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M-130 戦機移送専用艦


 戦機は2機が1組でバディを汲んで行動する。

 戦闘機の運用に似たところがあるけど、1機単独で行動するよりは遥かに生存率が良いらしい。

 アリスは単独だけど、本来任務は移住可能な惑星を先行調査するのが目的だったからだろう。

 俺にはそんなことをしていた記憶が無いんだが、アリスの話ではいくつかの惑星を巡ったらしい。

 文明を築くような高度な知能を持った生物はいなかったということだが、それなりに敵対する生物はいたようだ。

 アリスは戦闘用ではないらしいんだが、とんでもない戦闘力を秘めている。

 どんな脅威に出会っても任務を遂行できるようにしたんだろうけど、戦闘用を凌駕する性能を持っているんじゃないかな?

 今は記憶に残っていない俺達の任務が終わった時に、そのことが問題になったのかもしれない。

 廃棄したくとも自律電脳が意識を持っている以上、廃棄することはその存在を消すことになる。

 俺と一緒に旅に出たのは、そんなしがらみからの脱却したかったのかもしれない。

 

『やはり4機を搬送単位とすべきでしょう。そのまま狩場で待機するのですから、自衛用の武器は必要だと推察します』

「ヴィオラにも数機搭載できるし、獣機だって3個分隊を乗せられる。同じ船に乗せるのではなく戦機用と獣機用の2つが必要になりそうだ。

 もっとも、メイデンさんの戦闘艦に1個分隊の獣機を搭載してはいるんだけどね」


 戦闘艦の獣機用カーゴ区画はできれば撤去したい。あの戦闘艦の居住性は最悪だからねぇ。船員室を増やせるし、休憩所も作れるんじゃないかな。


『新たに作るよりは既存の船の改造で対処したいと思いますが、候補となるのは、この2つです。軽駆逐艦という手もありますが、少し大きすぎます』


 仮想スクリーンが2つ現れた。

 1つは小型の貨物船。もう1つは、ずんぐりした形状に砲塔が1つ乗った軍艦だ。駆逐艦のような任務ではなく、拠点防御に特化した砲船ということになるんだろうか。


「貨物船は近距離用の商船だね。もう1つが理解に苦しむけど、姿から想像する限りでは速度が出ないんじゃないか?」

『軍の拠点防衛の一躍をかっている船です。コンセプトは動く砲台ですね。速度よりは船体強度を優先しています』


 帯に短し襷に長しってことかな。

 となると、既存の陸上艦を改造するという案は難しくなりそうだな。


「少し大きくなりますが、駆逐艦の転用はどうでしょうか? 速度は軍の中では突出してますし、武装と倉庫や兵員区画を撤去すれば十分利用できると推測します」

「値段はどうなんだろう? かなり高くならないかな」

「フェダーン様と交渉しては? 場合によっては軍にも転用可能でしょう」


 そんなアリスの提案で、フェダーン様とカテリナさんに話を持って行ったら2人がかなり驚いていた。

 どうやら戦機の移動は大型輸送船を使うことで対応していたらしいのだが、戦機を分散配置することがかなり難しかったらしい。


「敵前で戦機を小隊単位で移動できるなら戦術が広がるだろう。駆逐艦に偽装するなら相手も偵察艦だと思うだろうな」

「駆逐艦よりも少し短くなりそうですが……」

「構わぬ。それならより偵察艦に思えるはずだ。だが、居住性は良くなさそうだな。まあ、軍人であるなら問題はあるまい」


 数日間の滞在を行えるようにするという仕様が追加したが、休憩所を少し広げれば問題は無さそうだ。

