M-148 性能試験が始まった
「凄いな。新型は倍以上の飛行時間になるのか」
「高度、速度も既存を凌ぎます。武装はもう少し考えないといけないでしょうね。巡洋艦の砲弾を落とせますから、軍が作るだけ購入してくれます」
帰還した飛行機が自走車によってハンガーへと曳かれていく。
再びアレク達がテーブルを持ち出して酒宴を始めるんだから、困った連中だな。
「あの飛行機がヴィオラに搭載されたら、狩りも楽になるんじゃない?」
「そうだな。朝夕に飛ばして貰えば魔獣の状況も分かるし、魔獣狩りの最中も上空で待機してくれれば安心だ。さすがに巡洋艦クラスの砲弾搭載する必要はないだろうが、駆逐艦クラスの砲弾を2発も搭載してくれれば、接近するチラノクラスの魔獣を牽制することもできるんじゃないか?」
作れ! ということだな。
今回ヴィオラがドックに入っているのは、新型飛行機を搭載するためでもある。
「2機を入れ替える予定です。でも、搭載するのは、リバイアサンの副砲用の砲弾ですよ。軍よりも魔気を充填したボンベを1本追加しましたから」
「2時間をさらに超えるのか? 確かに騎士団にはその方が都合が良さそうだな」
どちらかと言うと、スコーピオ戦時の落穂拾いを考慮した設計なんだけどね。
スコーピオ戦は軍が表舞台だ。
俺達は裏方に徹していれば良いのだろうが、中規模以上の騎士団が作る第2陣を突破されるとその後ろには零細騎士団がいるだけだ。
獣機を分隊程度で持つだけの騎士団ともなれば、落穂拾いと言うよりは自分達に向かってくるスコーピオを相手にするのが精いっぱいだろう。
それでも、狩れるのであれば被害を少しは少なくすることができる。
フェダーン様の話では、「殲滅ではなく数を減らすことを第一に考えよ」と言っていたぐらいだからなぁ……。
「試作した銃を早く撃たせてくれ!」という要望を再度聞いたところで、酒宴の場を後にした。
そう言えば、ベルッド爺さんはどこで銃の試作をしているんだろう?
駐機場の工房に寄ってみると、2mほどの銃身を持つ銃身がいくつも棚に乗せられている。
部材を知り合いの工房に頼んだのかな?
後々は数を作らねばならないから、試作段階から色々と準備をしているのだろう。
「リオじゃにないか! どうした?」
「アレク達に新しい銃の話をしたら、早く撃たせろと言われまして……」
「あれがそうじゃが、アレクの銃はまだ作っている最中じゃ。2丁作ってあるから、荷物用クレーンでドックに運ぼうとしておったところじゃよ。多銃身の方は飛行機への搭載が先じゃな。1か月は掛かりそうじゃわい」
「無理をさせて申し訳ありません」
「気にすることは無いぞ。ワシの知り合いもコリント同盟の王国にたくさんおるからのう。奴らの為を思えばこれぐらい容易いことじゃ。奴らも今頃は軍の艦船の整備で大忙しじゃろうな」
「たまに顔を出すんだぞ!」と別れ際に言われてしまったけど、予定よりかなり早い気がする。
まあ、準備は早いに越したことはないからね。
銃の方は、ベルッド爺さん達に任せておけば問題なさそうだな。
プライベート区画に戻ると、マイネさんがコーヒーを運んでくれた。
ありがたく礼を言って一口飲んでみる。
コーヒーの香りと砂糖の甘みが絶妙だな。やはりコーヒーは甘くして飲むべきだと改めて思ってしまう。
「あら? リオ君1人なの」
「アレク達の酒宴から抜け出してきたところです。ついでにベルッド爺さんのところに寄ってきましたよ。新型銃の完成も早いかもしれません」
「私の方も、結構うまく行ってっるわよ。ロケット弾の方は、発射装置の試作を始めたわ。ロケットの長さを2種類にしたの。四分の一スタム(40cm弱)胴体を延長するだけで、飛距離が1ケム(1.5km)以上伸びるんですもの」
「それでは次発装填に時間が掛かるんじゃありませんか?」
「短い方ならトラ族の兵士が容易に装填できるわよ。でも長い方だと2人掛かりになりそうね。同じ発射装置が使えるから、最初は長い方を装填すれば問題ないと思うけど」
最大射程が2種類できるなら、発射装置の仰角の可動範囲をそれほど広くする必要も無いだろう。
とはいえ、次発装填にどれだけ時間が掛かるかも確認しておいた方が良さそうだ。
「発射装置や砲に問題は無いんですか?」
「アリスが図面を作ってくれたおかげで、今のところは問題なし。駆逐艦に搭載する前に、地上発射試験を来週には行うんじゃないかしら? 自走車搭載型の方は6発を同時に発射できるようになってるけど、ちょっと自走車に問題が出てきたみたい」
どうやら積載量オーバーということらしい。
急遽、新たな自走車を作る事態になってしまったようだ。
