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M-120 アリスの魔改造通信機


 リバイアサンに乗船して3日目。

 自分達の住む場所も確保できたようだから、退役軍人達の過去の仕事内容を加味してロベルと元巡洋艦の先任伍長が適材適所に組み分けてくれた。

 監視部門と火器管制部門が統合されて火器管制部門になり、フレイヤが統率する。

 リバイアサンの運航部門は操舵手と航海士達が担当して、機関部門はドワーフが2人に元士官候補生だった2人が担当する。

 通信部門は通信兵が担当することになったけど、カテリナさんがオブザーバーとして参加するようだ。

 指揮統括ともいえる制御室後部の区画には、リバイアサンの指揮官であるエミーと元艦長や航海長が付いてくれる。ロベルはエミーの後ろで、各部局にエミーの指示を伝達してくれるから、これでうまく動くんじゃないかな?


「フェダーン様が来たら、エミーの右手の席で良いんでしょう?」

「オブザーバー的な存在だから十分じゃないかな。俺は左手の席だけど、出撃があるからね」


 砲塔区画には50人程配置できたし、ドックにも20人を越える人員を配置できた。

 今日は巡洋艦を使ってドックの運用を行うことにしているようだから、直ぐに現場操作をものにできるだろう。


「リバイアサンを動かすのは明日になりそうね。おかげで荷物の整理が捗っているけど」

 

 カテリナさんの視線の先にはマイネさん達に指示を受けながら荷物を運ぶトラ族の男性が数人いた。

 できれば今日中に通路の荷物ぐらいは片付けたいところだ。

 小さなものは俺達でも出来そうだけど、やたらと大きな調度品や大理石で作られた像があるんだよねぇ。


 俺の部屋にも、執務机らしきものや、豪華な棚が運ばれている。

 あのベッドを見て、変な噂が立たなければ良いんだけれど……。


「リバイアサンは魔石通信機とは通信機の構造が少し異なっているみたいね。アリスが修正したと言ってたし、現に魔石通信機との通信も行えるんだけど、その通信距離をフェダーンが知りたがっていたわ」

「先の戦では40カム(60km)ほどの通信ができたように思えますけど。更に遠くですか?」


「作戦行動が通信距離で左右されるのは理解できるでしょう? 将来は飛行船による中継も可能なんでしょうけど、現状を押さえたいのは軍人のサガとも言えるわね」

「隠匿空間から帰還する補給艦隊を使って確認すれば良いと思いますよ。距離はアリスを使って高高度から確認できそうです」


 かなり長距離まで通信できる。あるいは受信できるとなれば、騎士団の救援要請に応えることもできそうだ。

 

「ところで、フェダーン様は了承してくれたんでしょうか?」

「嬉しそうに頷いてたわよ。もう1つ用意しておくように言われたけど、ローザを考えていたみたいね」


 これで下の階の住人が増えたな。

 軍船用区域か制御室にいるだろうから、睡眠を取りに帰るぐらいだろう。

 副官は士官室を提供することで問題はないだろう。

                  ・

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                  ・

 乗船して5日目。

 巡洋艦を隠匿空間に戻して、ヴィオラ艦隊の狩りに合わせてリバイアサンを動かすことにした。

 起伏を避けることから星の海に向かって進んでいく。

 

 新たな乗員も、リバイアサンの操船に直ぐに慣れたようだ。

 制御室では、ヴィオラとリバイアサンの距離が離れるのを確認しながら魔石通信を使った信号伝達距離を確認する作業が継続している。

 観測室からヴィオラの姿が見えなくなったところで、俺とアリスで距離の確認を継続している。


『距離が80kmを越えました。まだ音声信号の通信が可能のようです』

「それだけリバイアサンの魔石通信機が優れているのかな?」


『リバイアサンの通信機は物理法則を基にした電波通信機ですが、最終段のドライブ回路を私が変更しました。ハイブリッド型なっていますから、それも影響があるのではないかと』


 魔石を組み合わせることもプログラムとは言えなくはないか……。

 アリスは時間さえあれば手作業に近い仕事もできるようだ。だが、かなり限定された作業になるんだろうな。


『音声信号の途絶を確認。距離約95kmです』

「リバイアサンに伝達してくれ。まだモールス信号は交信可能なんだね?」


『続行しています』


 3倍以上は届くんだろうな。

 しばらくは旋回しながら、周辺の状況確認を継続しよう。


『マスター。隠匿空間と王都を結ぶ回廊に、不審艦が停泊しています』

「これか? 騎士団だと思うんだが……」


 5隻が停泊しているけど、武装から見て軍の機動艦隊ではなさそうだ。グラナス級の大型輸送船が3隻にガリナムのような駆逐艦が2隻だ。騎士団の同盟にも見える。

 アリスが不審としたのは……、周囲に偵察部隊を出していないからか。

 騎士団なら昼日中に陸上艦を止めるのは魔獣を狩る時だけだ。

 偵察部隊や獣機、戦機を出して魔獣を迎え撃つ準備をしているはずだが、全くその動きが無い。


「注意しておく必要がありそうだな」

『回廊を通るのは隠匿空間から帰還する輸送船です。駆逐艦3隻にダモス級の中型輸送船になりますが、魔石を大量に運んでいるはずです』


 狙うには十分だが、隠匿空間と王都を結ぶ輸送艦隊は巡洋艦が1隻着くはずだ。今回は同行しないのは何か理由があるのだろう。

 待てよ……、まさかそれを知って待ち伏せしているのか?

