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M-140 騎士団との打ち合わせ


「そう膨れるな。これで王宮内に波風を立たせる連中もおとなしくなるだろう。カテリナの話では、服の中に薄いチェインメールを着ていたそうだな。いくら魔方陣で強化しても、頭や腕に当たった時は怪我では済まぬぞ」

「腕の良い護衛であれば、確実に動きを止めるでしょうから狙うのは胴体になるはずです。頭や腕を狙うのは案外難しいと聞いたことがあります」

「まあ、何事も無ければそれで良いのだが……」


 離宮に戻ってくると、ヒルダ様にフェダーン様から経緯を説明して貰った。

 それを聞いて、ヒルダ様まで笑みを浮かべているんだから、とんだ伯爵だったらしい。


「廃嫡できれば良いのですが、そうもいかないでしょう。陛下からの叱責と謹慎と言うところでしょうね。早々に爵位を子供に譲るということで貴族内の地位を保とうとするかもしれませんが、子供達の良い話も聞きませんわ」

「親を見て子は育つということだからなぁ……。同じ轍を踏むかもしれんな」


 王宮内の勢力争いと言うよりは、王族と貴族の静かな争いってことなんだろうな。

 使えないなら害もないが、治世や外交に自分達への権益を増やすことに努力するようではねぇ。さっさと切り取りたいところだけど、先祖の努力をそれなりに評価しているということになるんだろうな。


「会議は1900時からだ。迎えを寄越すから顔を出して欲しい」

「おおよその派遣軍の規模は了解されたようにも思いますが?」


「今夜はブラウ同盟の大使達だ。兵站基地と供出量が議題になろう」

「俺にはあまり関係しないようにも思えるんですが?」

「何を言う。大型輸送船数十隻に匹敵する輸送量がリバイアサンにはあるではないか!」


 そう言うことか……。確かに、大型倉庫があちこちにあるし、桟橋に貨物を並べることも可能だろう。それに大型輸送船ならドックに数隻収容することも可能だ。

 

「我からのお願いが1つあるのだが?」

「何でしょう? お世話になっていますから可能であればドミニクと相談したいと思いますが」


 内容次第だろうな。最初からOKを出したら後で面倒な事になりそうだ。


「リバイアサンにブラウ同盟軍の指揮所を設けたい!」

「リバイアサンの指揮権は我等のものですよ。それはお渡しできないと思います」


「案ずるな。通信設備の一部と会議室、それに宿舎を準備してくれれば十分だ。食事もお願いすることになるだろうから、王都のホテルと同じように支払いはできるだろう。

 各国共に高級仕官3名に下士官が5名になる。それと通信兵が6名だ」


 合計30人程か。部屋は余っているから何とかなりそうだな。

 会議室は士官区画の集会場を使って貰うか、それとも制御室の上階にある部屋の1つを使ってもらうか……。


「それぐらいなら可能でしょうが、高級仕官の食事を用意することはできませんよ。一般兵と同じように食堂を使うことになりますが」

「十分だ。ドック要員や工房の人数も増えるであろう。その辺りは商会ギルドに予想を立てて貰って食堂の要員を増やせば良いだろう」


 早めにドミニク達に知らせておくべきかもしれない。ドミニク達にも都合があるだろうからね。 

                 ・

                 ・

                 ・

 兵站の打ち合わせは、それほど混乱することなく進められた。

 ちょっと拍子抜け気味な感じなんだが、かつては輸送船の数が足りずに零細騎士団までも動員した荷物の輸送がリバイアサン1隻で対応できると知ったことが大きかったようだ。

 そうなるとドック周りに荷役専門の作業員が必要になるとのことで、2個小隊の工兵を動員することにしてくれた。

 1個分隊8人が4分隊で1個小隊だから、80人近い数になる。

 

「商会ギルドからの応援も必要でしょうな。少なくとも10人は増えるでしょう。それと、リバイアサンへの補給も考えないといけません」

「ナルビク王国から食料と弾薬を運ぶことになるだろう。廃船寸前の輸送艦で最初の荷を運ぶ。操船は機動艦隊から出せると思うが、4隻は可能か?」

「それぐらいでしたら……」


 後は、必要な資材だけだ。食料は何とかなるとしても、一番肝心な砲弾は既に量産体制を構築して生産中らしい。

 今では教団の総本山をブラウ同盟の王国に移動してあるが、かつての総本山はコリント同盟の3王国にあったそうだ。。

 宗教上は今でも重視していることから、各神殿の神官が【複製】魔法に協力してくれているのは各国にとってもありがたい話だろう。

 だけど、何もなければ【複製】はできないらしい。

 原料の供給体制を早期に作るように、フェダーン様が厳命していた。


「これで会議は終わりなんでしょうか?」

「いや。明日は騎士団の連中が来るはずだ。ウエリントン王国に所属する12騎士団の内の3つ、それに大規模騎士団として名を挙げている騎士団が5つだ。本来ならドミニクも招きたいところだが、リオ殿に委任したと聞いているぞ」


