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M-158 アレクの心配事


「ウエリントン王国の軍だけでなく、騎士団にも動揺が走っているんだろうな。西も大変だが、東はもっと大変だ。残った騎士団も西の守りに動員されることになるだろう。工房都市も3か月程は門を固く閉じることになるだろう」


 お土産に頂いた3本のマクシミリアンワインの1本を開け、皆で頂きながら顛末を話すことになった。

 2本はリバイアサンで飲もう。フェダーン様もあまり飲んだことが無いらしいからね。


「やはり無理があると?」


 ベラスコの素朴な疑問に、アレクが大きく頷いた。

 アレクにはワインは少々物足りないらしい。最初の1杯を早々に飲み終えると、何時ものブランディーをグラスに注いでいる。


「無理と言う範疇を越えているんじゃないか? そもそもウエリントン王国の3個艦隊は防衛艦隊だ。同規模の戦を想定したもので、それを越える戦力を同盟艦隊に依存している。

 ハーネスト同盟軍は、場合によっては6個艦隊を動員できるだろうが、前回の負け戦が効いているから、今回は良くて5個艦隊と言うところだろうな」


 対する俺達の方は、コリント同盟との盟約でスコーピオ戦に機動艦隊を向かわせねばならない。

 ウエリントン王国の半個艦隊とナルビク王国の1個艦隊が東に向かい、ブラウ同盟艦隊の中からエルトニア艦隊が抜けた2個艦隊がブラウ同盟艦隊になる。

 王都防衛のために1個艦隊は残すだろうから、3個艦隊半ということになるのかな?

 艦船不足を飛行機で補うような連中が相手となれば、物量で負けてる気もする。

 

「帰ってきたらウエリントン王国が無くなってた、なんてことにはならないわよね?」


 不安そうな表情でフレイヤがアレクに問い掛けている。

 さすがにそこまでにはならないだろうけど、荒廃した王国になっていないとは限らないんだよなぁ。


「リオの出した、補給船を攻撃する案を採用することになるだろうな。陸上艦の積載量には限度がある。

 同型の船なら騎士団の倍の兵員を乗せているだろう。補給が切れたら兵士達の士気が落ちるのは確実だ。士官連中が旨い物でも食べてたりしたら反乱だって起きかねん」


 向こうだってダミーの輸送船ぐらいは仕立てるかもしれないが、それも大破しかねない。現状では空爆を確実に防ぐ手はないんだからね。

 足の長さを利用して、敵の攻撃可能範囲に入らないように立ち回れば、少ない戦力でもそれなりに戦う事は可能だろう。


「それよりも俺達の方だ。魔撃槍は2回目の脱皮後に使うとしても、それまでは新型銃で対応しなければならん。リバイアサンとヴィオラの空隙がどれ程かは分からんが、止めどなく押し寄せてくるぞ」

「獣機2個小隊を軍が派遣してくれるそうですが、後方対応になりそうですね」


 2個小隊と言えば聞こえはいいけど、補給資材の積み下ろしもあるからなぁ。2個分隊16機は、荷下ろしに回すことになりそうだ。

 ヴィオラの獣機とガリナムの獣機12機は、アレク達の後ろを守ることになるだろう。

 その他に偵察用の自走車に新型銃を搭載したものが3台ある。ドック内に侵入しようとするスコーピオの最終防衛戦を張って貰うつもりだけど、小型のガトリング砲を搭載した方が良いのかもしれない。

 

「まだ時間はありますから、少しマシな品を考えようとしてるんですけど……」

「あまり無理はするな。前回はリオが考えたような物は無かったんだ。今回は、第1陣より千ケム(1500km)先のスコーピオに打撃を与えられるし、飛行機は100ケム(150km)先を攻撃できる。それだけでも前回よりはかなりマシなんだからな」


 マップ攻撃のようなロケット弾まであるんだが、大きな効果を上げられるのは最初の1撃だけだろう。後は散発的な運用になってしまいそうだ。


「とにかく、じっくりと俺達の配置を考えてくれ。他の騎士団は2回目の脱皮を知れば帰ることもできるが、俺達は最後まで戦うんだからな」

「了解です。まだまだ漠然としてますけど、過去の状況を聞きながら検討してみます」

                ・

                ・

                ・

 狩りをしていた方が楽に思えるんだけど、エミー達は最後まではしゃいでいたからなぁ。手ごたえが良いと言っていたけど、直に伝わってくる感触ということなんだろう。分からなくもないけど、10日近く続けるのはねぇ……。


「さて、これでしばらくはこの別荘ともお別れだ。忘れものは無いだろうな!」

「2度も確認してるからだいじょうぶよ。レイバン達は洋服だけ持ってきたようだから忘れ物があっても問題ないわ」


 相変わらず兄貴に噛みついてるけど、それがアレクには可愛いのかもしれないな。

 笑みを浮かべてフレイヤの話を聞いている。


 自走車が3台もやってきたのには驚いたけど、ネコ族のお姉さんが嬉しそうに魚の入った木箱を台車に積んでいる。

 あの木箱と一緒に乗ると、魚臭くなってしまいそうだ.


