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M-149 時計が動き出した


 全長20m、横幅12mの戦機輸送艇は戦機4機を搭載して時速15ケム(約23km)で移動できる。

 乗員は操船担当が2人に甲板員が3人だ。甲板員はトラ族の連中だから、戦機の魔道タービン用の魔気を充填した大型のカートリッジを容易に交換することもできるし、小さなブリッジの左右に設けた新型銃に操作もできる。

 ブリッジ内の居住区は休憩室だけだけど、リバイアサンから数十km程度離れるだけだから問題はないだろう。

 移動時には、飛行機が周辺監視を行う手筈だから搭載した銃を使うことは無いんじゃないかな。


「どうにか完成したようじゃな。専用輸送艦には4艇搭載されるのか。輸送艇の航続距離が200ケム(300km)であれば、色々と役立つであろう。

 それにしても、専用輸送船は船首と船尾に開口部があるとは斬新じゃな」

「側面にも小さい開口部は付けましたよ。輸送艇が大きくなりましたから、輸送船内で大きく動けません。搭載するにはあのような形になってしまいました」

「良い良い、小型の輸送艇としても重宝しそうだ」


 意外と好印象だな。

 確かに50tほどなら容易に輸送できるだろう。


「これでほぼ次の戦の形が出来たようだ。後は軍備を進めるだけになる」

「西と東ですからねぇ。この間の戦でかなり消耗もしたんじゃありませんか?」

「直ぐに兵站基地から取り寄せている。王国軍の軍備は3回戦分だ。2回戦で戦の行く末は決まるであろう」


 とはいえ、ウエリントン王国やブライ同盟軍の軍備は防衛戦想定してのことらしい。

 侵略戦ともなれば、どれだけ軍備を用意しても十分とは言えないだろう。兵站は伸びるし、その輸送も考えないといけない。

 戦は国費の浪費以外のなにものでもないな。


「その上で、有力貴族の私兵もいる。中には数だけの兵力もあるだろうが、それは国境線を守らせれば分かるだろう」

「破られたら面倒になりませんか?」

「退役軍人の部隊がその後方を守る手はずだ。戦機は持たぬが移動式の魔撃槍を多数装備している。侵略するほどに防衛力は増すことになる」


 貴族は使い捨ての部隊という感じだ。今までの厚遇を使ってそれなりの私兵を育てているなら問題はないだろうが、華美道楽に走っていた貴族達は震えているんじゃないか?


「そう深刻な顔を見せるな。貴族が戦う事になる事態はそれほど高くはない。その前に機動艦隊戦が行われるであろうし、我が王国領にハーネスト同盟軍が入れば24時間以内にガルトス王国の王宮爆撃が行われる。

 それに、ハーネスト同盟軍の飛行機を凌ぐ飛行機を搭載した空母を2つ持っておるのだ。たとえ3個機動艦隊が現れようとも簡単に敗れることは無いだろう」

「飛行機は西で飛行船が東でしたね」


 とは言うものの、1個中隊規模の新型飛行機はスコーピオ戦に参戦することになるだろう。2機で分隊だから1個小隊で8機、中隊で32機になる。

 リバイアサンにも1個小隊を用意するようだ。第2陣を作る騎士団の前後は4機で何とかしないといけないだろうな。

                 ・

                 ・

                 ・

 リバイアサンが、ナルビク国境を越えてエルトニア領に入ろうとしていた時だった。

 高速駆逐艦がこちらに向かってきた。

 2隻だけだから、高級仕官が連絡事項を持ってやってきたのだろう。


 昇降台を下ろして乗船して貰い、プライベート区画の小会議室で待つことにする。

 小会議室と言っても、10名以上が座れる大きなテーブルがあるんだよね。

 

「たぶん、良くない知らせよ。覚悟しといた方がいいわね」

「コリント同盟の3王国は仲が悪いとは聞きませんが?」

「たぶん、やってきたということだろうな……」


 フェダーン様を真ん中にして、隣に俺が座る。俺の左にエミー、その隣がカテリナさんだ。

 マイネさん達が隣の部屋でお茶の準備をしている。

 緊急の会談だから、食事までは必要ないらしい。


 コンコンと扉が叩かれる。

 案内してきたのは、軍を退役した士官だろう。

 一歩部屋に入ると、騎士の礼を取った。


「コリント同盟軍のガルネン中尉を案内してきました」

「御苦労。我等は海賊に対する示威航海の途中である。先ずは座って来訪の目的を話して欲しい」


 案内してきた士官が後ろに下がると、2人の男性が前に出て騎士の礼を取る。

 その場で軽く胸に手を合わせて答礼したが、俺達は立たなくても良いのかな?


「失礼します!」

 

 2人がテーブル越しに席に付いたのを見計らって、マイネさん達がお茶を運んでくれた。


「昨日、0235時にスコーピオの大群が上陸し、砂の海に向かいました。始まります!」

「準備は着々と整っておる。孵化時の数を減らし、西への移動を阻止すべく騎士団との調整も終えておるぞ。前よりはマシになるであろうが、コリント同盟3王国の被害をゼロには出来ぬ。そこはご容赦願いたい」


 始まるのか……。時計が動き出したということだな。

 スコーピオが砂の海に卵を産みつけて1年後に孵化が始まる。

 1体のスコーピオが地中に産む卵の数はどれ程なんだろう? その卵を食べてくれるような魔獣はいないんだろうか?