 そんな話が合ったんだろうか? 生憎と記憶に無いんだよねぇ……。


「騎士団も依頼を受ければ、傘下に名乗りを上げるのは理解できるのですが、あらかじめ有名所を招いて打ち合わせをする理由は何でしょう?」

「迎撃陣形の確認だ。明日やってくる騎士団に馳せ参じる騎士団を割り振るつもりだ」


 エルトニア王国に所属する騎士団は、エルトニア王国軍に組み込まれるらしい。

 スコーピオの脅威を少なからず受けるらしいから、それは仕方のないことなんだろう。

 ブラウ同盟軍の後方で落穂拾いをするのは、ナルビク王国とウエリントン王国の騎士団ということだ。

 ブラウ同盟軍の艦列の西方に10隻程度の即席艦隊としてスコーピオの群れにぶつかるというんだから、かなりの激戦なんだろうな。


「戦艦と巡洋艦を並べて防衛戦を張り、それを抜けたスコーピオを駆逐艦が狩るのだが、2割も刈り取れないだろう。

 騎士団も似たような布陣になるはずだ。騎士団の防衛戦を抜けたスコーピオを狩るものは魔獣ぐらいしかおらん」


「今回は今までとは異なります。戦艦の主砲の遥か先でスコーピオに爆撃を行えますし、ロケット砲も、ある程度は確保できますからね」

「それとリバイアサンも役立ってくれるだろう。そこに存在するだけでスコーピオを阻止できる。回り込まれる可能性は高いが、数百スタムの安全圏を作ってくれるだけで、補給が容易になるはずだ」


 騎士団も補給に悩まされそうだ。

 全ての騎士団で阻止線を作っるのではなく、補給を任せられる騎士団も必要になってくるんじゃないかな。


 昼食を御馳走してもらい、リッツさんに離宮に送って貰った。

 明日は騎士団だとすると、残り2日の会議の相手は誰になるんだろうな。


 離宮のリビングに入ると、ヒルダ様とカテリナさんが午後の紅茶を楽しんでいた。

 会議の状況報告をすると、カテリナさんが笑みを浮かべて頷いている。


「アリスに教えて貰ってロケット弾を試作してみたの。軍の演習場で試したんだけど、砲兵部隊の隊長がポカンと口を開けてたわよ」

「使えるってことですか?」

「十分に使えるわ。最大飛距離は2.5ケム(約3.8km)程度。反動を受けないから多数を同時に発射できるのも良いところね。軍の工廟で作り始めたから、1か月もすれば自走車と駆逐艦に搭載して訓練ができるわ。駆逐艦用はすこしロケット弾を大きくして、飛距離4ケム(6km)を目指したいわね」


「あまりロケット弾を大きくすると、再装填が面倒ですよ。2ケム(3km)も飛べば十分だと思いますが」

「う~ん、そこは現場の意見と言うところかな。もっと飛ぶならと言っていたわ」


 あまり趣味に走らないで欲しいな。それよりも、ベルッド爺さんが最初に作ってくれたアリス用の銃を作って欲しいところだ。あれなら自走車に積めそうだし、何と言っても4発発射できる。ドックの自衛用に使えると思うんだけどねぇ。

                 ・

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                 ・

 離宮で過ごす3日目も、リッツさんの運転する自走車で王宮に向かう。

 今日使う会議室は昨日よりも少し小さい部屋だった。

 丸いテーブルではなく長方形のテーブルだが、俺達にも分かるように騎士団の名が入ったプレートが置かれている。

 こちら側は、フェダーン様と副官、昨日目にした男性も副官を連れて座っている。

 俺はフェダーン様の左手だ。

 壁の右手にスクリーンが作られている。魔道科学でもプロジェクターと似た映像を出せるらしい。もっとも絵をスキャンして投影するだけだから、初期のプロジェクター程度に考えておこう。


