M-135 数を相手にする武器
「ブラウ同盟軍の戦略爆撃と戦術爆撃の演習を、スコーピオ相手にできるということなら、喜ばしいことだ。
だが、リオ殿のことだ。更に良い案を持っているのではないか?」
「良い案と言えるかどうか判断に迷うところですが、自走車に大砲を乗せるということも有効だと考えています。
アリスが使う40mm砲なら、自走車に乗せられるのではないかと……。スコーピオ戦ではドックの斜路は開けておくことになるでしょうから、斜路尾防衛も考えないといけません。戦機なら問題はないと思いますが、斜路を上って来るスコーピオがそれほど多いとも思えません」
今度はカテリナさんが考え込んでいる。
可能性を考えているんだろうけど、あの銃だって至近距離なら有効なんじゃないかな。
「ヘビーバレルにして、少しは弾速を上げた方が良いわね。小隊規模で揃えてあげるわ」
「ついでに、もう1つ試作してくれませんか? 俺が入団して直ぐに海賊に襲われたんですが、その時に使っていた海賊の大砲は自走車に搭載してました。その大砲の考え方を改良すると、このような形の自走車が出来ます」
投影された画像に映し出されたのは、ロケット弾を発射するレールをいくつも並べた自走車だ。
火薬が複製できるなら、ロケット弾の推進用装薬も可能だからね。
簡単な構造だから狙いを正確にできないけど、たくさんのロケット弾を発射することができる。
「獣機の支援用として考えてたものなんですけど……」
「面で制圧が出来そうだな。支援用としては十分だろう。軽巡洋艦の主砲並の炸薬量というのも食指が動くところだ。カテリナ、どれぐらいで試作できる?」
「そうねぇ……、分隊規模で一か月というところかしら。軍でも使うの?」
「前の大戦で引き渡された駆逐艦があるからな。砲塔を全て撤去して、これを乗せたらどうかと思っていた」
かなり搭載できるんじゃないか? 飛距離は2ケム(3km)にも満たないけど、一度に発射されるロケット弾は巡洋艦2隻に匹敵しそうだ。
「艦隊戦には使えないわよ?」
「そこは戦術ということになるのだろう。それにブラウ同盟で利用価値が無くとも、コリント同盟軍には役立つはず。ブラウ同盟からの贈り物とすることで外交上にも都合が良さそうだ」
その辺りは王国に任せておこう。
参加する騎士団の損害を減らせるように努めれば良いはずだ。
自走車の改造や、駆逐艦の改造設計を行いながら、フェダーン様にダメ出しをして貰う。
アリスの設計だから、フェダーン様も安心して画像を眺めているんだが、たまに疑問があるようでアリスに問い掛けている。
カテリナさんも、新たな魔方陣の構築で忙しそうだから、とりあえず平穏な日々を送れそうだ。
ナルビク王国の国境を越えたところで、フェダーン様から依頼を受けた。
ブラウ同盟の拠点とヴィオラそれにガリナム両騎士団への手紙の配達だ。
郵便局でもないんだけど、アリスなら簡単に送り届けることができるからだろう。
「拠点へは王都までの貨客船の手配だ。騎士団には拠点合流日を記載している。色々と問題があるから、良い休暇とはならんだろうが、少なくとも数日は休暇が過ごせるように陛下に頼むつもりだ」
「お気遣い頂くのはありがたいのですが……」
「遠慮はいらぬ。あちこちにある別荘を利用する王族は少ないからな。使用人達も喜んでくれるだろう」
確定みたいだな。
それにしても別荘があちこちにあるとはねぇ……。一般に開放すれば、それなりの運営費を計上できるんだろうけど、それをしないのが王族なのかな?
最初にブラウ同盟軍の拠点に向かって、広場に下りたアリスを見てかけよっいぇきた士官に手紙を渡すと、直ぐに飛び立った。
コーヒーを飲むなら、レイドラの入れてくれたコーヒーを飲みたいところだ。
隠匿空間にいないようだから、高度5千m上空から2隻を探すことになった。
30分も掛からずに見つけ出せたのはアリスの監視機能がそれだけ優れているからに違いない。
『どうやら、狩りの途中のようです』
「砲撃が終わってから乗り込もうか。今着艦すると、邪魔になりそうだからね」
一斉砲撃が終わって、獣機が解体を始めたところでヴィオラに連絡を入れる。
着艦許可が出たところで、舷側に開いた扉をくぐってカーゴ区域へアリスを進める。
「全く戦機とは機動が違う。ローザ様の戦姫にも驚かされたが、これは全く次元が違うな」
「ドミニクに報告をしてきます。その間は、駐機台を占有させてください」
「その駐機台は余っとるから、大丈夫だ。それにしても……」
アリスの脚を撫でながらぶつぶつ言っているドワーフの頭領がベルッド爺さんの弟に違いない。
片手を振って船尾のエレベーターに向かったけど、俺には全く興味がないみたいだな。
会議室の扉をノックすると、直ぐにレイドラが扉を開けてくれた。
何時ものようにテーブル越しにドミニクの前に座り、先ずは手紙を手渡す。
「フェダーン様から預かりました。リバイアサンとの合流日が記載されているとのことです」
「しばらくぶりの休暇ね。その前に王宮に向かうのが厄介だけど……」
「最大でも5日我慢すれば良いと言ってましたよ。でも、今回は短くなりそうな気がします」
レッド・カーペットの話をしたら、コーヒーカップをテーブルに戻してレイドラと顔を見合わせている。
フェダーン様達とはちょっと異なる感じがするな。かなり深刻な表情をしている。
失礼して、タバコを1本取り出して間を持たせることにした。
無言の2人に、そろそろ帰ることを伝えようとした時だ。
扉を叩く音がして、直ぐに部屋に入ってきたのはアレクだった。
立ち上がって、握手をする俺に目で2人がどうしたのかを問い掛けてくる。
マルトーン王国軍の機動艦隊から聞かされた話をすると、アレクも目を見開いてしばし絶句に状態だ。
やがて俺の隣に腰を下ろしたところで、ドミニクに声を掛けた。
「依頼が来ることは間違いなしだ。行くことになるんだろうから被害の低減を考えねばならんぞ!」
「……そうね。以前ならともかく、現状で参加しないとなれば騎士団としての矜持を疑われるわ。でも……、その被害を考えると……」
どういうことだ?