「砲弾をどれだけ生産できるかが問題だな。演習の規模を小さくしてその分野砲弾を兵站基地に送らねばなるまい」

「複製で作るのではないのですか?」

「簡単な構造であるなら、複製は可能だが信管はそうもいかぬ。ロット毎に試験もせねばなるまい。銃弾なら複写が効くのだがな」


 それは銃の製作の話をカテリナさんに聞いて知ったことでもある。銃身を複製することはできるのだが、銃身を強化するための魔方陣は個別に書き込む必要があるようだ。

 機構部分も1体物としての複製は出来ずに、部品単位で複製して組み立てているらしい。

 まあそれだけでも、大幅に製造工程を短縮できているように思えるんだけどね。


「供与して頂いた飛行船で孵化の状況を観測する予定です。決死の覚悟で砂の海に出掛ける必要が無くなったことを皆が感謝しております」

「孵化する前には、何隻か新たに供与することも出来るに違いない。我等は飛行船から砲弾を落とすことを考えておる」


 フェダーン様の言葉に、2人が絶句している。

 かなり衝撃を受けたみたいだけど、せっかく上空に向かうんだからねぇ。何か落としてみたくなるのが人情だと思うんだけどなぁ。


「それは使えそうですね。飛行船の航続距離は千カム(1500km)を越えています。前線から数百ケム先の赤い絨毯に砲弾を落とせるなら、かなりの被害を与えられそうです」

「乗員を1人減らせば砲弾を1発運べるだろう。何度か試験をして、上手く行かぬ場合は手榴弾をバラ撒くのも手であろうな」


「なるほど、良いことを教えて頂きました。ですが、聞くところによれば西の雲行きが怪しいと……」

「西は飛行機を多用する。東は飛行船ということで3王国の内諾が得られておる。西はそれほど心配することは無かろう。我等は赤い絨毯を相手にすればよい」


 俺がタバコを取り出したのを見て、先方もタバコを取り出してフェダーン様に視線を向けた。

 フェダーン様が笑みを浮かべて頷くのを見て、タバコを取り出して火を点ける。中々礼儀正しい連中だな。

 マイネさんが、ワインのグラスを運んできてくれた。固い話が終わったと判断したようだ。


「それにしても大きいですね。動いているということに驚かされました」

「さすが古代帝国の遺産ではあるな。ヴィオラ騎士団の旗艦なのだが、ブラウ同盟軍に色々と協力して貰っている。赤い絨毯の前にこのリバイアサンを止めれば、後方の圧力は弱まるであろう。短い休養と補給ができそうだ」


「戦艦数隻に匹敵するのでは?」

「戦艦ではなく機動要塞そのものだ。戦艦数隻をもってしてもリバイアサンを沈めることはできぬであろう。機動艦隊より突出する位置で流れを阻止することになるであろうが……、2段に構える我等の陣を突破するスコーピオも多いであろうな」


「それでも数を減らせますし、戦艦数隻を横に並べるよりも阻止能力はありそうです。なるほど後方での補給も容易に行えるでしょう」


 リバイアサンの斜度は60度まではないらしいが、それなりに急角度だし、表面に凹凸はないからね。離着陸台を出しても、そこまで上って来るスコーピオはいないだろう。

 念のために、ドワーフの若者数人が新型銃を持って待機していれば十分じゃないかな。

 斜面に沿って手榴弾を滑り落としても効果がありそうだ。


 俺達に礼を言って2人が帰っていったが、俺達は席を離れずに少し話し合うことにした。

 改めてマイネさんにコーヒーを頼み、今後の対応を話し合う。


「飛行機は何とかなりそうか?」

「中隊規模を越えるんじゃないかしら。輸送船改造型の空母を用意するんでしょう? 搭載できない機体はリバイアサンで運用できそうね。それと、導師の方も2隻は何とかなるんじゃないかしら。飛行船の数は西に2隻、東に5隻になるわ。ナルビクとエルトニアに供与した小型飛行船だって使えるんじゃない?」

「飛行船は西に1隻で良い。王都爆撃で戦を止めることが無ければ、ハーネスト同盟軍の兵站基地を狙えばよい。機動艦隊への爆撃は飛行機があるのだからな」


「そうなると、リバイアサンの後方に簡易な兵站基地を作るようになるわね。爆撃用の爆弾と、当座の食料を用意しておけば後々の補給も楽になるわよ」

「老朽輸送船を3隻ほど用意するか。荷が無くなっても、簡易な阻止具として使えそうだ」

 

 騎士団への食料補給にも使えそうだな。

 戦機の輸送艇も荷物の運搬に使えるから都合が良い。

 スコーピオが押し寄せてきた時には、獣機達の簡易なシェルターにもなりそうだ。


「アリス用の弾丸はどうするのだ?」

「鉄の棒で良いんですけど、カテリナさん複製して貰えますか?」

「良いわよ。鉄の棒なら、それほど難しくはないけど千個は必要でしょうね。でも接近したなら白兵戦になると思うけど?」

「ベルッド爺さんにアリス用の長剣を作って貰いました。それとは別にアリスの背丈ほどの鉄の棒も貰いましたから、それで行きますよ」


 リバイアサンの後方で回り込もうとするスコーピオを間引きすることになりそうだ。

 数が多いなら、獣よりは鉄棒の方が都合が良いんじゃないかな。


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