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M-121 海賊狩りは仮装巡洋艦で


 就寝前にデッキで一服を楽しんでいると、フレイヤがデッキの扉を開けて飛び出してきた。

 

「通信が途絶えたそうよ。至急、距離の確認をして欲しいって連絡が入ったわ」

「了解だ。結構な距離だと思うよ」


 バスローブからツナギに着替えると、キックボードで駐機場を目指す。

 アリスに乗って離着陸台から飛び出すと、ヴィオラの進行方向である東を目指して飛行を始める。


『ヴィオラは停止しているようです。両者の距離、約520km』

「これで役目は終わりだね。ヴィオラの周囲状況を確認して戻ろう」


 アリスの飛行速度、時間で距離が計算できる。地上レーダーからも距離は確認できるから、いくつかの手段で相互距離を補完しているはずだ。

 それにしても500kmを越えるのか……。陸上艦なら巡航で1日程度かかるんじゃないかな。


『夜間ですから魔獣の活動が活発ですね。ヴィオラの現在地を原点とした、魔獣の位置と数、進行方向を発信します。……発信完了。ヴィオラの受信を確認。「感謝する」以上です』


 これで戻れるな。ついでだから不審艦も見てくるか。

 夜だから周辺監視には力を入れてるだろうけど、上空はほとんど見ないんじゃないかな? 空を飛ぶ魔獣や大型の猛禽類の多くが日中に活動するようだからね。


 上空2千mまで降下して、5隻の船の様子を探る。

 周囲に幾筋ものライトの光が延びている。

 昼と違っているのは、艦隊の隊列だ。南北方向に200m程の距離を取って2列に並んでいる。


『獣機が20機以上作業中です。排土板を付けた自走車も数台確認できます。どうやら南北方向に溝を掘っているようですが、魔獣狩り用でしょうか?』

「だけど周囲に魔獣は見当たらないぞ。ヴィオラ騎士団が溝を掘るのは、獲物を見付けて進行方向を確認してからになるからね」


 狩りの練習とも考えられるけど、それなら夜間は避けるべきだろう。

 明日にでもフェダーン様に伝えておこう。輸送艦隊がこの位置まで進むには2日以上掛かりそうだ。


 リバイアサンのプライベート区画に戻った時には、0時を過ぎていた。

 軽く汗を流し、フレイヤの隣に潜り込む。この位置はちょっと危ないんだが、眠気には勝てない。過ぐに睡魔が襲ってくる。


 翌日の朝食時には、昨日行った魔石通信機の通達距離が話題に上がった。

 予想を上回る通信距離にフェダーン様の機嫌も良いようだな。


「数個の機動艦隊を運用できそうだな。同じような装置を作り上げて欲しいところだ」

「似たものは作れても同じものは作れないわよ。リバイアサンの設備機器に使われているものは、魔道科学では理解できないものが多すぎるわ。あの通信機もその一つなんだけど、アリスが魔石通信機と通話できるように改造したみたいなの」


「まあ、似た物でも現用の魔石通信機を上回れば十分だ。それだけ艦隊運用が容易になるはずだ。飛行船計画もある。将来は風の海にいくつか固定の中継局を作りたいところだ」


 さらに出力の大きな通信機ということになるのだろうか?

 そんな固定局ができれば騎士団にもメリットがありそうだな。


「ところで例の不審艦ですけど……。これが昨夜の様子です」


 コーヒータイムに入ったところで、プロジェクターを使って昨夜の画像を映し出した。

 カップを片手に眺めていたが、フェダーン様の表情にはあまり変化がないな。

 フレイヤは、過保護な穴掘りだと言ってるし、カテリナさんは余り興味が無さそうだ。


「今日も、ヴィオラ周辺の偵察に向かうのであろう? この位置を再度確認してみるが良い。おもしろいことに気付くだろう」

「コーヒーを飲んでから出掛ける予定ですけど……。何があるんですか?」


「見れば分かるはず」と言って、笑みを浮かべる。

 何となく、カテリナさんの同類に思えてきたな。


 何はともあれ、ヴィオラ周辺の状況確認は俺の仕事でもある。

 アリスに搭乗して、東へと向かう。


『狩りの準備をしているようですね。あのチラノタイプを狩るようです』

「偵察車が囮だから、ちょっと危険だね。故障したらそれで終わりになりそうだ」

 

