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M-012 私掠船を叩け


「「私掠船!」」


 アレクの話を聞いたドミニク達は、絶句して顔を見合わせている。

 やや間があって互いに頷いたところを見ると、意思疎通があれでできたということなんだろうか? 以心伝心って奴なのかもしれないな。


 隣のアレクは、ネコ族の娘さんが運んできたグラスのワインを美味そうに飲んでいる。とりあえず知らせたんだから、後は指示に従えばいいと思っているのかもしれない。

 船尾の操船楼にあるこの部屋で、ドミニク達を見ていられるのも眼福には違いないんだが、中々俺達の方に顔を向けないから困ったものだ。このまましばらくここにいることになるんだろうか。


 やおらドミニクが俺達に顔を向けると、テーブルのグラスを取り上げて一気に喉に流し込んだ。


「リオをヴィオラ騎士団に加えられたことに感謝しないといけないわね。私掠船は自国の騎士団以外には容赦なく襲い掛かるわ」

「ガルドス王国の貴族の名が確認されたなら、私掠船とみて間違いはなさそうです。ガルドス王国の版図をそのまま北に伸ばしても、この辺りにまでは届かないのですが……」

「ガルドス王国の私掠船が潜むのは星の海近くだろうな。確かにおかしな話だが、貴族の功名争いというやつかもしれんぞ。それで、どうするんだ?」


 アレクの言葉に、テーブル越しの2人が俺に顔を向けた。


「未確認の魔獣に襲われるというのは?」


 ドミニクが微笑みながら俺に問いかけてきた。

 この場合の未確認魔獣というのは……、アリスのことか!

 

「最大射程でアリスの武器を使えば、誰に攻撃されたかもわからないでしょうね」

「そういうことか。魔撃槍の最大射程は500スタム(750m)、軍の大砲で強装薬を使用するなら3ケム(4.5km)は飛ぶだろうが、戦姫の持つ武器はそれを軽く凌駕する」

「各国の持つ戦姫は動けないようですし、戦艦の持つ大型魔撃槍なら5カム(7.5km)に達するでしょうが、ウェリントンの艦隊はラザール河を越えることは稀です」


 そんな話を聞きながら、アリスにも確認を取ることにした。何といっても自律電脳を持つ機体だからな。アリスの意思も尊重すべきに違いない。


『マスターの思惑通りに……』

 すぐに返事が返ってきたけど、それって攻撃することに問題はないってことなんだろうな。


「ヴィオラの位置から遠く離れて、東側から攻撃するってことになりそうだな。それならウエリントン王国の騎士団が絡んでいると疑いは持たれるだろうが、ヴィオラ騎士団を疑うことにはならないはずだ」

「単機での攻撃なら、なおさらでしょうね。遠距離攻撃で陸上艦を沈めても生存者は多数になるはず、本国にどのように伝えるかも考えないと」


 ワインから蒸留酒に変えたグラスを飲みながら作られた作戦は、明日の早朝に奇襲をかけるものだった。

 薄明時に2カム(3km)ほどに私掠船に近づき、1隻を大破させることで十分と言ってはくれたけど、大破とはどの程度を言うのかが問題だな。


「ヴィオラと私掠船との距離がかなり離れているから、ヴィオラの進行方向は変えないわ。帰投に問題はないでしょう」

「それは、何とでもなりますが、大破とは具体的にどの程度のダメージを与えるんですか?」


 ん? という感じで再びレイドラとドミニクが顔を見合わせる。

 破壊の一歩手前ぐらいに考えていたんだろうか?


「一時的な航行不能を考えてくれればいいわ。爆沈しても私掠船なら問題はないでしょうし」


 かなりアバウトな考えだけど、最低限でも動けない状態にすれば良いということなんだろう。当たり所が悪くて爆発しても問題はなさそうだ。


「ヴィオラと一時的には100カム(150km)ほど離れてしまいます。明日の正午から1時間おきに信号弾を上空に放ちますから、目標にしてください」


 他の戦機では無理なんだろうけど、アリスの追尾性能はかなりのものだと思うな。それでも、俺達を気遣ってくれるならありがたいことだ。ここは頷いておこう。

 どうにか私掠船の対応が纏まったところで、船室を出ていつもの待機所に向かう。やはり周囲の荒れ野を見ながら一服を楽しむのが俺には合っているようだ。


「単独襲撃だと!」

「リオの戦機なら可能なようだ。明日の薄明時に私掠船に弾丸を打ち込んで戻ってくる」


「2隻だったな。自走車も武装はしてるし、獣機もそれなりだ。さすがに戦機を一撃でとはいかないだろうが、何発も食らえば損傷だってしかねない。

 艦砲を至近距離で食らえば戦機であろうとも吹き飛ぶし、そのダメージは俺達パイロットにも及ぶんだ。あまり近づかずに炸裂弾を使えよ」


 カリオンの忠告は具体的だ。ありがたく頭を下げて礼を言う。


「でも、ちゃんと戻ってくるのよ。その辺りは考えているんでしょうね?」

 シレインが優しく言ってくれたけど、後の言葉はクレイに厳しい目を向けてのことだ。


「明日の正午からヴィオラ上空に信号弾を放つそうだ。20カム(30km)離れていても見付けられるだろう。大型の信号弾だからな」


 ヴィオラ騎士団の陸上艦は相変わらず北西に向かって進む。夕食を終えると、早めにハンモックで休むことにした。

 目が覚めたのは部屋の扉をたたく小さな音だった。カリオンは寝ているから控えめなノックだったが、俺が起きなければどうしたんだろう?