「ほら、早く乗って頂戴。明日には出発するんだからね!」

「昼からだろう? 今日中に陸港に着くはずだから慌てなくてもだいじょうぶだって」


 とは言っても、荷物を早めに積んでおいた方が良いだろうな。

 皆のトランクをベラスコと一種に運んで、全員が乗り込むのを日陰で一服しながら待つことにした。

 

 フレイヤの声に、自走車を見ると先頭車両が動き出したみたいだ。

 最後尾の自走車の荷台に、慌てて飛び乗ることになってしまった。

 アレクとベラスコが一緒だ。

 ここでのんびりと酒を飲みながら過ごすらしい。

 受け取った真鍮製のカップに半分ほどワインを注いで貰い、一服を楽しみながら岬の風景を眺める。


「全く、綺麗な場所だ……」

「自慢の別荘だ。最初は2軒だけだったんだが、だいぶ増えてきてるな」


「王国の別荘地として名高いんですよ。ジョエルも最初ここにやってくるまでは、半信半疑でしたから」

「数年前に建てたんだが、まだ土地がタダみたいなものだったからなぁ。金貨5枚もしなかった。今では10枚でも買えんだろうな」


 2倍以上に値上がりしてるってことか?

 投機の才能があるようにも思えないんだが、アレクのことだからなぁ。手放さないでずっと釣りを楽しむんだろうな。


「ジョエルと、たまにそんな話をしてるんです。でも、別荘よりは王都にある家をなおしたいですねぇ。アレクさんの別荘をりようさせて貰いますよ」

「いつでも歓迎するぞ。母さんが1人で住んでるんだろう? やはり王都の家を優先すべきだろうな」


 親孝行なんだ……。

 ちょっと羨ましくなるな。俺にもいたんだろうけど、全く思い出すことができない。

 たぶん疎遠だったのだろう。会えなくなって、初めてありがたさが分かる。


 レイバンはフライヤ達と一緒の荷台に乗っているんだが、たぶん小さくなってるんじゃないか?

 女性達のおしゃべりを延々聞かされるのも可哀そうだから、最初の休憩で、こちらに誘ってあげよう。


 途中で休憩してお茶を飲んだり、食事をとったり。

 田園風景を見ながらの旅は結構面白い。レイバンも荷物を動かしてどうにか自分の場所を作って乗り込んでいる。

 ほっとした表情をしているところをみると、やはり辛かったんだろうな。


「レイバン。今度はお前の彼女を連れてこい。たぶん海で休暇を過ごすことなんて無かったろうからな」

「良いの! 兄さん」


 嬉しそうに大きな声を出している。アレクが「約束だ!」と言って笑みを浮かべていた。

 良い兄さんじゃないか。

 フレイヤだって、イザとなれば頼っているんだよなぁ。

 それなら、文句を言わなければ良いんじゃないかと、何時も思ってしまう。


 さすがに市街地に入ると、自走車の引く荷車に乗っている俺達に視線が集まってしまう。

 可哀そうにと哀れむような視線まで感じるんだけど、皆は気にしていないようだ。

 利用できるものは利用しようという魂胆だから気にも止めないのかもしれない。

 男爵と元王女様が荷車で移動してるんだからなぁ。ヒルダ様に知られたらお小言を言われそうだ。


 陸港の大きな玄関口に俺達とトランクを置いて、ネコ族のお姉さん達が作業員の通用門の方向に自走車を走らせていく。

 俺達の様子をおもしろそうに眺めていた、王都の連中も少しずつ去って行った。

 全く良い見世物になった感じだけど、気にしているのは俺だけのようだ。

 他の連中は羞恥心というのがあまり無いのかもしれないな。

 とりあえず、『気にしたら負けだ!』と理解しておこう。


「さて、どうにか着いたな。シレイン、明日の馬車を予約してくれ。リオ男爵の御用だと言えば直ぐに動いてくれるだろう」

「前もあったわよね。あの時は4頭立ての馬車を用意してきたのよ。さすがに、そこまではねぇ……」


 貴族は4頭立てが標準ってことなのかな?

 1頭でも十分だと思うけどね。


 ホテルに荷物を預けて、陸港の商店で買い物をする。

 レイバン達の欲しがるものを、アレクが購入してあげていた。兄貴も大変だな。

 

「俺達も何か送るべきかな?」

「お小遣いを上げたから、だいじょうぶよ。私達の方は……、嗜好品ぐらいかな?」


 お茶とコーヒーに、甘いと勧められた果実酒を購入する。フレイヤと少し離れた場所で、タバコを大人買いしておく。

 切らす連中がたまにいるんだよなぁ。そんな連中用に、良く知られた銘柄を1カートン買い込んでおいた。


 買い物が終わったところで、陸港のレストランで皆で食事をする。

 今回は、アレクに変わって俺が支払ったけど、銀貨3枚にも満たないんだよなぁ。

 結構ボリュームがあったんだけど、俺達にはこれぐらいの食事が一番だ。


 今回はヴィオラを伴っていないから、陸港のホテルで一泊する。

 

 翌日は、少し遅めの朝食になってしまったけど、レイバン達は既に農場に帰ってしまったらしい。

 見送りたかったんだけど、それはアレク達がしていたようだ。

 

「明日にはリバイアサンに戻れそうだが、また何時ものコースで哨戒をするのか?」

「同盟軍との盟約ですからね。途中で何度か訓練もすると思いますよ。リバイアサンに同盟軍の指揮所を作るとフェダーン様が言ってました」


「良いように使われてるな。だが維持費を考えると、それも悪くはなさそうだ」

「指揮所の場所が分かったら教えてくださいよ。なるべく近づかないようにしますから」


 フライヤ達はウインドショッピングに出かけたみたいだ。

 俺達は時間までここで待っていよう。

 コーヒーも飲めるし、タバコも楽しめるからね。


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