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M-157 公爵の別荘で待っていた者達(2)


 ブラウ同盟は西のハーネスト同盟軍の侵攻を防衛しながら、東のコリント同盟王国の危機を救わねばならない。

 そもそも防衛のための軍だけだから、2つに軍を裂くことに無理がある。

 とは言っても、かつての祖国でもあるコリント同盟に大きな犠牲が出るのを見過ごすことはできないし、ハーネスト同盟軍によるウエリントン王国の住民が蹂躙されるのを黙認するなど持っての外だ。

 

 ガルトス王国の王宮爆撃でハーネスト同盟軍が軍を引いてくれれば良いのだが、それでも進軍をするとなれば、同盟軍に対する絨毯爆撃になるんだろうな。

 飛行機での爆撃よりは精度が低いだろうが、数を落とせるからそれなりに被害を与えることもできるだろう。

 相手より性能の高い飛行機だから航制空権を取れるだろうし、輸送船改造型の空母なら爆弾が1つ当たっただけでも大破しそうだ。


「今回は砲撃を控えて飛行機による攻撃に徹することですね。反対する上級士官も多いでしょうが、砲撃戦では勝つことができません。相手の艦隊数はこちらの数を遥かに凌ぐはずです」

「2倍を超えるでしょうね。なるほど、近付かずに飛行機だけで攻撃を繰り返すのですか」


 砲撃戦を挑むなら、最低でも互角の艦数になるまでは避けるべきだろうな。

 砲弾の数が勝敗を決めるだろう。いくら訓練を重ねても人間のできることには限度がある。

 

「ハーネスト同盟軍の数が多ければ、それだけ輸送船の数も多いはず。敵の飛行機を搭載した艦は、輸送船を改造したものですから、先ずは輸送船から潰すべきでしょう」

「牙をもぎ取り、兵站を閉ざすのですか……。その上で、王宮爆撃を行えば士気は下がるでしょう」


「さらに地雷という手段があります。敵の進行方向に砲弾をあらかじめ埋めておけば、信管を車輪が踏むことで炸裂しますよ。あまり勧められないんですが、もし行う時には埋めた砲弾の撤去を確実にお願いします。撤去を忘れた場合は友軍や民間の被害が出ますからね」


「なるほど、砲戦を行わずとも艦を大破させることができるということですね。後は作戦ですが……、リオ殿の案を組み合わせて見ましょう。艦の数で劣っても十分に戦は可能ということですな」


 ハハハ……。と大きな笑い声をあげている。

 出会った時には少し沈んでいたからね。案を出せば、フェダーン様が上手く作戦を作ってくれるに違いない。


「先ほど兵器を開発中とのことでしたが?」

「カテリナさんが開発して、フェダーン様がレッド・カーペットに対して使おうとしている兵器です。試験時の映像がありますからお見せします」


 端末を取り出して壁に映像を映し出す。

 これは駆逐艦搭載型の奴だな。横4列で3段にガイドレールが付いている。


 フェダーン様達にカテリナさんが説明しているようだが、ロケット砲から離れたからそろそろ始めるみたいだ。

 カテリナさん達が、数十mほど離れて見守る中、ロケット砲が発射された。

 一度に発射するのではなく、順次発射のように見える。

 それでも3秒も掛からずに全弾が発射されたようだ。

 数秒ほど過ぎた時、前方に次々と着弾して炸裂していく。

 

 次の画像は、簡易型の発射装置の試験風景だ。

 獣機2機が現れて、発射機を組み立てる。ガイドレールと2脚だけだからね。発射角度を、あらかじめ40度にして固定できるようにしてあるみたいだな。

 発射機が出来ると、獣機がロケット弾をガイドレールにセットして、激発装置のセーフティを解除している。少し離れてトリガーの紐を引くと、ロケット弾が白い噴煙を引いて飛び出して行った。

 数秒過ぎて遠くでロケット弾が炸裂した。


「このような兵器です。砲弾は軽巡洋艦並みですけど、飛距離は2ケム(3km)ほどです。これを大量に使うことでスコーピオを刈り取ろうとしています」

「騎士団の陸上艦は6.6セム(約10cm)を越える大砲を持てないのだが?」



「あのような発射台を使うだけで、大砲を使うわけではありませんからね。約定を違えることはありません。射程が短いですけど、砲弾は騎士団の陸上艦より大きいですから役に立つかと」

「獣機2機であれを発射できるとなれば、かなり使えますね。スコーピオが押し寄せるまでに数発。押し寄せたとしても各騎士団が全く発射できなくなるということはありません」

 

 騎士団の連中が話を始めたのは、ロケット弾を上手く使うにはどうするかという作戦会議と言うところだろう。

 とりあえず、これで悩みは少し軽くなったかな。


 皆の焦燥感が取れたところで、晩餐が始まる。

 テーブルマナーは苦手なんだよなぁ。エミーの食べる様子を横目で見ながら、ナイフとフォークを使うことにした。

 緊張した食事になってしまったが、料理はさすが公爵という感じがするな。

 こんな食事を毎日してるんだろうか? 年間の食費を俺と比べると雲泥の差がありそうだ。


 どうにか晩餐が終わる感じだ。最後に出てきたのは、あのワインだった。

 やはり、極上と言って良いだろう。

 一度味を知ったなら、やはり何としても手に入れたくなるよなぁ。


「ところで、飛行機と飛行機が戦うと言われましたが……」

「前回の戦で、この世界で初めての空中戦が行われたのを目撃しました。

 御存じだと思いますが、飛行機の武装は獣機の持つ銃を補助操縦者が撃つぐらいでしたから、互いの飛行機がすれ違いざまに撃っても当たることもありませんでした。

 飛行時間が限られていますから再び交戦することも無かったのですが、ブラウ同盟軍の飛行機はかなり性能が上がっています……」


 飛行時間は2時間以上だし、速度や高度もかなり向上した。

 爆弾を搭載できることはもちろんだが、銃は6銃身のガトリング銃だ。給弾用のマガジンの関係で連続射撃は30発が限度だけだけど、マガジンの交換で次の30発を撃てるからな。

