ろに何かいるとようやく気が付いたみたいだ。

 武装自走車が速度を緩めたところで、アリスを東に移動させる。これで俺達を確認することはできないだろう。


『ヴィオラを囲む海賊は去ったようですね。2隻の陸上艦の修理と新たな武装自走車を揃えないといけませんから、しばらくは活動停止というところでしょうか?』

「さらに人的損害がどれだけ出たかも問題だろうね。深夜になってから帰還しよう」


 ヴィオラから数十km先行したところで、アリスを停止する。

 周囲に異常がないことを確認したところで、アリスの手の平で休憩を取ることにした。

 夜間はかなり遠くからでもタバコの火が確認できるそうだが、周囲には小さな獣の気配すらない。スキットルからワインを1口飲んで、のんびりと過ごすことにした。


 周囲に他の騎士団や海賊達がいないことを確認してヴィオラに接近する。3kmほど離れたところを並走しながらヴィオラに帰還を告げると、直ぐに舷側の扉を開いてくれた。

 カーゴ区域に入って驚いた。舷側の板にいくつか大穴が開いている。やはり手ひどくやられたみたいだな。


「無事じゃったか! ここは1人やられてしもうた。負傷者もおるが、死んだわけではないからのう」

「申し訳ありません。もう少しやりようがあったかもしれません」

「なぁに、昔なら今頃は生きてはいまい。それはお前さんのおかげじゃよ」


 とは言ってはいるが、ベレッド爺さんの表情は暗いものがある。

 亡くなった仲間もドワーフ族だろうから、それだけ仲間との繋がりが深かったのかもしれないな。

 仕事に戻っていくベレッド爺さんの背中に軽く頭を下げると、船尾の操船楼に向かう。

 獣機も損害があったようだ。さすがに戦機は無事なようだが、被害の総額はかなりになるんじゃないかな?

 今回の魔石の売り上げが帳消しになってしまいそうだ。


「しっかりするにゃ!」


 階段の踊り場ではネコ族の娘さんが仲間の手当てをしていた。

 あちこちでそんな連中がいるから、ちょっとアレク達が心配になってくる。

 2階の船室の扉を叩くと、レイドラの返事が聞こえ扉が開かれた。


 俺にテーブル越しの席を指示して、レイドラはドミニクの隣に腰を下ろす。ドミニクが見ているのは、乗員リストのようだ。表情が優れないのは、やはり死傷者が多かったからに違いない。


 レイドラが席を立って、ワインのボトルとグラスを用意している。3つのグラスにワインを注いだところで3人の前に置く。


「ありがとう。だいぶ叩かれたわ。それでも、リオのおかげで大きな損害にはならなかったけど、亡くなった人は帰ってこない……」

「2隻に大きな損傷を与えました。武装自走車もそれなりに破壊しましたが、もう少し早く介入すべきだったと反省しています」


「それは私の責任よ。騎士であるリオは、私の指示通りに行動しているわ」


俺の言葉に、大声で答えてくれた。そんなに凹んでいなかったのかな?


「海賊団を相手にして数人の死者で済んだのは、あの戦姫のたまものでしょう。今回の海賊は予想を超える武装をしていたようです。

 ヴィオラの船体強度は魔道技術で強化されてはいるんだけど、武装自走車の放つ砲弾は大砲並みの威力でした」

「見せかけだと思ってたんだけど、かなりの代物ね。リオが注意してくれたんだけど、団員の連中は笑っていたわ」


 あの構造は単純だからなぁ。レイドラが話してくれた戦闘の様子だと、ロケット弾ではなく、カウンター・マス方式で打ち出す大砲らしい。他の海賊達も装備をしてくると後々面倒な事になりそうだ。


 死傷者の保証は騎士団の仕事でもあるらしい。それと、陸上艦であるヴィオラもあちこちに砲弾を受けているから修理が長期化してしまいそうだ。

 とはいっても、今回の魔石を売れば黒字になるというから驚きだ。魔石の総数は知らないけど、かなりの頭数の魔獣を狩ったことは間違いない。


「魔道機関に損傷はないから、王都に向かうことに変更はないわ。王都到着までに少し考える必要がありそうね」


 ドミニクの言葉にレイドラが頷いているが、何を考えるのだろうか? まあ、一介の騎士には分からないことはたくさんありそうだ。

 ワインの礼を言うと、俺達のたまり場である船首の高台に向かう。

 甲板に出ると、2本あるマストの1つが折れている。トラ族の連中は甲板に水を撒いて血のりをモップで掃除している最中だった。

 一時的に白兵戦も行われたんだろうな。そんなことを考えると自然に足が速くなる。

 甲板から階段を駆け上ると、4人が一斉に驚いた表情の顔を向けた。


「無事だったか! 先ずは座れ。シレイン酒だ」


 出されるままにワインを一口。さっき飲んできたところだから、ここはゆっくり飲んだ方が良さそうだな。


「カーゴ区域からここまで、あちこちで手当てをしている光景を見ました。皆さんこそ無事で何よりです」

「軽い傷は負ったが、治癒魔法をシレインが使えるからな。それにしても、2隻の海賊船が急に煙を噴き出したから驚いたぞ。おかげで、俺達の被害は武装自走車の連中に限られた」


 カリオンが大まかに戦の様子を教えてくれた。

 両側の手すりに木箱を押し付けて、その後ろから銃を撃っていたらしい。甲板では乗り込んできた海賊とトラ族の甲板員が白兵戦を演じていたらしいが、どうやら海賊は人間族だったようだ。人間とトラ族では体力差がありすぎる。長剣で次々と葬ったらしいが、何人かは銃で撃たれたということだった。


「ドミニクがかなり悩んでましたよ」

「だろうな。あの不思議な大砲のおかげで船体の損傷はかなりのものだ」


 アレクも渋い表情だ。となると次の月給は大幅ダウンになるのかな。


「ネコ族の娘さんに聞いたんだけど、次の陸上船が艤装中らしいわよ」

「俺は本人から聞いたぞ。確かに昨年に船を手に入れている。あれから半年以上になっているから、案外今回の王都行きは、艦の更新ということなのかもしれん」


 ん! シレインとカリオンが面白い話を始めたぞ。

 そうなると、この船はヤードで解体されるんだろうか?

 修理するとしても、一度大きく船体が歪むとあちこちに支障が出ると聞いたことがある。


 まあ何はともあれ、俺達の無事を祝おう。

 今夜を過ぎれば海賊船の襲撃はあまり気にしないで済むと、さっきアレクが言っていたぐらいだから……。


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