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M-124 魔方陣の秘密


 サベナス5頭の解体が終わり、獣機がガリナムに帰っていく。

 最後に帰投するのは戦機なのはヴィオラ騎士団と同じだ。筆頭騎士が周囲を再度確認して乗船したところで、俺達もガリナムの装甲甲板に着陸する。

 団員の迎えを受けて会議室に向かうと、どうやら俺が最後のようだ。

 ネコ族のお姉さんが配ってくれた、ワインを飲んで狩りの成果を祝う。


「トリケラとサベナスから得た魔石の数は75個よ。上位魔石16個の内、白黒が5個、中位魔石の白黒は11個もあったわ。それで分配なんだけど、本当に半分で良いの?」

「一番面倒な仕事をガリナム騎士団に任せているんですから、それで十分です。明日の狩りですが、現在はこんな形ですね」


 テーブルにプロジェクターを使って魔獣の群れの状況を映し出した。

 素早く副官がメモを取っているから、これから次の狩りの獲物を物色するこちになるんだろうな。

 ヴィオラと距離が離れているけど、100kmには達していない。速度差が毎時5km以上あるから、追い付くのに1日程度掛かってしまうだろう。

 夜間航行をするためにも、魔獣の群れの動きを事前に知っておかねばならない。


「真っ直ぐヴィオラを目指せそうね。第2巡航速度で北北東に向かえば、明日の朝には見張り台から視認できるでしょう。……ブリッジに連絡して!」

「了解です。ヴィオラには?」

「『狩りを終えた。後を追う』で良いわ」


 タバコに火を点けて、魔石の分配が終わるのを待つ。

 やがて、小さな革袋が目の前のテーブルに乗せられた。


「上位魔石8個と中位魔石が29個よ。割り切れない数はガリナムに1個で良かったのよね?」

「それで十分です。ヴィオラ騎士団の給与はそのままですからね。リバイアサンの維持費をこれで工面すれば良いだけですから。それでは、これで失礼します。明日も今朝と同じ時間にやってきます」


 席を立って、胸に左手を軽く打ち付ける。

 本来は右手なんだけど、左効きだからなぁ。どうしても左手が出てしまう。

 俺に合わせて、皆が席を立って答礼してくれた。

 会議室を出ると、直ぐにアリスに搭乗してヴィオラへと向かう。

 

 ヴィオラの会議室で、周辺の魔獣の群れの状況をおこなう。

 ドミニクとアレクが食い入るように魔獣の群れを見入っている。


「せっかくだから、この群れを狩ってみないか? 方向が一緒だし、トリケラタイプなら危険も少ないだろう」

「数が6頭なら……。そうね。ガリナムとの距離も離れているし、ガリナムはたぶんこちらの群れを狙うでしょうから、艦相互距離が開かないようにするためにも丁度良さそうだわ。夜の内に先回りをしておきたいわね」


「あまり無理はしないでくださいよ。たっぷりと魔石は取ったんでしょうから」

「獲物が帰投航路上にいるんだから。狩らない手はないわ。群れの規模が倍なら避けるところだけど」


「そう言うことだ。少しは団員にボーナスを上乗せできるんだからな」


 俺達にも上乗せして貰えるんだろうか?

 ちょっと気になるけど、リバイアサンでの狩りはまだまだ先になりそうだな。


 日が傾き始めた頃に、リバイアサンに帰投できた。

 アリスを駐機場に固定するとプライベーと区画に向かう。

 シャー……、とキックボードの車輪の音がするのはどうしようもないけど、移動するには都合が良い。

 エレベーターにもそのまま乗れるから、その内に皆が乗り出すんじゃないか?


 プライベート区画にあるデッキは、何も無ければ常時張り出してある。

 分厚いガラス窓近くにあるソファー席を皆が好んで使うのは、この区画にある限られた外部を望める場所だからだろうな。


 何時もの席に腰を下ろしてタバコに火を点けると、マイネさんがコーヒーを運んできてくれた。


「まだ帰ってこないにゃ。ミイネ達はお掃除に出掛けてるにゃ」

「部屋数が半端じゃないんだから、適当に掃除しても良いんじゃない?」

「そうはいかないにゃ。いつ使うか分からないから綺麗にしておくにゃ」


 それが掃除に基本なんだろうけどねぇ。いかんせん相手の数が多すぎる。

 毎日2人の内どちらかが、メイド達を率いて部屋の掃除をしているようだ。


「そうだ! これをマリアン達に届けてくれないか。今日の狩りの成果だ」

「魔石にゃ? ちゃんと届けるにゃ」


 マリアン達の仕事場はプライベート区画の下階にある執務室の1つを使って貰っている。

 本来は指揮官の執務室らしいけど、部屋の大きさが半端じゃない。

 部屋というよりも事務所と言った方が間違いではなさそうだ。小さな事務室が3つに会議室、それと大きな指揮官室が一体になっている。

 事務室3つをマリアン達に渡したけど、その事務室だって1つが10m四方もあるような部屋だからねぇ……。

 学園の後輩をヘッドハンティングしてきたらしく、2人の下に部下が2人ずついるようだ。

 マリアン達はプライベート区画の客室を1つ使い、部下達は女性士官室に個室を貰っているらしい。

 客室は1つだからシェアしているんだろうけど、無駄に広い客室だからその内に、客室の中を2部屋にするかもしれないな。


「あら、戻ってたの?」

 

