表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/391

M-143 ドミニクへの報告


 王宮内で暮らした6日目の朝。ようやく王宮を離れることができる。

 朝食を頂く前に、荷物を収めたトランクをリビングの扉近くの通路に置いておく。

 ヒルダ様に朝の挨拶を終えたところで、今まで宿泊させていただいた礼を言う。

 笑みを浮かべて、「いつでも待っています」と答えてくれたけど、ここでリラックスは出来ないからね。

「その時には、是非とも伺います」と返したけれど、俺の心境などオミトオシに違いない。


 フルーツサンドにポトフのようなスープを頂き、最後はマグカップでコーヒーを飲む。

 このコーヒーがしばらく味わえないのは残念だ。少し良い豆を陸港で仕入れておこう。


「別荘にはどれほど滞在するのですか?」

「予定では、今日を含めて10日です。その後は……、魔獣狩りをすることになるんでしょうけど、フェダーン様から要請が優先されると思います」


 試作した飛行機を何機か渡しているし、軍の工廟でも生産ラインを作ったらしい。

 次のハーネスト同盟との戦は航空戦が主体となりそうだ。

 そんなことだから、急きょ巡洋艦を航空母艦にする改装を行っているらしい。

 すでに軽巡洋艦を転用した軽空母があるから、2隻を使った演習を始めるのもそろそろだろう。

 そんな飛行機の課題の1つが、相手の飛行機を攻撃するための手段なんだよなぁ。

 一応、それに使えそうな銃の設計図をカテリナさんに渡してあげたんだが、この世界の技術で作れるのだろうか?

 アリスの話では原始的な機関銃で、機械加工技術があるなら難しくはないと言ってたんだけどねぇ……。


「カテリナさんは一緒じゃないのかしら?」

「カテリナはフェダーンと工廟に出発しましたわ。貴方達によろしくと言ってましたけど?」


 カテリナさんは退屈なことは大嫌いみたいだから、浜辺の休暇は遠慮したということなんだろう。フェダーン様と飛行機のダメ出しでもして貰った方が俺にとって良い休暇になるに違いない。

 休暇の過ごし方なんて人様々だからね。


「ローザは一緒じゃないのかしら?」

「友人の婚約パーティがあるそうで、遅れて合流すると言ってました。ローザもそんな年頃になってしまいましたわ」

 

「歳は取りたくないですねぇ」と言ってるけど、ヒルダ様がエミーの隣に立つと、どう見ても姉妹にしか見えないんだよね。

 魔法で年台を固定できると聞いたけど、行き過ぎるとお婆ちゃんと孫が結婚しそうに思えてならないんだよなぁ。


「貴族同士であれば、親の爵位に注意すればそれほど結婚の問題はないのですが、王女ともなるとそれだけで済ませられないのです。国家への貢献がもとめられますからね」


 貴族の子弟が機動艦隊の上級士官として乗り組んでいるのは、それが目的なのかもしれないな。

 だけど、ハーネスト同盟軍との戦の前にフェダーン様に向かって精神論をぶち上げた時期当主もいたんだが、あれでは貢献どころか王国の敗因を作るようなものだ。

 案外、使える者かどうかをフェダーン様が見極めているのかもしれない。


 お茶を頂いたところで、ヒルダ様にお世話になったことを感謝して離宮を後にする。

 玄関まで見送りに出てくれたんだけど、そんな気遣いは必要ないと思うな。


「リオ様はウエリントン王国の宝ですから……」

「そうかな? 気ままな騎士団の騎士の1人だと思っているんだけど」

「でも、困っている人は見捨てないでしょう? 荒野の掟についてはフレイヤ様から色々と聞かせて貰いましたけど、王国の国法の基本とさほど違いません。それが長い年月で歪曲されているように思いますけど、根本にあるのは弱者救済と脅威への対応です」


