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M-128 戦闘艦の運用試験


 戦闘艦が動いたのは、新型飛行機が完成してから半年後のことだった。

 だいぶ待たされたから、メイデンさんは機嫌が悪かったのだが運用試験を開始すると、それまでの不機嫌そうな表情が嘘のように笑みを浮かべた姿を見せてくれた。

 戦闘艦のブリッジの画像と、戦闘艦の監視台からの映像はリバイアサンの通信装置を通して制御室で見ることができるようだ。


「現代よりも古代の方が文化が進んでいたのが恨めしく思うわ」

「少しずつ解明すれば、この世界でも生かせるんじゃないですか? とは言っても、便利ですよね」


 双方向の画像通信だからなぁ。テレビ電話に近いということになる。

 

「かつてはリバイアサンを中核において、数隻の戦闘艦が周囲を囲んでいたのであろう。半径200ケム(300km)を越える状況監視ができるのであれば、戦闘を有利に進められるぞ」


 フェダーン様も感心して見ているようだ。

 やはり未知の戦闘艦の性能を文書ではなく稼働状態で確認したかったのだろう。


「現在の速度は毎時25ケム(37.5km)、まだ余裕があるわ。レッドゾーン近くまで増速してみるわね」


 制御室の大型スクリーンに戦闘艦の監視台からの映像が映し出される。右上に速度表示が出ているが、アリスが現在の度量衡にプログラムを変更してくれたものだ。

 

「毎時28……、30……、更に上がってますね。32……」

「レッドゾーンスレスレよ。毎時34ケム(51km)。帰ったらハグしてあげるわ!」


 有頂天になったメイデンさんが叫ぶような声を届けてくれた。

 とんでもない速度だ。

 アリスが内緒で状況監視を行っているようだが、何も言わないところを見ると安全上の課題は無いようだ。

 さすがにメイデンさんもレッドゾーンギリギリでの速度は直ぐに落としてくれたけど、毎時30ケム(45km)の速度は維持したままでいる。


「次は砲撃になるが、あの速度で行うつもりなのか?」

「標的を3カ所に作りました。まぐれは避けたいですからね」


 うんうんとフェダーン様が頷いている。

 さてどうなるんだろう?

 速度を落とさずに、戦闘艦が最初の標的に向かっていく。


「毎時30ケム(45km)で右舷一斉射撃。射撃管制盤の作動開始!」


 速度と比距離、相手の運航方向などを総合的に計算して砲の制御を行う優れものだ。リバイアサンには大型のものがあるが、あの戦闘艦にも小型の物が設置されているのだろう。


「発射!」


 メイデンさんの声と共に戦闘艦のキャノン砲と魔撃槍のハイブッリド砲4門が一斉に発射された。

 ……標的周辺が爆散したが、ちょっと不自然な砲弾の炸裂だった。

 フェダーン様も首を傾げている。


『どうやら、リボルバー装填機を使って各砲が2発放ったようです』


 アリスが解説してくれた。

 なるほど、短時間で放ったからあんな感じに見えたんだな。


「比距離は10ケム(15km)ほどではなかったか? 一撃であの結果か……」


 先ほどまであった標的の姿がどこにもない。

 かなり制度の高い砲撃と言えるんじゃないかな。


「射撃管制盤は早期に我等も手に入れたいところです」

「それなりの技術が必要なのであろう。直ぐにとはいかぬであろうが、軍の研究所の連中にも見せてやりたいところだ。ある程度資料をまとめて置くように!」


 副官に指示を出している。

 弾着観測をしながら砲の修正を行うのは必要な行為だけど、短時間での砲撃戦なら射撃管制盤があるか否かで結果が左右されてしまうだろう。


 最後の標的は、自走車に板を張り付けて作った標的だ。

 最大速度で無人運転をしているんだが、操舵装置をカムを使って不定期に標的の向きを変えるようにしているから、実戦に近い砲撃ということになるんだろう。


「おもしろい標的を作ったわね。飛距離8ケム(12km)と言ったところかしら。微妙に向きを変えるのね……。射撃管制盤の作動を確認。標的を早くロックしなさい!

 ……発射!」


 結果は、やはり一撃で破壊してしまった。

 無人で使い捨てということだから時速40kmは出ていたはずだ。それでも問題なく照準を付けられるんだからなぁ。


「あれだけ動き回っても破壊できるのか……。リオ、あの戦闘艦の製作図を提供することはできないのか?」

「製作図があっても、王国の工廟では作れないわ。似たものは作れてもあの速度は出せないでしょうし、射撃管制盤を使った砲の動きも鈍いものになりそうね。

 そもそも、あの戦闘艦は半分も分かってないの。動かすことはできるんだけど……」

 

 使うことはできるけど、作ることはできない。

 よくある話だな。似た物を作れるということが、せめてもの救いだ。


「機動力は驚くべきものだが、艦隊運用には問題がありそうだ。あれでは偵察艦とすべきか突撃艦とすべきか判断に迷う」

「古代の戦艦はどんな性能だったのかしらね。リバイアサンに記録が残っていないようなの」


「たぶん、大口径砲を多数搭載しておるのだろうな。それに装甲の厚さも今以上だったはずだ。そうなると速度は出せんか……。昔も今も、艦隊運用は面倒であったに違いない」


 ハイブリッド砲の口径を拡大した程度じゃないかな。さすがにドラゴンブレスは搭載していないだろう。

 気になるのは、敵対勢力がリバイアサンに対抗しうる兵器を作っていたかどうかになる。


「ウエリントン王国軍の戦艦は、10カム先の標準装甲板10スタム(15cm)厚を貫通できるが、リバイアサンの外部装甲は最低でも30スタム(45cm)以上はありそうだ。どんな戦艦の砲撃にも耐えられるだろうな」

「分からないわよ。少なくとも、当時は対抗手段があったと考えるべきだわ。強力な魔撃槍というよりは、ドラゴンブレスに近い物かも……。それとも、私達が想像できないような兵器かもしれないわ」


 カテリナさんは、そんな兵器がまだ残っていると考えているのかもしれない。

 ひょっとして、すでにハーネスト同盟軍は見付けたのかもしれない。その存在の延長上に、機動要塞が星の海にあることを知っていたんじゃないか?


