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M-116  農園を取り巻く機動艦隊


 来るとしたら夕食後になるだろうとのことで、早めに食事を終わらせたのだが中々やってこないんだよなぁ……。


「いくら何でも、警邏事務所に訴えるのは大人げないと思ったんじゃない?」

「そうでもないの。この間は出荷時に通りを占拠したって、訴えられたぐらいよ」


 自走車が横に3台並んでも走れるぐらいの通りだし、出荷場所は自走車を止められるように駐車場所まで作られているらしい。

 それでも、気に入らない人には邪魔に感じるんだろうな。

 被害妄想、かつ自意識過剰なんじゃないか? そんな住人の近所には住みたくないけど、どうやら数年前に引っ越してきたらしい。


「元は王都の警邏本部にいたらしいの。いつまでも自分の地位がそのままだと思ってるんでしょうね」

「引退するのが早くありませんか?」


「何か不祥事でもあったんでしょうね。農業区画に来るとは思えない経歴なのよ」


 トントンと軽く扉が叩かれた。

 イゾルデさんが席を立って扉に向かうと、ぞろぞろと数人の男がリビングに現れる。


「失礼ですが、名前はリオでよろしいですかな?」

 

 壮年の男が俺の前で、名前を確認する。

 黒い制服に帽子を被り、洒落たブーツを履いている。

 腰には幅広のベルトを着け、剣帯で長剣を着けていた。反対側には拳銃を収めたホルスターがある。

 警邏で間違いは無さそうだな。


「俺がリオだが?」

「少年に対する傷害の訴えが出ている。我々に同行して貰えるとありがたい」


「逮捕すると?」


 厳しい目で俺を睨んでいる壮年の男に確認した。イゾルデさん達から色々と聞かされているからなぁ。思わず笑みが浮かんでしまった。


「任意ということになる。弁明があるなら聞いておくが、すでに逮捕状の発行を行っている。明日は大事になるが?」

「なら、大事にしても良さそうですね。数日はここに厄介になるつもりですから逃走の心配はありませんよ」


 俺の言葉を聞くと、フン! という感じで、リビングを出て行った。

 傷害罪ねぇ……。そうなると、真剣を俺に向けてきた少年達はどんな罪になるんだろうか?


 警邏達の帰りを確認してイゾルデさんが扉を閉める。

 

『王都のヒルダ様当てに通信を送りました。かなり慌てていたようです』

『逮捕状を握り潰してくれるのかな? それならありがたいんだけど』


 これで罪にはならないだろう。

 安心して明日はジャガイモの収穫を手伝おう。


「申し訳ありません。まさかこんなことになるなんて」

「気にしないで良いですよ。たぶん逮捕状は送られてこないでしょう」


「連絡したの?」

「一応ね。貴族の逮捕は簡単じゃないとカテリナさんから聞いている。誤解があるようだと連絡しておけば問題はないよ」


 法の元での平等は、まだ一般的とは言えないようだ。

 少し面倒ではあるが、もめ事を起こした貴族を訴えることはできるが、手続きに時間が掛かる。直ぐに逮捕とまでは行かないらしいけど、現行犯逮捕ができないわけではないらしい。その辺りのバランスは誰が取っているんだろう?


 とりあえず明日に備えて眠るのが一番だ。

 またフレイヤに起こされそうだから、早めに寝るに限る。

                 ・

                 ・

                 ・

 客室の扉を叩く音で目が覚めた。

 窓の外は少し明るいけど、朝日が昇るには時間があるんじゃないかな?

 フレイヤ達も扉を叩く音で目を覚ましたようだ。タオルを体に巻いて、扉口に向かった。


「どうかした?」

「様子が変だ。起きた方が良いよ」

 

 扉の外からレイバンの声がする。

 何かあったんだろうか? 急いで身支度をして、装備ベルトのリボルバーに銃弾が入っていることを確認しする。


「フレイヤ達も準備だけはしといた方が良い。昨日の今日だからな。警邏が動かないと思って押し入ってきたのかもしれない」


 俺の言葉を聞いて、ホルスターに納まった拳銃を確認している。

 刀をベルトに差し込むと、フレイヤ達に軽く頷いてリビングを目指した。


「朝早く起こしてしまい申しわけありません。ネコ族の少年が、農場の周りが普段と違うと教えてくれたんです」


 イゾルデさん達は、ナイトガウンを羽織ったままだ。そわそわと落ち着かない様子でリビングの中を歩き回っている。

 ソフィーとレイバンは普段着に着替えてソファーに座ってるけど、横に猟銃を置いている。

 レイバンは頼りになりそうだな。


「様子がおかしいって!」

 