 騎士団の歴史は古いらしいからなぁ。12騎士団と言われる騎士団は、それこそコリント同盟を作る3王国と歴史を同じにするらしい。

 その内の3つが今ではブラウ同盟の王国に席を映しているようだけど、騎士団の拡大を期待して西に活動拠点を変えたのだろう。

 王国も彼等を貴族と同格として扱ったから、騎士団の騎士は貴族と同格という王国の条文に記載したのかもしれないな。

 全ての騎士団を同列としないところが面白いところだが、戦機を持つ騎士団を王国は騎士団と認識しているのかもしれない。

 騎士団が戦機を手に入れようと躍起になるのは、そこに原因があるに違いない。


 王宮から王族の別荘までは馬車で3時間程だった。

 途中にあった小さな喫茶店で小休止を取ったのだが、この喫茶店は王宮で働いていたメイドさん達の再就職先の1つらしい。

 小さな庭は綺麗な花が咲き乱れていたし、店員のお姉さん達も慣れた仕草で応対してくれた。


「他の客がいないのは、先触れを母様が出していたようですね」

「だよなぁ。こんなお店に俺達だけというのは考えてしまうよ」


 値段が少し割高だから、この店に入ることが庶民のステータスになっているらしい。

 貴族や王族が一時的に貸し切ることができるらしいけど、海岸線に沿った大きな街道にあるお店だから利用客はそれなりにいるんじゃないかな。


「別荘の近くにはレストランもあるんですよ。別荘の管理人の中に調理人は下りませんから、仕出しをして貰うらしいです」


 たぶんそのレストランも王宮の手が入っているに違いない。

 別荘周囲の警備も退役軍人が担当してるのかもしれないな。王族の別荘1つがポツンとあるとは思えない。

 近所には貴族や金持ちの別荘も点在してるに違いない。


 街道から南に向かう分岐を曲がって、馬車は松林の中を進む。

 潮の匂いに窓からかを出すと、前方に2階建ての石造りの建物が見えてきた。あれが別荘らしい。


 別荘の玄関前に馬車が止まる。

 4人のメイドさんが俺達を迎えるように扉の前で頭を下げていた。

 馬車を下りて、フレイヤとエミーの手を取って下ろしてあげると、馬車の後ろに回ってトランクを下ろしている御者に銀貨を握らせた。

 恐縮している御者の傍からトランクを持ちあげようとしたら、直ぐに止められてしまった。

 どうやら、トランクをメイドに渡すまでが御者の仕事らしい。

 俺にはどうでも良いことなんだけど、彼等にとっては大事な仕事ってことなんだろうな。


 身一つでフレイヤ達を両脇に従えて玄関に向かう。

 メイドの中に1人年嵩の女性がいた。たぶんメイド長になるのだろう。俺達の前に1歩足を踏み出して、挨拶してくれた。


「リオにフレイヤ、そしてエミーだ。よろしく頼むよ。ローザは遅れて来るだろう。それと、先客がいると思うんだけど……」

「ドミニク様達ですね。いらしておりますが、アレク様は夕刻にならないと戻らぬと言っておりました」


 買い物でも行ったのかな?

 メイド長に案内されてリビングに向かう。

 俺達のトランクを運んでくれたお姉さん達は玄関近くの階段を上って行ったから、客室は2階になるんだろうな。


 リビングは離宮のそれと同じぐらいの広さがある。大きな窓からは渚が良く見えるようだ。


「ようやく到着ね。お茶を頼んでおくから、着替えてきたら?」


 ドミニク達は水着にシャツを羽織っただけだ。

 南の島と間違ているんじゃないかな?


「ここは海の直ぐ傍ですから、いつでも渚で遊べますよ。部屋にご案内いたします」


 そう言えば……。メイド長の小母さんは語尾に「にゃ」が付かないな?

 王宮暮らしを長く続ける過程で、言葉使いの練習をしたのかもしれない。


 階段を上ると横幅のある通路が東西に続いて、南側に客室がずらりと並んでいる。

 そんな客室の一番東の部屋が俺達の部屋になるらしい。

 扉を開けると、ベッドとソファーセットだけの簡素な部屋だが、ベッドは3人がゆったりと寝られるだけの大きさがあるようだ。

 大きな窓の外にもテーブルセットがあるようだ。デッキがあるのかな?


 サーフパンツにTシャツを着て、装備ベルトを腰に巻く。

 さすがにリボルバーは外そうかと思ったが、騎士の武装は認められているし誰が訪ねて来るか分からない状態だ。

 

 フレイヤ達があれこれシャツを取り出して話しているから、先にリビングに向かうことにした。

 リビングのソファーで寛いでいるドミニク達に軽く頭を下げると開いているソファーに腰を下ろす。


「ご苦労様。母さんは一緒じゃなかったの?」

「フェダーン様と一緒だ。軍の工廟に向かったけど、その内にやってくるんじゃないかな」


「レッド・カーペットということかしら?」

「ハーネスト同盟も絡んでいるみたいだよ。ブラウ同盟から機動艦隊が東に向かうんだからね。1個艦隊近く数が減るなら、この間の会戦の損失はご破算にできると思っているのかもしれないね」


 隠匿空間には食料を大量に運んで籠城することになりそうだ。

 ハーネスト同盟軍が隠匿空間を開くことはできないだろうし、入り口の門も普段は埋もれているからね。

 最初に見つけた時には地表に少し顔を出していたんだが、隠匿空間を放棄する際に中途半端な位置で止めておいたらしい。

 何度か開閉を繰りかえしている内に、だんだん下がってきたようだけど、最初から地中にあったなら見付けることなど益無かったに違いない。

 向こうも隠匿空間への侵入を企てるとは思わないんだが、封鎖ぐらいはやりかねないな。


 リバイアサンが東に向かうとなれば、前回と同じく風の海を東進して北からウエリントンを攻略することになるだろう。

 派遣する艦隊の規模は、ブラウ同盟軍より多いのだろうが、もう1つの艦隊を東に向かわせることも考えるべきだろうな。

 海岸線を東に進めば、ほとんどノーマークでウエリントン領に侵入できそうな気もするんだが……。


「私の騎士団も同盟を組んでいるヴィオラ騎士団と行動を共にするわ。機動艦隊の後方で、すり抜けてくるスコーピオを10日間相手にすれば良いんでしょう?」


 マグカップを運んできてくれたクリスが問い掛けてきたけど、この場合は同盟を一時的に破棄した方が良いのかもしれないな。


「ウエリントン王国より依頼を受けた。リバイアサンは同盟の機動艦隊と共に、第1線に加わる。ドックが2つあるから、感染の補給をリバイアサンで行えるし、飛行船や飛行機を使った爆撃の要にもなる形だ。

 ヴィオラとガリナムはリバイアサン後方でドックに入ろうとするスコーピオを叩くことになりそうだ」


 3人が目を大きく見開いた。

 12騎士団でさえ、後方に陣を構えるぐらいだからな。

 無事というわけにはいかないだろう。船体なら補修もできるだろうが、人命は替えが効かない。

 数を相手にどうやって戦うかを考えると、休暇が無くなってしまいそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