「騎士団と貴族の大きな違いは、やる気があるか否かだな。最前線への参加を具申してくるのだから困ったものだ」

「武装と陸上艦は軍に適わないですからね。落穂ひろいが一番なんでしょうけど、阻止する数が2割程度なら、後衛も前衛も無いように思えますけど」

「その通りなのだ。だが、軍には軍の矜持があるからな。それに統制もしやすい。部外者が混じると、混乱してしまうだろう。特にやる気のある連中は問題だ」


 命令に忠実に行動することは、騎士団の一番苦手とするところだろう。

 それで名のある騎士団に苦労して貰おうということになったに違いない。


 会議の始まる10分前になると、次々と騎士団長が副官を連れて会議室に入ってきた。

 騎士の礼をフェダーン様に向かってとると、自分の騎士団の名が書かれたプレートの席に腰を下ろす。

 帝國分前には、全て揃ったようだ。

 さすがは大規模騎士団だけのことはあるな。


「よく集まってくれた。噂では知っておると思うが、レッド・カーペットの兆候が表れている。コリント同盟より正式にブラウ同盟諸国に協力依頼と援軍の要請があった。

 騎士団にもギルドを通して通告したいが、それは孵化の時期を知ってからでも遅くはないだろう。

 とはいえ、その時になって義勇軍の編成をしていては間に合わないことも確かだ。

 今日、集まって貰ったのは、参加してくれる騎士団の統率を貴殿達の騎士団に委任したい。その確認が目的だ」


 場が静まった。

 ネコ奥のお姉さんが運ぶコーカップの音だけが聞こえてくる。


「ある意味、何時も通りということですか。レッド・カーペットによる招集は子供の時代になると思っていたのですが……。やはり陽気のせいかもしれませんな」

「レッド・カーペットに合わせて陸上艦を代えようとしていましたが、これでは現在の艦で対処するほかありませんな。我等は3隻で参加できますぞ!」

「我等も同じです……」


 なるほどねぇ。やる気があるみたいだ。

 

「過去の例を見れば、各騎士団が5~10個の騎士団を統率している。それは了承して貰えるか? もちろん騎士団の編成は軍、王宮共に一切口は出さん」

「それでよろしいかと。我等の危惧は3つ。1つは砲弾の確保、2つ目は食糧と水ですな。3つ目は……、我等を第一線に加えて頂きたい!」


 早くも始まってしまった。

 別な意味で手強い相手なんじゃないか?


「砲弾の確保は努力するとしか言いようがない。食料については確保しよう。3つ目は、第二線を守ってもらいたい。貴殿達に能力が無いとは思わない。だが搭載する武装が貧弱だ。

 軍であれば地域制圧射撃は可能だが、騎士団は動きの速い魔獣を相手にする。搭載する艦砲を小型化して命中率を上げているはず。

 各個撃破なら第一線でも可能だが、100万を超える相手ではそれが通用しないのだ」


「ならば、我等の艦砲を大型化することでいくらでも対処できそうに思えますが?」

「諸王国と騎士団ギルドとの約定は、今でも有効だ。それを覆すには貴殿達に爵位を授けねばならない。爵位となればそう簡単にも行かぬのは知っているはずだが?」


「ウエリントン王国は、中規模騎士団の団員に男爵を授けましたね。それなら大規模騎士団の我等であれば容易に爵位を頂けそうに思えるのですが?」

「ヴィオラ騎士団のことだ。確かに陛下は騎士団員の一人である騎士に男爵位を与えた。彼の業績がどれほどのものかを知っていて男爵位を要求するのか? 同じことができるなら私が推薦しよう」


「ほう! 男爵位を得る条件と聞こえますな。具体的には?」

「隠匿空間の発見とその制御。更には隠匿空間の利権の三分の一だ。1つということは無いだろう。他にもあるかもしれぬ。それを見付けて、空間を開くことができたなら男爵位等安いものだ」


「その騎士は、それが出来たのですか?」

「すでに隠匿空間に行った者もいるのではないか? それぐらいの成果が欲しいところだな」


 急に静かになってしまった。無理だと分かったみたいだな。


「1つお聞かせください。となれば、その騎士団も我等の傘下に入るということになるのですか?」

「第一陣に組み込む。ヴィオラ騎士団の旗艦はそれだけの性能がある」

「騎士団の持つ艦は重巡止まりであったはず。武装は男爵位ということで、そのままにしても軍の中に置くことで同盟軍の指揮が乱れるのでは?」


「心配いらぬ。同盟艦隊の指揮所をヴィオラ騎士団の旗艦に設けることを了承して貰っておる。どちらかと言うと、ヴィオラ騎士団の旗艦を旗印に同盟軍は戦うつもりなのだ」

「いくら何でも、中規模騎士団に戦艦を作らせるのは問題ではありませんか!」


「まだ見ぬ者も多いか……。画像を見せておいた方が良いかもしれんな。確か数枚準備しておいたはずだ」


 写真でも撮っておいたのかな?

 魔道科学を用いたプロジェクターが映し出したのは、数km離れて取ったらしいリバイアサンの全景だった。


「機動要塞リバイアサン。ヴィオラ騎士団の旗艦だ。先のハーネスト同盟に参加してその主砲で敵の前進を止めている」

「これは……、左下に小さく映っているのは自走車ですか?」

「巡洋艦だ。リバイアサンの内部に作られたドックに4隻以上収容できるだろう」


 後はすんなりと言うことを聞いてもらえた。

 リバイアサンを脅しに使ったようなものだと思うんだけど、結果良しならフェダーン様には問題がないということになるんだろうな。


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[気になる点] 誤字誤用などについて以前指摘していましたが特に変化がないのでやめていますが必要でしょうか。 ご回答あればうれしいです。 誤字対応をもしなされていたらすみません。 [一言] 日本語…
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