かなり話が違っているようにも思えるんだが。
「ブラウ同盟軍からは2回の脱皮までを考えているようですけど、それでも団長が憂いるほどに被害が発生するんですか?」
「ああ、間違いなく発生する。数が多いことはそれだけで脅威だということは理にも何度か話したはずだ。
最初の脱皮を終えたスコーピオなら、獣機をハサミで押さえつけられる。装甲板が薄い場所なら尾の針で貫通してしまうだろう。その上厄介な強酸を持っているからなぁ。ホムンクルスの体がダメになってしまう。腕に刺されば片腕を切り取り、腹に刺されば使い物にならない。そんな連中なんだ」
「接近させないことが一番なんだけど、数が半端じゃないわ。どうしても阻止できないのよ」
「大砲や魔撃槍よりも前装式の大砲が一番役に立つ。通常の砲弾ではなく、獣機用の長銃の弾を袋に詰めて撃つんだ。一撃で10匹以上をバラバラにできる」
散弾ということなんだろう。
「獣機は長銃で戦うが、戦機用の長銃はない。改めて作ることになりそうだな。リオが使っていた長銃が参考になるだろう。それ以外で使えそうなのは信号銃だろう。あれなら炸裂弾を撃てる」
最後は白兵戦になるようだ。戦機用の長剣があると言っていたから、それを振り回すのだろう。
「早めに作って予備も確保しておきましょう。それ以上に砲弾も必要になるけど……、レイドラ、艦内で【複製】魔法が使える人のリストを作っておいて、数次第では商会に発注しることになりかねない」
そんな騎士団も多いに違いない。1年でどれぐらいの数を揃えられるかが、俺達騎士団の運命を左右しかねないということになりそうだ。
「ガリナムにも伝えた方が良いだろう。砲弾の予備等、あまり持っていないはずだ」
1回の航海で使用される砲弾の数は1門あたり30発には達しないだろう。だが、レッド・カーペット相手ではほとんど連続射撃並みに砲弾が使われる。可能であれば1門あたり1千発ぐらい用意しておかないといけないだろうな。
砲弾の調達が上手く行ったら、今度は砲弾の保管方法考えなければならない。
「ヴィオラ騎士団の参加は確定だけど、ガリナム騎士団の方はクリス次第かな。場合によっては借金を抱えて傭兵団に逆戻りもあり得る話だから……」
「帰る時に、カーゴ区域で長剣を貰っておくんだぞ。ベルッド爺さんが鍛えた長剣だ。スコーピオ相手の白兵戦では役立つだろうからな」
やはり、弾薬が尽きることは覚悟の上ってことなんだろう。
参加する騎士団がどれぐらいの数になるかは不明だけど、砲弾や銃弾の補給はしてくれるんだろうか?
補給無しでは、初日に帰ることになりかねないぞ。
休暇そのものは、ストレス対策として誰も意義は無いようだ。
8日後に待っていますと言って、ヴィオラを後にする。
『長剣を頂きましたが、かなり良い品です。長銃は鍛造品とは言えませんが、長剣の方は鋼と言っても良いぐらいの出来です』
「その違いが良く分からないけど、リバイアサンの工作工場で獣機用の長銃が作れないかな? もう少し初速を上げて上げられれば役立つと思うんだけど」
『対空用の30mm砲が転用できそうですね。戦鬼であれば低圧滑空砲ぐらいは作れそうです』
「それなら、製作図を作ってくれ。いくら何でも俺達が使う40mm砲ではねぇ。50mmの方なら少しはマシだろうけど、あの初速は問題だと思うよ」
『魔獣の注意を引くためだけに特化した銃ですから仕方がありません。でもあの銃を元にリバイアサンで作るなら、初速を毎秒500mほどに上げることは可能だと推測します』
俺達の銃の2倍じゃないか!
それぐらいなら狩りにも使えるんじゃないか?
量産することは無理でも、ヴィオラ騎士団とガリナム騎士団ぐらいなら渡してあげたいところだ。