 フレイヤがリビングに入るとイゾルデさんに大声を上げた。


「しぃー! あまり大声を出さないで。農場の周りの様子がおかしいらしいの」


 ふんふんと頷いたところで、窓際に向かい外の様子を伺っている。


「普段通りに思えるけど……。ソフィー、濃いコーヒーを頼むわ。とりあえず飲み物を飲んで落ち着きましょう」


 動じないのは騎士団暮らしが長いからだろう。

 エミーは俺の隣に腰を下ろして身を固くしている。


 ソフィーが淹れてくれたコーヒーは、フレイヤの注文通りに濃い代物だった。砂糖を3個入れてもまだ苦い。

 とりあえず目が覚めたのは確かだが、半分ほど飲んだところでお湯を入れて貰った。

 これぐらいで良いんだけどなぁ……。


 飲み終える頃には、朝日が昇ってくる。

 ずっとここで待っていてもしょうがない。やはり一度確認してきた方が良さそうだな。


「外で一服しながら、通りの様子を見てきます。様子が分かれば少しは安心できますからね」

「私も一緒に!」


「いや、俺一人で良い。待っててくれ」


 フレイヤが同行したい気持ちは分かるけど、ここにいてくれた方が俺としても安心できる。

 玄関先に出て、周囲に目を配りながら、一服を始めた。


「アリス。状況が掴めるか?」

『王国軍の機動艦隊が周囲を封鎖しているようです。軽巡洋艦2隻に駆逐艦5隻。規模は小さいですが機動力はありそうですね?』


「軽巡洋艦の位置は?」

『母屋の玄関口から通りに向かった先に1隻が停泊しています。もう1隻は出荷用の裏口付近に停泊しています』


 どういうことだ?

 とりあえず、通りに向かえば何か分かるだろう。軽巡洋艦2隻なら、玄関に近い場所に泊めた艦に指揮官はいるだろうからね。


 通りに出て驚いた。通りの通行を遮断するかのように軽巡洋艦が停まっている。2機の獣機が対になって、通りを何とかして抜けようとしている自走車を確認しているようだ。

 一体何が始まるんだ?


「この一帯は封鎖中です。至急、移動してください」


 俺の姿を見付けたんだろう。数人の兵士が銃を手に近付いてくる。

 武装をしてるのが分かったんだろうな。不審者扱いされても困るんだが。


「武装しているということは騎士でよろしいですかな? 一応確認をしたいのですが」

「ああ、確かこのバングルで良かったはずだ。ヴィオラ騎士団の騎士、リオという」


 バングルの確認をしていた兵士が、俺の言葉に驚いたような表情で兵士達を下がらせた。


「リオ閣下でありますか。この農場に滞在しておられるのですね?」

「ああ、そうだ。通りがいつもと異なると聞いて様子を見に来たんだが……」


「それについては指揮官殿が向かわれると思います。我等がお守りいたしますので、農場の方でお待ちください!」

 

 全員が騎士の礼を取ると、軽巡洋艦に向かって駆けだした。

 お守りすると言ったって、何から守るんだろう?

 首を捻りながら母屋に戻る。


「どうだったの?」

 

