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M-155 ローザが別荘にやってきた


「今度は、私よ!」

「待って! 今行くから」


 エミーが、大声を上げる。

 深窓のお嬢さんをどこかに放り投げてきたんだろうか?

 それとも、俺達に染まってしまったのかな?

 どちらでも構わないが、元気な方が良いに決まってる。


 エミーがともすれば持っていかれそうになる竿を懸命に支えながらリールを巻き取っている。

 隣にいるフレイヤが、タモ網を片手に色々とアドバイスをしているようだ。

 タモに入れるには、もう少し掛かりそうだな。

 俺の竿にも掛かっているんだけど、タモ網は使えないみたいだ。

 何時ものように、魚が弱るのを待ってゴボウ抜きにするか……。


 2時間程は盛んに食い付いてきたんだが、突然に食い付きが無くなった。

 潮の動きが変わったのかな? 魚の群れも去っていったみたいだ。


 木箱で作ったクーラーボックスの中には、大小さまざまな魚がいるけど、青物と呼ばれる回遊魚が多いようだ。

 型が揃っているから、クロネル部長が喜んでくれるに違いない。

 

「次は、深夜になりそうだ。目が覚めているなら手伝ってくれよ」


 アレクがグラス片手に笑みを浮かべる。

 これが問題なんだよなぁ。満潮と同じように干潮も潮の流れがある。

 できれば満潮だけで勘弁してほしいけど、エミー達の目が輝いてる。絶対に夜釣りに参加するつもりのようだ。


「魚はお手伝いさん達がやってくれるから、最後に別荘の保冷庫に運んでくれない?」

「だいぶ釣りましたからね。2、3回に分けてて運びます」

                 ・

                 ・

                 ・

 5日目に、ベラスコ達がやってきた。

 直ぐに釣りを始めたんだけど、エミーやフレイヤ達は飽きないんだろうか?

 まだまだ元気なんだよなぁ。


 その翌日のことだった。

 朝早く来客が来たことをお手伝いさんのお姉さんが知らせてくれたんだけど、リビングに現れたのは、ローザとリンダの2人組だった。


「中々良い場所に別荘を構えておるのう。近くに宿を用意して貰ったにじゃ。夕暮れまでは一緒に遊べるぞ」

「隣のマクシミリアン公爵の別荘に招待して頂いたんです。たぶんヒルダ様が頼んだのではないかと……」


 申し訳ない顔をして、リンダが裏を教えてくれた。

 さすがに御后様の頼みは断れないだろうな。ちょっと同情してしまう。


「マクシミリアンは第一艦隊を任されておるからな。同盟艦隊の働きは見事であったから、次は自分達もと考えておるに違いない。

 リオが隣の別荘に滞在していると聞いて笑みを浮かべていたぞ。そうじゃ! これを依頼されたのじゃ」


 バッグから取り出したのは、たぶん招待状なんだろう。

 受け取ってみると、綺麗な筆記体で明日の晩餐にと書かれていた。

 ローザ達が世話になっている以上、出ないわけにいかないだろうな。


「3人で良いかな? お伺いすると伝えてくれないか」

「了解じゃ。たぶん、何人かの士官達も同席するかもしれん。前回の戦の様子を映像で見せて貰ったが、あれを見せることで十分な手土産になるはずじゃ」


 やはり貴族同士の付き合いは色々とありそうだ。

 一度、誰かにレクチャーして貰った方が良いかもしれないな。


 ローザが来たから、エミー達が海に入ってはしゃいでいる。

 あんまり騒ぐと、魚が釣れなくなってしまいそうだが、アレクは悠然としているんだよな。


「釣りを始める30分前に、海から出れば大丈夫だ。それまでは存分に楽しんでくれ」

「存分に楽しむよりは、のんびりとしたいところです。ここは平和ですからねぇ」

「おかげで、ゆっくり酒が飲める。いつ出撃となるかわからん生活から、しばし離れることができるんだ」


 数時間毎の漁が無ければねぇ……。満潮だけでなく、干潮時にも始めたんだから困ってしまう。


 フレイヤ達は昼過ぎに海から上がってきた。軽くシャワーを浴びて、コーヒーとサンドイッチの昼食を取る。

 小さなサンドイッチ数個だが、これから重労働が始まるんだから、お腹に何か入れておいた方が良いに決まってる。


「我も釣りをするぞ! 竿はあるんじゃろうな?」

「予備があるから、リンダもどうだ? たくさん釣ってヴィオラの倉庫を満たす必要がある」


「自分達の食料をここで釣り上げると?」

「その方が安上がりだし、結構面白いのよ」


 自給自足というわけでは無いんだけど、獲れた場所がしっかりと分かる食糧ならクロネルさん達も安心して調理をいらすることが出来るに違いない。

 待てよ……、リバイアサンの食料も少し考えないとけないだろうな。

 商会とのつながりもあるけど、農産品ならフレイヤの実家から買い込んでも良いんじゃないか?

 近所の農家も加えるとかなりの漁を調達できそうだ。


 コーヒーとパイプを楽しみながら、魚がやってくるのを待つ。

 サンドラ達がローザに釣りのレクチャーをしているのをエミー達が眺めている。

 ちゃんと釣れるかな?

 思わず笑みが浮かんできた。


 30分も過ぎただろうか?