 コーヒーカップを持って、カテリナさんが俺の隣に腰を下ろした。

 3人掛けのソファーが3つあるんだから、わざわざ俺の隣に座らなくても良いように思えるんだけどねぇ。


「2つの群れを狩りましたよ。魔石を半分頂いて、マリアン達に渡したところです」

「そう。20日も過ぎればベルッド達がリバイアサンにやって来るわ。いよいよ、戦闘艦の解凍を始められるわよ」


 戦闘艦が動けばリバイアサンで狩りが出来そうだ。

 資金稼ぎを大規模に行えるんじゃないかな。


「フェダーン様は飛行機を先にと言いそうですけど?」

「そっちは組み立てるだけだから、それほど時間は必要ないわ。導師にも新たな魔方陣を教えてあげないといけないわね。飛行船の大きさを一回り小さくできそうよ」


 何とか魔方陣の解析ができたということになるんだろう。

 さすがは博士と呼ばれるだけの能力だ。


「そうそう、アリス。この図面と魔方陣の解析をお願いできるかしら? ガネーシャにも出来そうだけど、半年以上掛かりそうだわ」

『マスターの前に、1枚ずつ図面を広げてください。確認します』


 カテリナさんが嬉しそうな表情をすると、バッグから分厚い書類を取り出すと次々にテーブルの上に並べ始めた。

 俺の視線がテーブルの上に固定されたのはアリスが原因なんだろう。俺の目をスキャナー代わりに使っているようだ。


 10分ほどで書類を並べ終えたカテリナさんが、大事そうに再び書類をバッグに納めた。


「どうかしら?」

『理論上の矛盾点はありません。とはいうものの、飛行機の形状を少し変えても良いでしょうか? 武装は判断しかねますが、長銃の装弾方式と砲弾の搭載方法は見直しが必要です。私の方で改造した設計図を作りますので、夕食後に制御室のプリンターでご確認ください』


「全く、アリスは私の良きパートナーだわ。それで武装の改造点は何かしら? 私には十分だと思えるんだけど」

『単発ではなく、連発にします。投下する砲弾は、もう少しマシな形にします。砲弾の形状ではなく、涙的型にすれば目標への命中精度も向上するでしょうし、そのための照準器も必要になるでしょう。

 飛行機の形状の変更は、流体力学を加味した形状にします。魔方陣に全てを任せるのではなく、自然現象を加味した形にすることで、速度を増して高度を上げることができると推測します』


 カテリナさんがちょっと首を傾げた。

 やはり自然科学についてはあまり見識が無いんだろうな。

 アリスは揚力を上手く取り入れたいんだろう。それに形状見直しを行うことで、風圧を低減したいのかもしれない。


「リオ君は、少し理解できるのかしら?」

「ある程度……、といったところです。前にお話ししたことがあるかもしれませんが、俺達には魔法ということの方が驚きなんです。自然科学を利用した体系が俺とアリスの基本でした。今のアリスは魔道科学にもかなり詳しくなっていますけどね。

 例えばですが、火の魔法を使わずに焚き木に火を点ける方法をカテリナさんは考えることができますか?」


 途端に悩み出した。

 やはり自然科学は余り発展していないどころか、根本的に教えられることが無かったようだ。


「魔方陣も魔石も使わずに! ということでしょう? できるのかしら」

「いくつも方法はありますよ。頭の体操になるでしょうから、ガネーシャ達にも考えさせてみてはどうですか?」


 さて、どんな手段を使うのだろうか?

 火を点けるだけだから、爆発なんてことにはならないだろう。


 夕暮れが近づくころに、フレイヤ達が帰ってきた。フェダーン様も一緒だな。夕食後に部隊の状況を確認するのだろう。


「狩りは上手く行ったの?」

「魔石を37個貰ってきたよ。上位魔石が8個ある。明日も今日ぐらい稼げれば良いんだけどね」


「帰投の途中での狩りだから、あまり欲を出さない方が良いわよ」

「それぐらいクリスの方も分かってるさ。ヴィオラも明日と途中のトリケラを狩ると言ってたよ」


「リオの広域偵察があればこそだな。他の騎士団であれば、見張り台からの視認距離が頼りだ」


 フェダーン様の言葉に、皆が頷いている。

 それだけ俺達が恵まれているということになるのだろう。

 

「ところで、カテリナ。飛行機の製作図が出来たと言っていたが?」

「ああ、それね……。アリスにダメ出しされたの。夜にはアリス監修の飛行機の図面ができるでしょうから、試作は予定通り行うわよ」


 ダメ出しと聞いて、皆の視線が今度は俺に向けられてきた。

 俺ではなくて、アリスなんだけどねぇ。


「それほど大きな修正ではないと思いますよ。武装についてはアリスの個人的な趣味になるでしょうから、採用についてはフェダーン様とカテリナさんで良く相談した方がよろしいかと思います」


 その武装の改造が、長銃の連発化と落とす砲弾だと知って、フェダーン様が更に俺をジッと見つめている。


「魔獣相手であれば、それほど武装に拘らぬはずだ。あえて改造をすると言うことは、先の戦の反省を含んでいると考えて良さそうだな」

「分かりますか? たぶん飛行機同士の戦と投下する砲弾の命中精度を考えた物になるはずです」


「前に言っていたな。武器は螺旋のように向上すると。そのような飛行機を相手が持ったとして、対策も考えているのであろう?」

「試案ならいくらでもありますよ。同盟軍が調達する新たな兵器の中で一番脆弱なものが飛行船になります。とはいえ、運用次第では戦を左右することは確実ですから、あまり前線には投入したくはありませんね」


 俺の言葉に笑みを浮かべているのは、運用次第と考えているのだろう。

 戦術兵器ではなく、やはり戦略兵器として使うつもりのようだ。

 民生用として隠匿空間と王都間の貨客輸送として使うのは導師の作る1隻だけかもしれないな。


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