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M-144 ハーネスト同盟が西に向かわぬ理由


 ここを別荘に選んだ理由は、翌日の海に出て理解できた。

 良い波ができるようだ。

 たぶん遠浅の砂浜の奥に深い谷があるんじゃないかな? 大波ができる場所がいつも同じ場所だ。

 ここならサーフィンを思い切り楽しめるんだろうけど、引退した王族が住んでいたという事は、まだまだ体力は十分にあったんだろうな。


「リオはできるの?」

「さあ、どうだろう? でもやってみたいよね」

「それなら、あそこにボードがあるわよ。私達もやってはみたんだけど……」


 ドミニクの話の語尾が小さくなった。

 できなかったということなんだろうな。だけど、立てなくたって波に砂浜に運んで貰うだけでも面白いんじゃないか?


「それで、その小さい板は?」

「これで波に乗るの。この板に伏せるだけだから私達にも簡単なのよ」

「リオもサーフボードに乗れない時には、これを使ったら? 結構面白いのよ」


 なるほど。別に立つ必要も無いってことか。

 だけど、軽快なターンやパイプラインは楽しめそうにないな。先ずは、サーフボードで試してみるか!


 ボードに上半身を預けて沖に向かって泳ぐ。

 50m程沖に出たところで、大きなうねりが来るの待つことにした。

 フレイヤ達はここまでは来ないようだが、50cmほどの波を上手く捕えて渚近くまで運ばれていくのが見えた。

 エミーもこんな遊びは始めてなんだろう。キャー、キャーと騒ぐ声がここまで聞こえてくる。

 

 おっ! 良い波が来るぞ。

 渚に向かって泳ぎ始めると体が持ち上げられる。

 うねりの先端にいないといけないんだよな。急いでバタ足で波がしらに向かっていくと、体が押し出される感じで波と共に運ばれていく。

 あまり方向を変えられないんだけど、これは仕方がないのかもしれない。

 何度か波と戯れたところで、ヤシの木陰のテーブルセットに腰を下ろして、一服を楽しむ。


『サーフィンはしないのですか?』

「やったことが無いからなぁ。あまり無様な姿を見せるのも……」

『なら、プログラムを追加しましょう……』


 ちょっとめまいがした。いきなり頭の中に、情報が激流のように流れ込んできた感じだ。


『これで、サーフィンが楽しめますよ』

「ありがとう……。なるほど、あの辺りで波を待てば良いんだね」


 先ほどまで遊んでいた場所より少し東に移動すると、確かに大きな波がやってくる。2mを越える波のようだから、サーフィンを十分に楽しめるに違いない。


「あら、ここにいたの?」


 聞きなれた声に頭を上げると、カテリナさんとローザ達がサーフボードを抱えていた。

 皆、サーフィンが出来るというのだろうか?

 

「姉様たちは……、あそこじゃな。まぁ、あの辺りなら遠浅だし、引き波にさらわれることも無かろう。我等はあの場所じゃ! 兄様は……、それで遊んでたのか?」

「まあ、調子を見たかったからね。後で俺も行ってみるよ。ローザの腕をみせてくれないか?」


 笑みを浮かべて友人達を率いて行った。男女5人組だけど、貴族の子弟に違いない。

 俺に軽く頭を下げて行ったから、最低限の礼儀をわきまえているのだろう。


「上手く誤魔化せたようね。はい! ジュースを持って来たわよ」

「ありがとうございます。それで工廟の方は?」


 カゴの中から取り出した水筒からジュースを取り出して、2つのコップに注ぐ。

 1つを手渡してくれたけど、このジュースはだいじょうぶなんだろうな?

 お礼は言ったけど、ちょっと飲むのが怖いんだよね。


「今のところは順調よ。リオ君の言うところの多連装ロケット砲も試作が出来つつあるわ。1度に18発を撃てるわよ。自走車が駆逐艦の一斉砲撃になるんですもの、フェダーンの顔がいつも緩んでいたわ」

「駆逐艦に搭載する方は?」

「先ずは1隻ということで砲塔の撤去を行ってるみたい。甲板上の艤装をやり直すことになるから1か月は掛かりそうね。でも、見た感じではロケット砲の基台を4基搭載できそうよ。1度に放つ砲弾重量は巡洋艦を越えそうね」


「残っているのは銃ということになるんでしょうね?」

「アリス用の銃を10丁作っているわよ。炸裂弾じゃないから、基本は獣機の銃弾をそのまま大きくした感じだけど、威力はあるしアリスのおかげで半自動装填機構を備えさせたわ。銃弾は5発だけど、魔撃槍より使い良いんじゃないかしら?」


「マガジンを交換することで、迅速な銃弾を補給できれば十分だと思います。それともう1つの方は?」

「ベルッドに任せているから、リバイアサンに戻らないと分からないわ。でも、あの図面を見せたら唸ってたわよ」


 6銃身のガトリング機関砲だからねぇ。銃身をクランクで回すと装填と射撃、最後に排莢が連続的にできる代物だ。全て金属製部品だけで電動部分が無いから、金属加工に優れた腕を持つドワーフ工房なら難しいとは思えない。