 アレク達がデッキに集まっている。そろそろ始まるのかな。

 遅いとフレイヤ達から小言を言われそうだから、急いで階段を下りれデッキに向かった。


「始めるぞ。サンドラ達は後ろで手伝てやってくれ」

「良いわよ。さあ、ローザ様、さっきの通りに仕掛けを投入して!」


 慎重な表情でローザが竿を握って仕掛けを投入している。そのまま手に持っているけど、竿尻から出ている紐はしっかりと手摺りの柱に結ばれているようだ。


 俺もし替えを投げたところで、椅子に座りタバコに火を点ける。

 手に持つ者と置竿にする者が半々だ。アレクも置竿にしてグラスを傾けている。


「そろそろ俺も戦鬼を下りる時期が近付いている。リバイアサンで引き取ってくれるとありがたいんだが?」

「サンドラ達も一緒ということでしょう? 獣機という選択肢は最後で良いと思います。少し考えてみます」

「頼んだぞ。獣機の連中は昔からの仲間達だとはいえ、トラ族の仕事場でもある。人間族が入るのは遠慮したいところだ」


 種族ごとに仕事場があるような世界だからなぁ。

 確かに獣機に乗る人間族は少ないだろう。


 となると……、リバイアサンの現場ってことになるんだろうか?

 それも少しもったいないように思える。魔獣を長年狩ってきた経験を生かせる部署はどこになるのか……、やはり、直ぐに思い浮かばないな。


 突然、竿が暴れ出した。

 始まったぞ! これから2時間程が勝負だ。


 あちこちで、キャーキャーと嬉しそうな悲鳴が上がる。

 ローザ達も頑張っているようだ。

 魚の引きを竿の弾力と、リールのドラムに指を掛けたブレーキングで何とか耐える。

 引きが弱まったところでリールを巻き取るんだが、直ぐに強い引きが始まる。

 そんな行為を繰り返していると少しずつ引きが弱まってきた。

 近くに引き寄せて、大きさを見るとかなり大きい。


「タモを持って来てくれ!」


 大声を上げると、サンドラがタモを持って駆けつけてくれた。

 過ぐにタモ網を海面に下ろして「大きいわね!」と言ってくれた。


「タモに入れますよ!」


 声を掛けたところで、竿を使って魚をタモ網に持って行く。


「エイ! 入ったわよ。引き上げるのを手伝って!」


 サンドラ1人では重すぎるようだ。竿を置いて一緒に柄を握ると、「よいしょ!」と声を合わせてデッキに魚を取り込んだ。

 シレインがやってきて、棍棒でポカリと頭を叩く。

 バタバタと暴れていた魚が途端に大人しくなったぞ。


「かなり大きいですね。お父さんでもこの大きさの魚は滅多に獲れないですよ」

「重かったからね。本職に近付けたなら嬉しいな」


 お手伝いさん達の実家は漁師みたいだな。

 道理で手際よく魚を捌けるわけだ。

                 ・

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                 ・

 夕暮れを眺めながらコーヒーを飲む。

 海釣りはメリハリがついた漁だから、魚が釣れなくなったところで竿を畳める。

 また数時間後にやってくるらしいけど、今度は干潮だから見送るとアレクが言ってくれた。そうなると、次は12時間後になるから少しゆっくりできそうだ。


「おもしろかったのう。我も4匹を釣り上げたが、あれほど引きが強いとは思わなかった。そろそろ失礼するが、明日は別用じゃ。リオ、夕暮れ時にやってくるのじゃぞ」

「3人で行きますからね!」


 どんな話になるのか、とりあえずリボルバーは持って行こう。

 ヒルダ様は依頼したのなら、あまり問題の無い貴族でもあるんだろう。前回も騎士団の依頼を取り持っていたんだから、この前の貴族のようなことにはならないと思うんだが……。


 夕食後は、夜の海で一泳ぎ。

 レイバン達も楽しそうだな。やはり農園暮らしが続くと海を憧れるのだろう。

 アレクの部屋にも、帆船のジグソーパズルを飾ってあったぐらいだからね。


 次の漁は朝の4時頃らしいから、早めに部屋に戻ってシャワーを浴びる。

 3人で一緒に入らなくても良いように思えるんだが、一度に入れば時間の節約になると、フレイヤが言ってた。


 デッキで髪を乾かしてベッドに入る。

 この部屋にはプライベートのかけらもないんだけど、デッキには誰もいなかったからね。覗き見されるようなことは無いだろう。


 翌朝は、フレイヤに体を揺すられて起こされた。

 外は真っ暗だから、釣りを終えたら一眠りしよう。そんなことを考えながら顔を洗って眠気を追い出した。


「全く兄さんにも困ってしまうわ。昼間だけにして欲しいよね」

「でも、ヴィオラ騎士団の団員のためにここまで頑張るとは……、王宮の騎士達にも教えてあげたいくらいです」


 教えたら呆れた表情をするに違いない。

 騎士の鑑というわけでは無く、自分の趣味に忠実だということなんじゃないかな?

 できれば、それを俺達にまで広げないで欲しいと願うばかりだ。


「さて、頑張ろうか! 外に明かりが点いたから、すでに始まってるかもしれないよ」

「終わったら、午前中は寝てましょう。夕方に隣を訪問するのよね」


 そっちの方も気になるけど、先ずは魚を釣らねばならない。

 デッキに出ると、すでにアレク達が用意を終えて椅子に腰を下ろしていた。レイバンも隣でコーヒーを飲んでいる。ソフィーは寝ているのかな? 姿がみえない。


「ソフィー姉さんは寝てるんだ。僕一人だよ」

「休日なんだから無理しなくてもだいじょうぶよ。終わったらレイバンもベッドに戻りなさい」


「俺達もそうするつもりだが、ベラスコ達は完全に寝ているようだな。まあ、休暇中なんだから無理に起きる必要はない」


 俺達も寝ていた方が良かったかもしれない。

 少し人数が減ったけど、夜釣りも結構面白いんだよなぁ。


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