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M-150 数を相手に何で戦う


「上陸を開始しただと!」


 俺の話を聞いて、アレクが大声を上げた。

 何時ものアレクじゃないな。酒の酔いなど吹っ飛んでしまったような感じがする。


「はい。カテリナさん達の話では約1年後だと……」

「時計が回りだしたということだろう。ベラスコ達の銃は、2回目の脱皮までは十分使えそうだ。2回目の脱皮後も至近距離なら何とかなるかもしれんが、魔撃槍の方が無難だろうな」


 あえて3回目の脱皮の話をしないのは、魔激槍でも難しいと考えているのだろう。大砲で直撃弾を与える外になさそうだが、アレク用に駆逐艦の主砲をベルッド爺さんが改造していることは未だ伏せておこう。


「あれなら、魔撃槍と違って弾の補給が格段に楽ですからね。牛ほどの大きさであれば200スタム(300m)の距離でも大丈夫ですよ」

「あまり狙わずに前に向かって撃てばどれかに当たると思うよ。とにかく撃ちまくることになりそうだからね」


「それで獣機も一緒に試射をしてたのね。獣機の人達はスコーピオ戦が終わってもあれで行こうと言ってたわよ」

「装薬を変えて弾速を速めましたから、従来の2連装銃よりも威力は格段に上がってます。とはいえ、魔獣狩り用としては、まだまだ威力不足でしょう」

「だが、彼等の言い分も理解できるな。その辺りはドミニクが考えるだろう」


 確かに俺達にはあまり関わり合いが無いことだが、獣機にすれば今までよりも自衛対策ができるということが大きいに違いない。

 でも、直ぐに次の弾丸を発射できる2連装の銃はそれなりに意味があるように思えるんだよなぁ。あの銃を強化すべきかもしれない。


「ところで俺の銃は何時になるんだ?」

「銃本体は出来ているようですが、戦鬼が使えるように改造するための時間が掛かっているようです。今年中には出来るとベルッド爺さんが言ってましたから楽しみにしていてください」


「銃を使うのは最初の脱皮を終えてからだろうな。孵化直後なら長剣で十分だろう。それだけ銃弾を温存できる」

「銃弾を気にするほどの相手なんですか?」


「最低でも50万、場合によっては100万の数になる。脱皮するたびに強くなるから、コリント同盟軍の中で、志願者による孵化地点への強硬攻撃が行われるほどだ。志願者の半数が帰らぬと聞いたことがあるぞ」


「駆逐艦数隻で向うんでしょう? 足が速いはずなんだけど……」

「風の海の野獣並みに動けるそうだ。大きなカブトムシでさえアリの大群に襲われたらやられてしまう。たぶん身動きが出来なくなった段階で自爆したに違いない」


 自爆する前までは、獅子奮迅の活躍を下に違いない。

 その行為でどれだけ数を減らせたのだろうか? 数千ということは無いだろうが、数十万を超える相手にとっては蟷螂之斧ということになるのだろう。

 その決死隊の役割を、今回は飛行船の反復爆撃で行うことになる。

 どれほどの効果があるか不明だけど、やらないよりはマシなんだろうな。

                ・

                ・

                ・

 リバイアサンから20kmほどの距離の魔獣はヴィオラとガリナムが狩り、50kmを越える場所は俺とアリスで狩りを行い魔石の取り出しはメイデンさんの指揮する戦闘艦が行う。