 3発目に曳光弾が混じっているから、簡易照準器でも相手を捉えることができるだろう。

 とは言っても、有効射程は200mにも満たないようだ。照準器は100スタム(150m)に合わせているようだから、かなり接近して撃つことになるだろうな。


「ハーネスト同盟軍の飛行機をブラウ同盟軍の艦艇上空に来るまでに落とさねばなりません。前回の戦でハーネスト同盟軍が用意した飛行機はおよそ100機。それに対するブラウ同盟軍の飛行機の数は30機程度でした。

 これではどうしても、すり抜ける飛行機が現れます。その為に、小口径砲の仰角を上げて、空中で炸裂する砲弾を作っています。

 現状での対策は以上ですが、何とか飛行機を前回よりも数を増やそうと工廟が努力していると思います」


「飛行機専用の輸送艦を作られていると聞きましたが?」


 バルゴ騎士団は12騎士団の筆頭とアレクが教えてくれた。その地位は上位貴族に匹敵するとも言われている。

 その騎士団長のオルアンさんの言葉の裏を考えてしまう。

 とりあえずは、概要で良いのかもしれないな。


「2隻作っているようです。設計を手伝いましたが、基本は艦隊に随伴できるだけの脚と、敵の爆弾で大破しないだけの装甲を持たせました」

 

 その装甲が1セム(1.5cm)の装甲板だからねぇ。間に板を挟んで、甲板を二重装甲板にしたらしいが、敵の落とす砲弾にどれぐらい耐えられるかの試験はしていないようだ。

 

「1隻を東にとはいかないものなのでしょうか?」


 なるほど、それだけの性能なら飛行機でのスコーピオ狩りも可能と考えたんだろうな。


「同盟艦隊だけで、20機を派遣するでしょう。俺達の騎士団も6機を持っています。更に、従来型の飛行機もナルビク王国が部隊規模で派遣をしてくれるはずです。

 従来型でも、20ケム(30km)以上先へ爆弾を落とせますからね」


「輸送艦を飛行機の離発着に利用すると?」

「それも可能でしょうが、その周囲を多数の陸上艦で囲む必要があるでしょうね。陣の構成は大規模騎士団個々に考えることになるでしょう」


 新型は全てリバイアサンを拠点にするはずだ。指揮所の直営部隊になるんじゃないかな。

 

「参りましたね。第2線は各騎士団の考えでと言うことなんでしょう。基本はスコーピオの削減になるのでしょうが、騎士団の防衛に苦慮しそうです」

「俺達も、第1陣の補給担当ですからね。安全な荷渡しをどのように行うかを悩むばかりです」


 俺の言葉に、2つの騎士団の団長が苦笑いを作る。

 大規模騎士団という自覚は無いからなぁ。リバイアサンを除けば、大規模騎士団の足元にも及ばない。

 そんな俺達に第1陣の補給役が回されていることを気の毒に思っているのだろう。

 本来ならば、それだけで騎士団を廃業しそうな激戦地だと分かっているのかもしれない。


「リバイアサンはそれほどの能力があると?」

「分かりません。軍の方から獣機を2個小隊回してくれるそうですが、数の前にどれだけ頑張れるか俺にも見当がつきません」


「見た目は劣勢でも、西の方が遥かにマシということですか……。これは少し、軍内部でも考えないといけませんね。大枠は国王陛下の前で両面作戦を決定してはいるのですが、まだまだ詳細は動きそうです」

「どれだけの新型飛行機を作れるかがカギになりそうです。戦は100ケム(150km)以上離れて行われるでしょうからね」


 新型飛行機の数が予想を上回れば、戦闘機と爆撃機を区別しても良いのかもしれない。

 とはいえ、多目的機としておいた方が良いのかな?

 あまり種類を多くすると、揃えられる数が揃えられなくなる恐れも出て来るかもしれないし……。


「20時を過ぎてしまいましたね。リオ殿の考えを伺って少しは安心できました。できれば、こちらから訪ねてもよろしいでしょうか?」

「この休暇が終われば、ブラウ同盟王国の交ぜの海と砂の海の間を東西に遊弋することになっています。リバイアサンに来ていただいても、隠匿空間に来ていただいても構いません。いつでも歓迎いたしますが、このようなご馳走は期待しないでください」


「ハハハ……。お気遣いご無用。騎士団はどこも変わりはないようですね。我等と一時的な同盟を組む騎士団と調整したうえでお伺いしたいと思っています」


 裕福じゃないからなぁ……。その辺りを気遣ってくれるなら大歓迎だ。

 筆頭騎士団ということだから、その辺りの配慮は出来てるってことなんだろう。


「私の方も機動艦隊の中で何度か調整をしたところでお伺いします。フェダーン様がいらしているのでは、最低限の作戦計画は持参しないと追い返されそうです」


 ケーニアスさんの方も、無策で来ることは無いってことだな。

 フェダーン様に耳打ちしておこう。西の情勢もかなり気にはなっているんじゃないかな。


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