M-146 新型銃も作られ始めたようだ
買い物が終わった女性陣と合流したところで、夕食を近くのレストランで取ることになった。
今回は俺が驕るということになってしまったけど、何時もアレクに奢ってもらっているからね。たまには俺も出さないと矜持を疑われかねない。
「贅沢な休暇だったが、それなりに魚は釣れたぞ。クロネルも喜んでくれるに違いない」
「初めてだったんですが、色々と教えてもらいました。やはり釣りは楽しいですね」
ジョンの言葉にベラスコが頷いている。
その内に、アレクの別荘に招待されるんだろうな……。あれは休暇とは思えないんだが、それなりに楽しめたことは確かだ。
苦笑いを浮かべながらジョン達の会話を楽しむことにした。
「そうそう、リバイアサンでは皮の上下を着なくても良いんですって?」
「そうです。皆が綿のツナギですよ。色を変えることで直ぐに所属が分かるようにしてるんです」
「私達の分は用意されてるのかしら?」
「レイドラが準備してると思いますよ。騎士は黒です」
心配そうなサンドラに俺が着ているツナギを指差して教えてあげた。
航法関係はグレーだし、火器管制に統括される連中は赤だ。紺色は獣機士と飛行機の乗員が着ている。
機関部を統括するベルッド爺さん達は白なんだけど、一番汚れそうな部署だ。
カテリナさんや医務室勤務の連中はピンクだけど、選択したのはカテリナさんだからなぁ……。
その他の部署はグリーンで統一している。
「騎士団の船ですから、最低限拳銃だけは腰に下げてください。実際に船内で戦闘になることは無いと思いますが、念のためです」
「長剣を持たなくても良いということはあり難いことだ。ヴィオラの船室の置いておけば良いだろう」
注意点はそれぐらいだろう。
士官室を提供しますと教えたところで、再度グラスを掲げて夕食を終えることにした。
「それにしてもたくさん買い込んだね」
「どうにかベッドが使えるわね。5日でリバイアサンに乗船できるんだから、それまでの我慢ってことかしら」
トランクが3つに、キャリーに乗せた木箱が2つ。その他に、バッグや紙袋に入れた荷物が壁に積み上げられている。
荷崩れしないか心配になってしまうけど、アレク達もかなり買い込んできたみたいだ。
たぶんヴィオラのどの部屋もこんな感じになっているに違いない。
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休暇を終えた俺達は、ヴィオラ騎士団、ガリナム騎士団の2隻とブラウ同盟軍の巡洋艦2隻と駆逐艦3隻、それに輸送船5隻を伴って、ウエリントン王国の東端にある軍の駐屯地へと出発した。
5日間の航海は、風の海にも達しない緯度だから、魔獣の陰すら見えない。
低い灌木と草原がどこまでも続く平原だ。
騎士達の待機所とも言うべき3回のデッキで、毎日酒を飲む日々が続いていた。
ベラスコはすっかり毒されたみたいだけど、ジョンはどうなるのかな?
5日目の昼下がりに、軍の駐屯地に到着した。
一足先に輸送船1隻に無理やり乗り込んだ元軍人さん達と、リバイアサンへと向かう。
リバイアサンの出入り口を全て閉じてしまったから、俺とアリスで先にリバイアサンの入ると、ドックの開口を自動制御で行うことになってしまった。
「便利なようで、案外不便なんだよなぁ……」
『いくつかの代表的な自動操作の制御を遠隔で行うということであれば、魔方陣と魔石の組み合わせで可能だと推測します』
カテリナさんならできるかな?
頼んでみようか? 色々と忙しそうだけど、俺達で遊んでいるんだから、たまには俺の願いも聞いてくれるんじゃないかな。
2時間程掛かって、ドックに入るために斜路が現れると、輸送船が直ぐに乗り込んできた。
その後ろにヴィオラとガリナム、更には巡洋艦まで並んでいる。
それぐらいは入るんだろうけど、斜路を閉じるのが夕暮れを過ぎてしまいそうだ。
駐機場のデッキでアリスと共に、万が一に備えることにした。
「何じゃ、こんなところで黄昏とって!」
「夕暮れが始まってますからね。周囲を駆逐艦が取り囲んでますが、万が一も感が無いと……」
「ここは駐屯地じゃ。軍に任せ解くが良いぞ。こっちに来い。コーヒーぐらい用意してやるぞ」
ベルッド爺さんは、相変わらずだな。
駐機場とドックに2つに工房を持っているんだが、駐機場の工房は、どちらかと言うと組み立て調整を主に行っているようだ。
やはり、製作となると大型の機械が必要になるのかもしれない。
「アリス用の銃を自走車に搭載した試作車があそこにある。口径はかなり小さくしているから獣機用の銃弾よりも小さいが、威力は獣機の銃弾より貫通力があるぐらいじゃ」
コーヒーカップを持った手で、教えてくれた自走車の屋根には3mほどの長銃が搭載されていた。
元々がオープン型の座席の周囲を金属製のパイプで補強したジープのような代物だったんだが、更にごつい感じに仕上がっている。
「マガジンの弾数はどれぐらいになるんですか? それと陸上艦の外部装甲を撃ち抜けます?」
「マガジンに6発じゃ。輸送艦の装甲は100スタム(150m)なら撃ち抜けるが、巡洋艦の装甲は無理じゃな」
十分に使えそうだ。魔獣狩りにも使えるんじゃないかな?