 アリスに設計を依頼して、出来上がりを待つことにした。


「リオ君がこれを欲しがるのは、リバイアサンでの狩りを想定しているの?」

「現状では、周囲30kmというところでしょう。あまり広範囲には狩りが出来ませんし、この巨体ですからねぇ。魔獣が逃げてしまいます」


 魔獣にどの程度の知性があるのかは不明だが、リバイアサンに対して脅威を感じるのだろう。正面に魔獣を捉えても、直ぐに10km以上離れてしまう。

 警戒している魔獣を狩るのは至難の技らしい。

 戦機で追いかけると更に逃げてしまう、とリンダがこぼしていた。


 その日の夜。

 エミー達も当直を交代したらしく、夕食後のワインを優雅に飲んでいる。

 今のところは全く問題ないとのことだが、だいぶ東にやってきたからエルトリア王国の東の国境に近付いているはずだ。

 東の3つの王国が作るコリント同盟軍と無用な諍いは起こしたくないのだが、フェダーン様と約束でもしたのかな? エミーはこのまま東進するつもりのようだ。


「コリント同盟軍と我等ブラウ同盟軍は不可侵条約を結んでいる。コリント同盟を作る王国の王女達もブラウ同盟王国には多数の輿入れがある。

 とはいえ、自国の歴史の古さを鼻に掛ける連中だからな。リバイアサンを拝ませてやることも悪くはないであろう」


 そこで笑みを浮かべるんだから、困ったお妃様だ。

 まあ、陸上艦が何隻出ようと、リバイアサンを沈めることはできないだろうが、政治的な互いの位置関係を壊してしまいそうだ。


「カテリナの方は、まだ調査を行っているのか?」

「リバイアサンの対抗兵器でしょう? すでに伝説の中に埋もれているとは思うんだけど、王都の禁書書庫は調査を終えたわ。現在は6つの神殿の書庫を陛下からの令状を持って調査しているところなの。

 現在までに分かったことは、やはりあるみたい。それも1つではないということぐらいかな」


「リバイアサンはある意味発掘兵器でもある。となれば、それをブラウ同盟以外の王国が探し出すやもしれんな」

「それほど深刻にならなくてもだいじょうぶよ。

 先ずは見付けなければならない。次にそれが稼働することを確認しなければならない。最後にその使い方を理解しなければならない。

 リバイアサンの場合には、リオ君がいてくれたし、アリスという存在もあったのよ。他の王国に私程度の人間がいるとしても、その3つの課題を解けるとは思わないんだけど……」


 確かに俺とアリスがいなければ、リバイアサンは動くことは無かったろう。

 見付けることはできても、中に入ることなどできなかったはずだ。


「古代帝国の遺産である禁書がまだ残っていたとは……。それを読み解くことで彼等の知恵を学ぶことは可能だろう。となれば、やはりいつかは姿を現すことになると考えた方が良いのでは?」

「見付けても、その後が大変よ。禁書は残っているけど、体系化が出来ていないでしょう? それが何をする物かさえ分かるまでに時間が掛かるわ。

 厳重に秘密にするんでしょうけど、秘密は時間が経てば綻ぶのよねぇ」


 フェダーン様と目を合わせて2人で笑みを浮かべる姿は、どう見ても悪役そのものだ。

 要するに、リバイアサンを攻撃する前に周知の事実として知られてしまうということになるのな?

 それなら、使われる前に破壊することは可能だろう。

 でも使い方が簡単で、直ぐに利用できるとなれば話は別だ。

 やはり、継続的な調査は進めた方が良いんじゃないかな


「ブラウ同盟でも調査が進まないならハーレット同盟はなおさら、ということになりませんか?

