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M-015 今度は海賊


 ヴィオラ騎士団は厳戒態勢で南に進む。

 陸上艦の速度が20km/h程度であるのが、じれったくも思えるが、これほど大きな物体を12対の車輪で動かせることにも改めて驚く限りだ。


「小さな群れはいるようだが、停船する方が問題だと思っているようだな」

「かなりの数を稼いだはずだ。やはり海賊を一番警戒しているのだろう」


 どこか他人行儀な会話をアレク達がしているけれど、双眼鏡を使って周囲の監視は怠りない。手元にスキットルを置いているのが、いかにもアレクという感じだ。

 俺達はお茶で我慢だ。できればコーヒーが欲しいところだが、あいにくとコーヒーを切らしたみたいだ。ヴィオラ騎士団員の飲み物の好みが偏っているのかもしれないな。

 王都に行けばインスタントのコーヒーぐらいあるかもしれないから、個人的に仕入れておこう。


「やはり、夜になるのかしら?」

「夜ともなれば、襲う方もかなりのリスクがあるぞ」


 サンドラの呟きにカリオンが答えている。だけど、白昼堂々と襲ってくるとも思えない。

 深夜ではないとすれば、夕刻もしくは早朝に薄明時だろう。俺が私掠船を襲ったのも薄明時だ。


「どうやら、今夜になりそうだぞ。遠巻きに俺達を取り巻き始めたようだ」


 アレクの言葉に、急いで双眼鏡を地平線に向ける。

 小さな土煙が見えるな。何かがこの陸上艦と並走しているようだ。


「武装自走車というところだろう。東に3つ西に2つか……。北と南にも当然いるだろうから、少なくとも分隊単位で4方向だ」


 分隊という聞きなれない言葉に少し考え込んでいると、シレインが1個分隊は4台だと教えてくれた。それは獣機や戦機にも当てはまるらしい。4機が1つの戦闘集団として機能するのだろう。となると、アレクは分隊長ということになるんだろうな。


 周辺監視をひとまず中断してワインを頂く。ちょっとした休憩という感じなんだが、マストの上や後部の操船楼の屋上では、監視要員が交代で周辺に目を凝らしているに違いない。

 一服を楽しみながら、アレクに海賊団について教えを乞うと、カリオンやサンドラ達も色々と話をしてくれる。

 そんな話を纏めてみると、前に話してくれた海賊の規模以外に、海賊同士の同盟というものもあるらしい。

 大きな海賊団だとその下にいくつかの中規模海賊団を従えているし、中規模海賊は更に小規模の海賊団という感じにピラミッドのような階層構造を持っているようだ。

 そんな形だから、騎士団を襲う海賊と言っても必ずしも1つの海賊ということはなく、いくつかの海賊団が集まって襲うことになるらしい。


「大型の魔石通信機を使って相互に連絡をするようだ。襲撃に当たっても、前を塞いで横からくる。当然後方も遮断されるな」


 遮断は武装自走車が行うらしい。運転席を覆う頑丈な鉄枠を使って大砲を固定しているとは、物騒というよりも無謀に思えるな。

 口径60mmほどの前装式の大砲らしいけど、至近距離で撃たれれば陸上艦が大きいからかなりの確率で命中するだろう。被害は免れそうにないな。

 自走車が大砲を放ったところで、陸上艦を接近させるらしい。大砲を撃ち合いながら接近して最後は白兵戦とのことだ。


「白兵戦になっても、ヴィオラから出るんじゃないぞ。ヴィオラに入って来た海賊だけを倒すことに専念すればいい」

「最初は銃の打ち合いになるけど、早々当たるものじゃあないわ。でも、流れ弾ということもあるから隠れて撃つのよ」


 皆の行動をみて、同じように動いていればいいだろう。


「素朴な疑問ですけど、戦機で邀撃はしないんですか?」

「稼働時間と、相手の獣機の数が尋常じゃない。下手に出ればそれこそ袋叩きだ。魔撃槍の弾丸は3発だからな……。

 そういうことか! リオなら戦機のように相手に接近することなく海賊の陸上艦を叩けるはずだ」


 俺の肩をポンっと叩くと、飲んでいたワインを一息に飲み込んで船尾の操船楼に駆けて行った。

 残った3人が俺を見てるんだけど、俺にも理解できないぞ。


「リオをあらかじめ別な場所に待機させるつもりなんだろう」

「友軍を演出させるの?」

「そんなところだな。私掠船さえ落としたんだ。接近する海賊船の陸上艦なら簡単に思えるぞ。陸上艦を落とされた海賊達はどうするんだろう?

 近くの工房都市を目指すにも、武装自走車では走破距離がたりなさそうだ」


 荒野に置き去りにするということになる。何人助かるかは神のみぞ知るということになるんだろう。

 とことことネコ族のお姉さんが俺を呼びにきた。どうやらドミニクからの密命が下されるらしい。

 カリオン達に片手を振るとネコ族のお姉さんの後に付いていく。

 たぶんあの部屋なんだろう。ヴィオラの艦内に密談ができそうな場所は、あの部屋以外にあるんだろうか?


 案の定、案内された部屋はいつもの場所だった。

 部屋に入ると、ドミニクとレイドラそれにアレクがいる。すでに作戦は決まっているのかな?