 1度、戦闘艦の船首にある大型砲を魔獣に試射したのだが、チラノ3体が木っ端みじんになってしまった。

 メイデンさんは大喜びだったけど、付近を捜してどうにか魔石を4つ見付けたんだよな。あまり使わないようにしないと、騎士団としての仕事が台無しになってしまう。


 1か月程東に向かって狩りを続け、エルトリア王国の東の端で少し南に下がり西に向かってリバイアサンを進める。

 途中で、他の騎士団に出会うと互いに「狩りの成功を祈る」と打電をするようだ。

 狩りをしているような時にはリバイアサンを迂回するだけの心つもりをエミーは持っているようだ。

 こっちが大きいんだからと、相手を退かせるようなことをしなければいい。

 俺達は騎士団同士、同格なんだからね。


「あら? 宴会は終わったの?」

「あのまま飲まされたら、何も出来なくなってしまいそうです。カテリナさんも夕食には少し早いんじゃありませんか?」


 いつ狩りが始まってもいいように、日中は離着陸台で待機する今日この頃だ。

 今日はベルッド爺さんに掴まって、工房の休憩所で酒を飲まされてしまった。

 ベルッド爺さんに悪気はないんだろうけど、一般人とドワーフ族では飲む量が違うんだよなぁ。

 早々に退散してきたんだが、カテリナさんは俺達の宴会を知っていたようだ。


「タイムテーブルを作ってみたの。フェダーンと調整する上での叩き台ということになるんだけど、リオ君にも出て貰うわよ」

「俺が、ですか? 役立てることは無いように思えますが」

「まだまだ、隠し玉を持っていそうな気がするのよねぇ……。そんなことができるのは、半年ぐらいよ。その後は、急に忙しくなるんだから」


 白衣の中から取りだした小箱を操作すると、仮想スクリーンがテーブルの脇に浮び上がった。

 魔方陣でこれができるんだから、科学技術が発達することは無いと改めて思ってしまう。


「こんな感じになると思うの。陣地を作る場所まで1か月は掛かるだろうし、直ぐに戦にもならないのよねぇ。

 その間の食料や水の移送も行わないといけないからかなりの物量が初期に必要になるわ。物資輸送に先行部隊を送ることになりそうね」

「弾薬ばかりとはいかないんですね」


 カテリナさんの話では、輸送艦3隻を1つの輸送単位にするそうだ。

 1隻は食糧と飲料水で2隻が弾薬になるらしい。

 

「先遣隊に獣機部隊の輸送艦も加えなければいけないでしょうね。護衛も小規模の機動艦隊になりそうだわ」

「確か機動艦隊の兵站基地も使うんですよね?」

「そっちの輸送は商船をレンタルすることになるはずよ。騎士団がいくつか護衛に付けば、海賊も近寄らないと思うわ」


 思うだけなんだ……。もっとも、火事場泥棒のような行為を働く海賊は、フェダーン様達が厳しく取り締まるに違いない。

 その辺りの調整は、海賊ギルドとの間で行われるんだろう。それとも、国難時の海賊の行動を別途取り決めているのかもしれないな。

 海賊を必要悪というぐらいだから、数十年に一度のレッドカーペットの出現時には、海賊の役目が定められている可能性もありそうだ。


「1年後ということでのんびりしてましたけど、結構やるべきことが多いんですね」

「そうよ。だから、作って欲しいものは早めに言ってね。でないと、私も複製魔法で忙しくなりそうだから」


 何か考えてみますと言ったけど、広域殲滅型の兵器ということなんだろうな。

 直ぐに頭に浮かんだのは核爆弾だったけど、後が面倒だしこの世界で作れるとも思えない。

 ん……、待てよ。確かリバイアサンの主砲の弾丸は魔石の融合弾だったな。

 たぶん、1発でかなりの被害を与えられるに違いない。

 だけど、試験もせずに使う方がもっと恐ろしく思える。威力に関わる記憶がすっぱりと生態電脳の記憶槽から消えているらしい。


 そうなると……、気化爆弾サーモバリック辺りが使えそうなんだが、果たしてこの世界で作れるのだろうか? 化学も科学も中世時代みたいなところがあるんだが……。


『サーモバリックは無理でも、ナパーム弾は使えそうです。重量は250kg程度ですから、新型飛行機なら1発は運べるのではないかと』

『プリンターに図面を出してくれないか。カテリナさんなら何とかなると思うんだ』


「何か考え付いたのかしら?」


 マグカップを手に持ってジッと見ていたようだ。

 アリスとの会話を聞かれたわけでは無いのだろうが、早めに教えておこう。


「大規模な火災を引き起こす爆弾を考えました。アリスが図面をプリントしてくれましたから、一度見てくれませんか。爆弾2発分より少し重くなりますが新型飛行機で運べると思います」

「上位魔法をその場で再現できるということかしら?