ディスク型魔道機関を2つ搭載する方法で、何とかするとは言ってくれたけど……。
「それでも無理なら、搭載するロケット弾を半数にすることになるわ。でも、それではねぇ」
「場合によっては、更に簡易型の発射装置を作っても良さそうですね。ガイドレールに2脚を付ければ地上発射もできるでしょう。スコーピオが赤い絨毯のように密集して押し寄せて来るなら、狙いを付ける必要もありません。前に飛んで炸裂すれば良いんですからね」
なるほどねぇ……。と考える顔をしてるけど、こんな表情をしてる時は碌なことを考える時だとこの頃分かってきたんだよなぁ。
「獣機部隊ならそれほど難しくはないでしょうね。戦機の後方にいるんだから、最初は暇ない状態だから試してみようかしら」
「確か8体で1個分隊でしたよね。ヴィオラは2個分隊、ガリナムも1個分隊を持ってますよ」
「騎士団全部なら100個分隊を越えるわよ。1個分隊で2発放つだけでも、200発が発射されるでしょうし、仰角調整も適当になるでしょうから広範囲に弾着することになるわね。ロケット弾の口径は騎士団の制約を超えるけど、フェダーンが特例を認めてくれれば問題なし。それに発射しても精々3回ぐらいかもしれないわね」
たかが3回でも、その効果は絶大だ。最初の波をかなり軽減することができるんじゃないか。
場合によっては、固定砲台としても使えそうだ。炸薬量は駆逐艦の主砲を越えるんだからね。
「ロケット弾の方は軍の方が試験を繰り返してるんでしょう? カテリナさんの爆弾の方はどうなってるんですか?」
「着発信管と、高度連動型信管の2つを付けることにしたわ。投下後地上10スタム(15m)で爆発すると思うんだけど、試験があまりできなかったから、着発信管も付けたわ。安全のために、2つとも針金を差し込んで作動を止めてあるから、落とす時に爆弾外すことになるけど、懸架装置に結んでおけば落とす時に引き抜かれるはずよ」
大砲の砲弾と大きく異なるのは爆弾を包むケーシングの厚さだ。数ミリ厚まで薄くしたらしいけど、砲弾なら1cmを越えるだろう。それだけ炸薬を増やせるし、中に鉄屑を詰めて威力を高めているらしい。
「ブラウ同盟軍の方は、ケーシングを変えてないわ。あっちは軍艦の甲板を破らないといけないから」
「板張りではなく、装甲板を張っているんですか?」
「半セム(約7mm)程度だけどね。さすがに戦艦となると1セム(1.5cm)を越えるようだけど」
それぐらいの鉄板だったら、爆弾の重量と落下速度の運動エネルギーで貫通しそうに思える。
この世界の砲撃戦は砲手が個別に狙いを付けるやり方のようだから、互いの位置を計算して撃つようなことをしないようだ。
最初の1発を当てるのにかなり時間が掛かりそうだから、装甲もいいかげんになるのかもしれない。それに、装甲板を厚くして動きが鈍くなるよりは速く移動した方が結果的に被害が少ないということになるのだろう。
「そんな爆弾を王宮に落とすんですか?」
「それで侵攻を止められるとフェダーンは考えているみたい」
タバコを取り出して一服を楽しむ。
テーブルに乗せたタバコの箱からカテリナさんが1本抜き出したので、身を乗り出してライターで火を点けてあげた。
「ありがとう。まあ、そんな感じだからリオ君は心配しないでもだいじょうぶよ。砲弾や銃弾の増産体制も整えてるし、すでにナルビクの駐屯地への移送も始まってるわ」
「相手は100万を超えるんですよね?」
「50万を下回るとは思えないわね。過去には王都の長城を脱皮1回目のスコーピオが乗り越えたこともあったみたい。ブラウ同盟の3王国が生まれた原因とも伝えられているわ」
王国を分割するほどの被害と言うことになるのかな?
残った住民が現在のコリント同盟を作ったということなら、かなり離れた位置にあるウエリントン王国がスコーピオとの戦いに力を入れることも理解できる。
でも、それならハーネスト同盟の王国だって協力してあげるべきだと思うんだが、生憎と、その状況を利用することを考えているみたいだ。
「獣機用の簡易発射機を作ってみるわ。簡単な構造だから出来たら試してみましょう」
腰を上げたカテリナさんが俺の耳元で呟くと、頬に軽くキスをしてエレベーターの方に歩いて行った。
ライターを取り出して顔を見ると、やはりしっかりとルージュの跡が付いていた。
慌ててハンカチで拭き取ったけど、フレイヤ達に知られたらまた何か言われそうだ。
だけど、ロケットの簡易発射機なら陸上艦でも使えそうだ。駆逐艦にだって数機は乗せられるだろう。
最初のロケット弾の一斉攻撃はかなり見ものになりそうだな。