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M-152 細密画が描けるのなら


 カテリナさんの説明が続いている。

 今は、新型の銃だから、これで最後になるはずだ。


「……ということで、現在獣機が装備している銃よりも口径は小さいけれど威力は数倍になっているわ。それに2発撃つごとに新たな弾丸を装填しなければいけないんだけど、新型銃は5発を連続で撃てるわ。その上、マガジンを交換するだけで弾丸の交換ができる優れものよ。

 以上で説明を終えるけど、質問はあるんでしょう?」


 今までじっと黙っていたからな。

 最初に手を挙げたのはアレクだった。


「戦機の銃弾は炸裂するようだが、その威力は?」

「手榴弾程度だと考えて頂戴。最初の脱皮の後まで使えると思うわ」


「ロケット弾を獣機にも使わせることができるのか?」

「簡単な発射台を作ります。獣機なら装填も可能だから丁度良いわ。でも前に飛ばせるだけで、狙い撃つことはできないわよ」


 大砲が100門以上増えることになるんだろうな。

 カテリナさんの話に、フェダーン様が小さな笑みを浮かべている。


「外に無ければ次に行きたいけど、少し休憩しましょう。質問は引き続き受け付けるわよ」


 カテリナさんが席に戻ると、タバコに火を点けている。

 俺も1本取り出して何本目かのタバコに火を点けた。


「要するに、今までと異なるのは濃密な弾幕を張れるということで良いのか?」

「間欠的になるけど、その通りよ。現在その為のロケット弾作りを進めているわ」

「団列を作っても良さそうだな。止まることなくロケットの発射を続けられそうだ」


 一度に放つか、それともいくつかのグループを作って間断なく放つ方が良いのかはじっくり考えるべきだろう。

 ロケット弾の再装填には、時間が掛かりそうだからね。

 

「新型銃を獣機部隊全体に渡すことは可能なのか?」

「戦機用と獣機用に分けて製作してるの。戦機用はヴィオラ騎士団と機動艦隊に配備できるけど、騎士団まではとても無理だわ。獣機用となると機動艦隊の半数ぐらいがやっとだと思う」


 さっきまでの自信はどこに行ったかと思うほど、カテリナさんの声が沈んでいる。

 大量生産ができない、工房の職人次第だからなぁ。それでも製作品の品質は高いし、相互に部品を交換することもできるんだから腕は良いのだろう。


「新型銃の数を作れないのは何か理由があるんですか?」

「魔方陣の刻印が面倒なの。ドワーフの職人を何人か新たに雇ったんだけど、良い細工師は引き手も多いのよ」


 未だに鋼の加工が難しいらしい。長剣は鋼だが銃や大砲の銃身を叩いて作るらしいから大量の装薬を使って発射すると銃身が裂ける場合もあるようだ。

 その為に、銃身や機構部にいくつかの魔方陣を刻印して性能劣化と強化を図っているらしい。


「描く魔方陣も多いし、その大きさが銀貨並だということで、大変さが分かるでしょう? 永続するようにドリルカッターを使うんだけど、まるで細密画を描く感じね」


「もし、有能な描き手が現れたら?」

「1人で1割り増産できるわ。2人いるなら2割を超えるかもしれないけど……。当てがあるの?」


 要するに金属面に細密画を描ける人材ということだろう。

 バッグからスキットルを取りだして、カテリナさんの方に軽く投げると、アレクが腕を伸ばして受け取ってくれた。

 そのままカテリナさんに渡すのかと思ったら、中身を自分のグラスに入れてからだった。

 何を入れといたんだろう? 確かブランディーの良い奴だった気がするな。


「凄いな。かなり冷えているぞ」


 そんな声を聞きながら、カテリナさんがスキットルをひっくり返しながら眺めている。


「驚いた。本体強化に中身の品質維持と本体の劣化防止、中身を冷やすための魔方陣まで描いてあるのね……。どこで手に入れたの?」

「どこでと言われても……、ウエリントン陸港の売店ですよ。カウンターの奥の棚に並んでいた1品です。店番の店員は若い女性でしたが王立学院の美術家で細密画を学んでいたようです。芸術で世に出ることはできないと嘆いてましたけど、今でも、そんな細工をして腕を磨いているようですね」


「王立学院で細密画を学んだ連中を集めれば、量産ができるのではないか?」

「監修する人間も必要よ。至急この作者を探して仲間を集めれば、機動艦隊の獣機に新型銃を持たせられるわ」


 カテリナさんの言葉にフェダーン様が頷くと、隣の若い男性副官に顔を向ける。

 直ぐに副官が立ち上がって、カテリナさんからスキットルを受け取ると部屋を出て行った。


「直ぐに足の速い駆逐艦で王都に向かわせる。それにしても有能な人材はどこにいるか分からんな。自分を売り込む連中は腕が無いとは昔からの言葉だが、腕のある人材ほど在に隠れているということを知らせたかったのかもしれんな」


「余れば、エルトニア王国軍にも供与できるでしょう。そうなると銃弾が心配になるけど、3次製品まで複製魔法が使えるから神殿との調整で数を揃えられそうね」


 複製魔法がこれほど使えるとは思わなかった。

 銃弾は構造が比較的単純だということになるようだ。

 それに引き換え爆弾は、2次複製のみで信管は別らしいからね。


「次は、食料などの輸送になるんだけど……」

「ナルビク王国の東の兵站基地を利用することで問題は無かろう。今までもそこを同盟艦隊の兵站基地として使っているから規模も大きい。

 兵站基地までの輸送は商会ギルドに依頼して護衛は小規模騎士団と傭兵団に任せるのが常だ。

 兵站基地から我等が布陣する場所までの輸送は、軍の輸送船と護衛艦隊になる。ナルビクからも護衛艦隊を派遣してくれる手筈だから、ここまでの問題はないと考える。

 あるとするなら、荷物の受け渡しだ。その間の安全な場所を確保せねばならない。

 カテリナ、例の配置図を出してくれ!」


 カテリナさんがテーブルの上に乗せた箱の上部を軽くなぞると、画面が切り替わった。

 中央に真四角の黒い図形があり、その下部の隅から、30度ほどの角度で2つの長方形が列を作っている。

 正方形の下部の隅から、横手にも長方形が並んでいるのだが……、これってリバイアサンと軍艦の配置図ってことなのか?