 少し、調査が必要かもしれない……。


『可能性は高いと推測します。調査を始めます』


 頭の中にアリスの声が届いた。

 少しは安心できそうだ。俺にはどこから進めて良いかさっぱり分からない。


「でも、フェダーンも案外先を見る目があるのね」

「何のことだ?」


「リオ君のアイデアを採用したことよ。少なくとも軽巡洋艦で重巡洋艦を越えることを理解できたんですもの」

「ああ、そのことか。少なくともリバイアサンから200カム(300km)ほど離れた位置で、小規模艦隊の運用ができるなら風の海近郊での治安効果は計り知れぬ。運用方法の模索ともなれば小規模艦隊にかぎる」


 フェダーン様の答えをニヤニヤしながらカテリナさんが聞いているんだけど、裏に何かある感じがしないでもない。

 これも、少し気を留めておく必要がありそうだ。


「それで、リバイアサンの飛行部隊は目途が立っているのか?」

「すでに1個小隊を確保してあるわ。4機の内の2機はヴィオラの航海に合わせて交代して戦闘訓練をしているわよ」


 先んじられたか! という感じでフェダーン様が舌打ちしてるのは、お妃様としてどうなのかな?


「これで、リバイアサンがますます活躍できそうなんですが、フェダーン様には俺に話があると、エミーから聞きましたが?」

「うむ。ウエリントン……、いや、ブラウ同盟からの依頼とすべきであろうな。

 リバイアサンの航行だが、北緯30度線を南北に航行してくれまいか。

 同盟軍にリバイアサンの雄姿を見せたいとのことだ。それによる戦意高揚を意図したいというもあるが、もう1つは、ギルドに所属しない海賊対策になる」


 3つの王国を東西に移動するとなれば片道1万km近いんじゃないかな。

 巡航速度の時速15kmを維持したとすれば、片道がほぼ1カ月の勘定だ。長距離遠征そのものだ。


「1往復ごとに金貨15枚。更に狩りも行えば乗員への給与の足しにもなるだろう」

「このままでは夜逃げコースですから、承ることになるでしょうが、この場での即答はできません」


「構わぬ。ドミニク達との協議もあるであろう。可能であれば空母とやらが我の手に入る前に欲しいものだ。そうだな……2か月後には返事が欲しい」


 期限を切ったということは、軽空母を中心とした艦隊運用を2か月後には開始したいということになる。

 リバイアサンを近くに置いて、安心感を持ちたいということになるのだろう。

                 ・

                 ・

                 ・

 フェダーン様の依頼は、ドミニクの了承を確認して受け入れることになった。

 ドミニクとしても、リバイアサンの維持を図るためには、軍への協力も必要だと判断したのだろう。

 意外だったのは、リバイアサンの航行範囲を大まかではあるけど3つの王国が王国内に周知したことだ。

 示威行為かと思っていたのだが、どうやら小規模騎士団への便宜を考えてのことらしい。


「風の海の北部を、工廟が動いているようなものよ。修理や補給をしたい騎士団も多いんじゃないかしら?」

「それで、ドミニクから他の騎士団や軍艦がリバイアサンのドックを利用する際の条件を出して来たんですね。すでに試験的な運用はしていますから、その範疇かと思ってました」


「困った領主ねぇ。でも36時間以内であるなら、銀貨5枚。それを超える場合は12時間毎に銀貨3枚は王都周辺の工廟都市並みね。もう少し高くても良いと思うんだけど」

「元々が拾い物ですからね。でも修理代は別勘定ですし、緊急退避時には王国が支払ってくれるみたいですよ」


 緊急退避の定義が曖昧だから、フェダーン様が判断してくれるだろう。

 それに、該当しない場合でも騎士団同士の付き合いというのもありそうだ。騎士団は互いに助け合うことが大事だとアレクがいつも口にしていたぐらいだからなぁ。


 考えようによっては、新たな構想で作られた試験的な機動艦隊が、動く工廟と共に遊弋しているようなものだろう。

 作戦範囲が広いことを知る者は少ないだろうが、小規模騎士団が少しでも安心できるなら十分に参加する意味がありそうだ。


「それで、ローザ達がやって来ると?」

「王国のためなら参加するのは当然だと言ってましたけど……」


 エミーの困った表情で、どうやら裏が見えてきた。

 本音と建前という奴だろうな。おもしろそうだからが本音に違いない。

 ドミニクとしても扱いに困ってたんだろうけど、大きな戦力が無くなって困ることは無いんだろうか?


「飛行機による偵察で魔獣の不意打ちを避けられますし、不審な騎士団の存在には航路を変えることが出来ますから、ローザ達の移動は問題ないとドミニク様が言っておりました」

「なら、ここで頑張って貰えば良いんじゃないかな。出撃は少し面倒だけどね」


 まさか、駐機場の離着陸台が動くとは思わなかったからね。

 アリスや飛行機なら、離着陸台を外部に張りだせばそれで対応できるんだが、戦機は飛べないからなぁ。

 あの場所に戦機があったことに早く気が付きべきだった。

 30m四方の離着陸台が100m以上上下するとは、俺も思わなかったなぁ……。


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