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M-145 スキットルの細密画


 たっぷりと日に焼けた姿は、他の騎士団ではあまり見られないんじゃないかな?

 活動の場が中緯度だし、普段はしっかりと皮の上下に帽子とサングラス姿だからね。

 だけど、それは最初の頃だけだったように思える。

 この頃は、綿のツナギを着るだけだ。たまに外で活動する時に帽子を被るぐらいになってしまった。

 

「良く焼けたわね。ちゃんとサンオイルを塗らないからよ!」

「おかげでお風呂がねぇ……。今日も、シャワーにするよ」


 そんなことを言っているフレイヤだってかなり焼けたんじゃないかな? エミーはそれほどでもないけど、フライヤは毎日海に出ていたからね。

 裸になっても水着の後が綺麗に残っているんだから、思わず笑みを浮かべてしまう。


「明日は陸港に行って、明後日が出発になるのね。長いようで、短かったなぁ……」

「明日はたくさん買物をしないといけませんね?」

「そうね。しばらくは補給のみだから、嗜好品が主体になるのかな」


 嗜好品と言ってもお菓子だろうし、俺の場合はタバコと酒になるんだよね。エミーは何を買うんだろう? 紅茶とコーヒーはマイネさんが仕入れてくれるはずだ。


「荷物の整理は終わったの?」


 カテリナさんが、ビキニに白衣と言う何ともな姿で姿を現した。

 もう海に入ることが無いんだから、早めに着替えた方が良いと思うんだけどなぁ。


「全て終わりました。後は自走車に乗るだけですよ」

「しばらくは王都にも帰れないわね。明日は陸港で買い物をするんでしょう? 私の方はガネーシャにリストを渡しておいたから、コンテナですでにヴィオラに運んだわ。たまにケーキを御馳走してあげられるわよ」


 料理ができるんだ! 前はトーストを食べさせてもらったけど、ケーキができるなら凄いと思うな。


 別荘最後の夜をワインで締めくくり、翌日は王宮が用意してくれた馬車で陸港に向かうことになった。

 3時間程馬車に揺られた後にヴィオラの士官室に付いたのだが、荷物を置くなりフライヤ達に連れられて買物に出掛けることになってしまった。

 途中の喫茶店で、食べたワッフルが昼食だから夕食はたっぷりと食べたいところだ。


 3人分の魔法の袋をバッグに詰めて肩に背負う。

 トランク3個分は入るという代物なんだが、フレイヤ達の買い物を全て入れらるんだろうか?

 あちこちの商店に足を運ぶたびに俺一人では抱えられそうもない荷物が増えていく。

 5件目の時には、改めて大きな魔法のバッグを2つ買い足したぐらいだ。


「残りはお酒ぐらいだけど……、リオは無いも買わなくても良いの?」

「さっきタバコを大人買いしてきたよ。そうだね……、あの部屋に合うようなワイングラスが欲しいかな」


 ガラス工芸店にフレイヤ達が足を速める。

 フレイヤ達も欲しかったのかな?

 飾ってあるカップは手に取るのが怖い感じがするような代物ばかりだ。バッグをぶつけないように、店のカウンター付近で2人が選ぶのを待つことにした。


 何気なくカウンター奥を眺めたら、たくさんのスキットルが並んでいる。

 店の飾りなんだろうか? お酒を飲む高級なグラスを置いてあるぐらいだから、スキットルを装飾にしていてもおかしくはないんだが……。


「棚の飾りは洒落ているね。そんなスキットルが欲しいけど、陸港で見たスキットルはごつい感じばかりなんだよね」

「これですか!」


 店員のお姉さんが嬉しそうな笑みを浮かべて、いくつかをカウンターに並べてくれた。

 錫製のスキットルは楕円形をしている。通常は四角形だから、それだけで目に付くんだよなぁ。

 

