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M-131 かつて大型輸送船があったらしい


 やはりこの世界の一番の問題は通信事情が悪いことだ。

 魔石通信はトランシーバーのように使えるが、その通話距離は10km程度だし、光の点滅による情報伝送距離は30kmにも満たない。

 魔石通信機を改良して指向性を持たせたモールス信号を導師が作ろうとしているが、今のところは100km程度が限界だ。

 それ以上の距離では、陸上艦を使って手紙を運ぶことしかなかったのだが……。


「確かに長期休暇は必要でしょう。リバイアサンの隠匿空間への帰還後ということでヴィオラやガリナム騎士団と調整したいと思いますが」


 急遽、ヴィオラからドミニクを連れてきた。

 アリスなら往復で1時間も掛からないからね。

 一応、ヴィオラの会議室で訪問の主旨を話しておいたから、リバイアサン在住のフェダーン様やエミー達と詳しい内容を話し合うだけで済みそうだ。


「軍の兵站基地を使えば、王都は目と鼻の先よ。余分な日数を掛けずに済むし、軍の兵員輸送船を使えるわ」

「よろしいのですか?」


「私の指揮範囲にあるから問題はないわ。軍の方でもハーレット同盟との戦で協力して貰ったことは忘れてないでしょうから、優先して便宜を図ってくれるでしょうね」

「具体的な日時と期間は再度調整したいと思います。ウエリントン王国の領内に入ったら、再度迎えに来て頂戴」


 これで1か月先を待つことなく休暇が取れる。

 フレイヤ達も嬉しそうだな。

 ヴィオラにドミニクを送って、帰りは次元の歪を通って帰ってくる。

 ドミニクの依頼で、ヴィオラ到着前に100km四方の魔獣の様子を上空から視認したのだが、明日にも狩れそうな魔獣が点在していた。


「あれが飛行機で観測された群れね。近くに他の群れがいないから、何とかなりそうね」

「リバイアサンの方は、あまり魔石が取れてないんです。少しやり方を考えてはいるんですが」


「無理はしないでもだいじょうぶよ。リバイアサンはヴィオラ騎士団のステータスでもあるし、王国も無下にはできない存在だから。

 とは言っても、他の騎士団から問い合わせが隠匿空間の事務所に来ているの。現状はフェダーン様を優先するということで断っているんだけど…」


 動く工房都市でもあるから、他の騎士団が利用したいということなのかな?


「故障した陸上艦の簡易修理ということらしいわ。ベルッド達を有効に使えるんじゃないかしら」


 ドッグには左右に桟橋がある。

 戦闘艦やヴィオラ、ガリナムを停泊させても、片側の桟橋で十分だ。

 確かに、もう1つ桟橋は残っているんだが、修理に使うとなればドッグの出入りがい方向になってしまいかねない。

 ドッグの進入方向が2方向であるのは、機動要塞内の陸上艦の発進を迅速に行うためだけであるなら、利便性を削っても問題はないと思うのだが……。


「ドミニクの判断に任せます。とは言っても、リバイアサンへの滞在時間については考慮してください」

「居座られても困るってこと? それぐらいの制約は課すべきでしょうね」


 魔獣や海賊との戦闘で陸上艦が破損する騎士団はかなり多いらしい。

 自走もできないような大破状態ではどうしようもないが、船体の補修や自走のための車輪の交換ぐらいなら可能だろう。

 大きな修理の場合には、軍の工房からの応援も得られるんじゃないかな。


「補給も行えれば良いんですが……」

「将来性はありそうね。それじゃあ、ヴィオラに向かって頂戴」


 少し話し込んでしまったかな。とっくにヴィオラの上空に来てたんだけど。

 ヴィオラに連絡を入れてカーゴ区域の側面扉を開いてもらうと、アリスがカーゴ区域へ飛び込んだ。


 ドワーフ族の連中が驚いてるのは、アリスを知っているベルッド爺さん達がリバイアサンに来てしまったからなんだろう。

 現在のヴィオラのカーゴ区域は、ベルッド爺さんの弟が指揮っているらしい。


 ドミニクをコクピットから下ろすと、直ぐにヴィオラを飛び立つ。

 アレク達とは休暇で会うことにしよう。

                 ・

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                 ・

 リバイアサンに戻ってくると、「ご苦労様にゃ!」とマイネさんが労いの言葉を掛けてくれた。

 持って来てくれた大ぶりのマグカップでコーヒーを飲みながら、タバコに火を点ける。

 まだ夕暮れにはだいぶ間があるからね。

 エミー達は制御室で進路を眺めているに違いない。


 コーヒーを半分ほど飲み終えたところに、カテリナさんが現れた。フェダーン様が一緒だから少し不安が遠ざかる。


「やはりアリスでの送迎は早いわね。導師が飛行船を完成させても、アリスの速さには及ばないのよねぇ……」

「それでも従来よりは格段に速くなりますよ。大型は未だでしょうけど、小型飛行船は既に完成してるんでしょう?」


 いつの間にか、軍の工廟で作ったらしい。10人を乗せて時速120kmで12時間の航行が可能ということだから、ブラウ同盟に加わる王国や規模の大きな商会から注文が殺到しているそうだ。

 導師のおかげでパテントが俺になっているから、1隻作るごとに金貨6枚が俺の口座に振り込まれているとマリアンが教えてくれた。


「そうは言っても、最大で王都から王国軍の駐屯基地までだ。リオ殿は隠匿空間までの飛行をもくろんでいるのだろうが、それはかなり先になるだろうな」

「やはり距離を伸ばしたいわね。飛行時間は、搭載する魔気のカートリッジの重さで左右されると言ってたわ。乗員を減らして飛行船を一回り大きくすれば24時間に手が届くと思うんだけど……」


