表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/391

M-134 義を見てせざるは勇なきなり


 対人戦でなく、民衆を魔獣の被害から守るのであるなら、十分に騎士団の理念にもかなうのだろう。

「人の命は大切だ。俺達の命を狙う者でなければな……」とアレクも言っていた。

 だが、100万を超える魔獣の想像がつかないんだよなぁ。

 とんでもない数だとは思うんだが……。


 リバイアサンを反転させたのは、マルトーン王国軍の機動艦隊と接触したその日の夜のことだった。

 現在は、反転位置から100kmほど南に下がった位置を西に向かって航行中だ。

 隠匿空間の南西ではなく、このままウエリントン王国軍の拠点に向かい、その後は久しぶりの休暇が始まる。


「20日後には休暇が始まるのね。今度は何をするの?」

「フレイヤ達が考えてくれますから、それに付き合うことになるでしょう。前回はアレクの実家を機動艦隊が囲むようなことになってしまいましたから、ちょっと訪問を躊躇ってるんですが……」


「とりあえず、王宮に5日は守って欲しい。フレイヤ達も構わんぞ。ヒルダが離宮を案内してくれるだろうし、倉庫にはまだまだ美術品があるだろう。陛下は、リオ殿に送った品のリストを見て、溜息をついていたぞ」

「やはり、強請り過ぎたんでしょうね。高額な品はお返しするようにフレイヤ達に伝えておきます」


「逆だ。高額な品が1つもない。他にも王女や王子がいる。結婚時に持参する品がエミーと比べられるということだな」

「リバイアサンに来なければ誰にも分からないと思うのですが?」

「いつかは明るみに出るだろうし、降嫁に伴う品揃えは貴族内ではオープンだからな。陛下の矜持が疑われるのも心外だろう?」


 王宮は難しいところなんだろうな……。それなら、1点追加ぐらいで手を打って欲しいところだ。

 だけど、フレイヤ達が選ぶとなると、時間が掛かりそうだから、フェダーン様達にとっては都合が良いということになるのだろう。


「ヒルダ様と十分調整するように言っておきます。ですが、そもそも騎士団に芸術が分かる人間もいないのでは意味がないように思えるのですが?」

「陛下の実績というところだな。まあ、悪いものではないし、貰ってしまえばリオ殿たちの好きなように使っても問題はあるまい」


 困ったら売ってしまっても良いということなんだろう。

 持参金代わりと諦める外になさそうだ。


「ところで、艦隊の大砲はある程度統一化されていると思いますが、砲弾の方はどんな種類があるんですか?」

「信号弾を除けば、着弾後に炸裂するか否かの2種類になる。炸裂弾には着弾と同時に炸裂する物と、着弾後に少し遅れて炸裂する物があるぞ。

 かつての艦隊戦は鋳鉄の弾丸をそのまま撃ち込んだらしいが、この間の戦を見ても分かる通り、現在は時間差を持たせた信管を付けて砲弾を撃ち込むのが主流だ」


 単純な着発信管を使っていたわけでは無かったんだな。

 となると、スコーピオに対して用いるのは艦隊戦で用いる砲弾を流用することはできないんじゃないか?


「スコーピオ相手となれば、長い歴史の中でそれなりの対処が出来ていると思っているのですが……」

「それで砲弾か……。対策など何もない。奴らはひたすら押し寄せてくる。砲身の摩耗など気にせずにひたすら大砲を撃ち続けるだけだ。

 強いて言うなら、最初に使うのは着弾と同時に炸裂する砲弾になるな。それが尽きれば艦隊戦用の砲弾を使うことになるな」


 小細工が効かないということなのかな?

 溝を掘っても、4対の脚で簡単に乗り越えてくるだろう。避けるには丈夫な高い壁ということなんだろうが、荒野でそんなものは簡単に作れないだろうからなぁ。


「後装式の大砲なら、炸裂弾を放つことは容易だが、前装式の大砲の場合は葡萄弾を使うことも多いようだ。砲身摩耗は激しいが近接したスコーピオを薙ぎ払えるからな。

 駆逐艦や軽巡洋艦の多くが、前装式の大砲を無理やり数門搭載するほどだ」


 アリの大群を踏み潰すような感じになるんだろうか?

 そんな戦なら、犠牲者が万に達しそうだけど……。


「だから、孵化後の2回目の脱皮が確認されたら、さっさと引き上げるのよ」


 大きなマグカップにコーヒーを入れて俺の隣に腰を下ろしたけど、俺達のコーヒーも欲しかったな。

 そんな思いが通じたのかもしれない。マイネさんが俺とフェダーン様のコーヒーを運んできてくれた。


「脱皮が近づくと動きが鈍くなるし、脱皮後は表皮が柔らかいから直ぐに動かないの。動きはスコーピオの方が速いけど、退避するには十分時間を持てるわ」

「軍も退却しながらの砲撃だ。騎士団の陸上艦に比べて装甲が厚い。それに脱皮は攻撃のチャンスでもあるのだからな」


 動きが鈍くて表皮が柔らかいなら、砲撃で容易に倒せるということか。

 

「今回のレッドカーペットに対しては、今までと異なる戦ができるはずよ。導師の製作している飛行船、ガネーシャ達は飛行機を作っているし、何といってもリバイアサンがあるんですもの。