「リバイアサンのドックで荷下しをすることは出来まい。リバイアサンの後方を使って補給を行う。左右に軽巡洋艦2隻を並べればリバイアサンの後方は比較的安全地帯と言えるだろう。右手をヴィオラ騎士団とガリナム騎士団に任せる。戦機と獣機、それに自走車を使って、艦の間を抜けるスコーピオを倒して欲しい。

 左手は機動艦隊から獣機を2個小隊派遣する。1個小隊がスコーピオ迎撃で、1個小隊は補給物資の荷役を行う。後方から回り込むスコーピオについては駆逐艦2隻で阻止する。リバイアサンの戦闘艦にも期待しているぞ」


 戦闘と補給の両方を行う必要があるってことだな。

 これならリバイアサンの中に機動艦隊の指揮所を設ける理由も納得できるんだが、戦闘のど真ん中に晒されるようにも思えるんだよねぇ……。


「軍艦が補給を行うために戦列を離れると大きな穴が開きそうに思えるんだが?」

「補給は戦機の輸送艇を使用する。一度に戦機4機を運べるのだ。かなりの荷を運べると思うぞ」


 あれをここで使うのか。

 装甲をどうとか言っていたから、スコーピオ戦に使えるとかなり前から考えていたに違いない。

 だけど武装が貧弱なんだよなぁ。その辺りはどうなるんだろう?


「これがリオの考えた戦機を輸送する陸上艦だ。操船部と戦機を乗せる甲板しかないのだが、天井部に装甲板を張り、全面を開けるようにした。

 ブリッジを小さくして左右に新型銃の銃座を組み込んだから、少しは役立つだろう。2隻でバディを組み、駆逐艦1隻が護衛をする予定だ」


 そんな輸送部隊を3組作るらしい。

 弾薬の消費量が激しくなりそうだから、かなり忙しくなるんじゃないか。

 場合によっては、リバイアサンの輸送艇も使うことになりそうだ。


「ところで、このような陣をつくれば、リバイアサンの正面と左右の砲塔群が使えるはずだ。砲の操作員は足りるのか?」

「まさか3方向に砲弾を放つとは思いませんでした。現在は1方向のみの砲員が何とかです」


「ナルビクの士官候補生を使ってくれぬか? ウエリントンは西に備えて仕官候補生の動員が行われる予定だ。エルトニアも同様だろう。だが、ナルビク王国の士官候補生にはその予定がない」

「貸して頂けるならありがたいです。できれば指導教官込みでお願いします」

「半年後には着任させよう。それで左右の砲塔も使えるだろう」


 リバイアサンの4面には、各18基の2連装砲塔がせり出し式で設けられている。

 正面は全ての砲塔を使えるだろうが、左右は同士討ちになりかねないから、三分の二程度の砲塔を使うことになるだろう。

 それでも12門だからね。10km程度の飛距離があるから、それなりに使えるんじゃないかな。


「飛行船の補給物資もリバイアサンで行うことになろうが、100ケム(150km)の距離まで近付いたなら、後方の兵站基地を使うことになろう。だが、数回は孵化地点に近い場所を爆撃できる」

飛行機はそのまま離着陸台を使用できますね。2つありますから、軍の方も何とかなると思います」


「廃棄寸前の商船を改造して利用するつもりだ。騎士団の補給所と同じ位置なら、かなり安全だろう」


 第2陣との距離はおよそ30km。

 確かに問題はないだろう。帰還途中で銃撃もできそうだ。


「果たしてどれ程の数が第2陣を抜けるのだろう……」

「前回は半数以上が軍の防壁を抜けたと記録があったわ。たぶん誇張しているはずだから……」

「2割を倒したと父上が教えてくれた。それほどまでの数だ。大量に弾薬を搭載していたようだが、2日も経たずに使い切ったらしい。いかに補給が大事かを私によくよく話してくれた」


 それこそ、通路にまで弾薬を積み上げてスコーピオに対峙したらしい。

 それを2日で使い切るんだから、凄い戦だったんだろう。

 今回はどうなるんだろう?

 皆の顔には不安しか浮かんでこないようだ。


「スコーピオにはおもしろい習性があるの。脱皮の前には共食いを始めるのよ。体が2回りも大きくなるんだから、たくさん食べることになるのでしょうけど、砂の海ではねぇ。

 倒れたスコーピオや傷ついたスコーピオがたくさん犠牲になる。そんなことが脱皮毎に行われるの。

 さらにもう1つ。脱皮後にはあまり動かなくなるわ。体表も柔らかいから拳銃弾でさえ倒せると記録にあったわ」


 なるほど、狙い目は最初の脱皮ということになるんだろうな。

 共食いするならその場からあまり動かないだろうし、体表が柔らかなら獣機の連中の銃で容易に倒すことも可能だろう。

 


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