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M-127 新型飛行機


 ベルッド爺さん達が乗り込んで2か月が過ぎた頃、駐機場に試作飛行機が姿を現した。

 フェダーン様達軍人が数人俺達と共に離着陸台に自走車で運ばれていく姿を見送る。


「だいぶ形が異なるな」

「空気抵抗が少なくなる形にしたとリオ君が言っていたわ。下部の形状もフラットでしょう。あの短い翼だって折りたためる構造よ」


 フム、フムとカテリナさんの説明を聞きながらフェダーン様が頷いている。

 一緒の副官達は、軍の使う座布団のような形状と異なる姿に、本当に飛ぶのかと目を見開いてみている。


「操縦士は、彼か?」

「ヴィオラで飛行機を飛ばしていたから適任でしょうね。少し操縦系統が異なるし、後部座席にも1人乗り込むのよ。役目は周囲の監視と、銃への弾丸装填ね。そうそう、爆弾の投下は彼の仕事よ」


「今日は積んでおらぬのか?」

「機体の中に収容しているの。軍の14セム(21cm)砲弾を改良したものが1発投下できるわ」


「それで1時間以上の飛行時間が得られると!」


 驚いたような口調でフェダーン様がカテリナさんに顔を向ける。

 巡洋艦の主砲の砲弾を基に改良した爆弾だ。重量だけで100kgはある。


「それだけじゃないわ。飛行速度は時速150カム(225km)を出せるし、上昇高度は500スタム(750m)以上。戦の常識が変わるわよ」


 とは言っても、爆撃照準は、時速150kmで高度300スタム(450m)で目標に接近した時でないと使えない代物だ。

 それさえ守れば、目標点から50m以内に落とすことができる。

 確実に命中させるには、いろんな条件をファクターとして計算する必要があるんだけど、自動航法が取れないんだからこんなものだろう。


 機首に搭載した2丁搭載した銃も、機関銃とまではいかない代物だ。

 獣機の持つ2連装の銃の薬莢式の弾丸を使った銃だけど、発射時のガス圧で次弾装填が行えるように初期のブローバック方式を採用している。

 一発の弾丸がカートリッジ込みで300gを超えるから、銃の上部に5発入りのマガジンを差し込んで運用する形だ。


「銃弾は予備を含めて20発だから、現在の飛行機よりは重武装でしょう?」

「飛行機同士の戦も考慮済ということだな」


 飛行機からフェダーン様達が離れたところで、自走車がコクピット傍に移動して屋根に乗せたハシゴを飛行機に伸ばしている。

 

「それでは試験を行ってきます」

「無理はしないでね。チェックリストの項目に沿って、試験をして頂戴」

「了解です!」


 カテリナさんに挨拶したパイロット達がゆっくりと飛行機に向かって歩いていく。

 ハシゴを上り前後の席に納まったところで、俺達に手を振ってスライドさせてあったキャノピーを閉じる。


 キュィーンという甲高い音が特徴の魔道タービンエンジンの音が聞こえてくると、飛行機がゆっくりと上昇を始める。


 俺達が離着陸台に移動して空を仰ぐと、軽快な速度で頭上で円を描く飛行機が見えた。


 副官が肩から下げた通信機に通信が入ってくる。

 カテリナさんが性能試験として挙げた項目の、確認結果が次々と送られているようだ。


『上昇時の異常なし、現在の高度500スタムで安定。最高速度の確認に入る……』


 副官が点滅する光信号を読み上げてくれた。

 今のところは問題ないようだな。

 この後に模擬幕団の投下試験や銃の射撃試験等も行われるのだが、最大の関心は飛行時間がどの程度かだ。

 飛行開始40分後に魔道タービンエンジン用のカートリッジボンベを持ったアリスで援護に向かわねばならない。

 燃料が尽きた飛行機はゆっくりと降下するらしいから、その時に滑空性のがどの程度かを確認するのはアリスでないと解析できないからね。


「飛行速度が160カム(240km)を越えたそうです。魔道タービンエンジンの出力はグリーンを維持しているそうです」


「楽しみになってきたな。組み立ては我等で行うとして、部品の供給はどの手度可能なのだ?」

「そうねぇ……。月に3機分程度かな?」


 カテリナさんの言葉に、フェダーン様は当然として、副官達まで笑みがこぼれている。

 かなり速いペースと考えているのだろうか?