 リバイアサンは、1個機動艦隊を越えてるんじゃなくて?」


「リオ殿の言っていた爆撃が出来ると?」

『たぶんマスターが話した方が、2人ともご理解いただけるかと』


 アリスがバングルから話しかけてきた。

 カテリナさんも少し理解してくれたようだけど、単に砲弾を落とせば良いというわけではない。

 ここは詳しく話しておいた方が良さそうだし、少し作ってもらいたいものもある。

 バッグから端末を取り出して壁に映像を映し出す準備をしておく。

 俺の思考を読み取って画像を作ってくれるんだから、やはりアリスは俺を越える存在なんだろう。


「ハーネスト同盟軍との戦の折に、飛行機を使った攻撃を何とか避けることが出来ました。もし、あの攻撃が行われていたなら、歴史がかなり変わっていたかもしれません……。

 敵の集団に対して、現在までの攻撃は大砲を使って行っています。先の大戦でも相手が前進できなくなったところを、溝に沿って進みながら砲撃を行うことで勝敗が決したと思っています。

 あの戦時に、もしもリバイアサンとアリスが存在しなければ……、アリス、シミュレーションできるかな?」

『可能というより、あの時点で行ってました。その時の結果を時間短縮で映します』


 東西の艦隊が近付いていき、距離が100kmを過ぎた時にハーネスト同盟軍から100機を越える飛行機が飛び立った。

 ブラウ同盟軍の偵察機を打ち落としながら、艦隊中央に爆弾を投下する。

 大型艦が次々と炎を上げて速度を落とす。

 前衛艦隊が砲撃を始める前に、更にもう1度爆撃が行われた。

 巡洋艦クラスまでもが爆撃を受けて前進が遅れ始める。

 かろうじて前衛艦隊を大破させても次に現れた主力艦隊に蹂躙されて戦が終わる。


「……これが起こるはずだったということか!」

「はい。飛行機を使った遠距離攻撃は従来の戦を一変させます。これが分からずに戦は戦艦の数というような高級仕官は早々に退職させるべきでしょう。

 ここで大事なのは、飛行機の登場は戦術の変化ということになるんでしょうが、飛行船となれば全く話が違ってきます」


 古代帝国の遺産である飛行機を元に、新たな飛行機を作っているがやはり性能が少し落ちるようだ。

 それでも飛行時間は3時間以上というから、今までの戦がまるで変ってくるのは間違いない。

 飛行機の作戦距離は往復と戦闘時間に余裕時間を加味すれば、1時間程度で到達できる距離までになる。作戦範囲はおよそ200km程度だろう。


 だが、飛行船は滞空時間がかなり長い。現在でも12時間だから同じように考えるなら5時間の飛行距離およそ800kmが作戦可能範囲になる。機動艦隊の移動距離を考えれば2日を越える距離だ。

 しかも、搭載する砲弾の数は飛行機1個中隊並だからね。


「効果的に防ぐ方法は現在存在しないでしょう。飛行船を効果的に運用するとすれば、目標は戦争を継続するために必要な施設群への攻撃になります」

「それでは一般市民を巻き込んでしまうぞ!」


「その覚悟が必要かと。俺もフェダーン様にそのような決断をして欲しくありませんが、戦争継続をできなくする手段が戦略的攻撃になるんです」


 フェダーン様が腕を組んで考え込んでいる。

 効果的ではあるが人道的ではないと考えているんだろうな。

 できればやってほしくない攻撃手段だ。だが、飛行船を今後発展させれば容易に歳爆撃が可能になってしまう。


「リオ殿が、飛行船の利用を民需に限るように話してくれたことが良く分かった。

 効果的だが、人道に劣るということだな。よくよく心に留めておくぞ」

「でも、かなり効果的なのよね……。スコーピオ戦では役立つんじゃないかしら」

「俺もそう思います。となると、更に効果的に……、と考えるのが自然です。砲弾の投下高度が低い飛行機と異なり、高い位置から落とすことになりますので、投下体である砲弾、これからは『爆弾』としますが、改良することが必要です」


 目的は2つだ。絶対に炸裂することと効果的に炸裂することだ。

 信管がかなり原始的だから、不発弾の数はかなり多いらしい。それを防ぐだけでも効果が倍加される。

 効果的な炸裂とは、爆弾の炸裂位置だ。地中深く潜り込んでから炸裂したなら周囲への影響は小さいだろうし、地表から高い位置でも同じことになる。

 可能であれば地表数mで炸裂してくれるなら一番良いのだが……。


「地上5スタム(7.5m)で爆弾を炸裂させるのは、魔方陣を信管に刻めばデッキない話ではないわ」

「スコーピオの体高を考えればもう少し上空の方が良いのではないか? 信管が出来たなら試行しながら高さを変えるべきだろう」

「なら5スタム(7.5m)、7スタム(10.5m)それに10スタム(15m)を作ってみるわ。とりあえず10発ずつで良いでしょう?」


 ケーキを作るような口調で言ってるけど、フェダーン様はその言葉に笑みを浮かべている。

 2人の感性を疑いたくなってきた。


『それ以外に、高高度から目標に正しく爆弾を落とす方法と、着弾の衝撃を緩和させる方法も考えないといけません。

 先ずは、爆撃照準器ですが……」


 高度を一定に保って爆弾を投下するなら、飛行速度と高度から投下時点よりどの程度着弾点がズレることをあらかじめ知ることができる。

 飛行機では簡易な照準器でも十分なんだろうけど、飛行船ともなれば飛ぶ高さが違うからなぁ……。風の影響だってあるだろうし、かなり面倒な計算をすることになってしまいそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