 あまり際物を作るのもどうかと思うな。

 上空で魔道タービンをアイドリング状態にすれば、2日程滞空も可能らしい。

 おかげで、軍の基地周辺部の偵察が格段に良くなったようだ。

 その情報を貰って、基地周辺で魔獣を狩る騎士団も増えたようだから、かなり騎士団に貢献できてはいるんじゃないかな。


「大型繋がりということで教えて頂きたいのですが、今まで建造された一番大きな陸上艦はどれぐらい大きいんでしょうか?」

「かつて戦艦を越える輸送船がウエリントンにあったと聞いたことぐらいだが……、カテリナは詳しいのではないか?」


「『ヴァイス・バール』のことかしら? ウエリントン、ナルビク、エルトニアの3王国間の商売で財を成したウエリントン王国のリドル商会が持っていた陸上艦よ。生憎と後継争いで没落してしまったけど、ヴァイス・バールの大きさは戦艦を2隻繋いだぐらいの大きさだったらしいわ。沢山の商船を連ねるより,大量の荷を運べて周囲には大砲を並べていたらしいわ」


「今では、その商会に並ぶ商会がいないということか」

「1つの商会が3王国の運輸の半分を担うのもねぇ……。後継者争いに軍まで介入するほどだったと聞いたことがあるわ。それに懲りて、現在のギルドの権限が大きくなったらしいわ。

 リオ君。試験では必ず出るところだから、覚えていないとダメよ!」


 別に学校に入ろうという気はないけど、そんな歴史があるんだ……。


「戦艦を2つ並べたような、とは思い切った構造だな。案外軍艦では通用するかもしれん。だが、今の話を聞いてリオ殿は何を考えておる? 興味本位とは思えぬのだが」

「もう1つの母艦です」


 ソファーから立ち上がってコーヒーをマイネさんに頼んでくる。

 再び腰を下ろした俺に、2人の視線が集まった。


「飛行機の母艦は王都で改装しているところだ。更に大きな母艦を造る意図が見えぬ」

「飛行機ではなく、戦機を運ぶ船の母艦ですよ。いっそのこと戦機を運ぶ船そのものを搭載できればと思ったものですから」


「ちょっと待って! それだと駆逐艦を何隻か運べる大型船ってことになるんじゃない?」


 ちょっと慌てたカテリナさんの言葉に、フェダーン様も頷いている。


「そこまでだいそれたことは考えていませんよ。要は戦機を4機展開するだけの船です。当初の考えでは騎士の乗船時間は半日程度です。それに居住性を加えたのはフェダーン様達だと思ってましたけど」

「確かにそうは言ったが……。リオ殿は纏めることで乗員数と居住性を上げようと考えたのか?」


 呆れた口調のフェダーン様だったが、少し分かってきたのでそれが実現できるかを脳裏で考えているように思える。


「艦隊の随伴を考慮したということだな。さすがに戦艦2隻を繋げるわけにはいかぬが、軽巡洋艦なら先の戦で鹵獲している。錆びを待つよりはおもしろいかもしれんな」

「ひょっとして、リバイアサンで使おうとしている戦機の輸送艇を軍と共有しようってことかしら?」


「その方が手間が省けますし、試作は軍で行って貰えそうですからね」

「確かにそうなるな。輸送艇6隻を作って2隻を進呈しよう。その代わり、戦機移送艇と母艦となる船の改修設計は頼んだぞ」


 これで、ウイン・ウインってことになるな。

 上手く行けば、リバイアサンを中核とした魔獣狩りが広範囲に行えるし、フェダーン様も戦術の手駒を増やすことができる。

 ハーネスト同盟は先の戦で痛手を受けたから、直ぐに再戦が起こるとは思えないが、いまだに大陸の征服を諦めてはいないようだ。

 

「飛行機と飛行船が加わり、更に戦機の展開まで容易に行えるとなれば、軍の演習が大変になりそうね」

「場合によっては古い参謀を追い出すことになりそうだ。まあ、時代を考慮できぬ参謀では役にも立つまい。兵站基地のお守りなら、少しは役立つだろう」


 軍の再編にも繋がるのか……。

 ハーレット同盟はいち早く飛行機の有効性に気が付いたようだけど、生憎と戦をする場所がまずかった。

 次の戦では、どんな戦略を出してくるのだろう。同じ轍は踏まないだろうし、ブラウ同盟よりも柔軟な思考を持っているようだ。

 アリスの存在は気が付かなかったようだが、リバイアサンに対する対策は考えて来るに違いない。

 

「ところで、ハーレット王国に諜報員を忍ばせているんですよね?」

「もちろんだ。もっともブラウ同盟、いやウエリントン王国にも潜んでいるぞ。貴族に取り入って情報収集に余念がないと聞いている」


「良いの? それって王国への裏切りになるんじゃない?」

「王宮の噂を、近しい商人達に披露することぐらいは大目に見なければなるまい。それ以上の情報を求めて暗躍するのなら罰しなければならないだろうな」


 必要悪ってことかな?

 それを利用して情報操作するぐらいのことはフェダーン様ならやりそうだ。


「ハーレット王国が知りたいのはリバイアサンの主砲らしいぞ。戦艦数隻の一斉砲撃に勝ると王宮内部で噂となっている」


 思わずカテリナさんと顔を見合わせてしまった。

 よくもそんな話をでっち上げたものだと感心してしまう。


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