「獣機もあれを元に専用の長銃を作るつもりじゃ。戦機の方は、リオの長銃と形は同じじゃが、弾丸は獣機と共通じゃ。魔撃槍用炸裂弾も作っておるぞ。1弾で数匹は倒せるんじゃないか?」
「あまり兵器の種類を作ると補給が問題ですからね。その辺りはベレッド爺さんの感性でお願いしますよ」
「その辺りは心配せずとも分かっているつもりじゃ。もっともアレクには飛行機用の銃を持たせようかと考えてるがのう……。ガハハハ!」
豪快なドワーフ族特有の笑い声をあげている。
飛行機に搭載する銃は、ガトリング機関銃だ。あんな代物だけど故障は少ないらしい。
マガジンの弾数が30発という制約はあるんだけどね。
「もう1つの兵器は、王都の軍の演習場で試験を繰り返しているそうですよ」
「あれか! 全く駆逐艦が巡洋艦の一斉砲撃を越える砲弾を1度に放てるんだからなぁ……。さすがに同じものは自走車に搭載できんじゃろうが、そこは数を増やせば良いはずじゃ。その辺りはフェダーン様も考えておられるじゃろう」
爺さんと呼ばれるのは肉体的な年齢ではなく、顔一杯に広がる髭かららしい。ネコ族のお姉さん達が呼んだのが始まりらしいとアレクが教えてくれたけど、ドワーフ族では壮年期あたる80歳を過ぎたばかりのようだ。
寿命が150歳を過ぎる種族らしいから、これから数十年はヴィオラ騎士団の工房の親方として活躍してくれるに違いない。
『艦船の収容が始まりました。最初にヴィオラと軍の輸送船が入ります』
『了解。その辺りの順序はドミニク達が考えてくれてるはずだ。輸送船にはリバイアサンの連中が乗ってるだろうけど、全ての船が入るまでは待機することになりそうだ』
赤い絨毯を前にしてドック開くことになるだろうから、ドック周りの武装強化と安全策も検討しなければなるまい。
だいぶ先の話にも思えるが、それは確実に訪れることだとフェダーン様も言っていたからなぁ……。
ドックを開いて2時間が過ぎた。
俺の持つ端末を使って仮想スクリーンにドックの入り口の様子を映し出す。
珍しいのだろう。数人のドワーフがベンチを持って俺達の後ろに座って眺めている。
「輸送船の2隻目がようやく離れた。次は王国の軽巡洋艦のようじゃ。フェダーン様はだいぶ待たされたのう」
「まだ戦闘艦が残ってますね。メイデンさんはきちんと役目をこなしてくれます」
「あの女傑か! 全くドワーフと酒の飲み比べをして勝つ女子は初めてじゃわい。まあ、奴の勝ちじゃから、望みは叶えてやったがのう」
その望みというのが船首に開いた大型砲の解凍だというんだからなぁ……。
原理的には魔撃槍の初期型らしく、戦機の持つ魔撃槍のように初速は出ないし連続射撃もできないと教えてくれた。
「それでも2ケム近く砲弾を飛ばせるのが気に入ったらしい。砲弾は重巡並みの大きさだ。攻撃よりは脅しに役立つかもしれんな」
「砲弾の当てはあるんでしょうか?」
「数発渡して貰えたなら、後は自分達で『複製』すると言ってたぞ。それほど使う機会があるとは思えんし、戦闘艦の中に搭載できる数は数発じゃからな」
大型砲の破壊力に期待できそうだが、使う機会はあまりないはずだ。
あまり関与しないでメイデンさんの好きにさせておこう。狩りの後始末ばかりでストレスが溜まった時に適当に撃って憂さ晴らしをして貰えば良いんじゃないかな。
『マスター。艦船の収容が終わったようです。「待機を解除し、プライベートルームで休息せよ」と連絡を受けました』
『了解。直ぐに向かうと伝えて欲しい』
「何時もお世話にになります」とバッグから2本の蒸留酒を取り出して、テーブルに置く。
あまり遅くなると文句を言われそうだからね。
ベルッド爺さんの工房の休憩室を出ると、駐機場を後にした。外に張り出していた離着陸台がゆっくりと収納されている。
外周を完全に閉じたら、リバイアサンの中なら荒野でも安全に暮らせる。
まさに、動く武装工房都市そのものだ。
エレベーターまでの長い通路をキックボードで進む。
やはりこれは正解だった。
住民の中にも、マイ・キックボードを使う連中が増えてきたように思える。
たまにぶつかって、カテリナさんの世話になる連中がいるようだけど、名医でもあるみたいだから少しは安心できるんだが……。
怪我をした時の内服薬? というのがどうも胡散臭いんだよなぁ。
俺達だけでなくリバイアサンで暮らす連中までも、カテリナさんの目にはモルモットのように見えるのかもしれない。