 狩りの様子を眺めながら、周囲の状況調査を行い。ヴィオラに知らせる。

 そのまま帰投せずに、狩りが終わるまで上空で見守ることにした。中型クラスのトリケラの群れが近付いている。

 距離は20kmほどだから突然走りださない限りは安全ではあるが、何事も想定外は考えないといけないからね。


 アレクの放った炸裂弾に誘われるようにチラノタイプの魔獣が2隻に向かって進んでくる。

 溝で足止めされたその時に、2隻の舷側が砲煙に包まれた。

 20門近い艦砲の一斉射撃を逃れた魔獣に魔激槍の砲弾が放たれている。


『無事に終わったようです。魔石を確保して、次の狩りを行うとのことです』

「あのトリケラタイプだろうな。今回の狩りも成功で終わるんじゃないか」


 前よりも訪問の数が減ったけど、戦機が3機あれば十分に補えそうだ。

 クリス団長も笑みを浮かべているに違いない。


「次は、例の不審艦だ。フェダーン様がおもしろいことに気付くと言ってたんだが、上手く誤魔化された感じなんだよなぁ」

『昨夜の画像と比較すれば簡単に相違が判明すると推測します』


 ジョイスティックを傾けて、不審艦を目指して飛行する。

 500kmも離れていないから、直ぐに不審艦の上空に到着した。相変わらず溝を掘っているみたいだな。


『昨夜と溝の方向が異なります。今日は東西に掘っています』

「昨夜の溝は? ……見えないな。塞いだということか?」


 5千m上空からでも溝は分かる。魔獣用の落とし穴みたいな溝だから、横幅だって10m近い。直線状に掘るから上空からでも、結構目立つんだが、全く見えない。


「画像を比較してくれないか?」

『画像解析中……。見付けました。対地レーダーの画像に存在を確認。溝の上部を布で覆ったようです』


 カモフラージュをするというのは聞いたことも無い。やった方が良いのかもしれないけど、布地だってタダではない。かなりの出費になってしまうだろう。


『正確には溝では無さそうです。片方の壁はなだらかな斜路を形作っています。あれは障壁と考えるべきだと推測します』

「魔獣目的ではないってことか……」


『魔獣にも有効でしょうが、ヴィオラ騎士団のように前のめりになることは無いでしょう。体勢を崩した足止めは時間稼ぎにもなります。ですがあれでは単なる足止めです』


 なるほど、あの溝は、ただ掘っているわけではないってことか。となると、輸送艦隊の足止め……、ということになるんだろうな。

 前と側面に壁を作れば、奇襲も容易いかもしれない。


 フェダーン様がおもしろいものと言ったのは、騎士団の作る溝と異なる溝を俺に見せたかったということなんだろうが、これって対処の方法があるんだろうか?


「とりあえず、リバイアサンに戻ろう。不審艦の位置は変らないなら、フェダーン様に知らせるだけで済みそうだ」

 

 アリスを北西に向けて飛行させる。今日中には、星の海に入れるだろう。

 新たな乗員の訓練をしばらくは続けなければなるまい。


 その日の夕食が終わりワインを飲み始めた時に、フェダーン様に確認してみた。


「気が付いたようだな。海賊達の手口だからリオも覚えておくと良いだろう。王都の酒場で情報を上手く流すことができたということになる」

「軍の策略ですか! まさか、俺に?」


「まあ、簡単に言えばそうなるが、リオの助けはいらぬぞ。あの艦隊の護衛する輸送船は仮装巡洋艦だ。カーゴ室が小さいが少しは輸送艦の役目も果たせるぞ」


 輸送船を武装させるのは、荒野で魔獣を狩る騎士団ではよくあることだ。

 だけど、獣機や戦機を搭載するから重武装はできないし、改造費用だって馬鹿にはできない。

 軍の潤沢な資金を使って、駆逐艦以上の武装を施し、舷側に張り付けた鉄板の厚さも増したに違いない。

 

「搭載した砲は全て魔激槍だ。戦機の持つ魔激槍より性能は上だから安心するのだな」

「そう言うことですか……。情報は既に輸送艦隊に送っているのでしょうか?」


「距離がまだ離れているだろう。明日にでも送れば十分だが、明後日には戦闘に入るであろう。明日と明後日の会戦位置周辺の魔獣の状況は、リオに頼んだぞ」

「ヴィオラの方もありますから、次いでに見てきましょう。場合によっては航路を変えるということですね?」


 俺の問いに、笑みを浮かべてワイングラスを掲げてくれた。

 軍の策略と言ってたけれど、フェダーン様が全て行てるんじゃないかな?


「やはり、狙ってたの?」

「高位の魔石を大量に輸送するのだ。海賊としては一攫千金を狙いたいのだろうな。欲を言えば、もう少し集まると思っていたのだが」


 興味深々のカテリナさんに、当たり前の表情を作ってフェダーン様が説明している。

 果たしてうまくいくんだろうか?

 それにしても仮装巡洋艦に装甲まで施しているのか。魔道タービンもそれに合わせて大型化してるんだろうな。


「軍の輸送船を更新した余剰船の有効利用だ。軍工廟の新人の訓練も兼ねているから、3隻作ってもあまり予算を使わずに済んだぞ。今回上手く行ったならブラウ同盟の交易ルートに、不定期で運行させるつもりだ」

「あまり、潰すと圧力が掛かるんじゃなくて?」



「必要悪ということは知っている。その辺りはギルドと相談になるな」


 騎士団ギルドではなくて、海賊ギルドということなんだろう。

 それにしても、そんな盗賊団の元締めと取引すること自体が問題だと俺には思えるんだが……。


「私の飛行機もそれに関係があるの?」

「4機もあれば、母船すら破壊できるんじゃないか?」


 2人で顔を見合わせて笑みを浮かべている。

 この世界のことは、あまり干渉しないでいよう。俺達騎士団に関係が無ければ、関連する連中に任せるべきだろうな。


 フェダーン様が飲み終えたワインをテーブルに置くと、俺達に手を振って広間を遠ざかる。

 そろそろ俺も部屋に戻ろうかな。


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