「機動艦隊に数機ずつ配属できそうだ。同盟軍に供与するのはウエリントンの第一機動艦隊への配備意向で構わんだろうな」

「後は、同盟軍に毎月1機ずつということで問題なかろうかと」


 副官の追従に、フェダーン様が頷いている。

 優先順位はあくまでウエリントン王国ということなんだろうな。


「ところで、フェダーン様は巡洋艦以上の大型艦にあの飛行機を搭載するお考えなのですか?」

「基本は、そう考えている。ハーネスト同盟軍の輸送手段も考えてはみたが、あの脆弱さではのう……」


 脆弱ではあったが、考え方は必ずしも間違っていたとは思えない。

 あれは、アリスの存在があってからこその戦果だ。40mmレールガンで沈められてはいるが、それは俺とアリスが戦闘時の飛行機の有効性を早くから気付いていたからだと思う。

 ブラウ同盟軍とハーレット同盟軍の戦いに、リバイアサンとアリスが参加していなければ、ブラウ同盟軍の艦隊のほとんどがあの場所で破壊されていたはずだ。


「1つアイデアを持っているんですが、検討してくれませんか?」

「ほう! リオのアイデアととな? 見てみたいものだ。隣のクレイダーは元飛行機のパイロットでもある。彼の目も役立つに違いない」


 プロジェクターを取り出して、壁に軽空母の概念図を映し出した。

 カテリナさんまでもが、スクリーン上の三面図に釘付けになっている。


「元になっているのは、フェダーン様の乗艦である軽巡洋艦です。砲塔を全て取り払った甲板と左に極端に寄せた小さな艦橋が特徴です……」


 速度、搭載飛行機の機数などの説明をしたところで、運用についての概要を説明する。

 

「周囲を駆逐艦で固めることから、小規模機動艦隊ということになるでしょう。最低でも随伴艦は2隻は必要です」

「これで、飛行機2個小隊を指揮するのか……。飛行機の搭載する砲弾は巡洋艦クラスの砲弾と同等だとすれば、中規模艦隊並みの火力になるぞ」


「艦隊から半径100ケム(150km)を作戦行動半径にできるでしょう。相手の砲弾が飛んでこない内に攻撃を行い、素早く移動することができるはずです」

「14セム(21cm)砲弾が6発か。しかも相手の飛行機より高度は上だ。さらに速度も2倍近いとなれば、一方的な攻撃となるな……。なるほど、砲塔を乗せる必要はないであろう」


 どうだ? という感じで、フェダーン様が隣の副官に視線を向ける。


「驚くばかりです。これなら機動艦隊に随行せずに小さな艦隊を組んで機動戦を行えるでしょう。機動艦隊には巡洋艦を改造して随行させても良さそうです。その場合は3個小隊、いや1個中隊の飛行機部隊を運用できるように考えます」


「リオは、ハーネスト同盟軍の考えを肯定しているようだな。巡洋艦を使うのは、やはり足の速さか?」

「そうです。それと装甲ですね。いくら考えが良くても輸送船では色々と問題があります。直撃弾対策は必要でしょうし、足が速ければ回避運動も期待できます」


「どうするの? 作るのなら援助するようにリオ君を説得してあげるけど?」

「すでに作れるだけの仕様は固まっているのだろう? 王宮がその設計を買うだけで済むのではないか?」


 俺に向かって、フェダーン様が笑みを浮かべる。

 いつの間にか、ワインのグラスを持っているんだけど、マイネさんが運んでくれたんだろうな。


「買ってくれるとありがたいです。リバイアサンの乗員も増えましたからね。色々と便宜を図ってくれる上に、売り込むのは心苦しくはあるのですが」

「フフフ……。建造費の1割を対価としよう。軍ではハーレット同盟軍の輸送艦と同じものを作ろうとしているが、輸送艦ではのう……。これなら、艦長のなり手はいくらでも出てきそうだ」


 空母を戦闘艦だと認識していないのだろうか?

