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M-125 通信機を提供しよう


 ヴィオラ艦隊の帰還に合わせて、ガリナム騎士団との狩りは4日継続された。

 4日間で分配を受けた魔石の数は130個近い。

 マリアンが笑みを浮かべて受け取ってくれたと、マイネさんが教えてくれたんだが、リバイアサンの住民が増えているからねぇ……。それで十分とは言えない気がする。

 

「早く飛行機を売り出して欲しいですね」

「特許料ってこと? 半額はリバイアサンの運営に回しても良いわよ」


 カテリナさんも資金不足ということなんだろうな。

 デッキの傍にあるソファーセットでカテリナさんと久しぶりにコーヒーを楽しめるのも、ヴィオラ艦隊が隠匿空間への到着が今日中ということだからだ。

 狩りも無いし、今日はのんびり過ごすことができる。


「次にヴィオラと会合する時に、ベルッド達が乗船してくる手筈よ。いよいよ戦闘艦の詳細な点検ができるわ」

「飛行機の方は、修正が終わったんですか?」


「アリスが修正の必要がないくらいの図面を作ってくれたわ。特許の対価はリオ君達が5割で私が3割、残りの2割をガネーシャに割り振ることにしたわよ。儲けは特許を差し引いて、ヴィオラが9割、1割をベルッド達が受け取ることでドミニクと調整済みよ」


 よくわからないけど、少なくとも大金であることには間違いなさそうだ。

 後は、導師の方の飛行船だな。どれぐらいの収入になるか不明だが、ゼロではなさそうだ。


「リオ君の協力で、治療薬がいくつかできたの。その特許料の1部をリオ君の口座に振り込んであるから、たまに確認しといた方が良いわよ。教団の治療院での人気があれほどとは思わなかったわ」

「あまり身に覚えがないんですけど……」


 確かに怪しげな薬を飲んでいることは確かなんだけど、アリスの話では毒性は無いとのことだった。

 もっとも、毒性があったとしても体内のナノマシンが毒性を無効化してくれるらしい。

 あの薬を基にした治療薬というと何に効くんだろう?


「リオ君で試して、アレクで最終確認ができるのが良いわね。アレクにもちゃんと利益の一部を支払っているからサンドラ達が喜んでるわ」


 アレクはどうなんだろう?

 喜んでるとは思えないんだけど、酒で釣ったのかな?


「小型の貨客船を注文しておいたわよ。私の研究所をリバイアサンに設けてくれたお礼ね。個室は少ないけど、1度に数十人を運べるし、荷物も士官室並みの空間があるから不足分の補給には都合が良いでしょう?」


「ありがたい話ですけど、高くつくような気がします」

「そんなことは無いわよ。先行投資にもなるし、可愛い子には色々と便宜を図りたくなるじゃない?」


「だいぶ散財しているように思えますが、借金漬けになってはいないんですよね?」

「四分の一も使ってないわよ。親の遺産もあるし、王国の研究所で長く博士をしていたから蓄財は貴族を凌ぐんじゃないかしら?

 それに、大きな買い物は、ヒルダ達も強力してくれるから……」


 俺の手を引いて立ち上がらせる。腕を絡ませて向かう先は、俺の寝室ってことなんだろうな。

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 大理石をくり抜いた湯船に浸かりながら、カテリナさんを抱きしめる。

 せっかく汗を流そうと入ったんだけど、ここで続きをするとは思わなかったな。

 湯船に体を預けたカテリナさんを隣に移動させると、俺の顔に腕を絡めてキスをしてくれた。


「今度のは持続性があるみたいね。これも売れるかもしれないわ」

「その為の確認だったんですか?」

「それも兼ねてのことよ。その前に、私のリオ君がいたからじゃない」


 なんか上手く話題をはぐらかされてしまった。

 この辺りは年上の女性に適わないんだよなぁ……。


「魔石通信機を応用した航法なんだけど……。フェダーンがかなり乗り気なの。一応、簡単な資料を作って導師に連絡してあるわ。その内に、やって来るかもしれないわよ」

「出来れば、更に強力な魔石通信機が欲しいですね」


 俺の言葉にカテリナさんが頷いた。

 現在の実用距離は陸上艦同士で200kmほどだ。アリスならさらに距離を伸ばせるのだが、その方法は俺にも理解できないからなぁ。

 モールス信号のような通信でも良いから、千kmを越える通信距離を確保するのが、新たな航法を考えるためにも必要なんじゃないか。


『魔石通信機ではない、別の通信方法を使用することは可能ですか?』

「ん? アリスはそんな手段を知っているの? 光通信では陸上艦でも最大20ケム(30km)が限度よ」


『電波を使用します。部品点数の少ないA1クラスの送受信機であれば、私が用意できますが?』

「出来るの? 初期に200セット、その後は年間100セットは欲しいところだけど」


『可能です。5セットは完成品で、残りは部品でお渡しします』


 アリスの退屈しのぎということになるんだろうな。

 有効性が確認できれば、かなりの収入が得られそうだ。だが、一時しのぎであることをカテリナさんは理解しているのだろうか?