「へぇ~、かなり細かに彫刻してるんだだ」

「彫刻を学園で学んだんですけど、やはり才能が無かったんでしょうね。この店で働きながら、作品を飾っているんです」

「なら、売ってくれないかな? これと、棚の左から2番目が欲しいんだけど」

「買ってくださるんですか!」


 吃驚した様な声を出して驚いているんだけど、良い品だと思うんだけどなぁ。


「こっちは友人と飲みたいし、あっちのはバッグにいつも入れておきたいと思っていたんだ」


 少し大きなスキットルはワイングラス2杯は入るだろうし、小さな方は1杯と言うところだろう。

 アリスの手の上で夕日を眺めながらスキットルをあおるのは、ちょっとした贅沢に違いない。

 絵柄も、大きい方は魚だし、小さい方は女性の姿なんだけどどことなくアリスに似ている気がするんだよね。


 裏はどうなっているんだろうとひっくり返してみたら、真ん中に魔方陣が刻んであった。


「強化の魔方陣なんです。収納を刻もうと思ったんですが、それならスキットルの意味が無くなりそうで……」

「彫刻に傷を着けたくないからね。俺もそれで良いと思うけど、だいぶ小さく刻んでるんだね」

「細密画も学んでいましたから……。でも、魔方陣を刻む職人はたくさんいるんです。やはりこれで食べていくのはできませんでした」


 誰もが学んだことを、実社会で生かしながら暮らせるわけでは無い。

 このお姉さんも、ある意味その腕を生かしきれなかった1人なんだろう。

 だけど、お店で自分の作品を売れるんだから、店主と仲が良いのかもしれないな。


「値段は?」

「スキットルが銀貨2枚でしたから……」


 黙って銀貨を10枚カウンターに並べた。


「これで良いかな?」

「多すぎます!」

「芸術に値段は付けられないと思うんだけど、俺にはこれ以上の価値があると思うよ」


 驚いているお姉さんに無理やり銀貨を押し付けて、2つのスキットルを包んでもらった。

 それにしても、フレイヤ達は時間が掛かってるな。

 お姉さんに外で一服していると伝言を頼んで店の外にベンチに腰を下ろす。

 ターブルベンチがいくつか並んでいるから、ちょっとした休憩コーナーなんだろう。


「リオ! こんなところにいたのか」


 数人連れの男女が近づいてきた。声の主はアレクだ。良く通る声だな。

 

「あら、1人なの?」

「あの店の中でエミーと物色中です。たまには洒落たグラスで酒を飲みたいですからね」

「カップは大きい方が良いぞ。サンドラ達も買い物があるんだろう? ここで俺達は休んでいるよ」


 ベラスコともう1人の男性がテーブルを囲むと、アレクが近くのお姉さんを呼び止めた。メイド服のような制服だから店員なんだろうな。


「いらっしゃい。注文かにゃ?」

「そうだ。俺はウイスキーをたっぷりとコップに注いでくれ。リオ達も酒で良いのか?」

「出来ればコーヒーで、マグカップに薄めのコーヒーでお願いします」

「俺達はビールでいいや。お前もそれで良いだろう?」

「もちろんです!」


 ベラスコにも弟分が出来たみたいだ。

 リバイアサンの戦機2機を下ろしたから、戦機は全部で7機もある。ガリナム騎士団の3機と共同での狩りだから、昔と比べれば狩りも楽になったに違いない。


「ジョンは始めてだな。こいつもヴィオラ騎士団の騎士だ。男爵という称号も持ってるし、嫁さんの1人は王女様だからな」

「ヴィオラで見かけたことは無いですが?」

「ヴィオラの旗艦、リバイアサンに乗っている。来年はたぶん東に向かうに違いない。楽しめると良いんだがな」


 どうやらアレク達はずっと魚を釣っていたらしい。

 ベラスコも案外釣り好きなようだ。となると、ジョンも感化されていくんだろうな。


「たまには、こんな感に酒を飲みたいですね」

「リオは離れてしまったからなぁ。だが、今度はリバイアサンと行動を共にするらしいぞ。リバイアサンで休息を獲れるなら長い航海で神経を擦り減らさず済みそうだ」


 初耳だけど、リバイアサンに3艦がドック入りするのかな?

 そうなると宴会の場所は……。


「折り畳みの椅子とテーブルを買い込んでおきますよ。飛び入りもありそうですから椅子は大目に用意しておきます」

「頼んだぞ。俺は酒を冷やす箱を作っておいたからな。魚を入れる箱だが、氷を長く保存できる優れものだ」


「でも、リバイアサンのドックでは……」

「良い場所があるんだ。飛行機の離着陸台は駐機場所から出られるんだが、まだ飛行機の数も乗員も揃っていないからね。それに、リバイアサンに搭載される戦機も同じ場所にあるんだ」


 ベラスコはヴィオラのデッキのような場所が欲しかったんだろう。

 離着陸台なら30m四方はあるし、眺めも最高だからね。


「ほう、それなら直ぐに出られそうだが。前に聞いた話では100スタム(150m)ほどの高さなんだろう?」

「落ちないでくださいよ。一応、格納式の柵はあるんですが」


 アレク達は余り動き回らないから落ちることは無いだろう。どちらかと言うと、ローザの方が心配なんだよなぁ。柵にもたれかかって双眼鏡で眺めている姿を見ると、こっちがヒヤヒヤしてしまう。


「ここにいたのね!」

「ああ、アレク達と偶然出会ったからね。シレイン達はあっちの店に行ったみたいだよ」

「あの店ね! それじゃあ、これを持っててね」


 大きな荷物を渡されたけど、それほど重くはない。

 魔法の袋に押し込んでいると、フレイヤ達は次の店に向かて歩いて行く。

 今度は何を買うんだろう?

 いくら買っても置く場所に困ることは無いんだけど、無駄使いは良くないと思うな。


「相変わらずだな。まあ、元気で何よりだ」

「隣の女性が、王女様なんですか?」


「ジョンは初めて会うのか? エメラルダ第3王女だ。その内に挨拶しておくんだな」

「その内に、お妃様にだって会えるかもしれないよ。フェダーン様がリバイアサンに乗船しているからね」


 かなり驚いているな。ローザとは会ったことがあるんだろうか?

 王家に関わる人物が3人も乗っているんだから、ブラウ同盟軍としても一目置かれる存在になってしまった気がする。

 

 とはいえ次の航海は、リバイアサンを使った狩りが主体になりそうだ。

 騎士団なんだから、やはり本業で稼ぎたい。

 王宮や軍からの報酬も貰っているし、カテリナさんからも特許料の一部が俺の口座に振り込まれているから、赤字にはなっていなそうだ。

 だけど、収入が不安定であることは間違いない。

 早めに収支を計画化しないと、夜逃げを笑い話で済まされなくなりそうだ。


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