「マガジン内に銃弾が30発。2発ごとに曳光弾を入れるということは理解できるわ。照準器は付ける予定だけど、曳光弾を相手に当てるように射撃をするんじゃないかしら」

「その辺りは訓練次第ということなんでしょうね。飛行船の改造も行ってるんでしょう? まだ爆撃訓練は行っていないんですか」


「フェダーンの機動艦隊に航空部隊が出来たんだけど、その中の1個中隊を飛行船を使った部隊にするそうよ。

 3隻を使って偵察と爆撃を行うらしいわ。1隻はブラウ同盟艦隊に残すみたいね」


 秘密兵器と言うことになるんだろうな。

 飛行距離は1800kmを越える。ウエリントン王国の国境近くから飛行させれば、西の隣国であるガルトス王国の王都を爆撃できるだろう。

 

「出来れば王宮だけを爆撃して欲しいですね」

「その辺りは十分注意するんじゃないかしら。場合によっては泥沼の戦になりかねないもの」


 ウエリントン王国を含めブラウ同盟諸国は、平和的な国力増加を図っているようだ。

 東のコリント同盟3王国は、数十年ごとに繰り返されるスコーピオの脅威で版図の拡大など考えもできないだろう。

 ハーネスト同盟だって東に目を向けずに、西に版図を広げようとするなら問題は無いんだけどねぇ……。

 西にもヤバい魔獣がいるんだろうか?

 

「ところでカテリナさん。ハーネスト同盟はなぜ東に食指を伸ばそうとするんでしょうか? まだまだ西には広大な大地が広がっているように思えるんですけど」

「そうねぇ……。コリント同盟、ブラウ同盟、それにハーネスト同盟の9か国は大陸の南岸沿いに王国を作っているんだけど、その総延長は大陸の半分を超えるぐらいになるのかしら? 

 西に向かってくれるなら助かるんだけど……。ひょっとして!」


 俺の顔を持ってグイッと自分の目の前に持って来る。

 グキッ! と首の骨の音がしたのは錯覚ではない。全くとんだ力を出すんだから。


「何か閃いたってことかしら? 教えてくれるなら、良いものを上げるわよ?」

「子供じゃないんですから、餌で釣らないでください。ハーネスト同盟が西に版図を広げようといないのは、しようとして失敗したんじゃないかと思っただけですよ」


 ニコリと笑みを浮かべて、顔から両手を話してくれた。軽く首を回して異常が無いかを確認してみる。

 とりあえず、異常はないみたいだな。


「そうなると、当然その原因も考えたんでしょう?」


 カップのジュースをあおって、今度はワインを取り出して注いでいる。

 俺のカップにも注いでくれたけど、あまり飲むとサーフィンが出来なくなってしまいそうだ。

 とりあえず、タバコを取り出して火を点ける。


「まだ見ぬ魔獣ではないかと……。たぶん、それと彷徨う島の話は繋がっている可能性もあると思っています。そんな魔獣がいるとなれば、伝説の島も実在するとね」


「伝説の魔獣ってことかしら。そうなると彷徨う島の話に搭乗する魔獣ってことになるんだけど……」

 

 首を傾げて頷くという器用なことを始めたら、直ぐに腰を上げてサーフボードを抱えて別荘に戻っていった。

 早速調べるのかな?

 どんな魔獣なのか、ヒントぐらいは出て来るかもしれない。


 さて、今度はサーフィンを楽しもうか!

 ローザ達が華麗に大波を滑り降りている。アリスのおかげでいろんなことができるんだけど、その情報はずっと昔から持っていたんだろうな。

                 ・

                 ・

                 ・

「さすがは兄様じゃ。あれなら王国の大会に出ても上位入賞が出来るじゃろう」

「リオは、やったことがあるの?」


 華麗な姿を見せたのは良かったが、色々と追及されそうだ。

 何とかスポーツは得意だと言って誤魔化してみたんだけど、カテリナさんが笑みを浮かべて何も言わないのが怖く感じるんだよなぁ。


「兄さん達は、自分の別荘に行ったのかしら?」

「もっと西にある貴族専用の別荘に案内しておいたのじゃ。砂浜もあるが、良い岩場がある。貴族の釣り自慢達がこぞってやってくるぞ。今頃は腕を自慢しながら酒を飲んでいる頃じゃろう」


 アレクが喜びそうなシチエ―ションだな。貴族と腕を競うなんて早々できることじゃない。

 騎士という肩書があれば貴族と同格。それなりの対応はできるだろうけど、問題は食事だと思うな。

 優雅に食べるなんてことは、絶対できないと思うんだけど……。


「ベラスコ達も一緒よ。ガリナム騎士団の騎士達も同行してるから、さすがに食事は別室を使うんじゃないかしら」

「まあ、旅の恥はそのまま流すという言葉もあるぐらいじゃ。良い思い出になればそれで良い」


 こっちの別荘で良かった感じがする。

 絶対に恥をかきそうだ。「あれはどこの騎士団だ?」なんて王宮内の噂になったら、ヒルダ様達も困ってしまうだろう。


「ここで休んだら、次は何時来れるか分からないようじゃな。フェダーン様が軍を率いて東に向かうと聞いておる。西の対応は誰になるのか王宮でもめるかもしれんぞ」

「フェダーン様のことですから人選は終わってるんじゃないかな? とはいえ、ウエリントン王国の一大事になりかねないから優秀な人材を選ぶと思うんだけどね」


 フェダーン様に匹敵するような人物がいるのだろうか?

 さらに今回は飛行機を使った航空戦も視野に入れなければならない。柔軟な思考の持ち主でなければ務まりそうにないんだけどなぁ……。


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