 そうなると帰路の艦隊構成を、どこで奴らが知ったのかという疑問が残る。


「通信試験が終わったら、少し監察を続けた方が良いかも知れないな」

『了解しました。現在リバイアサンとヴィオラ艦隊の距離、約120km。通信は継続しています』


 高度200m付近に下りて、休息をとる。

 スキットルのワインとタバコで一休みだ。

 風が少し強いけれど、アリスの手の中だから落ちることは無い。

 すでにリバイアサンもヴィオラも視界からは消えている。どこまでも続く荒野には動く物すら見えない。

 回廊近くの魔獣は狩り尽くしたようにも思えるけど、たぶんたまたまなんだろうな。

 ヴィオラの進行方向にはいくつかの巨獣の群れを上空から確認している。


 一服を終えると、再びアリスと通信状況を傍受する。

 相対時速は35kmほどだから、まだまだ通信が途切れるまでには時間が掛かるに違いない。


 12時近くになって、ようやく相対距離が150kmを越えた。まだまだ通信ができるようなので、ヴィオラに向かって昼食を取ることにした。

 ヴィオラの舷側の扉を開いてもらい、カーゴ区域に入る。アリスをベルッド爺さんに預けて、会議室に向かうとドミニク達が昼食を用意して待っていてくれた。


「かなり遠くまで通信ができるのね。100ケム(150km)を越えているわ」

「まだまだ届きそうですね。現在のヴィオラ周辺の状況ですが……」


 右手25度方向、距離20ケム(30km)、前方60ケム(90km)にトリケラが数頭、それぞれ停止していることを伝える。


「ありがとう。夕暮れ前に再度知らせて欲しいわ」

「了解です。それと、回廊にこんな船がいたんですけど……」


 プロジェクターを取り出して、壁に不審な艦隊を表示する。拡大したんだ、がやはり騎士団が2つにしか見えないんだよなぁ。


「海賊でしょうね。騎士団なら停止すれば直ぐに狩りの準備に入るわ」

「リバイアサンに戻ったら隠匿空間の駐屯部隊に報告した方が良いわよ。王都への輸送艦隊の出発は今日じゃなかったかしら。砂の海に入って1日程度の場所なら、輸送艦隊を回避することもできるはずよ」


 リバイアサンにはフェダーン様もいるから、判断をしてくれるだろう。曖昧な判断で騎士団が動くのは不味いということなんだろうな。

 

 食後のコーヒーをゆっくりと味わい、タバコを楽しむ。

 またしばらく退屈な任務をこなすことを考えると、ここで飲むコーヒーは天国に違いない。


 1時間程休憩して、再びアリスと供に上空で待機することにした。リバイアサンとヴィオラの相対距離は約180km近くに伸びている。

 それでも十分に通信が届くらしい。

 夕暮れまでには5時間程あるから、両者の距離は300km近くになるんじゃないか?

 さすがに、そこまでは無理かも知れないな。

 

 ヴィオラの上空5千mを、直径100kmほどの円を描くようにゆっくりと周回する。

 ここまで高度を上げると、視界も良くなるから地上レーダーで魔獣を見つける度にヴィオラへ情報を送ることにした。

 退屈凌ぎにもなるし、明日から行われるヴィオラの狩りの計画立案にも役立てることができるだろう。

 

 太陽が地平線に落ちる前に、再度怪しげな艦隊の状況を確認して、リバイアサンへと戻ることにした。

 すでに両者の距離は320kmも離れているのだが、依然として通信は行われている。

 一体どのぐらいまで伸びるのだろう。


 リバイアサンに降り立ち、プライベート区画へと向かう。

 キックボードが案外役に立つ。乗員がうらやしげな視線で見ているから、次の補給時には一気にキックボードが増えるかもしれない。

 広間の何時ものソファーに向かうと、夕食を待っているフレイヤ達が座っていた。


「お帰りなさい。ご苦労様」

「疲れてはいないけど、結構通信距離はあるみたいだね」


「200ケム(300km)を越えた時には驚いたわ。でもこのままだと300ケム(450km)を越えるかもしれないわね」

「リバイアサンを艦隊の要として使うなら、広範囲の艦隊運用ができそうだな。私も期待しているのだ」


 カテリナさんばかりでなく、フェダーン様も来てたのか。優雅に2人でお茶を飲んでいる。

 ちょいちょいとカテリナさんの手招きで、カテリナさんから少し距離を置いて座ったら、すぐに腰を上げて俺に体を預けてくる。

 エミー達もいるんだから、少しは自重して欲しいんだけど……。


「そうだ! これを見てくれませんか? 隠匿空間への回廊に停止している艦隊なんですけど、一見騎士団のようには見えるんですよねぇ」


 プロジェクターでテーブルの傍に仮想スクリーンを作り、5隻の艦船を映し出した。

 途端に、笑みを浮かべて俺達を見ていたフェダーン様の表情が変わる。


「偽装騎士団で間違いあるまい。要するに海賊だ」

「王都に向かう輸送艦隊を襲うと?」


「回廊に停止しているのなら間違いはあるまい。位置は? ……ここか。中規模騎士団ならやってこような。偽装して待ち構えるとは考えたものだ」

「先制攻撃は?」


「偽装のいやらしいところだ。襲ってこない限り新規の騎士団で登録は未だ、と言い切れる。となると……、リオ、協力はお願いするぞ」

「作戦は任せますよ。とりあえず王都への輸送艦隊とぶつかるのは3日後当たりでしょうから、それまでは様子を見てみます」


 頷いてくれたから、俺の役目はとりあえず現状通りでいいだろう。

 マイネさんが夕食を知らせてくれた。

 たっぷり食べて、風呂で疲れを取ろう。


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