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M-123 狩りはガリナム騎士団と共に


 隠匿空間を出て10日目の朝がきた。ヴィオラは狩りを止めて隠匿空間へ帰投することになる。

 帰投の間を利用してガリナム騎士団との狩りが、今日から始まるのだ。

 朝食を済ませると、直ぐにアリスを駆って東に向う。

 リバイアサンも輸送艦隊との会合を図るために星の海から砂の海に向かうことになるのだが5日ぐらいは掛かるんじゃないかな。

 のんびりとした旅になるはずだ。


「ヴィオラ艦隊を確認しました。周囲300kmの範囲を調査します」

「大物がいれば良いんだけど」


「群れ2つほどは狩れるのではと推測します。昨日は群れに取り囲まれた状況でしたから」

「狩りながら北に移動しているはずだ。解体した魔獣で満足してくれれば良いんだけどね」


 魔獣の解体に時間を取られて襲われることがあると、アレクが言っていたんだよなぁ。

 魔石を取り出すための解体を獣機が行っている最中は、厳戒態勢で周囲を見張っているようだ。

 草食魔獣が数頭なら問題は無いんだろうが、血の匂いを嗅ぎつけてやって来るのは肉食魔獣だからね。

 場合によっては、解体途中でもその場を離れることがままあるらしい。

 俺達がヴィオラに搭乗していたころは、解体作業中は俺達が広域を監視していたのも、そんな事態を避けるためだったに違いない。

 

 周囲の状況を確認したところで、ガリナム騎士団の甲板にアリスが下りる。2番砲塔の直ぐ傍だから、アリスが片手で砲塔の屋根を押さえて姿勢を保っている。

 肩肘を着いた状態だけど、甲板までの距離は10m近い。いつものようにアリスの手に乗って甲板まで下りると、直ぐに艦橋に向かって歩き始めた。


 艦橋脇の扉から若い女性が片手を上げて、出迎えてくれた。彼女に従って艦内のエレベーターで会議室へと向かう。


「リオ殿がいらっしゃいました」


 会議室の扉を開けて、俺を中に入れてくれる。会議室の中にいたのはクリスの副官と数人の男女達だった。


「前のガリナムと違って少し遅い気はするけど、軽巡だけあって、動きは軽快よ。それで、状況は?」

「ヴィオラにも伝えられますか? この後でヴィオラに向かうのも面倒です」


「状況はリアルで通信を送ることになっているの。通信士が同席してるから心配は無いわよ」

「それでは、周囲100ケム(150km)の状況図で説明します」


 プロジェクターを取り出して壁に状況図を映し出した。

 ヴィオラを起点としているけど、ガリナムはヴィオラと並走しているから、誤差は100mにも満たないはずだ。


 映し出された画像は方位を12方向に区分した線が描かれており、距離は30ケム(45km)毎に同心円を描いている。

 これで、群れの位置をある程度正確に伝えることが出来るはずだ。


「一番近い群れは11時方向のこの群れです。距離は23ケム(34.5km)、トリケラタイプで数は7頭」

「直ぐ北にチラノがいるみたいね」


「12ケム(18km)先ですが、移動方向は西ですね。この群れを狙っているようです」

「先ずはトリケラでしょうな。他の群れは少し離れているようです」


「出来れば、このチラノも何とかしたいわ。相手は?」

「大型のサベナスです。数は6頭」


 俺の言葉に、クリス達が笑みを浮かべる。

 確かにサベナスなら狩りは容易だろう。前にもアレク達だけで狩ったぐらいだからね。


「良さそうね。周囲に他の魔獣がいないのも都合が良いし、サベナスが追っている魔獣はトリケラタイプだから、あえて血の匂いを嗅ぎつけて来ることは無さそうだわ。

 ドミニクに2つの群れを狩ることを伝えて。リオが来てくれたからそのまま進路を維持してくれれば、夕暮れ前には追い付けるわ」

「了解しました。返信まで少しお待ちください」


 コーヒーの良い香りがしてきた。

 ネコ族の娘さんが俺達の前にコーヒーカップを置くと、会議室を去っていく。


「この部屋は喫煙可能よ。しばらく待ってくれないかしら。移動するとしても2時間近く時間があるわ」

「それでは遠慮なく……」


 タバコを取りだして、火を点ける。いくつか灰皿がテーブルに乗っているのは喫煙者が何人かいるからなんだろう。

 窓が開け放たれているから、煙が部屋に滞留することは無い。


「長い付き合いになりそうだから、紹介しておくわ。隣が副官のレイティ。通信担当のベルに筆頭騎士のカイルその隣が生活班長のマルクスよ」


 名前を言われた各人が俺に小さく頭を下げてくれた。騎士団同士なら挨拶はそれで十分だ。

 カリオンはヴィオラ騎士団所属だったのだが、ガリナム騎士団へ移籍している。後2年ほどで騎士を止めると言っていたから、それまで若者を鍛えるのだろう。


「ヴィオラ騎士団のリオです。今はリバイアサンの騎士をしています」

「あの大きさで動くんだからとんでもない代物だな。申し訳ないが、3日程付き合って貰うよ」


「ヴィオラより返信です。『検討を祈る。我航路変更の予定なし』以上です」

「進路変更。トリケラを狙うわよ!」


 会議室の窓から見える景色が横に動き始めた。並走するヴィオラが後方に下がっていくように見えるのは、速度を上げたからだろう。


「ブリッジより連絡。会合地点まで82分とのことです」

「まだまだ時間はありそうね。獣機班と戦機班のカーゴ区域待機は10分前で良いでしょう」

 