 王国軍の魔導士部隊にもできる連中はいるんだけど、50スタム(75m)程度までしか届かないから、王都の長城が彼等の持ち場になってるの。それが爆弾の形で再現できるならかなり有効ね」


 ニコリと笑みを浮かべて、エレベーターの方に歩いて行ったけど、果たして作れるんだろうか?

 とりあえず何か興味を持たせておけば、俺達にいたずらすることは無いから安心できそうだ。


 3王国の領地を東西に運航したところで隠匿空間に向かう。

 しばらく足を踏み入れなかったけど、どんな具合になってるんだろうな。

ヴィオラ騎士団専用区画に散策用の場所を設けたらしいし、ヒルダ様が庭師を手はいsてくれたらしい。それにフレイヤの実家から移ってきたネコ族の連中の畑作りも気になるところだ。


 ヴィオラとガリナム、それにフェダーン様の巡洋艦にまで乗り込んで、次々とリバイアサンの乗員が隠匿空間へと向かっていく。

 甲板にまで人が溢れているけど、こればっかりはしょうがないな。隠匿空間のすぐそばにリバイアサンを固定したから、1時間も掛からずに隠匿空間に入れるはずだ。

 最後の戸締りは俺の役目だ。

 離着陸台で一服を楽しみながら状況を見守る。


『魔獣の群れは近くにおりませんから、問題はないと推測します』

「一応、保険みたいなものだと思うよ。最後は、メイデンさんの戦闘艦だね。ドックの斜路を収納してドックを閉じてくれ」


『ドックの扉閉止シーケンスの作動を確認しました。リバイアサン内部の発熱反応は動力区画だけです。アイドリング状態の発熱ですから異常ではありません』

「火の元は、哨戒の連中だって確認しただろうし、マイネさん達はしっかりしているからね。喫煙場所は限定されているし、当番が最終確認を終えたと報告があったそうだよ」


 10日間は隠匿空間で休養だ。

 次は王都に向かうことになりそうだけど、砂の海の奥にあるオアシスのような場所だからね。初めて入る連中も気に入ってくれるんじゃないかな。


『隠匿空間の門が開きました。ヴィオラを先頭にしているようです』

「そうなると、俺達も出掛けた方が良さそうだ。離着陸台の収容を頼んだよ。上空で周囲を確認してから、隠匿空間に向かおう」


 バックから携帯灰皿を取り出してタバコを投げ込むとアリスの手に乗った。

 既に胸部装甲板が開いて、球体コクピットが開いている。

 シートに体を収めると、体がシートに沈むように固定された。

 球体コクピットが閉じて、周囲の様子が前面に映し出される。

 これでいつでも発進できそうだ。


『ドックの外壁が閉じました。発進後に離着陸台の収容シーケンスを作動させます』

「出発しよう!」


 離着陸台から、上空3千mに一気に上昇する。

 これだけ上がると、眺めが良いんだよね。

 魔獣の群れは近くにいないようだし、仮想スクリーンを開いて、周辺の動体検知を行ったがまるで反応が無い。

 少なくとも周囲50kmには魔獣はいないようだな。


『リバイアサンの何かが魔獣を避けているようです。調査しているのですが、今のところ原因は不明です』

「特定の音波、電波、磁界というわけでは無いだね?」

『少なくとも物理的なものでは無さそうです』


 大きいから怯えているだけかもしれないな。

 だが万が一にも何らかの原因があるなら、輸送船の安全を確保できそうだ。

 アリスの疑問は、しばらく黙っていよう。

 カテリナさんなら、他の仕事を放りださないとも限らないからね。


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