「やっと起きたにゃ」


 扉を開けた俺の前にはネコ族のお姉さんがいたんだけど、片手に鍋とお玉を持っているのが気にかかる。ひょっとしてあれを耳元で叩こうなんて思ってたのかもしれない。


「夜食が残ってるにゃ!」


 案内されるままに、船尾に向かうと偵察を行う連中が何人か輪になっている。ネコ族やイヌ族の連中だけど、気さくな連中ばかりだし、いつもワイワイ騒いでるんだよね。

 今夜もスプーンを振り回しながら、マストの上で見た出来事を皆に教えているようだ。

 夜食は具の少ないスープに丸いパンと一握りの干した果物、カップに入っていたのはお茶のようだ。

 

「今から出撃だって? 私掠船の話は聞いているが、あまり近づかん方が良いぞ」

「なるべく離れて銃を撃ちますよ。全弾打ち込んだらすぐにその場を離れます」

 

 イヌ族の男が俺に注意してくれた。仲間の危険を未然に回避するのも偵察要員の仕事なんだろう。ありがたく頭を下げると、驚いたように俺を見ている。

 ひょっとして、騎士団での地位が低いんだろうか? だけど親身になって忠告してくれる仲間には素直に感謝しなければなるまい。


「新参の騎士と聞いたが、礼儀は出来ているんだな。騎士の中には鼻持ちならない奴も多いんだ。王都に行くことがあれば、他の騎士団の騎士とも会う機会があるだろうが、相手がどんな行動をとってきても騎士同士は対等だ」


 タバコを楽しみながら話をしてくれた。

 確かアレクも似たような話をしていたな。騎士は対等か……。良く覚えておこう。


 食器をネコ族のお姉さんに渡し終えると、真っ暗な夜の荒野を眺めてタバコを楽しむ。これからしばらくは一服ができないからね。

 吸殻を携帯灰皿に入れたところで、カーゴ区域に向かう。

 階段を下りていくと、カーゴ区域は昼間のように明るかった。夜を徹して戦機や獣機の整備をしているんだろう。


「やって来おったな。他と違いアリスは何もせんで良いのが残念じゃ。一応、弾丸の予備クリップを2個用意したが、使わんじゃろう。そのまま持っていることじゃな」

「ありがとうございます。明日の昼前には帰れると思うんですが」

「無理はせんでいい。正午過ぎに戻ってくるんじゃ。他の連中がそれでなくとも気にしとるからな」


 軽くベルッド爺さんに頭を下げるとタラップを上ってアリスのコクピットに納まった。お弁当を入れたバッグをシートの後ろにある収納ボックスに入れたところで、アリスに出撃を告げる。

 直ぐにアリスが動き出し、開かれた舷側の扉から荒野に飛び降りると、ヴィオラ後方に向かって足を速める。

 偵察要員や、マストの監視要員は24時間体制で周囲を見ているからね。滑走を始めるのはヴィオラが見えなくなってからでいいだろう。


『すでに目標から130km近く離れています。急ぎましょう!』


 アリスの言葉にジョイスティックを前に倒すと、スイっと周囲の風景が下に下がった。数mほど地表を離れたようだ。この状態で一気に速度を上げるということなんだろう。

 仮想スクリーンを1つ開いて周囲の動態反応と熱の反応を表示させる。

 昼間はほとんど姿を見せないんだが、夜はかなりの獣がいるようだな。熱反応が乏しくて活動が活発なのが魔獣になると、この頃ようやく理解できるようになってきた。


 30分ほど経過した時、アリスが1枚の仮想スクリーンを展開してくれた。どうやら私掠船団にかなり接近していたらしい。アリスが速度を少しずつ落として私掠船団から10kmほどの場所で動きを止めた。着地する前に、数百mほど上昇したのはセンサーだけでなく画像として状況を見たかったのかもしれないな。


『2隻の陸上艦を穴に隠したようです。暗視カメラには陸上艦の上部甲板がギリギリで見える状態です。武装自走車の配置は12台編成で4方向に、獣機は東西に2個小隊を展開しているようです』

「かなり巧妙に偽装しているな。暗視カメラだけだと展開状況が分からないよ」

『熱反応を確認する手段が無ければかなり効果的です。ですが相手が悪かったようですね』


 アリスも偽装はかなり良くできていると思っているようだ。マストも畳まれており周囲を布で覆っているらしいから、かなり接近しなければ荒れ地に点在する岩と見分けがつかないと教えてくれた。

 まさか向こうだって、熱で存在がバレているとは思っていないだろう。


「問題は攻撃方法だが、陸上艦を狙ってレールガンを撃つ」

『大破が目標で、爆破も可ということでしたね。弾種は錬鉄が素材の徹甲弾を使います』


 焼結タングステン弾もあるらしいが、温存するということなんだろう。鉄ならこの世界でも手に入るだろうし、魔法で強化されているとはいえ、しょせんは木造だ。牛刀ということなんだろうけどね。


「いつも通りということなんだろうけど、船体が土の中だぞ」

『秒速6kmの弾丸であれば、あの程度の土は弾着と同時に吹き飛んでしまいます。その後の弾丸は船体に命中しますよ』


 ちょっとした隕石が落ちた感じなのかもしれない。だけど圧縮熱で弾丸自体の形状が持つかどうか怪しいところだ。

 アリスの意見では、超高速弾の射撃は3km以下と言っていたから、やはり超高速弾の扱いは難しいに違いない。


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