 ソファーに腰を下ろす前に、フレイヤが俺に問い掛けてきた。イゾルデさん達も身を乗り出すように俺に顔を向ける。


「この農場を機動艦隊が取り囲んでいる。俺達を守るためだと言ってたけど、指揮官が直々にここに来て説明してくれるそうだよ」

「「機動艦隊?」」


 目を丸くして驚いている。

 確かに驚くだろうな。場違いも良いところだ。


「姉さん見てこようよ。軍艦なんて簡単に見られないから」


 レイバンとソフィーがリビングを出ていく。

 心配そうな顔をしてシエラさんが出て行く2人の後ろ姿を見てたけど、俺達を守るためだというぐらいだから危害を加えられることは無いはずだ。


「でも、なぜこのようなことに?」

「昨日の経緯を、アリスがヒルダ様に伝えたことが原因だと思うよ。まさかこんなことになるとは……」


 エミーの問いに答えたら、納得顔で頷いている。


「万が一にも、リオ様に逮捕状を発行するような事態になれば王宮は大騒ぎになるでしょう。未然に防ぐのは理解できますが……。お母様のやり過ぎです」


 後でフェダーン様に大笑いされそうだな。アレクもたぶん一緒だろう。カテリナさんはどうだろう? それぐらいは当たり前と言いそうだ。


「そうだ! 母さん達も着替えた方が良いわよ。リオの話では指揮官が来るんでしょうから」


 2人の母さんが互いに顔を見合わせると、直ぐにリビングを後にした。

 やはりナイトガウンではまずいよね。

 

「フレイヤ達もメイクをしたら? 直ぐには来ないだろうし、早めに来るようなら俺が相手をするから」

「お願いね!」


 エミーの手を引いてさっさとリビングを後にした。

 誰もいなくなったところでタバコに火を点ける。


 指揮官一行が訪ねてきたのは、フレイヤ達が戻って来て遅めの朝食を終えてからだった。ソフィー達は戻ってこないのは農場を一回りしながら軍艦の見物でもしているんだろうな。


 やってきたのは初老の指揮官と若い男女の副官、それに壮年の男女の5人だった。

 イゾルデさんがソファーに案内してきたところで俺達も席を立つと、軽く騎士の礼をしてソファーに腰を下ろす。


「全く持って飛んだ災難でしたな。関係者を集めて確認を終えました。あれで逮捕状を出したなら同盟国のとんだ笑い者になるところでした。

 警邏事務所の所長以下3名、及び起訴手続きを行った者2名を捕縛。裁判は王都で行いますが、リオ閣下は参考人として出席なされることはありません。

 たぶん、所長以下の連中は辺境の閑職となるでしょう。起訴手続きを行った者達は偽証の罪が適用されますからこの区画から出ていくことになるでしょうな」


「少し重い罰則にも思えますが?」


「リオ殿が平民であれば少し酌量の余地はあるでしょう。ですが騎士と知っての上でとなれば、話が異なります。騎士は貴族と同等であり、かつリオ閣下は男爵位でもあります。王女様が降嫁されていることも知っておりました。これでは酌量の余地はありませんな」


 イゾルデさん達がコーヒーを運んでくれた。

 頭を下げて老指揮官がコーヒーに手を伸ばす。


「王国としても、末端の罪を未然に防ぎましたし、あの警邏事務所も新たな所長を迎えられればこの界隈の治安維持に役立つでしょう」

「御迷惑をお掛けしてしまい申しわけありません」


「いやいや、先の大戦の英雄をまじかで見られたのですから、ありがたい話ですよ。ところで1つお願いがあるのですが……」

「せっかく農業区画に来たのですから、野菜類を買うことができないかと思っているのです。リスト化したのですが何とかならないでしょうか?」


 副官が取り出したリストを見たフレイヤが、イゾルデさんを呼び寄せて確認させている。

 最初は当惑気味だったのだが、リストを見て頷き始めた。


「私達の農場で全てを賄うことはできませんが、懇意の農場に話をすれば何とかなりそうです」

「是非ともお願いします。通りの封鎖は1日と厳命されてますから本日の22時までなら獣機を使っての搬送も可能です」


 どんなところでも商売はできるんだな?

 壮年の2人は主計部門から来たんだろう。軍なら市場から買い込めるのだろうが、生産場所から直接買えるならもっと安く買えるということなんだろ。余剰金は一部の者達で分けるような人達ではなさそうだ。

 兵士達とワインを1杯ぐらいに考えているのかもしれないな。


「どこに運べばよろしいのでしょう?」

「この農場の北東角でどうでしょうか? その場で重さを測り、支払いを行います」


 丁度良いところに帰ってきたレイバン達が、周囲の農場に知らせに向かう。

 農場にとっても利があるから、自走車の荷台に野菜を積んで集まってくるに違いない。


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