 高純度のシリコンを生成する技術と異種元素の混合技術が発展しなければ、この世界での量産は不可能になりそうだ。


「部品の提供ができるなら、初期の数字でだいじょうぶよ。【複製】の魔法は、製品でなければ可能なはずだから」

「そこまでできるんですか?」


「あら! リオ君が飲んでるカプセルだって。初期に作ったのは10個程度よ。後は【複製】で数を増やしてるだけだから」


 やはり、この世界は異質だ。

 そんな技術があるんだから、科学技術が発展するわけがない。


「それでしたら、先の戦の時に砲弾をもっと作れたんじゃないですか?」

「いくら【複製】手段があっても、素材が無ければ話の外よ。無から有はあり得ないの」


 要するに素材が無ければ、複製はできないってことか。

 材料に何が使われているのかを分析する技術はあるということになる。やはりひずんだ技術体系でこの世界は成り立っているようだ。

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 ガリナム騎士団との狩りを終えて2日目。

 リバイアサンのドックに機動艦隊に護衛された輸送船が入って来た。

 退役軍人2個中隊ということだけど、ナルビクとエルトニア王国からの増援だ。ブラウ同盟を考慮したものだろうが、俺にとっては訓練された増員であることがありがたい。

 さすがに品行に課題のある人物は除外してくれたはずだ。

 

 300人近い新たな乗員に軽く挨拶した後は、各部署の長とエミー、それにエミ―の良き片腕である〇〇〇に任せることにした。

 

「これで、どうにか600人を越えたわね。フェダーンが軽巡洋艦を率いているし、商会の連中もいるから実質は千人というところかしら」

「ベルッド爺さん達もその中に入ってますよね? 残りは航空部隊に戦機部隊、戦闘艇の乗員にカテリナさんが提供してくれる貨客船の乗員ですよ」


「戦闘艇と貨客船の乗員は共用でも問題ないわ。クリスのお姉さんがやって来ると聞いてるから、そっちは問題なさそうね。

 航空部隊は10機程度を考えるべきね。戦機部隊は必要なの?」


 アリスがいるなら必要は無さそうだ。

 常に周囲の偵察を俺とアリスで行う訳にもいかないだろう。となると、航空部隊の半数程度は早めに確保することになりそうだが、まだ試作機すら完成死地ない状態だ。


「やはり、飛行機を早めに完成させる必要がありますね」

「ベルッド次第だと思うけど……。戦闘艦もあるのよねぇ」


 やはり時間が掛かるということになるんだろうな。


 翌日から新たな乗員の訓練を兼ねて、リバイアサンを星の海へと進めることになった。

 各部署の人数が2倍ほどに膨らんだから、当直体制を組みなおし、3つの班編成で12時間交替の勤務となるようだ。


 昼はエミーが指揮を執り、夜間は元巡洋艦の艦長がエミーの代行をする。

 30km四方近くが監視所で見通せるから、日中の航行には何の問題は無いようだ。さすがに夜間は監視所の情報よりは、監視所の上階にあるセンサー頼りになる。

 サーモカメラに似た熱画像の監視距離はおよそ10km四方なのだが、魔獣の中には体温を周囲に合わせる奴もいるからなぁ……。


 まあ、そんな魔獣がリバイアサンに衝突しても何ら影響はないのだが、むやみに殺生をするのはどうかと思う。

 エミーは別格として、元軍人が圧倒的に多いリバイアサンの乗員も信仰心があついのだろう。魔獣の群れを避けて航行しているようだ。

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 ヴィオラ艦隊が狩りをする際には周囲の偵察の仕事があるし、隠匿空間に帰投する際はガリナム騎士団と共同で狩りをする仕事があるけど、ヴィオラ艦隊が隠匿空間で休暇中は一日中暇になる。

 エミーやフレイヤ達は日中は制御室で勤務してるし、カテリナさんはガネーシャと一緒になってベルッド爺さん達が乗船するまでに飛行機の細かな仕様を確認している。

 アリスが設計を終えているんだろうけど、カテリナさん達はその習性がなぜ必要になっているのかを再確認しているみたいだな。

 とはいえ、この世界に流体力学の学問があるのか疑わしいところだ。

 フライングボディの形状が燃費向上に役立つことが理解できるんだろうか?

 案外、未発見の魔道技術による形状等と判断するのかもしれないな。

 

 5日間の休暇を経た後、再びヴィオラ艦隊が狩りに出港したようだ。

 今度は北の山裾沿いに帆が死に向かうとのことだから、また偵察に出掛ける日々が続くことになる。


「いつもの訓練コースからリバイアサンが外れているようですね?」

「ベルッド達を迎えに行くの。隠匿空間から駆逐艦2隻が護衛してくれるんだけど、あんまり軍に頼るのもね」


 持ちつ持たれつの関係をカテリナさんは考えっていると思ってたんだが、あまり深い付き合いはしたくないってことかな?

 フェダーン様が苦笑いの表情で食後のワインを飲んでいる。

 フェダーン様はどちらかというと、関係を深めたいと考えているのだろう。


「これで飛行機が組み上げられるわ。ベルッドと子弟合わせて10人だから、試作機は10日もあれば完成するんじゃないかしら」

「リオ殿の監修もあったと聞いたが?」


「アリスがダメ出しをしてくれたわ。現状の機体と形が変わってるけど、速度は2倍近く出るんじゃないかしら」

「飛行時間が同じであれば、偵察範囲が5割増しになりそうだな」


「その飛行時間は、新たな魔方陣を描くことで魔道タービンの魔気の消費量を抑えることに成功したわ。約3倍の1時間半を上回るわよ」

「さらに武装の強化を図って、その滞空時間を担保できるなら戦が変わるぞ!」


 アウトレンジ攻撃が可能になる。大艦巨砲主義の零落の始まりになるんだろうか?

 俺には、直ぐにそんな時代が来るとは思えないんだよなぁ。


 カテリナさんとベルッド爺さんが形にする飛行機は、形はともかく武装が貧弱だ。

 分厚い装甲板を張り付けた戦艦を撃沈することはできないだろう。

 大型爆弾を搭載したうえで、ピンポイントで命中させる技術ができるのは、まだまだ先になるんじゃないかな。


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