 指示されるままに椅子に腰を下ろすと、ドミニクから作戦が指示された。煙幕に紛れてヴィオラ後方に位置を取りつつ合図を待つ。合図があり次第、後部を遮断すべく動いている武装自走車を破壊、その後に左右から接近する海賊船を破壊するというものだった。


「合図は、ヴィオラの上に信号弾を放つわ。赤の信号弾で行動を開始して頂戴」

「今回の航海で都合陸上艦を3隻破壊したことになりますが、罪には問われることはありませんよね?」

「私掠船は確認され次第、王国から褒賞が貰えるわ。海賊船については問題なし。正当防衛の範囲よ。相手が王国認定の指定海賊団であれば軍から褒賞が貰えるわ」


 褒章はどうでもいいけど、罪に問われないことが大事だ。

 ドミニクの話ではそれもなさそうだから、ドミニクの指示に従えばいいだろう。せっかく騎士団に入団できたんだからね。


「それでは準備して。15分後に煙幕を張ります!」


 ドミニクの指示に俺達は席を立つ。

 アレクは仲間のところに向かい、俺はカーゴ区域に向かうんだが、別れ際に「気を付けろよ」とアレクが呟いた。片手を上げて頷くとカーゴ区域に続く階段を駆け下りる。


「今度は海賊だと? まったく年寄りを休ませないとは困った連中じゃな」

「お手数をおかけします」

「何の! お前さんの問題じゃない。ここも忙しくなりそうじゃが、一応銃を持って行くか?」

「理由付けは必要でしょうから」


 俺の答えに髭の中から笑顔が見えた。

 タラップを上ってアリスのコクピットに納まると、煙幕が張られるのを待つことになる。


「どんな感じだ?」

『4方向を偵察車が取り囲んでいます。距離は3から5kmですから舷側扉を開くと同時に出撃すれば見つかることはないと推察します』

「陸上艦はどうなんだい?」

『この位置ですね。すでに先回りしています。騎士団の陸上艦と異なり、機動力が優れているようです』


 その原因は魔道機関の多段設置ということになるんだろう。強襲する艦と資材を移動する艦を別にしているのかもしれないな。


「海賊船は左右に1隻ずつなのか?」

『仮想スクリーンを表示します。現在の動体感知センサーではそのような形で展開しています。左右の大きな輝点が海賊船の母艦ということになりますが、マスターの考える資材運搬用の船は観測できません』


 半径30kmほどの範囲では観測できないのかもしれないな。さらに後方を進んでいるのかもしれない。

 だが、襲撃を担当する陸上艦の動きが騎士団の陸上艦を凌いでいるなら、ヴィオラのカーゴ区域を潰すような形で魔道機関を設置していることは間違いなさそうだ。


『ヴィオラ、後方に煙幕を放出始めました。前方の放出管からも放出が始まっています』

「舷側扉まで移動。開口と同時に後方へ離脱。最大速度で敵後方の武装探索車をすり抜ける!」

『了解です。ですが、敵探索車の後方に移動するだけですよね?』


「そうだが?」

 アリスの質問の意味が分からず、思わず疑問で答えてしまった。


『でしたら、煙幕の中で亜空間移動を行います。瞬時に後方に移動しますから誰にも分りませんよ』


 できるのか? 確か最初に俺が目覚めた時にそんなことを言っていたようにも思えるが……。

 空間魔法は近頃の研究テーマらしく、魔導士達間でたまに噂で瞬間移動に近いことも行われているらしいが、かなり大規模な魔方陣といくつもの上位魔石を配置するような話を聞いた。

 どうも俺には眉唾な話だけど、アリスは魔法を使わないんだよな。


『連続した時空間にはいくつもの捻じれや切れ目があります。物理法則を上位次元より書き換えることで、この四次元空間世界ならあたかも瞬時に移動したように動くことができますよ』

「それならアリスに任せるよ。後続してくる敵自走車の後方5kmほどでいいんじゃないかな」

『了解です。移動のタイミングは私が行います』


 目の前の扉がゆっくりと開いていく。カーゴ区域の中にまで煙幕が入ってくるが、結構な濃さだ。これなら舷側を開いたことは分からないんじゃないかな。

 舷側が横になったのを見計らってアリスを飛び立たせる。煙幕からでないようにヴィオラの舷側すれすれに地上を滑走して後方に滑走し始めた。


『亜空間移動を行います!』


 アリスが言葉を終えない内に、目の前に荒野が広がっていた。

なるほどね。一瞬にして20kmほどを移動したようだ。


「動態感知及び熱感知を作動。仮想スクリーンを1つ展開してくれ」

『了解です。半径30kmの動体感知情報を表示した仮想スクリーンを作りました。これならヴィオラと周辺の状況を監視できます』


「合図は信号弾を使うらしい。赤の信号弾ともなれば、さらに近づくことになりそうだな」

『ヴィオラ後方の自走車より3km後方に位置しましょう。直線距離で数kmですから、数百mほど上空に上がる信号弾なら視認可能です』


 性能が良すぎるのも問題なのかもしれない。俺達は十分にヴィオラの状況が分かっても、ヴィオラ側で俺達に合図するとなればタイミングを取る手段が問題だ。

 もっと上空まで達する信号弾を作るしかなさそうだが、小さな大砲みたいなもので打ち上げるようだから、提案しても採用されるかどうかは怪しい限りだ。


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