 戦艦並に厄介な存在なんだが、元輸送艦では世間体が悪いと思っているんだろう。


「作るの?」


 カテリナさんがフェダーン様の顔を呆れた表情で見つめている。


「リオがここまでお膳立てしてくれたのだ。とはいえ、機動艦隊の指揮官の矜持もあるだろう。頭ごなしに艦を入れ替えるのではなく、先ずは私の艦を改造してみよう。幸いにもリバイアサンにはそれなりの設備がある。半年も掛かるまいよ」


 ドックの工房が役立つということなんだろう。

 ベルッド爺さん達は忙しそうだから、軍が移動させた工房がフル稼働するのかな?


「問題が1つ。魔道タービンの換装は現在の工房人員では手が足りませんぞ」

「増員すればよい。そのままリバイアサンに残せば飛行機の製作も捗るであろうよ。それとだ。最初の飛行機はクレイダーがとことん性能を確認せよ。それがお前の艦長としての行動に役立つであろう」


 フェダーン様の言葉に副官が驚いている。

 かなりの出世になるのかな? 元軽巡洋艦だけど全く新しい艦の艦長になるんだからね。


「私は、貴族ではありませんが?」

「貴族でなくとも艦長は務まるであろう。軟弱な貴族よりも、先を見通せる者である方が、部下も頼りにできよう。貴族でなければ駆逐艦止まり等、戦を何だと思っているのだ……」


 最後はフェダーン様の愚痴になっている。

 分からなくもないな。騎士団であれば元巡洋艦を駆る艦長や団長もいるのだが、軍では貴族という身分階級との調整があるらしい。

 愚鈍な艦長には優秀な副官が付いているとフェダーン様が教えてくれたけど、急にその弊害を無くすことはできないらしい。

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 新型飛行機の2機目が完成したところで、フェダーン様に最初の1機を贈呈する。

 次の飛行機からは、1機あたり通常の飛行機の購入価格の2倍になる金貨120枚をヴィオラ騎士団に支払ってくれるらしい。

 性能を2倍と評価したということになるのだろうが実際にはそれ以上だろう。

 とはいえ、製作費用は既存の飛行機の1機分をそれほど越えないと言っていたから、儲けは金貨50枚を超えているということになる。


「儲けは四分割することにしてるの。私とリオ君、それにベルッドとドミニクよ」


 分配方法をカテリナさんに確認したら、そんな答えが返ってきた。

 とはいうものの、俺達が3割ずつでベルッド爺さん達が1割は酷い話だと思うんだけどなぁ。カテリナさんの頭の中では、そんな分配でも四分割ということになるようだ。


「少しはリオ君も肩の荷が下りたんじゃない? 搭乗員が増えたから毎月の報酬額も馬鹿にはならないから」

「千人を超える陣容ですからね。単純計算でも毎月の費用は金貨100枚近いでしょう。

退役軍人の給与が半分で済むのがありがたいです。ヴィオラ騎士団からの援助はありますが、その他の収入はガリナム騎士団との共同作業による魔石の収益と、王宮から頂く軍の駐屯費用ですからね。そうそう、カテリナさんからの特許料もありました」


「やはり、軍の仕事を一部肩代わりすることになるのかしら? 艦隊運用を代替するのであれば、それなりの収入が得られるはずよ」

「戦闘艦の試験運用次第ということでしょうね。フェダーン様の軽巡洋艦があの通りですから、哨戒任務は継続しているんですが……」


 船殻がかなり分解されている状態だ。魔道タービンの換装があれほど大掛かりになるとは思わなかったな。完成するのは半年以上掛かるかもしれない。

 その間、精力的にクレイダーさん新型飛行機を毎日のように飛ばしている。

 メンテナンス頻度や運用時間、爆撃や銃撃の方法などを確認しているようだ。

 その結果、安全を考慮しても飛行時間は2時間を目安にできると自信を持って言い切ってくれた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 いつも楽しく読ませていただいております。 [一言] 新型飛行機は、戦闘や爆撃、偵察などを行う「マルチロール機、戦闘攻撃機」になるんですね。 飛行機同士の戦闘を訓練するの…
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