 やはり指揮官としての役目をきちんとこなしているようだ。

 エミーも指揮官なんだけど、まだ状況判断ができるまでには至っていないようだ。フェダーン様がリバイアサンにいるのはその辺りを教育してくれてるんだろう。

 カテリナさんやフレイヤでは手助けできても、最後の判断を下すことはできないからね。

 フェダーン様は軍人だから、物事の判断は躊躇なく行っている。その根底には『王国の為に』という目的はあるのだが、戦術は『可能な限り被害を少なく』という理念があるようだ。

 戦略を練る時にはヒルダ様が加わるようだが、ヒルダ様が内政ばかりか外交を統括しているのであれば仕方のないところだろう。


「リバイアサンは上手く行ってるのかしら?」

「300名ほど乗員が増えましたから、とりあえず航海することはできます。数日後には新たな乗員が増えます。その後、ドックや修理のための工房が備われば本格的な運用ということになるでしょう。とはいえ、巡航速度が輸送船並ですからね。本格的な狩りをするのはクリスさんの姉さんがやって来てからになると思います」


「あの戦闘艦ね。速度が毎時25ケム(約38km)と言うんだから、姉さんが気に入るのも無理はないわ」

「軍の駆逐艦を越えると!」


「かなりの代物よ。だけど駆動原理がカテリナ博士にも理解できないらしいわ」


 カイルと紹介のあった男性の問いに、クリスが答えている。

 カイルは軍からヘッドハントされたのだろう。俺の知る騎士とは少し違って、姿勢を正して座っている。

 アレクなら、今頃は酒を飲んでいるはずだ。


 2杯目のコーヒーを飲み終えて、出撃の指示を待ちながら3本目のタバコを楽しんでいると、通信班の女性の前にある魔石通信機のランプが点滅を始めた。


「監視櫓から連絡です。前方に魔獣を発見。トリケラタイプで数は数頭以上。距離約4ケム(6km)です」


 報告を聞きながら、席を立った。

 軽く、片手を上げてクリスに顔を向ける。


「それじゃあ、狩りを始めるよ。終了した後にサベナスの監視と周囲の状況確認を継続する」

「トリケラの解体が終わったら連絡するわ。魔石通信機のチャンネルは4400で良いかしら?」


「了解。それじゃあ、狩りの後で……」


 会議室を出ると、アリスのところに急ぐ。

 距離が近いから、早めに行かないとガリナムとトリケラが会合してしまいそうだ。


 アリスのコクピットに納まると、直ぐに地表を滑空してトリケラに迫る。

 まだガリナムの接近には気が付いていないようだ。

 レールガンを取り出して、トリケラの間を縫うように滑空しながら、トリケラの頭に40mmの鋼鉄の針を撃ち込んでいく。

 レールガンの反動が少ないが、頭の反対側血潮を上げて飛び散るから、即死させることができたようだ。


『狩りは終了です。ガリナムへ4400チャンネルで終了を報告しました』

「次はサベナスだけど、周囲の状況に変化はあるかな?」


『朝の確認結果を基に進行方向をシミュレートした結果と同じです。サベナスの群れもまだ獲物との距離は詰めておりません』


 サベナスの狩りは夜に行うのだろうか?

 とりあえずは状況は変わらないってことだな。


 近付いてきたガリナムに、信号弾を上空に上げて獲物の位置を教える。

 仮想スクリーンでサベナスの位置を再度確認して、その場を離れた。

 高高度からの監視をあまり見せたくはないからね。ガリナムから10km離れたところで上空3千mから地表を偵察する。


『ガリナムより獣機が発進していきます。続いて戦機……。戦機の必要はないと推測します』

「それだけ慎重なんだろうね。それに、解体時が騎士団としては一番脆弱な時でもある。安全だと分かっていても、戦機を動かすというのは将来独自の狩りをするための訓練だと思うよ」


 いずれは袂を分かつ騎士団だからね。10年間の同盟を約束はしているけど、確実に訪れることでもある。

 変な運用上の癖を付けないように、クリスも努力しているんだろうな。


『解体がほぼ終了したようですね。獣機が帰投しています』

「次の狩りを始めるか。まだ連絡は入ってないな?」


『連絡はありませんが、サベナスの周辺に他の魔獣はおりません。サベナスが追っているのは草食魔獣ですから、早めに狩っても問題はないと推測します』

「高度1500から、狙撃するぞ」


『目標物が大きいですから、問題はありません。狙撃モードに変更します』

 仮想スクリーンが目の前に現れる。拡大された画像の中に丸で囲まれたT字形のマークが表示された。

 サベナスの頭部とT字の中心が一致したところで、ジョイスティックのトリガーを引く。仮想スクリーンの中のサベナスが頭部から血飛沫を上げてがっくりと地面に倒れるのが見えた。


『ガリナムから「解体終了」の通信が届きました。「狩りを継続中」と返信を終了』

「了解。早めに終わらせよう」


 次々と頭部を破壊していく。

 サベナスがしきりと周囲に頭を動かしているのは、脅威がどこから来るのかを確認しているに違いない。

 ターゲットを合わせずらいけど、アリスの補正があるからね。

 最後のサベナスを倒すまでに5分は掛からなかったんじゃないかな。


「終わったね。ガリナムに連絡してくれ」

『了解です……。通信終了。こちらに向かうとの返信です』


 再度周囲を確認して地表に降り立つ。

 近付いてくるガリナムに信号弾で位置を教えると、周辺の状況確認に入った。

 


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