 そんなハーレット王国がこのリバイアサンを探していたんですから、古代帝国に対する知識はどこから来たんでしょう?」


「リオ殿はおもしろい課題を与えてくれる。カテリナはどう考える?」

「コリント同盟……、ということになりそうね。確かガルトス王国にコリント同盟のサンビア王国から輿入れがあったような記憶があるんだけど?」


「前王のお妃の1人がサンビア王家から嫁いでおる……。なるほどのう。リオ殿のおかげで少し読めてきたな」

「特使を派遣しても良いんじゃない? 明日には嫌でもリバイアサンをコリント同盟軍は目にすることができるはずだもの」


 完全に悪だくみを始めたようだ。

 なるべく聞かないでおこう。俺達も悪者になりかねないからね。


 フレイヤとエミーを連れて、浴場に向かう。

 ゆったりと湯船に浸かれば嫌な話を少しは、忘れることができそうだ。


 30人程が一緒に入れるような大きな湯船に3人だけというのは贅沢以外の何物でもない。

 その上場所が場所だ。

 一滴の水だって無駄にはできないような乾燥しきった砂の海だからなぁ……。

 空気中の水蒸気を凝縮させるプラントがあるからいいようなものの、軍の戦艦だって上級士官でさえも毎日の風呂は使えないらしい。


「ヴィオラの部屋を思い出すわ。『シュトロー』で作ったぬるま湯をシャワーに使ってたんだよね」

「『クリーネ』で体や衣服の汚れは落とせるけど、心の疲れが落とせないんだよなぁ」


「それで、フレイヤ様のお兄様は、海辺に別荘を作ったのでしょう? 羨ましいですね」


 エミーの話を聞いて、驚いたような顔をしてフレイヤがエミーに詰め寄った。


「いい? 今のような話を兄貴に伝えないでね。あの別荘に招待されたら……、ここが天国に思えるわ」


 エミーがキョトンとした表情で首を傾げている。

 確かに良い場所だけど、それは誰にとって、どのように利用されるかを考えないとダメなんだろうな。

 毎日が魚釣りなんだから、漁師生活そのものだった記憶がよみがえってくる。

 それなりに楽しめたかもしれないけど、ノルマを課せられたら途端に重労働に思えてならないんだよね。

 とは言っても、ヴィオラ騎士団の食料事情を垣間見た場所でもあるんだよなぁ。


「何がいけないのか分かりませんけど、分かりました。お兄様の前では別荘は禁句と覚えておきます」

「それで良いわ。どうしても見たい時には……、そうねぇ。一泊だけなら問題はないと思うわ」


 さすがに兄貴に対して礼を書いてると思ったのかな?

 一泊で了承してくれるなら、きついノルマとも感じることは無さそうだ。


「でも、しばらく休暇を取っていない気がする。リオがここの領主なんでしょう? ちゃんと休ませないと住民が反乱を起こすかもしれないわよ!」


 さすがにそれはないだろうけど、言われてみればその通りだ。

 フェダーン様と話し合ってみようかな。2週間程度なら乗員の半数ずつを休ませても問題はないような気もする。


 翌日の昼下がり。

 何時ものように、3人でコーヒーを楽しんでいるところで、休暇の提案をしてみた。


「「休暇ですって?」」


カテリナさんとfダーン様の視線が俺に突き刺さる。


「はい。だいぶリバイアサンでの任務をしてきましたから、1か月程休暇を取りたいと考えています。乗員の半分ずつを2回に分ければ、王都で1週間程度の休みを取らせることも可能かと」

「リバイアサンを封印して1回で済ませた方が良いでしょうね。ブラウ同盟としては、休暇を長く取らせたくはないな。

 とはいえ、兵員に休養は必要だ。軍の兵員輸送船を使えば1度に2千人を運べるぞ。我が手配をしておこう」


 ひょっとして、タダで王都を往復して貰えるのかな?

 ありがたく利用させてもらおう。


「となると、リオ殿を王宮に招きたいところだ。非公式の晩餐会を開くのも一興だな」


 俺に顔を向けて笑みを浮かべているのは、絶対によからぬ考えをしているに違いない。

 だけど、エミーを頂いて、その後の挨拶もあまりしていないからなぁ。

 エミーは喜ぶだろうけど、フレイヤは嫌がるに違いない。その辺りを上手く調整しないといけないようだ。


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